Sense182
カルココの実や鉱石、活力樹の実などを採取しながら、俺たちは進むが、緩いながらも傾いた地面と砂利と小石の滑り易い地面。所々に存在する炎熱トラップを回避しながら進む。
「こんなに蛇行しながら進むの効率悪いよね。もう、ダメージ覚悟で特攻しちゃう?」
「私ら前衛はそれは出来るかもしれないけど、本来の目的から外れているだろ」
ミュウの提案とミカヅチの反応以前に、エンチャント無しでは紙装甲の俺と後衛職のセイ姉ぇが耐えられないだろ。とツッコミを入れそうになるのを我慢しつつ、地面から鉱石を拾い上げる。
採取できる鉱石は、鉄や銀などの一般的な鉱石に混じり、火属性の鉱石であるレッドライト鉱石と土属性の鉱石であるグランライト鉱石。これをインゴット化すれば、火が朱鉄鋼、土が地鉄鋼のインゴットになり、今回の採取でそれなりの数を集める事が出来た。
今の俺では扱いきれないが、もう少しレベルを上げてアクセサリーの土台作りに挑戦したい。
「ここは採取終了。次の場所行こう」
「分かったわ。確かにミュウちゃんの言う通りよね。ユンちゃん、必要な数は揃った?」
「ああ、鉱石はまぁ、個人が使う分には十分。カルココの実は戻れば増やせるから問題ないよ。後は炎熱油だけ」
「じゃあ、少し戦闘多いけど早いルート通ろうか。ミカヅチは、先頭よろしく」
先行して進んでいくミカヅチの後に付き従い、傾斜を進んでいく。
広いオープンフィールドで、リアルの登山道のような道など無い。ただ、地面の各種トラップと遠方に見栄るオブジェクトを目印に進む。
手前に見えるのは、小山程の岩であり、その周囲に小さなクレーターが出来た場所だ。
「……怪しい」
「何が怪しいかは、分からないが、まぁ、同意はしておく。露骨すぎる」
巨大な火山弾が降りてきたような場所をミュウがクルクルと何かを調べるように回り出すが、何も見つからない。
「三合目の目印の卵石だな」
「ううっ……こういう特別なオブジェクトは、破壊すると破片がアイテム化したり、どかすとオブジェクトの下にアイテムがあるのがセオリーなんだけど……」
「いや、安直過ぎだろ。そこまで都合よく……」
しかし、俺の声を聞かずに、岩を駆けあがり、一番上に着地したミュウ。壁キックでの立体動作の出来る人には造作も無い様だ。そして、その頂点で何かを見つけたのか、剣を逆手に持って――突き立てる。
大岩とも言えるオブジェクトがたった一突きで縦から綺麗に真っ二つに割れ、左右に開いていく。その様子をぽかんと見上げる俺とミカヅチ。セイ姉ぇだけは、ニコニコと笑っている。
大岩の上に居たミュウは、華麗な着地をして、大岩のあった場所から何かを拾い上げて持ってくる。
「成程ね。特定の場所にのみ判定のあるオブジェクトだったんだね。そして、中には、キーアイテム【門番の鍵】ね」
「ミュウちゃん凄い、良く見つけたね。それでボスに挑戦出来るね」
「それ、どういう事?」
「ここのボスMOBの前に門があって、オープンフィールドに散らばるキーアイテムを入手しないと入れないの」
「散らばるって事は、他にも?」
「うん、敵の低確率ドロップや同じ様にオブジェクト周辺での発見報告はあるよ。でも、あくまでは挑戦権であって鍵の次に謎解きをクリアしないと……」
オープンフィールドで鍵を探して、ボス手前でクイズ。ちょっと変わったエリアだが、今までのただ突き進むエリアとは違った物がある。
「謎解きに失敗したらどうなるの?」
「キーアイテムの【門番の鍵】の消失かな? もしも通れれば、次から正解者のみで通れるけど……」
セイ姉ぇは、通った事があるようだがミカヅチが罰の悪そうな表情をしている。これは、セイ姉ぇだけ通ったという事だろうか。
「問題も違うし、一度クリアした人は、謎解きの回答権が無いし……ミカヅチには、そろそろ運で突破して貰いたいものよね」
