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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第5部【冬のクエストと問題を抱えた町】
214/359

Sense214

 イベントまでの日が迫る中、ハイポやMPポーション、各種状態異常薬、蘇生薬の売れ行きが上がりだした。普段から少しずつ在庫を増やしているためにこういう時に一気に減っても余裕がある。ただ、それは、俺の場合なだけで合って他人はそうじゃない。


「そっか……マギさんも駄目か」

『ごめんね。なんか生産ギルドの方で組むことになって』

「そうですか。ギルドの方で……」


 フレンド通信で前回のイベント参加者であるマギさんやリーリー、クロードと連絡を付けたのだが、言葉を濁すマギさん。他、リーリーにも同じような返答を貰った。


『今も忙しいし、ギルド関連での知り合いの生産職と一時的に組むつもりだから。イベント中に余裕があったらユンくんと組む事が出来ると思うけど……。ホントにごめんね』

「気にしないでください。リーリーも同じ様にダメなようですし。そもそも生産ギルドに加入していない俺がどうこう言う事でもないですよ」

『本当に、ごめんね』

「もう、それ以上謝ると怒りますよ」


 あまりにもマギさんの残念そうな声と謝罪を聞いて、逆にそんなことを言う。ただ語調は怒るよりも呆れた優しい物になる。

 生産ギルドは、生産プレイヤーの素材の売買の一元管理やオークションなどをやっている場所だ。加入しなくても利用できるために俺は参加していないが、設立初期にマギさん達を中心に頑張ったプレイヤーも大切だ。そっちを蔑ろにしちゃいけないと思う。


「最後は、クロードなんですけど、全く反応なしですよ。一度、喫茶店に行ったら不在で、知り合いのラテムさんに聞いたら、ギルドに店にクリスマス衣装と手広くやり過ぎに合わせて、ただでさえ足りないのに、リアルで年末の仕事納めの追い上げで更にハードだって……」

『えっ!? クロードって無職じゃなかったの!?』

「いや、驚く所はそこですか……。まぁ、確かに言動に難ありですけど、ちゃんとした社会人……らしいですね」


 店の知り合いに聞いたら、面白おかしくそう説明された。何の仕事をしているか知らないが、そんなフルで企画して過労で倒れなければいいが……


『クロードの事は、冗談なんだけどね。私やリーリーは年末は比較的緩いけど、そうだよね。クロードは、社会人だもんね』

「俺やミュウの学校は、イベントの一日前から休みに入るんで結構余裕がありますよ」

『余裕かぁ、ユンくん、結構早めに装備とか色々用意しているでしょ。私の所に来るプレイヤーなんか、ギリギリまでレベリングで酷使した武器を持ってくるんだよ! だから、そのメンテナンスとかでも忙しいのよ』

 

 マギさんにしては珍しい愚痴。リーリーはリーリーで自分の戦闘センスのレベル上げに勤しんでいる様で、一人で雑魚狩りを続けている様だ。


「まぁ、今回はソロで参加ですかね」

『他に知り合いは居ないの? 顔は広いでしょ?』

「だと良いんですけどね」


 タクやミュウ、セイ姉ぇやパーティーやギルドでの行動になりそうだし、同じソロ傾向の強いエミリさんだと生産分野の競合でかち合うのを嫌がって互いに、それとなく別々な感じでの動きになる予定だ。理想とするのは、不確定要素を減らすためにバランスの良いパーティーだ。


