Sense172
「――という訳で。新型の初心者にも使いやすい機械弓の作成を依頼したいんだ」
「ほぉ、知り合いの頼みでね。それに……逆にこれだけお膳立てされちゃ引けないよ」
事前に集めた資料とサンプルの矢を手に取るリーリー。矢は、通常の矢とダーツの起源と言われているダート矢。
ダーツの原型と言ってもダーツほど短くなく、通常の矢の半分程度の大きさ。これなら、全体的に小型化が可能だろう。
「消耗品のサイズから逆算して武器を作成するのか。逆転の発想だけど出来そう。ただ、一人で試作品の全部は流石に無理だね。他の制作の暇を見て試行錯誤するから」
「そうか」
リーリーは、木工師のトップだ。忙しく、断られることは分かっていたがやはり落胆はする。
「だから、ユンっちが機構部分のパーツを作ってくれれば、後は僕が組み立てるだけだから」
「えっ? でも、俺は木工系の生産センスは持ってないぞ」
「細かい部品は、木工じゃなく細工系でも一応作ることは出来るよ。ユンっちの【彫金】は、彫金って名前だけど骨系や木材も扱えるから。まぁ、一度持ち帰って、設計図と必要部品のサイズを決めてからユンっちに頼むと思うよ」
「じゃあ、受けてくれる。って事でいいのか?」
「うん。後で、基本となる形を幾つか選んで、素材の耐久性と相性を考えて組み立てるだけだね」
「じゃあ、弓の基礎部分やフレーム、設計は、リーリー。内部のパーツは俺で作るか」
リーリーが設計して、必要パーツを俺が作り上げ、最後にリーリーが組み立てて調整する。
リーリーが一から十まで作れば、レベルの高い一点ものが出来るだろう。だが、今提示された分業は、複数の生産職が一つの汎用武器を製造する事を前提にしている。弓センスを不遇のままにしないために、分業でも作成できる使いやすい弓。
「うん。一応の成果が出来たら、レシピや製造法をギルドを通して、販売。マギっちとクロっちはどう思う?」
「面白いな。イベントも準備やら何やらと大変で、当分はする予定が無いから一つの目玉になるな」
「最近は、生産面と言うよりも素材の採取依頼とかオークションの方が盛り上がっているからね。それに――」
顎に手を当てて唸るクロードと苦笑いを浮かべるマギさん。また、マギさんの続く言葉に俺は、溜息が漏れる。
「――新生【獄炎隊】の人たちが依頼。ついに、フレイン本人の賞金額は3Mにまで上がってるよ」
フレイン個人の賞金額が3Mって事は三百万G。自腹で賞金額を提示しているって事は金持ちだよな。
どうやって金を集めたのかは――まぁ、察しが付く。襲ってきた奴を返り討ちだったり、隙を見せたプレイヤーを襲ってたり。
本人たちは、正々堂々と正面から襲うわけだ。タイミングが戦闘直後だったり、消費アイテムが枯渇寸前の状態だったりするが。
それは、フレイン達が襲われる時もそうした状況で現れても文句も無い。 フレイン個人は、万全の状態でも現れて一方的な虐殺を演じるから『出会ったら逃げろ』と言われている。
時折、悪役(PK)は、不利な状況でなければ、みたいな持論を振りかざす奴が現れたりするが、そういう奴は、手を抜かれて潰される。
今までの振る舞いや彼らの有り方から言えば、悪かった。一度解体して、ギルドを再結成したからと言っても、すぐに全てに受け入れられたわけじゃない。
新規の何も知らないプレイヤーは、PKと聞くと良い感情を抱かないだろうが、俺個人としては、悪い奴らだとは思わない。
その内、ゲームに馴染むだろうと思う。良い意味でも悪い意味でもゲームに新しい刺激を与え続けている人たちだ。
「そんな感じかな? 話すことはこんな物かな?」
「そうだな。じゃあ、そろそろお開きとしよう。クツシタ、帰るぞ」
樹の下でじゃれていた猫を呼び戻したクロードは、お茶とお茶菓子は、旨かった。と言ってお土産を大事に抱えて帰る。
「じゃあ、ユンっち。多分設計やパーツの試作品を作るのには、一週間以内だと思うから」
「ああ、気長に待ってる」
「私もお暇しよう……っと、忘れるところだった」
帰り際、立ち上がってパートナーのリクールを抱えたマギさんは、思い出したように振り返る。
「ユンくん、ボーンアクセサリーに興味あるよね」
「あー、そうでしたね。忙しくて忘れてました」
手を広げすぎて、忘れていたが、モンスターの骨を削り、加工して作るボーン・アクセサリーを作ろうと素材だけは集めていたが、本の解読や店のアイテムの補充で忘れかけていた。
「ボーン系の作り方を軽くだけど教えている生産職を紹介するね」
「マギさんは、作ってないんですか?」
「勿論、私も作ってるよ。けど、癖が強いから作り方は、ヒ・ミ・ツだよ」
「秘中の秘ですか。じゃあ、無理には聞けませんね」
そんな大層な物じゃないよー。と笑いながら答える。
そこからホームで使っている場所をマップにマーキングして貰い、相手が居る時間を聞いた。
「まぁ、今日は無理でも、平日の夜にでも尋ねてみます」
「足を運んでみれば良いよ。あとは……これ以上言うと面白くないから」
何やら、意味のあり気な笑みを浮かべてリーリーと一緒に帰っていくマギさん。うーん、何か有りそう。何か隠しているような言い方だけど、何かあるのだろうか。実際、見なければ分からないから気にする必要もない。と思う。
今回は、短め。