Sense224
「……ユン。お前、何した」
何をしたと言われましても普段通りに矢を放った筈なのに……。
吹き飛ばされた暗殺者の身体を見てみれば、黒装束の一部が破損し、その下に着込んでいたであろう鎖帷子に矢が阻まれて、貫通を防いでいる。ただ、どう考えても弓矢が原因だろうが。
「何でだ?」
「逆に疑問形で返すなよ。普段と違う要素を上げろよ」
呆れたように呟くタクに俺は、指折りしながら相違点を上げていく。
その間、ケイとマミさんは、二人だけで反省会と言う名の主にケイの自責とマミさんの慰め。
ガンツとミニッツは、NPCと会話し、クエストの後処理をしている。
「防具は、制限かかっているからこのドレス。武器も変わらないし、矢は痺れ薬を合成した足止め用……」
「アクセサリーとかは?」
「防御重視の戦闘用だから、殆ど機能してないだろ。センス構成は、【魔弓】【長弓】【弓】に――「ちょっと待て!」ん?」
タクから待ったの声が上がり、何かおかしい所があっただろうか。と首を捻る。
「ユン。お前の今のセンス構成を言ってくれ」
「えっと【魔弓】【長弓】【弓】【空の目】【俊足】【看破】【大地属性才能】【魔道】【付加術】【錬金】って武器が限定されているから戦闘に使えるセンスで限定的に固めて……あとは、残った枠は一番レベルが高いから」
「お前……その構成に何の疑問も無いのか?」
とは言われても普段、包丁を武器として使うために【料理】センスを装備している枠が、弓系センスに変わっただけだ。
「お前のそのセンス構成だと、弓系を三つも装備して特化型になっているぞ」
「それが原因じゃないだろ。何より、レベルが低いだろ」
そんな馬鹿な。と笑うが、タクは疲れた様な溜め息を吐く。
何故、俺にそんな風な反応されなければいけないのか、分からない。
「お前なぁ。何でレベルの高い下位よりレベルの低い上位センスの方が優先されると思っているんだよ。武器補正があるのを忘れたか」
そう言えば、そんな事をあるような、無いような。余り気にしていないので首を捻るだけだ。
「その様子だと理解してないな。武器センスは、対応する武器での攻撃判定の発生とアーツ、それと武器補正があるだろ。各センスが個別に設定されている補正は、重複する。それにエンチャントによる事前の強化。幾ら、ベースのステータスが低くても、底上げされて、更に補正の三重に掛かった特化構成の攻撃が牽制って枠を超えるぞ」
まあ、弓系センス個々の補正の割合は、違うだろうけど、十分に強力な一撃だぞ。とタクが補足する。
確かに、弓系センスを三重装備にするのは、初めての事で驚いたが、無意識にとある事を呟く。
「ああ、麻痺の合成矢を無駄遣いした」
「気にする所はそこかよ! お前は、少しはゲームに慣れてきたかと思ったらぶっ飛んだ事して……」
何を言う。麻痺の弓矢は、貴重な道具なんだぞ。オーバーキルしてしまう事が分かっていたなら使わなかったのに。と少し後悔する。
「あー、はいはい。二人とも話し合いは終えて、移動するよ~」
「報酬も貰ったし、とっとと宿に帰ろうぜ。明日に響く」
NPCからの報酬を貰い、クエスト参加者の俺にも結構な額のお金が手に入る。
「分かった。じゃあ、帰るか」
自主的反省会から戻ってきたケイとマミさんと一緒に館から出る。
館との境界線を越えると今までのドレス装備から普段通りのオーカー・クリエイターに戻り、ほっと小さく安堵の溜息を漏らす。それと、何でガンツとミニッツはそんな残念そうな、名残惜しそうな視線を向けてくる。
「ユン。話は終わってないぞ。そもそも特化型のメリットとデメリットは――」
「うるさいな。特化型って珍しくないだろ。やろうと思えば誰だって出来るだろ」
普通に身体能力を強化する【物理攻撃上昇】と【物理防御上昇】やその派生センス【物理上昇】のセンス。また、【物理攻撃上昇】単独での成長先には、【剛力】のセンスがある。状況に合わせて複数のセンスを所持していれば、意図的に特化型に出来るだろう。
「遠距離は、魔法使いの特化型が居るけど、弓自体の特化が居ないだろ。弓使い自体の人口が少ないし」
「あんまり興味は無いかな?」
「今のままだと、【保母さん】の称号のまま固定するよな。ここで新境地でインパクトある戦い方――「学ばせていただきます!」お、おう」
確かに、タクの言う通り。不名誉な称号を得たままよりも新たな、そしてまともな称号の方が良い。
いつまでもこのままという訳にはいかない。
最初は、武器と生産センスの混合だったが、そろそろ生産センスと戦闘用のセンスを分けた方が良いのかもしれない。