「仕方ないだろ。一つしか持てないキーアイテムとランダムで何十問もあるクイズから知っている奴を引き当てるなんて。効率悪いぞ」
「結構、時間制限に余裕があるんだから考えれば、答えは出るものよ。頭を捻れば簡単なのに」
それは、セイ姉ぇだけだよ。というミュウとミカヅチの視線に、まぁ、セイ姉ぇは昔からその分野のゲームでは強かった。
「まぁ、新しい鍵の入手ポイントって事で報告かな? ユンちゃんもついでに鍵を探す?」
「いや、俺は良いや。このまま鍵を手に入れたら、ボスとのバトルに直行しそうで……」
あんまり、ノリと勢いでボスと戦いたくない。ちゃんと対策と事前の準備と心構えを持って挑みたいのだ。
セイ姉ぇも俺の意見に納得したのか、そのまま進んでいく。
俺は、素材の採取から戦闘にも参加したが、遠距離からの射撃の効き目は余り高くない。主に、エンチャントによる支援をメインにした戦い方でより戦闘時間の短縮となり、進行速度が上がる。
そして、四合目付近。今回の目当ての場所――火山帯の炎熱油の採取できる油池へと辿り着いた。
赤々と明滅を繰り返す地面の明るさを受けて、表面が反射を繰り返す無色透明な油だ。水と間違うほどに澄んでおり、油特有の粘性がある。
俺は、その油池へと近づいて、採取用の容器に油を汲んでいく。
ビンに数本分の油を採取し終えたが、油は減る様子は無く、泉の様に湧き出る様子にファンタジーと言う感想を抱く。
「ここまで来たし。余興の一つでも見せるとするか」
「余興?」
「面白いこと?」
俺は、訝しげに眉を顰め、ミュウは好奇心に目を輝かせている。
俺たちの反応にニヤリと不敵な笑みを浮かべるミカヅチは、遠距離系のアーツだろうか。それを遠くに見えるマグマ・ベアへと放ち引き付ける。油と火を噴く熊。この組み合わせに途轍もなく嫌な予感がする。
「セ、セイ姉ぇ……」
「はいはい、後ろに下がって――【アイス・シール】」
薄く透明な氷壁が俺たちと油池を隔て、その向こうでは、ミカヅチが相手を押し付けるノックバック攻撃のアーツで油池へと押し込み――
「――ファイアー!」
「なっ!?」
「おおっ、まさに火の海だ」
驚愕に声を上げる俺と呑気にそれを眺めるミュウ。
火が油の表面に触れた瞬間、池の表面を這う様に油が広がり、目の前で業火が生まれる。
その中で、池に浸かった熊は、自らが纏う火よりも激しい業火に焼かれ、もがき手を振り回す度に、飛び散る油が火の玉となって四方に飛んでくる。
セイ姉ぇの用意した氷壁が無ければ、危ない場面だが、逆にそれがあるからスクリーン越しの映像を見ているような錯覚を覚える。
ゲームで炎を見慣れたと思っていたが、これは人間の持つ火への恐怖を呼び覚ますに十分だった。
しばらくして、火の中の熊は消滅したが、火の勢いはまだ残っており、炎熱油の採取など出来ない状態になって居る。
「ねぇねぇ。あれどうするの? ずっと燃えたまま?」
「いや、しばらくすると消えるぞ。まぁ、採取ポイントでも下手するとトラップに早変わりする。って手っ取り早く教えるために見せた」
「……」
「ユンちゃん、大丈夫?」
余りの光景に最初に驚きの声を上げる以外、言葉が出ない。セイ姉ぇが心配になり肩を叩いた瞬間に、すとんと体の力が抜けて、その場に座り込んでしまう。
「あははっ、ごめん。びっくりして腰抜けた」
「ショック強すぎたか? 悪かった」
「いや、採取の時にも注意しないといけないのが分かったよ」
とはいえ、すぐに復帰できそうにない。両手で顔を覆い、強張った表情を揉み解す。数秒間の沈黙の後、気力を振り絞り立ち上がる。
「もう大丈夫。目的も達成したし、帰るとするか」
「まぁ、その前にちょっと寄らない。五合目のセーフティーエリアまで」