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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第5部【冬のクエストと問題を抱えた町】
223/359

Sense223

「ようこそ。皆さま方には、本日のパーティーで主賓を守って頂きたいのです」


 恭しく腰を折り、礼をする立派な髭とオールバックの初老の執事は、クエストNPCだ。

 最初に有志のプレイヤーから聞いた概要をより薄めた説明を受け、屋敷の門が開かれる。


「よし、屋敷に入れば良いんだよな」

「はぁ、何で付き合う事になってるんだろう――っ!?」


 俺たち六人が一組としてクエストが発行され、門を潜り屋敷への石畳を踏み出した時、とふっと俺の横に控えていたリゥイとザクロが姿を消す。


「ああ、言い忘れました。潜入で目立つ物は、強制的に解除されます。ですが、依頼終了後には、全て元通りですので」


 思い出したように俺の背中に声を変えてくる初老の執事。メニューから【調教】スキルの【召喚】を確認すれば、灰色に表示され、一時的な使用不可能な状態になっていた。


「そっか。使えないとなるとセンスの構成を変えないとな」

「武器も一つしか選択できないぞ。ユンは、弓と刃物どっちを選ぶんだ?」

「ペアにもよるけど……」


 ミニッツやマミさんは魔法使いなので近接武器の方が良いが……


「ペアって言ったら、俺とマミだろ。それにタクとユンじゃないのか? あとは――」

「仕方がないわね。私がガンツと組んであげるわよ」

「くぅ……余り物のミニッツとかぁ……。俺は、ユンちゃんが良かったんだ。タクは良く一緒に居るだろ! 異議を申し立てる!」


 当然と言った感じのケイの言葉を皮切りに、既にタクたちの間でペアが確定していたようだ。と言うよりも何で男女ペアが推奨なのに、何故男同士と組まなければならない。いや、人数の関係上必然的に誰かが男同士で組むことになるが……。


「と、言う事でユン。お前は、弓の方が良いな」

「凄い不服なんだけど……」

「安心しろ。後ろには絶対に攻撃は通さねぇよ」


 いや、そう言う事じゃないんだけど……と小さく呟き、これ以上駄々を捏ねる前に入り口に辿り着きそうだ。

 急いでセンス構成を変更する。



所持SP26


【魔弓Lv3】【長弓Lv31】【弓Lv50】【空の目Lv13】【俊足Lv25】【看破Lv25】【大地属性才能Lv1】【魔道Lv18】【付加術Lv41】【錬金Lv47】


 控え


【調薬師Lv4】【合成Lv46】【彫金Lv25】【生産者の心得Lv3】【泳ぎLv15】【調教Lv21】【言語学Lv24】【料理人Lv11】【登山Lv21】【毒耐性Lv8】【麻痺耐性Lv7】【眠り耐性Lv7】【呪い耐性Lv8】【魅了耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【気絶耐性Lv8】【怒り耐性Lv1】



 使える手数が制限されているために、弓系センスに特化させた構成に高レベルのセンスでステータスの底上げを図る。魔法や消耗品は、武器の枠組みから外れる為に、マジックジェムや地属性魔法は、制限が掛かっていない。

 また、防具の制限は掛かるが、アクセサリーの制限は問題ない。そこも調整し直す。

 そして、屋敷の入り口は、内側からNPCによって開かれ、足を踏み入れると――


「おっ!? これはまた面白いな」

「何でドレスなんだ」


 タクが面白そうに自分の変わった服装を見回している。白のタキシードに包まれ、爽やかな青少年をかなりアピールしている。

 また同じように服の変わった男性陣は、ガンツが少しラフっぽい着崩した感じのフォーマルなスーツにケイは、スポーツ体型に包まれたスーツを着用しており、鎧姿でも威圧感を与えるが、これはこれで別種の圧力を持っている。


