Sense19
「――【ライト】!」
ミュウの一言で暗い洞窟が白色の光に照らされる。これも光属性の魔法スキルなのか。
だが俺には鷹の目がある。光の届かない洞窟の奥深くまで今でははっきり見える。だがそれが逆にいけない。そう、くっきりと見えてしまうのだ。
かさかさかさ――
うっとおしいほどにジメジメした空気の中に響く擦れる音。もう、暗視なんていらない。センスの付け変えをしようとも思うほどに醜悪な姿。幅が五十センチほどあるムカデがぞろぞろやってくる。
闇の中で真ん丸な赤い瞳が光って、現れる。
ぞわわわっと鳥肌が立った。ゲームなのに鳥肌が立って、エンチャントや目を逸らすことすら忘れていた。
「じゃあ、お姉ちゃん。行ってくるね!」
そう言って駆け出すミュウ。動きの遅いムカデの目の前に立ち、片手剣を両手に持って、ざくっ。
虫の節と節の間に剣をねじ込み、捻りを加えて無理やりに引きちぎる。
切り離されたムカデは、甲高い断末魔の叫びを上げて、頭の無い胴体は、十秒ほど独立して動いている。
もう、この光景だけで泣きたい。
もう、逃げ出す女性の気持ちわかるわ。トラウマになるもん。逆にどうしてあの中に嬉々として突っ込んでいけるの!?
「さぁ、どんどん行くよ!」
「もう、嫌だ! こんな光景見続けたくないって」
「お姉ちゃん! 紙装甲なんだから防御に徹して! それにアイテム採取するんでしょ!」
なおもミュウは、剣を突き刺し、ねじ込み、分離する。俺は、これ以上の泣きごとをぐっと抑え込んで、ムカデから目を逸らす。
あー、洞窟だから石がいっぱいある。一か所に三個ほど固まってあるが、細工センスの鑑定眼は、鉄鉱石。西の林の中を駆け回るより効率が良いが、精神衛生上は最悪だ。
びきゃぁぁぁ、というムカデの断末魔と、動く時のかさかさっという生理的嫌悪感を誘う音をBGMにした狩り。
一度に三匹ほど出るムカデをミュウは半ば作業的に狩って、俺は、鉄鉱石を拾うという作業が三十分ほどで終わりが見えた。
「お姉ちゃん、ここがボスの部屋でそのさらに奥がクエストアイテムの部屋だよ」
「俺も戦うか?」
「うーん。お姉ちゃんも戦っていないと退屈だよね。じゃあ、事前にエンチャント掛けてくれる?」
「分かった、じゃあ、【付加――アタック、ディフェンス、スピード】」
矢継ぎ早に唱えるエンチャント。初めて三重エンチャントやってみたが、成功した。ただ、一個目よりも二個目、二個目よりも三個目と重ね掛けするほどにMPの消費量が指数関数的に増えた。今更気づく事実。RPGなら、固定消費なのに、何でこう付加のセンスの使いにくい面が出てくるんだろう? と思う。
「じゃあ、行くね!」
元気よく飛び出していったミュウ。見ないよその先にいる敵なんて、さっきより三倍大きなムカデだし、今度は、顎を開閉してそこから垂れる唾液が、じゅっ、って床を溶かしているんだもん。名前がアシッド・ドーザー。ちなみにさっきまでのムカデがポイズン・ドーザー。
「やぁぁぁっ!」
大声を発して、ミュウがアシッド・ドーザーに突っ込む傍ら、俺は広い部屋の周りを歩く。魔法の光の届かない範囲でも問題なく石が探せる。おっ、鉄鉱石発見。
さっきのムカデよりも野太い悲鳴を背後に聞きながら、石探す。
なんか、一個だけ違う石見つけた。--化石だって。何の化石か分からないが化石らしい。
俺は、それを上下左右から見ているんだが、全く分からない。見た目は拳大の石だから、貝か小魚の化石か何かだろう。
「お姉ちゃん、こっち終わったよ」
「おう、お疲れ」
「どうしたの? なんかあった?」
「化石あった」
「おお、凄いじゃん!」
「凄いのか? 何の化石が分からないんだが」
「化石は鑑定するNPCがいるから大丈夫だよ。町に戻ったら鑑定してもらおうよ」
どうやら、化石とは、古代のアイテムの名残。という設定らしい。専門のNPCに鑑定してもらうと復元という名目でアイテム化されるとのこと。過去にあった話だと、β版では、上質な骨が出たのでそれを使ったハープが出来たとのこと。これも一応武器で、笛とか音を出す楽器は、魔力と音を衝撃波として打ち出す遠距離武器らしい。
