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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第5部【冬のクエストと問題を抱えた町】
211/359

Sense211

 鬱蒼とした密林。そこをピクニックの様な気安い雰囲気で進む俺たち。


「狙いは、ホッパー・ラビットの革やトーンプラントの枯れ枝だ」

「鞍にするのには革は、一個当たりが小さいから数を集めないと。トーンプラントは、確かネシアスの爪用だったな。それに素材アイテムも探すから気合入れるか」


 リーリーが改めて目的を確認して、俺が気合を入れるために自分の頬を両手で二度叩く。


「こう暗いと見落としそうだよね。索敵は、ユンっちに任せるね」

「ああ、とは言え。こんなに木が密集しているのに、反応する場所が少ないな」


 俺は遠くを見通す【空の目】隠れた物や相手の行動を察知する【看破】の何時もの組み合わせで森を見渡すが、反応が薄い。その中で、視界の端にちらりと何かが動いた。


「居た。左前方」

「あっ! 逃げた! ユンっち、追うよ! 待てぇ!」

「了解! 【付加】――スピード」


 俺たちが見つけた灰色の毛の無いウサギ――ホッパー・ラビットもこちらと視線がかち合った瞬間に一気に森の奥へと逃げていく。強靭な脚力と森の木々を足場にした移動で奥へと跳んでいく。

 三次元的な移動方法は、ミュウをどことなく彷彿とさせるホッパー・ラビット。一瞬の速度は速いが、溜めてからの跳躍のために、相対的な速度では、俺たちの方が勝っている。


「あと、ちょっ――「うわっ!」ユンっち!?」


 リーリーがウサギにあと少しで追いつく。と言う時に後ろを追っていた俺の視界が上下反転する。いや、正確には、踏みしめた地面から現れた蔦が足首に絡まり、俺を逆さ吊りにしているだけだ。


「大丈夫だ! それよりウサギ!」

「えっ? うわっ!」


 今まで逃げに徹していたホッパー・ラビットが樹を足場にリーリーへと体当たりをして来る。咄嗟に避けたリーリーだったが、返しの体当たりを背中から受けて、地面に転ぶ。


「ちっ、こっちも何とかしないと」


 足に絡みつく蔦は、棘を持ち、足首に食い込み、継続的なダメージを与える。棘のある植物――トーンプラントに逆さ吊りにされるとは思わなかった。お腹の部分の上着が捲れるのも構わずに、包丁を腰のベルトから抜く。身体を揺らし、反動と腹筋を利用して一瞬だけ、足首に絡む蔦を包丁で切り捨て、空中に放り投げられる体を何とか捻り、四つん這いになりながらも着地する。


「くそっ。【看破】のセンスに反応なかったぞ」


 先程俺の足を絡め取り、吊り上げた棘植物は、攻撃を受けたから反応があるが事前に察知できなかった。これは俺の落ち度だ。


「リーリー。俺は、こっちを片付ける! お前は、ウサギを」

「わ、分かったけど! は、早いよ!」


 自由自在に飛び回るウサギに悪戦苦闘するリーリー。だが、樹の上にいる蕾型の本体を持つトーンプラントも放置できない。


「とっとと退場してもら――」


 弓矢を構え、トーンプラントを射抜こうとする俺の頭に、ごちん、と言う効果音が聞こえそうな程硬い物が投げられた。

 受ける衝撃とダメージで状態がよろけ、狙いの狂った矢が薄暗い森の奥へと飛んでいく。

 苛立ちながら振り返る樹の上のは、また別種のMOBが複数匹居た。矮躯に可愛げのない犬顔でだらしなくベロを出す――コボルト・レンジャーだ。

 それぞれ、投擲物や投石で俺の攻撃を邪魔してくる。


「ちょ、待て! ええい。そっちが先か、って痛い。ええっ!? そっち?!」


 俺が振り返り、樹の上で攻撃しているコボルト・レンジャーを射ようとすると、また逆の方のトーンプラントが攻撃してくる。ダメージ量も少しと無視できるが、攻撃に特殊な効果があるのだろう。ノックバック、攻撃無効など。こちらの行動を嫌らしく阻害する。


「いい加減にしやがれ! ――【ゾーン・ボム】!」


 リーリーの相手にしているホッパー・ラビット含めて、この場で相手にしているMOBを全て対象に選択肢、爆破魔法を発動させる。周囲が爆炎に包まれる中、ピンポイント爆撃を使い、黙らせる。

 今の一撃でホッパー・ラビット以外の反応が消えた。


「今の内に態勢をぉぉっ――」


 再び片足を一本釣りにするされ、いつの間にか吊るされた俺の下に槍や武器を構えたコボルト・レンジャーが構えていた。


「おいおい、今の攻撃で【看破】センスの反応が消えただろ。何で生きてる。ってHPまだ残ってるし!」

「「――バウッ」」

「ユンっち! 助けて!」

「無理だって! こら、そんなもので攻撃するな!」


 自分よりスペックも体格も劣っているコボルトやトーンプラントに翻弄される。むしろ、弱い相手がじゃれ付く様な、もはや戦いとも呼べない抜けた雰囲気の中ダメージを蓄積していく。


「うわぁぁん! ユンっち!」

「こっちも無理! てか、寧ろ、下ろしてくれ!」


 リーリーも新たにホッパー・ラビットを二匹追加しながら翻弄されている。まるで先ほどのキラー・マンティスとの戦闘を立場を逆にして戦っている様な構図だ。リーリーでも三回攻撃を当てれれば、倒せる程弱いのに、中々攻撃が当たらず、死角から頭突きを喰らったり、足元を掬われたりしている。