 そして、女子陣は――


「きゃぁ――! ユンちゃん、可愛い!」

「その、素敵です」

「あんまり可愛いとか言わないでくれ。二人の方が似合ってるから」


 ミニッツは、普段の衣装と違うために簡単には接触してこないが、それでもその言葉は俺にとってダメージが大きい。

 俺の服は、シンプルな黒のドレス。少しレースがあしらわれたドレスは以前着たワンピースと大して変わらないが、やはり抵抗感は強い。


「俺は、男なのに……」

「そんなに女々しい事言うなって、ほら。クエストの場所に行くぞ」

「待てよ。そんな急には……」


 タクに急かされるように歩く。同じ様に通路を急かされるミニッツとマミさんを横目で見るがよっぽど俺よりも女の子らしい。

 ミニッツは、明るい橙色のドレスでガンツと並ぶと活動的な感じがする。そして、スタイルは良いようでガンツの視線がドレスラインを上から下までガン見しており、叩かれていた。

 マミさんは、生来の大人しい感じが服に現れたのか、藍色のドレスだ、それもケイと並ぶと非常にしっくりくる。また、靴がヒールの高い物に変わったのでマミさんは、ケイの手に引かれて慣らしながら歩く。かなり紳士的なケイに少し男として尊敬の念を抱く。


「なんだ、ユン? 前を見て。エスコートでもして欲しいのか?」

「アホか。俺は男だぞ。何が悲しくてエスコートされなきゃならん。寧ろ、俺がしたいわ」


 ジト目でタクを見返すが、元々冗談だったのだろう。

 俺は、隠れる様に、全く。と溜息を吐く。

 そして、通路を進んだ先のパーティー会場は、ダンスホールだった。


 多人数の男女が談笑し、時の料理を、時に音楽を楽しみ。また、音楽に合わせてダンスを踊っている。

 そして、その中で白いドレスを着た金髪の少女が今回の護衛対象となる。


「さて、潜入護衛だけど、配置はどうする?」

「囲む様に位置取りすれば良いんじゃないの? 何処からでも対応できるようにペアがほぼ等間隔で配置する」

「もう一つは、NPCを口説くとかどう? そうすればかなり接近できるぞ」

「ミニッツの案に賛成だな」


 タクがダンスホールの配置を相談し、ミニッツが反応する。途中、ガンツが冗談のような提案にケイが即断。隣に並ぶマミさんは苦笑いを浮かべる。俺も異存はないために作戦はペアごとに等間隔での配置に決まり、速やかにガンツ・ミニッツのペアとケイ・マミさんのペアが移動してしまった。

 配置的に三角形に囲む様にペアごとに位置している。


「ガンツが料理に夢中で、マミさんは、演奏の前で音楽に聞き入っている。護衛クエストは大丈夫か?」

「それぞれのペアがちゃんと警戒しているだろ。問題ないって」


 確かに、皿に山盛りに料理を盛り付けるガンツに呆れつつも周囲に目を向けるミニッツ。ケイも腕を組んで傍に控えているが、鋭い視線を向ける。そして、タクも――


「ああ、対象が動いたな。それに合わせて俺たちも動くとするか」

「へっ? ちょっと待てよ!」


 タクに手を引かれて進む先は、何組ものNPCが互いに手を取り合い、ダンスをしている。


「何でここに入るんだよ! 俺への嫌がらせか!」

「何だよ。体育の授業でも女パートのダンスは踊った事あるだろ?」

「そんなの小学校の頃のキャンプファイヤーの練習だろ! しかも男女比のバランス調整でやらされた!」

「今考えるとベタだよな」


 思い出話を楽しそうな笑みを浮かべて、ずかずかとダンスの中心へと進む。そもそも俺はダンスなんて踊れない。タクが踊れるって事実も知らない。


「おい、俺たち踊れないよな」

「フォークダンスで良くないか? それとも社交ダンスもどきでもやるか」

「止めろ! 男同士で密着したくない」


 ただ、タクに手を取られて、タクの顔をじっと見て、かち合う視線に耐え切れずに、目を逸らす。逃げた視線の先には、俺たちと同じように位置調整したミニッツとマミさんは、楽しそうな、それでいて期待するような目を向けてくる。


