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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第4部【生産職の日々と仕込みは戦い】
173/359

Sense173

「うーん。こっちなのか?」


 平日の夜。食事を終えて、ログインした俺は、ボーン・アクセサリーの作り方を教えてくれる人を尋ねるために、第一の町北東地区の建物の間を歩いていた。

 マギさんにマッピングして貰った場所は、特に重要地域の無い、いわば、オブジェクトとしての街並みやプレイヤーやギルドに貸し出している建物が集まった場所だ。

 南側にあるアトリエールとは、ほぼ反対で関わり合いが無い場所。それも夜の薄暗い人通りの少ない場所を進んでいくのは、少し怖く感じる。


「何も出ないよな」


 むしろ、この肝試しのような雰囲気は、結構心臓に悪い。街中にも敵性MOBは、出ないと分かっているが少し挙動不審になる。

 しばらく進むと、白壁に朱塗りの屋根の屋敷が見えた。場所は、ここに間違いない。外から眺めると屋敷に明かりが灯っており、人の出入りがある。その人の動きに今までの道中の怖さが無くなり、安心感が生まれる。


「ここで合ってるよな。誰に断りを入れれば良いんだ? 近くでいいのか? すみません」


 とりあえず、入り口近くの人に話しかけないと。そう思い、屋敷に入ろうとする人を呼びかける。


「すみません。この建物に入っていいですか?」

「ん? ギルド部外者は、奥に入れないけど、入り口で話や交流は出来るよ」

「ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げて、入れ替わる様に中に入る。

 中は、吹き抜けのホールにテーブルやソファーなどが数組置かれ、左右のカウンターでは、いくつかのパーティーが話し合いをしている。

 また、二階や地下への階段があるようで、その奥へと出入りする人が何人かいる。


「うわぁ」

「何やってるの」

「ひやっ!?」


 感嘆の声を上げて、広いと言おうとしたら、俺の横から声を掛けられ、咄嗟にしゃがみ込んでしまう。驚き、声の主を見上げるように伺うとゆったり目の茶と白の和装の少年が眠たげな目で見降ろしている。

 一応、顔は知っているが、深く付き合いのある人でもない。


「――【刀鍛冶】のオトナシ」

「うん。僕の事、覚えてた」


 それにしてもどうして彼が。と思ったが、すぐに俺に手を差し伸べて、立つように促す。その手を掴み、周囲に目を向けると視線を集めてしまった。オーバーリアクションで目立ってしまったようだ、静まり返るホールと俺を見る多くの目に恥ずかしくなって、視線を下に落とす。


「で、何か用?」

「えっと……マギさんの紹介であるアイテムの作り方を教わりに」

「どの種類? 鍛冶、それとも裁縫? 料理と調合じゃないよね」

「ボーン・アクセサリーだから細工系だよな」

「分かった。着いて来て」


 いつまでも入り口に居る訳にもいかないし、人目に晒されるのも嫌なので従う。

 奥のホールを抜け、地下に下りる階段へと案内された。通路は薄暗くは無いが、人気のない場所だ。


「なぁ、何処に向かってるんだ?」

「ギルド【ヤオヨロズ】のホーム地下・職人部屋」

「……ここってヤオヨロズのホームだったのか?」

「知らなくて来たの?」


 マギさんが黙っていたのは、この事か。人が悪い。あわよくば、セイ姉ぇやミカヅチなどの知り合いと鉢合わせして慌てる姿でも想像したのかもしれない。まぁ別に意味で驚いたが。


「まぁ、部外者やアポなしでも入り口のホールは解放されてるよ」

「どうして?」

「クエストや複数パーティーでの情報共有、あとは、その他色々な事に使える多目的ホール。だから、ギルド以外の人も出入りが出来るし、ギルドの加入希望者は、あそこで話を聞いて、加入の手続きをする」