魔法職は、純粋な魔力。楽器は、半分魔力半分物理、弓矢は完全物理。こういう関係が出来上がっているそうだ。
「何が出るのかな?」
「うーん。分からんな。まあ、期待した時の落胆って凄いし」
「でも、化石ってクジみたいなものだから、場合によっては、金属だったり、お肉だったり、ドラゴン種の糞だったり」
「うわっ」
「だから、この段階でも十分レアなアイテムが出る可能性だってあるんだよ」
「そうか。で、鑑定はいくらなんだ?」
「うーん。一回一律5000G」
「……2030Gしかない」
「だ、大丈夫! クエスト報酬は3000Gと重要なアイテムだから!」
それでも5030G。また俺の装備品強化が遠のく。
「もう、元気出して、クエストが終わるんだから」
「……あ、ああ」
ミュウに手を引かれ、洞窟の奥を進んでいく。洞窟の奥から光が漏れだし、逆光で俺の鷹の目でもそれ以上見通せなくなる。
「クエストの最後、クリス洞窟の最奥――水晶樹の花畑」
「うわっ、綺麗だな」
ふわっと香る花の匂い、洞窟の天井がぽっかりと空き、その場所から光が降り注いでいる。その光に集まるように咲き誇る色とりどりの花。その中央からは、こんこんと湧き出す水と中央に聳え立つ巨大な水晶。
「この水晶樹は、現在このクエストでしか確認されていないんだ。この風景って綺麗で私は好きなんだ」
「ああ、良い場所だな」
「最初は、スクリーンショットで見せようと思ったけど、お兄ちゃん、女の子になったから一緒に直接見ようと思ったんだ。でも、戦闘センスがすぐに成長しないから、私が一人で安全に来れるまで成長させないといけなかったんだからね」
「あ、ああ、ああっ!? ってことは、友人に断られたとか、レベル上げって嘘かよ!」
「友人は嘘だけど、レベル上げは本当だよ! でも、お兄ちゃんがエンチャント掛けてくれたから普段は長時間の大ムカデとの戦いすぐに終わったんだから! 本当だよ」
全く、兄に嘘をつくとは。と思いながらもその頭をくしゃっと撫でる。
「サンキューな。良い場所見せてくれて」
「う、うん」
恥ずかしそうにはにかむミュウ。くぅっ、こんな表情見るの久しぶりだな。いつも元気暴走な子だけど、たまにしおらしいと。
「お、俺もこの風景欲しいな。スクリーンショットってどうやって撮るんだ?」
「あっ、うん。じゃあ、やり方教えるね」
そのあと、ちょっとぎこちなかったが、ミュウにスクリーンショットの撮り方を教えてもらった。上手に映っていた水晶樹が綺麗過ぎる。
花畑に腰を下ろし、少しおしゃべりをしたら、ぎこちなさも抜けて互いにリラックス出来た気がする。最近は、二人してゲームに篭りっぱなしで、こんなゆったりした心持ちで話してなかった気がする。まあ、思春期の女子だし、俺が遠慮していた節もあるのだが。
「うん。大分良い気分転換になったね」
「もう帰るのか?」
「早くクエスト終えて帰らないと。夕方になっちゃうよ。先ずはその前に」
ミュウが水に浸かるのも無視して、水晶樹に近づく。
「えいっ」
「お、折った!?」
「うん。今回のクエストアイテムがこの水晶樹の枝なんだよ。はい、お姉ちゃん」
きらきら光る水晶樹の枝を受け取った。
水晶樹の枝【重要アイテム】
水晶の様な樹。一年で一センチほどしか伸びないために、人の背丈を超える樹は、樹齢百五十年は超えていると思ってよい。この世界には、樹齢一万年の水晶樹の樹が存在するらしい。
いやいや、これ小指ほどの長さだよ!? 良いの、折っちゃって。
「大丈夫だよ。お姉ちゃん、折れた箇所は、ここから離れれば元に戻るから」
「さすが、ゲームクオリティー。ファンタジー。それに、ミュウ。さっきお兄ちゃんって呼んでいたのがまた、お姉ちゃんに戻っているぞ」
「おおっ!? 気がついていたんだ」
いや、気付くって。まあ、道中は最悪だったが、とんだサプライズを用意してくれたもんだ。
帰り道、クエストを消化したためにムカデは出現せず、二人で時折MOBを倒したりや採取をしながら帰る。
クエストの依頼人である地層学者のNPCから報酬を受け取った。
うーん。今日は疲れたし、今日はもういいや。ミュウには昨日の詫びも込めて夕飯を少し豪勢にしよう。
改稿・完了