Sense171
あれから数日。元々決まっていたお茶会に間に合う様に資料やアイテムを揃えた俺だが、今回はそれだけが仕事では無い。
「うーん。椅子の数は十分。それに、お茶とお菓子も準備完了」
ウッドデッキには、テーブルと椅子、トレーには、陶器のポットとカップ。そして、軽く摘まめる食べ物を揃えた。
桃藤花の樹を見ながら話せるような位置に調整している。
持ち回りでそれぞれのホームである店に招いており、今回は、アトリエールで行い、俺が持て成すホスト側だ。
恙なく準備を行うことが出来たのは、学園祭の時の経験や今までのお茶会という手本があったためだ。
とは行っても、そこまで大仰な物でもない。
「こんにちはー。ユンっち、いる~」
「ああ、いらっしゃい。こっちにいるから」
俺は、店のカウンター横の出入り口から来客の二人を招き、場所に案内する。
感嘆の声を上げる木工師のリーリーと静かに感心している裁縫師のクロード。
そして、その肩に乗るのはそれぞれのパートナーの幼獣――不死鳥のネシアスと幸運猫のクツシタ。
「いらっしゃい。マギさんは? 一緒じゃないの?」
「いや、マギは、少し準備があるから遅れるようだ」
そう答えたクロードの肩から黒に足先が白の子猫が飛び降り、桃藤花の樹の下で寝そべっているリゥイとザクロに混ざる形でじゃれ合い始めた。その後を追うように、美しい朱の不死鳥もリゥイの背中に移る。
良い絵だよな。こういう光景って。
「それにしても、ユンっち気合入ってるね。お菓子とか色々用意して」
「まぁ、これが俺の成果みたいなものかな? マギさんはもう知ってるし、クロードはクエスト報酬の本を解読しているなら知ってると思うけど……」
「ああ、流し読みで見たが、あれか」
何処か納得したような言い方にリーリー一人だけが、知らない状態に不満で頬を膨らませる。
「簡単に言うと状態異常の耐性を与える食べ物って所だ」
「それで、お味は?」
「勿論。味は保証する」
冗談めかして聞いてくるリーリーに杏のドライフルーツを渡す。あれから三日天日干しした杏は、柔らかく、砂糖で脱水した直後とはまた別の味わいを持っている。
「頂きます。シアっちも一緒に食べよう」
受け取って、木陰の下、リゥイの背中で羽を休めていたネシアスがリーリーの肩に戻って来る。二人で小さく割いたドライフルーツを分けている。
「さぁ、クロードも食べて待ってればいい」
「では、お言葉に甘えて」
席に着き、同じ様にドライフルーツとは別。シユの実で作った梅干しに手を伸ばし、躊躇いなく口に放り込み、眉間に険しい皺が刻まれる。それが、おかしくて小さく噴き出す。
「ほれ、紅茶だけど、口直しだ」
「……頂こう。流し読みだったから忘れていた。梅干しか」
紅茶を啜りながら、赤紫蘇を使わないという事は、白干しか。などと呟いている。結構、博識なんだよな、クロードって。変人だけど。
しばらく、お茶を飲みながら待っていると、マギさんが遅れてやってきた。
「ごめん。待った?」
「いえいえ、まったりお茶してた所ですよ」
「普通は、皆今来た所って言うんじゃないの? ユンっち?」
「嘘が下手なのか、それとも素での発言か。そっちだろうな」
リーリー、クロード。煩いぞ。あと、普通に素の発言だ。悪かったな。
まぁ、確かに今の言い方だと人によっては気を悪くしそうだ。と思いマギさんをちらりを見たが苦笑一つで気にしてないと手振りで教えてくれた。
そのまま、全員のカップに新しいお茶を注ぎ、生産職のお茶会が始まる。
「まずは、お招き頂き感謝する。と言おうか。ついでに、帰りにこの梅干しと梅酢を貰えないか?」
「開口一番、お土産の要求かよ。まぁ瓶一つ分はあるから味の感想を貰えれば、分けるけど……」
「うむ。梅酢を酒や炭酸で割って梅酒や梅酢サワーなんて飲み方を試したいのでな」
「結局、そこか!」
俺のツッコミにリーリーとマギさんは、くすくすと笑いながらも同じ様にお土産について語る。
「僕は、このジャムが欲しいな。こうしてお茶と混ぜて飲むと美味しいよ」
「へぇ~、そう言った使い方もあるのか」
ティースプーンより少し多い量のジャムを紅茶の中に溶かし込み飲むリーリー。俺もそれを真似て飲む。紅茶の渋味が甘味に隠れ、フルーティーになった。これはこれで美味しい。
「うん。他にも、ジャムは花を使った物もあるし、色々と試してみたら桃藤花の花は、毎日取れるでしょ?」
「取れるって言っても一日一房。花びらにして三十枚って所だ」
「なぁ、俺の時と反応が違くないか?」
クロードが口を挟むが無視する。それにしても、桃藤花の花で作ったジャムか。どんな味だろ。桃のジャムっぽいのかな?