所持SPが増えて、最初期よりも手に入るセンスの数は増えた。特に必要性は感じなかったから必要に応じて場当たり的に習得したりしていた。
「なぁ、タク。今の俺ってどう思う?」
他のパーティーメンバーには、少し違う意味に聞こえたようだが、タクだけは正しく意味を受け取った。
「そうだな。元々、生産職で入っただろ? だから、今のまま生産と戦闘の混成したセンス装備のままだと色物扱いだろ」
「中々に辛辣だな。何でそれを言わないんだ?」
「そんなの個々の勝手だろ? それに一番最初にゴミセンス集めて楽しそうにやってるのを見て、言う気無くなるって。色々言われるの嫌そうだしな」
「まぁ、嫌だけど……」
色々な意見を聞くくらいの度量はあるつもりだ。まぁ、これまで適当に聞き流してきた。って事もあるけど。
「なら、タクから見て俺のこれからの方向性ってどう思う? 方向転換するつもりは無いけど、一度構成を考えてみたいんだけど」
「それなら話長くなるから、飯食いながらで良いだろ」
タクに促されて移動した先は、タクたちの泊まる宿だった。夜遅い時間にも空いている食堂で六人が顔を席に着き、話しながら食事をする。
「まず、ユンは、どんな方向性にするか、だ」
「サポートに徹する事が出来る役割。生産や戦闘でのサポートがコンセプトかな?」
「それに対する具体的なビジョンは?」
と言われても、今までやってきた事全てが自分の感じるままのキャラだと思う。だが、タクにはそう映っていない様だ。
「まず、生産系センスの事は置いておく。俺は門外漢だからな。生産を捨てろとは言わない。ただ、生産に時間を割く場合は、戦闘センスを上げる時間が無くなる。また、その逆も……何方かが中途半端に成長する事になるけど、それは良いな」
「それは良い。どっちかって言うと、生産で作ったアイテムで自分の戦闘を補助できれば良い。いわば、自分自身をサポートするって事かな? レベリングの時間が短い分、少ないセンスの少数精鋭で複数の状況に対応する。って形かな」
分かった。そうなると、どのセンスか……とタクは、食堂で出されたパンをシチューに浸けて食べる。俺が選んだのは焼き魚定食。ファンタジーの街中に和食ってのは如何なものか、と思ったが、タクたちの選んだ食堂だけあって通常のNPC製の料理より美味しかった。
「サポートにも色々だ。俺の考える方向性だと、三種類だ」
タクが一度言葉を区切り、順番に並べていく。
「まずは、ユンの主武器の弓を中心に据えた――アーチャータイプ。今より攻撃を特化させることで、遠距離より一方的な攻撃をしていくことが出来る」
「その場合には、【物理攻撃上昇】やその成長・派生先の【物理上昇】や【剛力】とかで基本的な物理ステータスを上げる方向だな。それに、ユンは【調教】とユニコーンの幼獣が居るだろ。その内、使役獣での騎乗が出来る様になれば、移動砲台としての運用も出来る。けど、弓系センス三重装備なんて極端な構成じゃなくて良いとは思うぞ」
タクの説明に、補足を入れるケイ。相手の攻撃が届かない場所から一方的に攻めるやり方。今より遥かに攻撃重視の構築。
「次は、弓や短剣なんかの複数の武器をマルチに使い分ける――レンジャータイプ。状況に応じて中近距離と色々な場面で戦える。ユンの場合は、アイテムの補助とかもあるから今の形に一番近いんじゃないか?」
言われれば、一番しっくり来易いが器用貧乏になり易い。この場合、ダンジョンやフィールドなど様々な場での罠や敵発見などの戦闘前のサポートという活躍があり、ある程度の自衛が出来れば良い。それでも、戦える人は戦える。回避する盾役なんて事もする必要がある。前にケイが言っていた『隠密』に一番近いタイプだが、隠密のようなアサシンタイプは、俺のコンセプト上サポートには入らないとの事。
「残りは、エンチャンタータイプ。RPGでいう僧侶タイプだ。魔法による完全補助や他のセンスと組み合わせて、今のエンチャントを特化させるのが向いてるな」
「後は、完全に魔力タンク化して【回復】とかの補助魔法系センス。それに【詠唱短縮】やその上位の【詠唱破棄】。複数の同時発動のために【並列詠唱】センスも良いかもね」
魔法使いとして意見を出すミニッツ。
以上の三つ。どれも今の俺の現状を特化させた結果生まれるプレイスタイルだ。
「それでユンは、どれにするんだ?」
「俺は――」
「まあ、すぐには決められないだろ。ゆっくり決めるか、試しにセンスを取得してみればいいさ」
この場は、お開きになり、宿に泊まる事になった。
泊まった個室の少し堅いベッドに倒れ込み、考えるがどれも魅力的ですぐには決められなかった。