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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
165/359

Sense165

 目の前に聳える樹を見上げ、始まるのは、スケルトン・ライダー達による洗礼。それも前回、俺とミュウとタクが捌いた数より僅かに多い程度で多勢に無勢で終わった。

 そして始まる真のレイドボス・ガルムファントムが現れた。


 以前と同じように吹き出るガスが固まり、巨狼の姿を取る。


『主らか、我の要石を壊したのは……』


 全く同じ台詞。だが、歯牙にも掛けられなかった前回を思い出して、緊張から唾を呑みこむ。そして、視線を少し動かしミュウを見る。やられた直後のショックを思い出すと心配になり、見ていると僅かに肩が震えている。

 だが、その震えは、恐怖や動揺のような負を起因とするものでは無い。現に見上げる瞳の意志は強く、白い歯を見せて、今にも跳びかかって行きそうなほど楽しげな表情を作るミュウの何処にそのような感情があるのか、逆に、今にも飛び出しそうな自分を抑え込んで震えている居るように思う。


 そして、ガルムファントムに視線を戻せば、前回と違い既定の人数に達しているためか、台詞に変化が現れた。



『ちょうど樹の糧が不足しておる。それに、失った要石を作り直すのに、人数も足りる。光栄に思うが良い、愛されし樹の一部となれることを!』


「来るぞ!」


 これが戦闘開始の契機となる。

 十メートル台の巨体から咆哮を上げ、地面から大量のスケルトンライダーを生み出す巨狼。こちらもそれを眺めているだけでは無く、即座に事前の打ち合わせのポジションに着く。


「嬢ちゃん! 物理の守りを重点に!」

「了解! 【空間付加ゾーン・エンチャント】――ディフェンス!」


 俺は、範囲内に居る壁役タンカーにDEFのエンチャントを施すと、直後彼らは先行したスケルトンライダーと正面からぶつかるが、びくともしない。また、横一列に形も材質も違う盾同士の隙間から剣や槍を突き立て、お仕返し。武器でも押し返せない敵には、盾の面で強打する。

 一連の強襲が不発に終わるスケルトンライダーは反転して、別のスケルトンライダーと配置を変えようとするが、魔法職の色取り取りの攻撃が俺の頭上を飛び越えて、敵の背後から襲い掛かり、一気に殲滅を掛ける。

 そして、空いたエリアに遊撃組の参加者が駆け込み、取り巻きのスケルトンライダーを直接叩きに行く。


 俺は、MPポーションを二本使い、使い切ったMPを回復させ、今度は、後衛のダメージディーラーにINTの広域エンチャントを施す。

 序盤の展開としては、遊撃と魔法職が取り巻きのスケルトンライダーを減らし、壁役が抑え込み、後衛に敵が向かわない様に敵愾心ヘイトをコントロールしている。

 現在、弓を持ってはいるが、状況が変わるまでは、攻撃を禁止されている。


「はぁ、ヘイト管理って面倒だな。攻撃を与えれば、その分ダメージが蓄積して早く終わるだろうに」

「ユンちゃん、そう言わないの。これも重要な集団戦闘のテクニックの一つなんだから。長期戦に重要なファクターのヒーラーや主力のダメージディーラーが優先的に狙われる。そうなれば、クエストの完遂率も大きく変わって来る。時間が掛かっても安定して倒すことが重要だよ」


 そう言いながら、絨毯爆撃の様に絶え間ない攻撃を放ち続けるセイ姉ぇ。他、魔法職の主力部隊は、エンチャントの加わった攻撃で素早くスケルトンライダーを打ち取っていく。

 しばらくして、敵の数が減り、巨狼への道が開けた時、再び咆哮を上げ、今度はその巨体で攻撃を始めた。


「ここからが正念場です! 盾は、正面! 遊撃は、左右展開! 右は、私が指揮します!」

「左は、こっちだ!」

「正面! 一番、死ぬ確率があるからHPには、細心の注意を払え!」


 右遊撃は、ルカートを司令塔にしたミュウのパーティー。

 左遊撃は、タクを中心とし、エミリさんやダメージディーラーとヒーラーを含んだ混成パーティー。

 そして、正面と俺たちを含む後衛。その指揮は、ミカヅチが行っている。


「皆、私たちはタイミング重視! 左右の遊撃にターゲットが変更になりそうだったら、同時攻撃でターゲット奪うよ!」

「「「はいっ!」」」

「それから、ユンちゃんは、事前の通達通り、あとは、左右の遊撃にも出来るならエンチャントして貰えるかな?」

「了解。って言っても距離があって、複数人同時は無理だぞ」

「それでも、お願いね」


 内心で、分かった。と言いつつも、三十人。いや、俺自身を抜いて二十九人のエンチャントを管理するのは、大変だ。

 優先順位を決め、エンチャントの継続時間を頭の中で整理し、MPと待機時間を組み立て、その間に遠く離れた左右の遊撃の中から強化させる。

 その中でも生き延びるために『命大事に』の作戦だ。なら、メインで上げるステータスは、DEFのエンチャントで決まりだ。

 巨狼の攻撃は、物理メイン。


 自身の脳内に役割の行動を構築し終え、戦場に意識を向ける。


「はぁ、どてっぱらに穴開けてやる! 【鬼狩り蹴り】!」


 高く跳躍した左遊撃メンバーのガンツがバク宙しながら残像を残す蹴りを放つ。


「あんまり、調子乗るな! 前足で殴られるぞ!」

「なら、もう一回! 【鬼狩り蹴り】」


 空中コンボも真っ青に滞空時間を遅めながら、物理法則無視でバク宙蹴りを連続。だが、それを煩わしいと感じた巨狼が身体を捩り、前足を振ってガンツを叩き潰そうとする。


「っ! 【付加】――ディフェンス!」


 殴られる直前、DEFのエンチャントが間に合い、空中から地面へと叩きつけられたガンツは、四割程のダメージで済んだ。それを左遊撃班のヒーラー・ミニッツが即座に回復させる。