そして、マギさんからは、梅干しとドライフルーツを両方。これは約束していたので問題ない。
その後、俺の発表であるこれらの食べ物について簡単な考察を話す。
「――まぁ、シユの実とトゥーの実で作った保存食だな。空腹度の回復と状態異常に耐性を与える効果がある。今の所毒と気絶の二種類だけだが」
「便利になったね。今までの事前の対処法って装備に耐性を付与するか、耐性センスを装備するか、だもん」
「それに、これを見る限り、ジャムは効果が低いがちゃんと耐性を与えてくれる。このジャムを使って他のモンスターの素材で料理を作れば、ステータス上昇と耐性の二つが着けられないか?」
「どうなんだろうな? このアイテムのどの部分に耐性があるのかが問題だ」
マギさんとクロードの言葉にサンプルで残しておいた二つの果実を手に取る。
アイテムは、それ一つでアイテムだが、部位ごとに微妙な違いがある。
例えば、モンスターの肉などの食材アイテムの中には、マイナス効果を持つ部位がある。例えば、ミルバードの肉は、そのままでは、毒のマイナス効果を持つが、包丁などで物理的に毒の元となる部位を切除することで無毒化が可能だ。
他の無毒化は、アイテムやスキルによる無毒化であるが、こちらよりも物理的な加工の方がより確実だ。
そして、そのマイナス部位の逆、プラスの効果を持つ部位はどこなのか、だ。
果実の場合、実、種、果汁など幾つかに分けられる。
今回の実の場合、天日干ししたことで効果が高まるのだから、実の部分に効果を持ってる事だろう。逆に、砂糖や塩で脱水して残しておいたシロップや梅酢には、効果は無い。
また、種をのぞいた実と水分で作ったジャムは、それだけ効果が濃縮されていないという事だろう。
「――まぁ、それは追々やっていくテーマとして、今はレシピの解析と作成だな」
「こっちは、フィオルにステータス上昇と耐性の二つの効果を持つ料理でも提案してみるか。最近は、素材の発見例が少なくて満足いく物がない」
クロードは、喫茶店の厨房担当・パティシエのフィオルさんに頼むようだ。
「マギっちも僕もその辺は門外漢だからね。まぁ、次は、僕かな? 僕は、クエスト報酬の桃藤花の苗木から作ったアイテムかな? あれを素材に作った武器は、最初から追加効果で【自動回復(小)】と【回復量上昇(小)】があるからね」
「【自動修復】と自動回復ってどう違うんだ?」
「自動修復は、防具や武器の耐久度を装備者のMPを消費して回復させる効果。自動回復は、装備者に一定時間ごとにHPを回復させる効果。回復量上昇は、装備者が回復系のスキルやアイテムを使用すると、回復量が上昇する効果。これは、HPとMPの両方に適用されるの」
「最初から二つの追加効果ね。でも、その分、他のを付ける枠組みが無いんじゃないの?」
マギさんの言葉に俺もそう思う。その武器に付けられる追加効果には上限があり、それを超えると自壊する。
「そうなんだよ。生産職が付けるボーナスと素材自体の追加効果が二つ。計三つで打ち止め。武器のグレードを上げるための素材は、ない。既存の木工素材のどの素材系統とは違うから中々難しいんだよね」
「じゃあ、リーリーも他にテーマは無しか」
「まぁ、武器自体の性能は、高いから。追加効果が無くても十分強い。ただ次のテーマには繋がり難いかな」
そう言って桃藤花の苗木に関する話は終わる。
最後に、マギさんだが、全員が期待の籠った目を向ける。
「私かぁ……。と言っても別の属性の石を見つけたくらいかな? ユンくんの持つ蒼鉄鋼製の武器は、水属性だけど、今度は、火と土属性の」
「あれですか……。加工って結構大変ですよね」
「ううん、一回ブルライトで慣れているから多分大丈夫……と言うよりもう試作品は出来てる。同じように属性の攻撃ボーナスや耐性の追加効果が付いているの」
俺が出来ない事を簡単にやってのけるマギさんを、改めて凄く感じる。また、俺ももう少し頑張ってみようと思う。
だが、マギさんの話はこれで終わらなかった。
「後は、幾つかの炉を使う素材が見つかったの。砂結晶ってアイテム。まぁ、今は工夫の途中だけど、加熱すると溶けてガラスみたいになるから、ベースの素材だと思うんだけどね」
「ほう、結晶化か。上手く着色が出来れば、服の装飾に使えるな」
「良いね。じゃあ、久しぶりに私とクロードで共同制作しない?」
マギさんがクロードにそう提案するのを見て、俺もこれに便乗する。
「じゃあ、リーリーは俺と何か作るか? 今は特に次のテーマとか決めてないだろ?」
「良いけど、何を作るの?」
「――新型の弓ってのはどうだ?」
そもそも、これに便乗してなくても後でリーリーに提案するつもりだ。そして、リーリーは、俺を見て、水中で使える弓って無茶な要求の前にどんな物を要求するの? と尋ねてきた。まずは、俺が欲しているという誤解を解かなければ。