 いつまでもこうして居る訳にもいかない。早く護衛対象は動けと強く念じる。だが、動いたのはNPCじゃない。


「ユン!」

「分かってる!」


 互いに取っていた手を離し、反対へと跳ぶ。直後に落ちてくるシャンデリアの直撃を避け、光源の減った薄暗いホールに一気に緊張感が増す。


 俺は、護衛対象を庇う様に、金髪少女のNPCの手を取って守り易い位置に動く。

 タクは、インベントリより武器を取出し、現れた暗殺者の一人と剣を交えている。武器に制限を持っているが、代わりに蹴りを織り交ぜた戦い方で封殺していく。

 他に現れた暗殺者たちは、ガンツがダメージ無視の近接戦闘インファイトを仕掛け、ミニッツが回復役に徹している。

 ケイの武器は、盾で攻撃手段が無いためにマミさんをメインの火力に据えて、後衛やその奥の護衛対象に通らせない様に位置取りをする。


 弓を取り出したは良いが、NPCやタクたちが射線上に入り、狙い撃つ事が出来ない。俺が出来るのは、パニックで無秩序に動くNPCから護衛対象の金髪少女を守る事だ。

 徐々に壁際へと移動する。


「敵自体は、そんなに強くないか? ってか。俺の出番ない?」


 嬉しい事だが、チップ五枚分の難易度としては、優しい様に感じる。何事も無ければ良いと思っていたが、そうは行かない様だ。


「――くっ! すまない、通した!」


 ケイの方から声が上がり、黒ずくめの暗殺者が逆手に短剣を構えて向って来る。抜かれた原因は、相手の牽制で投げた投擲物がマミさんへと向い、それを庇うために位置取りをミスした。

 魔法使いがいくら紙装甲と言えど、投擲物一つでやられる程に弱くは無い。


「ユン!」

「行かせるかよ!」


 タクは、相手と鍔迫り合いをして動きを封じ込め、ガンツはケイの声に一瞬気を取られて、暗殺者を通しそうになって居るが、足を踏んで動きを止めた後、その顔面を強かに殴りつける。


 ガンツやタクがもう一人抜かなかったのは、良かった。二人同時には相手に出来ないが、一人ならまだ何とかなる。


「【付加】――アタック」


 エンチャントによる強化を施し、暗殺者が来るのを待つ。

 俺が選んだ矢は、麻痺の状態異常薬を合成した矢を選択し、迫る暗殺者に狙いを定める。

 確実に当てる為に十分に引き付ける。HPもある程度減っているが、状態異常にして時間を稼げば、ケイとマミさんが駆けつけてくれる。


 相手が俺の背後にいる護衛対象へと攻撃するために跳びかかり、逃げ場のない空中で狙いを定めて、矢を放つ。


「――はぁ?」


 誰が発したのか分からない間抜けた呟きだったが、今の声は、自分自身が発した言葉だと数秒後に気付いた。

 放たれた矢を至近距離で受けた暗殺者は、そのまま状態異常で動きを止めると思っていた。

 だが実際は、矢を受けた直後、後ろに錐揉みしながら、吹き飛んでいく。まるでかなりの速度で飛来する鉄球を受けた様な感じで、体をくの字に人形の様に力なく倒れる。そこで完全に止めを刺した事を確認した。

 俺が、自分のやった行為に呆然としているとタクとガンツは、それぞれが相手にしていた暗殺者を倒し、NPCの護衛依頼が完了したインフォメーションが流れる。


「……ユン。お前、何した」


 戻ってきたタクが俺に問いかけたが、俺としても何をしたのか分からなかった。

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