「バランスの関係上。今回はソロ決定ですね」

『でも、一人でどうしても出来そうにない時は、私たちを頼ってね』

「はい。じゃあ、マギさんも適度に頑張って下さい」

『ユンくんも、ね』


 顔の見えないフレンド通信だが、今マギさんがウィンクした姿を幻視して、小さく苦笑し、互いに通信を切る。

 マギさんと話した余韻を噛み締めながら、長く息を吸い、同じように長い時間を掛けて吐き出す。


「ソロでもやっていけるよな」


 持ち込むアイテムは、各種回復薬に、蘇生薬が十五個。マジックジェムは、ボム、クレイシールド、マッドプール。そして、新しい大地属性の魔法。

 武器も、メイン武器の黒乙女の長弓と魔改造素体の武器。それに三種類の包丁。防具も問題はない。アクセサリーも普段用の装備と決戦用を取り揃え。

 生産職として大切な生産キットも持ち込み、それに必要な素材なども選んだ。

 今回は、所持金制限という謎の制限があるために、換金率の高いアイテムも選択。


 つまり――


「やる事が無い」


 準備が良過ぎて、揃えるアイテムも無い。後は、ルーチンワークか暇つぶしで時間を潰すしかないか。


「リゥイ、ザクロ。おいで」


 俺が選んだのは、暇つぶしの方だ。二匹の幼獣を呼び寄せて、店の畑側に設置したウッドデッキへと出る。適当な草地に腰を下ろし、まだ高い太陽を見上げて、目を細める。

 リゥイは、腰を下ろした俺の太腿に頭を預け、ザクロは、リゥイの脇に寄り添う様に丸くなる。


「あー、癒される」


 見上げる先にある咲き誇る桃藤花を見上げて、リアルの寒さとはまた違う常春のゲーム世界に癒しを得る。

 だらり、としばらく過ごしていると店の方からこちらを覗き込む人影が見えた。

 俺に用があるのか、しばらくこちらを伺っているが、決心がついたのか、声を掛けてくる。


「師匠、暇ですね?」

「なんだ。その言い方は。暇だけど、断定しながらの疑問って。それで師匠って違うだろ」

「短い間でも私たちが師事したんだから、師匠でも良いでしょ? それに、ししょーって言われて悶えれば良いわ」


 アルの後ろから双子の姉のライナも顔を出す。以前、助けた初心者プレイヤーの双子は、時折アイテムの補充に来る。

 人をからかう様にニヤニヤした表情のライナと困ったように眉を下げるアルに俺は、変わらないな、と溜息を吐く。


「ギルドの方はどうだ?」

「レティーアさんとベルさんは、レベリングしたい人連れて出てるんで、僕らは僕らで集まってレベリングとか色々とイベント準備です」

「楽しみな反面、不安があるのよね。前回のイベントには参加していないから」


 アルとライナの後ろには、双子と一緒にパーティーを組む小動物的な少女のユカリ。それから新顔の少女が居た。


「ユンさん、お久しぶりです」

「久しぶり。弓の方はどうだ?」

「まぁ、ボチボチです」


 控えめに言うと、代わりに、ライナが駄目じゃない。ちゃんとホントの事を言わないと。と捲し立てる様に言葉を連ねていく。話の内容としては、以前よりも戦闘も楽になり、弓のレベルも上がった。ただ、最近は、戦いに慣れて、今使っている弓の形が不便だから新しい物にしたい。といった感じだ。

 その辺の話は、リーリーに持って行ってくれ。と内心思うが、楽しそうに語るライナとわたわたするユカリを見てると、楽しんでるな。と言った印象だ。人に言いたくてしょうがなかったんだろう。

 ただ、初対面のために会話に入れない新顔の少女に話題を振る。


「それで、そっちの新顔は?」

「新しいパーティーメンバーよ! これでやっと四人体制になったわ!」

「はじめまして。わたくしは、フランソワーズよ。気軽に、フランとお呼びくださいませ」

「あ、ああ。俺は、この【アトリエール】のユンだ」


 いや、久々に濃い人が来た。といった感じだ。

 中学生くらいの少女が腰に手を当てて胸を反らしているが、悲しいまでにフルフラット。背もユカリやライナよりもやや高めの背は、偉そうな態度に拍車を掛けるが、怒りや苛立ちと言うよりもネタ? と思うくらいにチョイスされたキャラの容姿。

 眩しいくらいの金髪を縦ロールにして、細部が少々派手と思われる金の刺繍が施された衣装。漫画やアニメにいる所謂、金髪ドリルなツインテールのお嬢様的な人がいる。

 ゲームでやるなら、キャラのロール。リアルで遭遇するならそれこそ特別天然記念物レベルな存在だ。


「噂は聞いていますわよ。わたくし達のギルドマスターのレティーアさんやサブマスターのベルガモットさんが絶賛する人らしいですわね」

「そうなんですか。例えば、どんな風に」


 聞きたいような、聞きたくないような。俺の引き攣る表情を知らぬように胸に手を当てて、演説の様に語り出すフラン。その横では、話が長くなりそうだと予想して、ザクロ貸してください。と寝ているザクロを触りたいライナとユカリ。

 逃げ出そうとするアルを視線で押し留めて、フランのブレーキになって貰う。


「例えば、遠距離からの戦いでは一方的に責め立て、圧倒的有利な状況を作為的に作り出す策士! 更に自らが消費するアイテムを自身で調達できる程のクラフター! また戦いの場を整えるだけでなく、不意の接近戦闘でも並のプレイヤーに負けない素晴らしい方……」


 うおおおぉぃ!? 何を誇張してるんだ!


