Sense197
クロード用に調整した各種類の補助薬を複数作成し、本命のアブソプション・タブレットとマナ・タブレットは、別の日に入念な準備の下で作成される。
「道具、材料は、揃ってる。あとは……」
装備しているセンスを調整して、大量の解毒薬とMPポーションを用意しておく。
所持SP25
【魔道Lv15】【付加術Lv37】【錬金Lv43】【合成Lv41】【調教Lv18】【調薬Lv49】【言語学Lv22】【生産の心得Lv48】【料理人Lv7】【毒耐性Lv8】
控え
【弓Lv46】【長弓Lv27】【空の目Lv5】【俊足Lv18】【看破Lv18】【地属性才能Lv28】【彫金Lv20】【泳ぎLv15】【登山Lv15】【麻痺耐性Lv7】【眠り耐性Lv7】【呪い耐性Lv8】【魅了耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【気絶耐性Lv7】【怒り耐性Lv1】
準備をして作業台へと向き合う。
まずは、畑で栽培したカルココの実を皮剥き用のナイフで厚めに皮を剥き、中の白い部分だけを使う。
籠一杯のカルココの実の皮を全て剥き、予め水を温めていた大鍋の中に入れていく。
「ここからが本番だよな」
序盤にして最大の難所。レシピを書き出したノートをもう一度確認すると共に、沸騰するお湯とその中に浮き沈みするカルココの実を一定の速さで掻き混ぜる。
人の胴体ほどの大きさがある大鍋を混ぜるのに、腕にかなりの力が居る。時折掻き混ぜる速度が落ちそうになると、喝を入れる様に自身にATKのエンチャントを施し、掻き混ぜる速度を安定化させる。
そして、十分ちかく混ぜ続けると、鍋の中で変化が始まる。
「始まったな。ここからは混ぜる速さは、重要じゃない。耐えの時だ」
白い実が崩れて、鍋を掻き混ぜるヘラの重さが増す。更に、吹きあがる白い蒸気に紫色の毒々しい煙も混じり始める。
息を止めるのも難しい熱い鍋の正面で紫の煙を吸い込み、視界が狭くなる、熱に浮かされるような苦しさを感じる。それでも鍋を混ぜる手を緩めることが出来るのは、唯一の救いだ。一度掻き混ぜる手を止めて、解毒薬を口に含めば、視界の狭まりも苦しさも引いていく。
実は、このカルココの実は、毒の状態異常を引き起こすアイテムだ。ただ、アブソプション・タブレットとマナ・タブレットの素材としては必要で、一度精製してカルココの実から中間素材を作らなければならない。
その精製作業では、カルココの実に含まれる毒が発生し、今の様に毒の状態異常を引き起こす。
「はぁ、結構ダメージ喰らうな」
再び鍋を掻き混ぜながら、再び掛かる状態異常とそれに伴い減るHPを見比べる。
際限なく毒の噴き出す鍋の前に一秒間に1%のスリップダメージ。作業時間は、百秒などという短い時間では精製は終わらない。
ホントなら、事前に装備に状態異常耐性などを追加しておくべきなのだろうが、生憎と必要性を感じず、また対応する強化素材を持っていないために用意していない。
準備をしたと言っても見切り発車気味な精製作業で減ったHPを回復しながら、用意した解毒薬だけじゃ足りない様に感じる。
「もっと毒耐性を上げるべきか。使える手段は、何でも使うか」
残る手段は、回復のためのサポートと自己の対毒性能の向上だ。
「――【召喚】。リゥイ、早速で悪いけど、毒に掛かったら俺に【浄化】を掛けてくれ」
召喚したのは、使役獣のリゥイ。今回は、解毒薬やポーションによる回復に掛かる中断時間がもったいなく感じて、リゥイにその役を一任する。
また、もう一つ。作業台脇のアイテムボックスから以前作った瓶詰のアイテムを取り出す。
解毒ではなく、一時的な対毒能力を与えてくれるアイテム【シユの実の塩漬け】だ。見た目、梅干しのままのそれを口に含めば、強い酸っぱさに目が覚めるような気がする。
これ一つを食べることで三十分ほどの短い時間、毒耐性を向上してくれる。更に、低レベルの【毒耐性】の底上げで少しでも状態異常に掛からない様にする。
「作業再開だ。リゥイ、サポート頼むぞ」
俺の声に、軽く唸る様に答える一角獣のリゥイ。
再び、ヘラを握りしめ、重く粘性の高まった大鍋の中身を掻き混ぜる。
先程よりも明らかに状態異常に掛り難くなった。大鍋の前に立っているが、息苦しさや視野の狭窄と言った現象は、先程よりも頻発はしなくなった。ただ、匂いの強い鍋を掻き混ぜているだけという状態だ。
時折、発生する気分の悪さもリゥイの清らかな浄化の力によって一瞬で取り払われる。
それでもこの体制に問題がない訳じゃない。
使役獣でも幼獣のリゥイのセンスのレベルが低い。特にMPに関係する【魔力】センスのレベルが少ないために【浄化】の連続使用では、MPの自然回復量を下回る。
それでも、先ほどよりも作業効率が上がっているので、こちらの方が断然いい。
リゥイの【魔力】【浄化】センスや俺の【毒耐性】のセンスのレベリングになるために、この方法は悪い方法ではないと思う。
途中、何度かMPポーションでリゥイを回復しつつ、作業を続ける。
中に入れたカルココの実が溶けて小さくなるほど、鍋の粘性は増し、腕に力が入る。ATKのエンチャントを継続して使い、作業のペースを一定にしたままこの作業を繰り返す。
五分作業で二分休憩。それを四セットを繰り返し、三十分近い作業を続けた結果、ある瞬間から鍋の重みが消え、水のような軽さに変わる。
この頃になると、毒の煙は消え去り、後は水蒸気の白い煙だけがもくもくと立ち込めている。
俺は、熱い鍋を火から退けて、熱がある程度冷めるのを待ってから再び鍋を覗き込む。
鍋の底には、白い塊が沈殿しており、掻き混ぜていたヘラで突いてみると、ある程度の柔らかさを持っている。
鍋の残った余分な水を捨て、鍋底に残った湿った白い塊を取り出す。
これこそが中間素材であり、ここまで来れば後は簡単な作業だ。
乾燥用のザルに紙を敷き、そこに均一な厚さで白い塊を広げていく。後は、これを放置して、完全に水分を飛ばすことで、中間素材であるカルココの粉末が出来上がる。
その作業を終えて、後は放置の時間だ。ここで作業を短縮する乾燥をしても良いが、正直疲れた。
「リゥイ。ありがとう、手伝ってくれて」
大変な作業に付き合ってくれたリゥイにも労いの言葉を掛ければ、短い角の生えた頭を突き立てない様に擦り付けてくる。この動作は、褒美を要求しているのだろう。
三十分とは言え、状態異常やHP、MPを管理しつつの作業だ。料理と思えば、それほど疲れない作業なのだろうが、毒の対処に手間取ったために、今は休みたい。
リゥイに求められるままに、冷たい石床に座り込み、俺の膝に頭を乗せるリゥイ。冷たく硬い床とさらさらと手触りの良いリゥイを楽しみながら、今回の功労者のリゥイをインベントリから取り出したブラシでブラッシングする。
何時もは、ザクロと一緒だが、今回はリゥイだけを頼んだために、特別だな。と思いつつも差を付けないためにどこかで同じ様な事をしないといけないのかも、と思う。