 また、俺の方も抜け出すと逆さ吊りのまま武器を振り回し、偶然当たれば、偶然ダメージを受けた一匹に喰らいそのまま倒せたが、新たに二匹増え。三匹揃ってこちらの攻撃が届かないアウトレンジからちまちまと攻めてくる。

 また、先ほどと同じように【ゾーン・ボム】を使おうとするとトーンプラントに揺らされて対象の認識を邪魔される。


 そして――


「リーリー! 大丈夫か! リーリー!」


 地面に倒れるリーリー。HPバーは完全に尽き倒れる。蘇生薬も無く、キャラの身体は光の粒子となって言える。


「おい! 待て待て待て! ちょっと――」


 俺も吊るされた状態でダメージを蓄積して、視界がブラックアウトする。

 闇に閉ざされた視界の中に白いウィンドが現れる『蘇生薬を使用しますか? YES/NO』と。

 リーリーも居ない所で復帰しても意味ないとNOを選択し――


「――はっ!」


 以前も味わった死に戻りの感覚。立っている場所は、リーリーと待ち合わせをした第二の町のポータル前だ。今までレイド級ボスやボス級MOBとだって戦ってきた。なのに――


「何で、何であんなふざけた死に方する!」


 こう、必殺技的な物でも、度胆を抜くような予測不可能な攻撃でもなく、物理的に動きを封じられてのダメージの蓄積。戦い方が何時もの俺のように相手が手を出せない位置から気づかれずに倒す。と言う部分が似ていて複雑な気分になる。


「ああ、負けちゃった。全然素材が集まってないよ」

「それにしても敵を全然見つけられなかった。悪いリーリー」

「気にしないでよ。見つけられなかったものは仕方がないよ」

「そうなると【発見】や【看破】のセンスのレベルが不十分か相手の方がより強い隠蔽系のセンスを持っているかだね」

 

 苦笑いを浮かべるリーリーに再度申し訳なく思う。俺がもっと早くに見つけていれば。

 戦闘のイニチアチブを取られることがこんなに痛い事だと初めて実感した。

 また、情報不足や経験不足。エリアに入って実際に立ち寄った事のあるタクやミュウたちの生の注意などがこれほど重い価値を持っているとは思わなかった。


 それに――


「く、くそぅ! 確かに相手は弱いけど! いや、弱くないし、負けたけど。でも! 何か納得いかない!」


 こんな気分になるのは久しぶりだ。どのMOBも弱い。確かに森の奥地と言う事で強くはなるが、手前のパラライズ・キャタピラーやバレット・コロスト以上。ブル・ビートル未満の敵だ。

 今まで上位の敵には、連携などを使ってくるMOBも居たが、少人数で連携を受けるとこうも簡単に負けるとは。


「ユンっち。どっかで休まない? 流石にデスペナルティー状態のままじゃ何もできないから」

「そうだな。じゃあ【アトリエール】に戻るか」

「お茶とお茶菓子を出してくれる?」

「はいはい。この前作ったショートケーキで良いならな。またレベル上げでもう一度作るから」 


 溜息を吐きながら、目の前のポータルから工房部に設置されているミニ・ポータルへとリーリーを連れて転移する。

 互いにカウンター席を挟んで、俺が用意したケーキとお茶を用意するが、手を付けずに、先ほどの醜態を分析する。


「はーんせいかーい! どんどん、ぱふぱふ」

「なんだよ。そのやる気のない声は……」

「言ってみただけ。でも、何処が悪かったんだろう」

「俺が【発見】や【看破】のセンスで見つけられなかったのが原因だ。レベルの不十分か相手の方がより強い隠蔽系のセンスを持っているか」

「それだけかな? 僕だってホッパー・ラビットを相手にもっと早く殲滅出来れば……」


 互いに自己分析するが、だからすぐに出来る事でもない。結局、レベルを上げるか、装備を充実させるか。そして、生産職として装備は充分に良い物を持っている。後は――


「レベル上げか――「甘々だよ! お姉ちゃん!」……」


 俺の呟きを遮る様に声を上げるのは、店の入り口で仁王立ちしているミュウだ。


「話は全部聞かせて貰ったよ。確かに、あのボスの奥の敵は、一般認識では弱い! 余剰に弱い! けど、それは前提となる条件をクリアしてこそだよ! その点、お姉ちゃんはクリアしていない! レベルや装備の所為だけじゃないんだよ!」


 ぽかん、とただ聞いているだけの俺にミュウがつかつかと歩いてくる。


「突発的な乱戦。遭遇戦。それを事前に回避するのは重要だよ。でも、もっと重要なプレイヤースキルって数値に表せない物を極める必要もあるんだから!」


 そう言いながら、カウンターに置かれた手付かずのショートケーキを奪う。


「――だから、特訓だよ!」

「はい?」

「特訓! イベントも迫る中、確かにレベリングも重要だけど、レベルを上げるだけじゃどうしても補えないプレイヤースキルが絶望的に足りない。強制訓練だよ!」


 そう言いながら、ショートケーキのシンボルともいえる赤く瑞々しいイチゴをフォークに突き刺し口に入れる。

 特訓を強制って、そんな面倒な。リーリーは、どう思う。と尋ねようとした時には、既に居ない。パーティーの状態も解除され、見事に逃げ出した。


「リ、リーリーの奴、上手く逃げやがったな。くそぅ――」

「さぁ、明日からと言わず、今日から、今から! 行こう!」

「ちょ、ちょっと待て! 何をするんだよ!」


 ミュウに引き摺られるように連れ出される俺。その後、嫌々ながらにミュウの言う特訓こと組手を延々とやらされ、負け続けた。俺が弱点だと思ったセンスを敢えて外しての訓練で成果は上がらず、俺の精神はボロボロになった。

 こんなことに何の意味があるのか。そう疑問に思う。

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