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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第4部【生産職の日々と仕込みは戦い】
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Sense175

 カツカツとチョークが黒板を叩く音を聞きながら、同じくシャーペンでノートに突き立てる。

 黒板の内容をノートに写し取り、教科書に視線を走らせるが、苛立ちは消えず、ノートの端を無意識に突き続ける。


 ――キンコンカンコン


 授業の終わりのチャイム。それを聞き、教室の空気が一気に弛緩する。俺も釣られて、ふぅ、と短く息を吐き出し、椅子の背もたれに寄りかかるが、近くの席の巧は、より脱力している。


「巧、疲れたか?」

「疲れた。じゃねぇよ。お前こそ何を苛立ってるんだよ」

「ああ、やっぱり苛立ってたか」


 片手で額を押さえながら、溜息を吐く。やっぱり、幼馴染だな。俺の雰囲気を掴んでくる。


「まぁ、お前にはどうでも良い事だ。それより帰りに買い物に付き合え」

「お前が買い物に誘うなんて珍しいな」

「ゲーマーとしてのお前の意見が欲しい。と言ったら?」


 そりゃ、拒否しないな。と肩を竦めて帰り支度をする。

 そこに同じように支度を整えた遠藤さんも話に加わる。


「峻くん。なにか面白そうな話しているようね。私にも聞かせて」

「あー、まぁ良いか。ちょっと彫金センスのレベルを上げるために資料集め」

「おいおい、まさか、本格的な鍛冶や細工道具でも買いに行く気か?」


 そんな訳あるか。と突っ込む。だが、当たらずも遠からず。と言った所だ。


「ビーズアクセサリーやデザインの本を探しに行こうと思って。後は料理の本?」

「おいおい、一冊数千円もするような本を気軽に買うなよ」

「おい、廃人ゲーマー。毎月に数千円もするゲームを気軽に買うなよ」


 俺がジト目で見つめ返すと巧もうぐっと言い淀む。それがツボに入ったのか、遠藤さんは、くすくすと小さく笑う。


「やっぱり、二人は仲が良いのね」

「まぁ、普通だな」


 そう言われると仲のいい男友達だが、改めて言われるとちょっと恥ずかしい。


「それより本屋に寄ろう」

「あー、そう言えば、俺も欲しい雑誌があったんだよな」

「あら、巧くんの場合、ゲーム雑誌かしら」


 からかう遠藤さんに、ズバリ的中された巧は、そうだよ。と答える。

 それからは、今回の特集であるアーケードVR特集と次世代アーケードの特集らしい。

 巧の熱弁に遠藤さんは、へぇ、そうなの。と上手く相槌を打っている。


 そして三人で書店を訪れ、それぞれが好きな本を探す。ビーズアクセサリーの編み方の本は、数種類の作り方がサンプルで乗った薄い本で入門編としては丁度良さそうだ。あとは、デザインの本では画集のような分厚い本を見つけたが、少し違うと感じて棚に戻した。

 先に料理本を探し、冬の料理本を見つけて、気なしに色々なコーナーへと立ち寄った。


「あら、峻くん。目当ての物は見つかったの?」

「遠藤さん、うん。料理とビーズアクセサリーの本はあったよ。だけど、彫り込みや彫刻の本が無くて」

「神社仏閣の本とかは?」

「うーん。ちょっとイメージが違うかな? 色々と見ているんだけど、どうもイメージが」


 具体的にどんな種類のデザインが好き。と言うのは無い。ただ、何かを見てこれは好き。ちょっと違う。と言った直感めいた感性に従っているだけだ。


「まぁ、峻くんは、好きなようにやれば良いんじゃない? 今日無理に本を探さなくてもネットでも情報は得られるんだし」

「そっか。じゃあ、今の所これで良いかな?」

「後、素材が入用なら私――【素材屋】のエミリをどうかご贔屓ひいきに」

「あはははっ、宣伝が上手いな。今はまだ技術が未熟だけど、満足いくだけの物が出来たら、もっと良い素材を買いに行くよ」


 遠藤さんとの会話は、真面目だがユーモラスがあって、話していて楽しい。途中、雑誌を立ち読みしている巧を回収してレジへと向かい、お会計を済ませる。


「うぅ、流石に十一月下旬。もう、十二月近くになると外は寒いな」

「そうだな。こういう寒い日はシチューが食べたいな。明日の夕飯にでも作るかな」

「良いわね。私も親にリクエストしようかしら」


 店の外に出て、コートのポケットに手を突っ込み首を縮める巧。俺は、それを見て、マフラーを口元に寄せて隙間風を防ぐ。


「それじゃあ、また明日ね。峻くん、巧くん」

「おう、さいなら」

「遠藤さん、帰り道気を付けて」


 気遣いありがとう、と一言言って俺たちと別れる。

 俺たちも二人並んで帰路に着くが、特に語る事も無い。

 無事に帰宅し、制服から私服に着替えた俺は、リビングで買ってきた本を開いて寛いでいた。


「へぇ、ビーズアクセサリーって言ってももっと子供っぽいと思ったけど違うんだな」


 先行するイメージからそういう考えが出てしまうが、実際、糸の太さや使うビーズの大きさや色合いによって宝飾品のようなデザインにもすることが出来る。

 最初から出来合いの真玉のビーズをつなげれば、模造の真珠ネックレスの様になったり、イヤリングも作れる。むしろ、細かなビーズを繋いで一つの形を作ると言うよりも、出来上がった一つのパーツを際立たせるために、ビーズを配置している感じだ。

 だから、ビーズアクセサリーの作り方以前に、際立つパーツのデザインに彫金での可能性を見つけた。


「お兄ちゃん、お帰り~」

「おう、ただいま」

「そんなにゆっくりして良いの? お夕飯の準備は?」

「今日の当番は、母さんだから、買ってきた本を読んでる」

「へぇ~、何々、ビーズアクセサリー? 何? 始めるの?」

「ゲームで彫金センスのレベルを上げるための参考資料。中々、面白そうだぞ」


 ソファーの後ろに回り込んだ美羽は、横から本を覗き込んでくる。そして、しばらくして、肩を乗り越えて、本の一角を指差した。


「これ可愛いかも。こう言う奴を作るんでしょ。作ってよ」

「ん? これって、宝石使ったやつじゃないか。まぁ出来なくはないけど、素材が……」

「素材があれば作ってくれるの? じゃあ、今度素材を探して持ってくね」


 どんなのが良いかな? などと鼻歌を歌いそうな程の上機嫌でおやつとお茶を持って自室へと戻っていく美羽。

 その姿に押されて、全く。と文句も奥へ引っ込んでしまった。

 丁度、マジックジェムに使えない屑宝石がある。穴を開けての飾り石くらいにはなるだろう。



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