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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第5部【冬のクエストと問題を抱えた町】
213/359

Sense213

「はぁ、はぁ……」

「大分、慣れてきましたね」

「そりゃ、三日も時間作って貰ったんだ。多少は、ね」


 イベントが差し迫る中、特別に何か用意する元があるわけでもない。そのために、こうして普段の店の商品の補充以外に訓練に時間を割けた。とは言え、ミュウやルカートたちに少し時間を貰い、俺は、休憩中に俺が施したエンチャントの状態のまま訓練をする。

 俺も三日前に比べれば、多少は早い攻撃を避けることが出来る。

 来るパターンを色々と織り交ぜた攻撃に時折フェイントや早めの攻撃を混ぜてくるルカート。また、囲まれた時の訓練で、背後にトウトビが立ち、十回に一回の割合で一撃を放ってくる。という物だ。

 前の方に集中すると、後ろからガツンと一撃を貰い、後ろに警戒し続けると、前からの攻撃に反応できない。


「……キツイ」


 上がる息を抑え込んで、続けてくる攻撃を避けるが――


「――っ!?」

「はい、ユンさん。また、釣られましたね」


 今大上段に構えたルカートは、アーツを発動させようとした。その瞬間、【看破】のセンスが強く反応を見せ、その通りに回避したが、直後に予想とは全く違う軌跡を通って、剣が俺の身体に当たる。


「ユンさん、フェイントには弱いですよね。けど、MOB相手には、充分なほどに回避慣れしたんじゃないですか?」

「そうだな。まぁ、回避を延々と続けてたから、強くなったセンスもある」


 延々と続く回避行動。以前、ミカヅチ相手のPVPで良い様にやられたが、今度はこちらからの反撃無しをメインにした特訓だ。

 攻撃しないために、低レベルの【魔弓】と生産系のセンスが殆どレベルが上がらない代わりに【俊足】と【看破】のセンスのレベルが集中的に鍛えられた。キャラのSPEEDが上がった分、攻撃速度や反応速度を上げた訓練を少し高いレベルで続けられていた。


「結構、囲まれる事が多いですから回避を鍛えるのも悪くないと思いませんか?」

「まぁ、そうだけど。囲まれる前に敵の見つけ方の方を鍛えたいんだけど。まぁ【看破】のレベルが上がったから前みたいな奇襲は事前に見つけられると思うけど」

「そう言うのは、オープンフィールド限定ですよ。閉鎖的なダンジョンで突発的な遭遇戦もあるんですから。コハクさんとリレイさんも回避だけは同じ様に鍛えていますよ」

「マジか……」


 後衛の自衛手段としては必要なのかもしれない。まぁ、索敵に必要な【看破】のレベルが上がったのは、良い事だ。もしかしたら、【看破】のレベルが上がる事を見越しての訓練だったのか。結構、違うセンスでも同じ動作で経験値を獲得する物が多々ある。そう言う同一動作で複数センスを効率に上げる方法の一つなんだろう。時には、まさかこんな方法でもレベル上げがとか精神と肉体に多大な無茶を強いるブラックな方法も多々ある。


「休憩! そして、残っているケーキをプリーズ!」

「はいはい。全く、これが最後なのに。また追加で作らないと」


 溜息を吐きながら、訓練の受講料代わりに三人にショートケーキを振る舞う。この前のホールケーキが尽き、イベントまでもう時間があんまりない。

 それぞれに一切れずつケーキを渡す。店売りのような小奇麗な感じじゃなくて恥ずかしく思うが、その辺は目を瞑り、美味しそうにイチゴの酸味に目をきつく閉じるミュウ。それを微笑ましく見詰めるルカート。イチゴは最後に取っていく派だろうトウトビに俺は苦笑する。


「それにしても仲が良いな」

「結構、ドタバタが多いですけどね」


 苦笑いを浮かべるルカートに、補足するように語り出すトウトビ。


「……ミュウは、プレイヤーとしては優れているけど、リーダーとしては一段劣るように思います」

「ちょっと! トビちゃん、酷いよ」

「……それを私やルカートみんなで補う。だから、円滑に回ると自己分析しています」

「そうか。苦労かけるな」


 以前、耳にした事にリーダーに頼りない人間を置くと周りの人間が補助しようとして円滑に回るという良い一例だろう。リーダーシップや強さだけがパーティーを上手く回すコツなのではないのかもしれない。