 もちろん、説教付きだ。


「あんた、調子に乗って前もプチっと叩きのめされたでしょ! 第一、即死じゃないにせよ! HPを一気に持っていかれたら、【気絶】するでしょう!」

「あ、あれは、ちょっと油断しただけだ!」

「なら、油断なく、やりなさい!」


 何だろう、緊張感の無い会話は。その間も、体を捩り、意識の向いていない右遊撃と正面が安全に斬り付け、一撃離脱。その直後に瀑布の様に押し寄せる魔法の数々を正面から与える。


「全体! 気を引き締めろ! きついのは中盤以降だ!」


 一度引き締めを掛けるミカヅチ。皆、程よい緊張感に包まれる。

 一部、おふざけな会話があるが、かなり真面目な作業をしている。


「なぁ、俺たちの役目って体で敵を抑え込む……事だよな」

「そうだな。衝撃がキツイけど……盾ってそう言う物だろ?」

「俺、これが終わったら、地味な盾職の普及に努めるんだ!」

「おい、お前、死亡フラグ止めろ!」


 他のプレイヤーよりも防御の高いタンカーも何度も重い衝撃を受けて、HPが確実に減っている。それを背後に控えるヒーラーが回復して、正面を維持。盾の隙や後ろからちまちまと安全に攻撃を加えている。

 だが、死亡フラグって案外、実際にある物だろう。


『グルゥォォォォッ――』


「ヤバい! 大技来るぞ! 左右、退避!」


 ミカヅチの慌てるような声と共に、四肢を地面に突き立てるように構える巨狼。この姿は、タクに見せて貰った動画に合った突進のモーション。向かう先は、正面であり、壁役タンカーが密集陣形を取り、耐えようとする。

 突進で吹き飛ばされた後は、場を大きく乱す様に左右に走り抜け、乱れた所でスケルトン・ライダーを召喚が定番のパターンの様だ。


「来たぞ!」

「【空間付加】――ディフェンス!」


 衝突の瞬間、密集陣形の盾職の防御が高まり、身体と防具や大きな軋みを上げている。

 勢いを押され、集団が地面を抉るように押し込まれ、HPを減らしていくが、前傾姿勢のまま盾を突き出して巨狼を止めた。


「今だ! 左右から襲え!」


 前に進み過ぎた身体では、前足を上げられずに、後退して距離を開けようとする中で左右から猛攻を受ける。【アーツ】や【スキル】など、溜めや隙が大きい技をここぞとばかりに皆が多用する。

 今まで硬直状態で減りの悪いHPが一気に削れて行く。

 そして、後退し切った巨体は、身体から不可視の衝撃波を放ち、襲ってくる遊撃部隊が弾く。

 ダメージ量の少ないノックバック攻撃である衝撃波を受け、一度仕切り直しになる空間。そして、巨狼の咆哮に呼応するように地面から再び姿を現すスケルトンライダー。今度は、スケルトンライダーを捌きながら、巨狼の相手をしないとならない。

 

 左右の遊撃がそのままスケルトンライダーに当たる一方、正面の俺たちが取り巻きを倒すまでの時間稼ぎをしなきゃいけない。それに、ヘイト値を管理しないと、少数の遊撃がレイドボスに直接襲われる危険がある。

 この取り巻きと本命での切り替えの難しさがある戦い。これでもレイドボス戦は、まだ序盤も序盤だ。


「ヘイトを他にやるな! 攻撃出来る奴は攻撃だ! ダメージよりもヘイト重視! 他が戻ってくるまで時間を稼げ」


 やっと攻撃解禁の宣言がミカヅチから下された。

 俺は、エンチャントの管理をしつつ、弓に矢を番える。

 インベントリから直接取り出した矢は、場を乱さない種類の状態異常の矢を使用して相手の鼻っ面へ向けて、矢を放つ。

 毒、麻痺、眠り、気絶など。数本ずつ放つが、効果は無い。やはり、レイドボス級の敵は状態異常の耐性が高くてこういう搦め手は効き辛い。

 なら、正攻法の攻撃方法に変える。


 最初から矢筒にセットされた矢を取り出し、放つ。巨体は的として当てやすいが、その分ダメージの通りが悪い。ただし、この矢は、ガスの固まった体に深々と突き刺さる。


「アンデッドには、銀製武器に補正あり。値が張る分、余所見はしないで欲しい物だ。【空間付加】――ディフェンス」


 使ったのは、銀の矢。銀製の鏃を使った矢は、アンデッド系にダメージ補正が入り、多くのプレイヤーはアンデッド対策で銀製の武器を持ったりする。

 再び、守りを強化し、MPポーションを使って、回復。空いたタイミングに矢を放ち、僅かに戦いに貢献する。

 そして、取り巻きを倒し、左右の遊撃が戻ってきた所で、再び俺は、エンチャントに専念する事になる。

 序盤は、この繰り返しによるパターン。

 そして、巨狼のHPが六割を切った時、中盤戦が始まった。

 

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