「ふーん」

「と、言う建前で、ミカヅチさんの趣味。夜に戻ってきたら遅くまであそこで飲んで騒いでの宴会」

「やっぱりか」


 もう、本人の血は酒で出来るんじゃないか。と思うくらい酒を持っている気がする。

 まぁ、これは、ゲームの話であって、案外酒とは無縁の生活かもしれないが。


「……着いた。ここが職人部屋。僕らギルド所属の生産職が集まってる所。アポがあるなら部外者も良く来る」


 そのまま、オトナシに勧められて、扉を開き――


「リア充どもは、滅殺滅殺!」

「「「――滅殺、滅殺!」」

「俺たちアングラ、底辺底辺!」

「「「――底辺、底辺!」」

「縁の下の逆襲逆襲!」

「「「――逆襲、逆襲!」」」

「ここが我らの、楽園楽園!」

「「「――楽園、楽園!」」」


「――失礼しました」


 怪しげな集団を目の前に、俺は開けた扉を閉めて、一度扉から離れる。夢、だよな。いや、生産職のための場所が変な儀式場になってるなんて……。


「どうしたの? 何かあった?」

「いや、あったと言うか、今もあるよな」


 不思議そうに首を傾げるオトナシが俺より先に入り、同じように一瞬固まる。正面には、狂ったように回り、踊り続ける怪しげな集団。

 服装は、とても原始的なシャーマンスタイル。茶色の衣服に極彩色の色どりされた服とアーモンド形の大きな仮面で顔を隠し、簡素なデザインの槍や動物が彫り込まれたトーテムポールのような棒、儀礼用の短剣、木製の盾などを掲げて謎の儀式を行う。


「お客さん。驚かせないで」


 呆れを含んだオトナシの声に、踊っていた人たちは、ピタリと一斉に止まり、数瞬の間無言が続く。そして、、ぐるりと首を俺の方に向く。それだけで一種のホラーであり、腰が抜けて床にへたり込んでしまう。


「ふんばー」

「ひぃ!?」


 先頭の一人が手に握る槍を振り上げるだけで、俺は更に身を縮める。

 だが、先頭の彼は、一瞬で視界から消え、横へと飛んでいく。


「何やってやがる。今回は、何の騒ぎだ」

「あっ、ランさん。今回は、シャーマンの儀式です」


 絶対に違うと思った。が蹴り倒された男は、何でもない様に立ち上がり答えていた。自身の被る仮面を外して一息つく。モテない男と言うが、仮面下の顔は、穏やかそうな青年と少年の中間と言った感じだ。とても先ほどの言動とは同一人物には思えなかった。

 他の人たちも、悪乗りだったのだろう。仮面を外して普段の服装に戻した彼らは、怪しさは薄れ、俺はほっと一息吐くことが出来た。


「よう、待ってたぜ。ユン」

「ああ、久しぶりかな? ラングレイ」


 俺が軽く挨拶を交わすと人の良さそうな笑みを浮かべる。そう言えば、ラングレイも彫金師だったな。

 以前会ったのは、PVPの場でオトナシと同じく、長々と話したわけではないが、印象に残っている。


「待ってた。って事は、ラングレイがボーン・アクセサリーを教えてくれる人?」

「ああ。またマギさんが重要な事を伝えなかったのか? それで……何時まで座り込んでるんだ」


 現在、腰が抜けたままで立ち上がれず、見上げるような格好で会話をしている。間抜けな状況になっているのは分かるが、腰が抜けて、上手く身体を動かないのだ。ゲームだからイメージすれば上手くいくと思うのだが、中々できない。


「……すまん、待ってくれ。腰抜けた」


 ふぅ、と深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いた所で立ち上がることが出来た。何ともその間の沈黙が妙に重く、謎の儀式を行っていた人たちは、気を利かせて、テーブルとお茶を用意していた。


「全く、何だったんだ? あれは?」

「あれって?」

「謎の儀式だよ。あんな物いきなりなんて心臓に悪い」


 俺がまず文句を言うと、全員が苦笑いを浮かべて、罰が悪そうに頬を掻く。


「まぁ、色々な奴がいる。って事だ。表通りやフィールドをあんな格好で歩くのは、本人たちが恥ずかしい。でも折角作ったんだから試したい。って事だ」

「僕たちは、それぞれの生産分野を担当してて、外見や設定を統一した装備を作って楽しんでいるだけだから」


 先ほどのシャーマンのリーダーが、朗らかに答える。全員で統一した格好か。確かに、ゲームならではの楽しみ方ではある。

 統一した規格の装備を着込んだ集団か、ちょっと高い位置から見たら壮観だろうな。と思い、一言。


「まぁ、ロマンはあるよな」


 零れるような一言に彼らは、感動に震え、声を上げる。


「分かってくれるの!? 久しぶりに理解されたよ!」

「良かった! その一言でまた一年は戦える!」

「次は、どんなテーマで装備を作る? ホラーや少数民族系は、さっきので失敗だから着ぐるみ系?」

「ゆるキャラ風の装備がフィールドを疾走するのか。胸アツだな」


 などと論議を始め、その姿に俺もラングレイも苦笑いを浮かべる。オトナシはマイペースにお茶菓子を食べている。


「話が逸れたな。こういう奴らだから、勘弁してくれ」

「楽しそうで良いんじゃないか? 不意打ちで驚いたけど、テーマ性があって面白いと思うのは、事実だ。それよりもボーン・アクセサリーの作り方を習いに来たんだが……」

「勿論。こっちも教えるつもり。と言っても本当に基礎の基礎だ。俺も含めて、完全に趣味で生産センスを持った奴らの集まりだ。簡単に売買する気はない。知り合いに頼まれればやる程度だ。ユンは、どうだ?」