「いえ、私たちは楽しんでますよ。みんなで色々と意見を出し合って進めていくので」

「……単調な作業にならないのは、私たちのパーティーの美点」

「ねぇ、綺麗に纏めたけど、私を結構貶めていたよね。ねぇ」


 ジト目で二人を見ているが、リーダーにしては子供っぽいし、納得な気がする。


「まぁ、ミュウは、ゲームだとイケイケどんどんだからな」

「VRだとリアル的な能力でも影響が出るので、そっちの方は、たまにポロポロと失敗が」

「あああーっ! ルカちゃん、やーめーて」


 食べ終わったミュウが手をわたわたと動かし、奇妙な動きをしているのをトウトビが静かに抑え込む。

 俺は、今悪い顔をしているだろう。少しにやける顔でミュウの失敗を聞き出そうと少し前のめりになる。

 内容としては、大失敗という程でもなく、微笑ましい程度だ。また、ルカートは全く恥ずかしがる様子も無く、更に大きな自分の失敗を語ったり。だが、ミュウにとっては、その失敗は、精神的な致命傷になっている様だ。


「ほほう……。天下のミュウ様がそんなミスを」

「ううっ……そんなに茶化さないでよ! 私だってたまには失敗するよ」


 失敗内容が苦労して手に入れたボスのレアドロップの強化素材をうっかりNPCに二束三文で売ってしまったという内容だ。別にその時必要だったという訳でもないし、後日簡単に入手できたので良かった。という笑い話だが、本人はかなり気にしている様だ。


「ルカちゃん、酷いよー」

「そうですね。お腹が空いた時に、ユンさんの料理自慢された事に対する報復でしょうか?」

「……所謂、飯テロに対して」

「ミュウ。そんな話もしたのかよ」

「だって……」


 そんな俺の自慢話するくらいなら、俺が女性と言う誤解を解いて欲しい物だ。まぁ、料理を褒められて悪い気はしないが……。


「さて、そろそろ俺は【アトリエール】に戻るよ。イベントに向けてアイテムの整理をしないといけないからな」

「あっ、お姉ちゃん。ちょっと待って」

「何だ?」

「今回のイベントの制限とかちゃんと見た?」

「あっ……」


 そう言えば、ミュウに『イベントがある』と言われただけで自分で詳しく調べていない。


「またアイテムの個数制限か?」

「今回は、所持金制限。アイテムは、普段通りに使えるけど、イベントで持ち込める所持金の上限が三十万Gって決まっているの」

「知らなかった。けど、どうなんだ?」

「微妙だね。装備をフルで修理するには足りるけど、新規で装備を買うにはちょっとギリギリかな? それに、何を意図してこの金額にしたんだろうね」


 初心者には少し厳しい額だが、ちょっとレアな装備や何か素材を売れば、十分に調達出来る額だ。アトリエールの高額商品としてある蘇生薬でも、最近値下がり気味だが、二個売れば、十分に回収可能な額だ。この頃思うが最初に蘇生薬を出品したオークションはボリ過ぎたと感じる。その時の需要と供給の問題もあり、自然だろうが、今になれば、異常加熱だった様に思うのは、閑話休題。


「にしても、金って誰でも用意できるけど、初心者だと少しキツいんじゃないか?」

「そうだよね。装備を整えるにも消耗品を準備するにもお金は必要だし」

「逆に、換金用アイテムや素材を大量に持ち込むプレイヤーが多そうだな」

「そうなっても、プレイヤー全体の所持金の総額は決まっているから何処かNPCから調達して増やすか、しないと上手くプレイヤー間の交易が回らないんじゃないの?」


 そうなると結局の所、前回のイベントみたいに、物々交換になる可能性もあるな。


「まぁ、イベントの詳しい内容が分からないと判断のしようがないからな」

「そこは、臨機応変で対応するしかないね」


 腕を組んで、青空を見上げ、うーんと唸り声を上げる。まぁ、一人で対応できなくてもパーティーを組んで対応すれば、出来る事も増える。マギさんやクロード、リーリーとは、一度パーティーの勧誘をする必要が有りそうだ。


「まぁ、少し考えるよ。教えてくれてありがとう」


 準備期間は、残り少なくなってきている。早めに出来ることを終えておかないと。



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