(どういう事だ。アル)

(ベルさんが誇張しているんです)


「また、レアな使役獣との深い友情を持ち、弱気を助ける勇敢さと戦いに負けぬための臆病さを兼ね備え、人知れずさり気無い気配りが出来る料理上手な女性だと、聞いておりますわ」

「それは、誰だ? あのな、フラン。訂正するとそれは、誇張も誇張だ。話半分以下で聞け。それと俺は男だ」

「まぁ! 言われた通り、恥しがり屋で、すぐに謙遜する人なんですね! それに、自らを男性というと言う事は……分かりますわその気持ち!」


 はぁ? 何を言っているんだ。

 青い芝の上に腰を掛けている俺がぽかんと見上げていると膝をついて、俺の片手を包む様に握って来る。


「辛かったでしょう。わたくしにも同じ様な経験はあります。ですが、目を逸らしてはいけません」

「はい!?」


 何の事を言っているんだ。こいつは……


「確かに、ネットゲームでは、女性は、ネットゲームでは性別を明かすことは危険と言われています。それに、胸が無いから男性と言い張るのは、自信のない証拠ですね。無い胸でも自信を持ちましょう! 女性の魅力は別にあります! あんなの脂肪の塊です!」

「……えっと」

「いいのです、無理に言わなくても。誰にだってコンプレックスはあります! そう私だって! 胸が無いからなんですか! あんなの被弾する表面積を増やすだけじゃありませんの!」


 天に向って吼えるフラン。ハンカチ持たせたら、口に咥えそうな姿が簡単に想像できた。ただその手には、俺の片手をがっしりと掴まれて、逃げ出せない。ちょっと離れた場所では、ライナとユカリがザクロの首をお腹をもふもふしており、ザクロが気持ち良さそうにコロコロと転がっている。俺をそっちに混ぜてくれ。

 膝枕していたリゥイも鬱陶しいのか、消える様に姿を消して、アルに助けを求めるが、無理と表情で返される。


「巨乳なんて無駄なのです! あんな物でレディーは測れないのです! 共に、貧乳同士で立派なレディーに。いえ、私のような若輩者は、ユンさんのような立派なレディーに近づける様に努力します。どうか、ご指導ご鞭撻よろしくお願いしますわ!」


 何だろう。女の子から慕われているのに、どうしてこうも心に響かないんだ。

 いや、多分良い子なんだろう。物語に出てくる意地悪な金髪ドリルなお嬢様では無く、愚直な人なんだろうけど……致命的なまでに人の話を聞かない。そして、勝手な解釈をする。

 更に、自身の胸部へのコンプレックスが強いのか、俺を見て同士だと思っているし、いや、俺は男だから……そもそも胸無いですから。


(アル、止めろ)

(無理です。気が済むまでやらせてください)


 ジト目でアルを見るが、助けてくれない。お前、何のためのストッパーだ。そして、フランの演説は、十分近く続き、その内容が、俺への憧れの混じる言葉で逆に恥ずかしくて逃げ出したい。だが、手を掴まれて逃げ出せない。

 耳を塞ぎたかったが、それは無理で顔を伏せて、聞くのを耐える。恥ずかしさに顔が熱を発し、肩を小刻みに震わす。

 フランが勘違いしている情報源は、どうやらベルが面白半分で流したようだ。あいつ、次に店に来た時、覚えていろ。



一応、初心者組のパーティー拡充。四人目。このまま、アルくんのハーレムパーティーになるのか?

フランさんは、ミーハーな子です。有名なプレイヤーに対しての憧れや妄想という物に溢れた子です。なので、ユン一人に固執してません。他人には普通に接し、常に巨乳を敵視している訳では無く、禁句ワードや何らかのスイッチが入ると、コンプレックスが爆発します。取扱注意。

次回、初心者パーティーの目的が明らかに(深い意味なし)。イベント開始を繋ぐ軽い出来事の予定

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