「俺は……」


 調合や料理は、店の稼ぎの中心だが、彫金や合成、錬金は、ポーション作成や素材加工の補助に使ったり、自分のためだけに使っている。作ったものを売る程でもないために殆どの作成品は、自分で消費している。

 ああ、成程。だからマギさんは、ラングレイを紹介したのか。

 俺のレベルは、完全に趣味のレベルだ。そこにマギさんクラスのボーン・アクセサリーを見せても高望みだ。なら、楽しく、好きな物を作るレベルで良いのだ。


「……自分で使う程度だな。前にパーティーを組んだ人や知り合いに頼まれて、装飾品を作った程度で」

「なら、楽しもうじゃないか。道具は持ってきたか?」


 良い笑みを浮かべるラングレイに促されて、奥の作業台へと移動する。


「まずは、基本的な道具の確認だ。持ってきた道具を出して見ろ」


 俺は、インベントリから彫金の生産キットを取出し広げる。金属を曲げる金槌やレリーフを刻むノミや表面を削る研磨材などを広げるが、ラングレイは、幾つかの道具を取出し、後は横に退ける。


「基本は、これだけあれば十分だ。後は、必要に応じて別の道具を使えば良い」

「これってカッターナイフと彫刻刀、錐? あとは、ヤスリ」

「ああ、彫刻刀で大まかに削りだし、カッターナイフで形を整えて、ヤスリで仕上げる。まぁ、余りにも細かいと、形を整えるのだってカッターナイフだけでやる場合もある」

「これだけで出来るのか?」

「幾つかの同一素材でパーツを作り、糸を通してネックレス。って所だな。一番シンプルなのが、これだ」


 そう言ってラングレイが取り出したのは、露骨な骨のアクセサリーだ。

 骨と骨の端に錐で穴を開けて、紐を通しただけ。一言で言えば、悪趣味な出来に顔を顰める。


「まぁ、見てくれは悪いが、使う素材によって多少の効果はあるんだ。これは、動物系のMOBの骨を使っているから追加効果に【動物ボーナス(極小)】ってダメージを上昇させる効果がある。他にもスケルトンだったら人型。ゴブリンの角だったら鬼って感じだ」

「へぇ、状況に合わせて使えるんだな」

「そして、これが今揃えた道具だけで作った物だ」


 目の前に掲げられたのは、鎖の伸びた指輪だ。五指の指輪にそれぞれ鎖が伸び、手首の腕輪と繋がっている。

 色合いは、乳白色の鎖とそれに繋がれた五指の黒の指輪と腕輪は、金属アクセサリー作りでやったことがあるが、非常に面倒な作業を思い出す。指輪一つ一つのレリーフも精密であり、腕輪の部分に嵌め込まれた乳白色の宝石が艶を持って存在感を示している。

溜息が漏れる程だ。

 作り上げるのにどれだけの時間と手間が掛かったのか。


「ボーン・アクセサリーとしての評価は、非常に高い。分類は腕輪だ。そして、指輪と腕輪の部分は、黒で着色カラーリングしてあるが、元々全部が乳白色なんだ」

「えっ?」

「これは、俺が以前手に入れた化石から再生した素材を元に作った一本作りのアクセサリーなんだ」

「……っ!?」


 俄かに信じられない。この指輪も、鎖も腕輪も台座に埋め込まれた宝石も全部が一つの牙から削り出されたなんて信じられない。


「まぁ、極めればここまで精緻に出来るが、まずは、木材で指輪を作ってみろ。ウッドリングだ」

「あ、ああ。分かった」


 余りの事実に半ば放心状態になるが、促されるままに差し出された木材に彫刻刀を添える。

 簡単に埋まる彫刻刀。俺の頭の中では、先程の細かなアクセサリーの形と作るのに必要な手順を想像している。

 どうしたら作れるのか、どのサイズの素材から削り出したのか、鎖をどのように削るのか。を考えた。

 だが、そんな考えもするほどの余裕は徐々に無くなっていく

 ――【彫金】センス、ボーンアクセサリーの作成は、俺が思う以上に奥が深かった。

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