Sense160
Sense157にて、トトカルチョ購入描写追加。それに関わる話が有り
と、いう訳でお昼の休憩。二時頃に再び混成クラスのマスタークラスが始まるが、それまで皆自由行動だ。
ログアウトして昼食を取る人や今から街の各所の露店や催し物を見てくる人、正午からの途中参加で先ほどのPVPの話を聞いて盛り上がっている。
他の人は、各自の予定でこの場にはいないが、午後もこの観客席から見る予定なので戻ってくるはずだ。
その場所取りとして残っているのは、うちの姉妹二人と幼馴染、クラスメイト、そして俺だ。
「食事は、少量を多くの回数が太らない秘訣って言うけど、やっぱり口寂しいのよね。ゲームだと太らないし、味覚的な満足感も得られるから嬉しいよね」
「こうしてスタンドから食べる軽食ってスポーツを観戦しているみたいだしね」
と呑気な事を言っているセイ姉ぇとミュウ。
観客席で青空を見上げて、手に掲げるサンドイッチを小口で小さく食べていくセイ姉ぇの一方、ミュウは、複数種のサンドイッチを食べ比べしている。
そして、もう一組――
「こんにちは、巧くん」
「あ、ああ。こんな所で奇遇だな。遠藤」
とてもにこやかに。休日の街中で友人と会ったような気軽さのエミリさんと会うとは思わずに突然の出来事に言い淀むタク。
視線が俺に助けを求めるが、別に取って食われる訳でもないので、ミュウとセイ姉ぇにお茶を用意して手渡す。
「ど、どうして遠藤がここに?」
「勿論。私もプレイヤーよ。改めまして【素材屋】のエミリよ」
「【素材屋】って、検証マニアの? 昨日のPVPの勝者がその二つ名だったけど……名前が違うし、男の名前じゃないのか?」
「ええ、お遊びで男装してたのよ。別に名前や顔を売る気は無いし【素材屋】って小さな名前さえ憶えられれば十分よ。【剣聖】のタクさん」
笑顔で自身の二つ名を誇るエミリさんと、名前負けしている事から顔を顰めるタク。
俺としては、二つ名とか呼び名なんて要らないから静かに過ごしたい、と溜息を吐きながら二人にもお茶を渡す。
「ほら……二人も紅茶。サンドイッチは、好きなの選んでくれ」
「おう、気が利くな。やっぱりユンが居ると良いな」
「ありがとう。それじゃあ、頂くとしましょう」
二人も用意されたサンドイッチを口にする。
アトリエールの商品と同じもので、二人は、一口食べて、紅茶を飲んでほっとしている。
「それにしても、反省点が多かったな。ルカちゃんやタクさんに抜かれちゃった」
「そうなのか? 全然、そうは見えなかったけど」
ミュウは、食べながら自分の成果に満足していない様子だ。明確な敗北という物をあまり知らないミュウが抜かれた、負けたと言えば、レイドボスの時の敗北のショックを思い出して顔を顰める。それに、ミュウとルカートには、それほど差は無い様に思えた。
そして、セイ姉ぇタクも自身のPVPの結果に反省すべき点があるようだ。
「戦闘も種類とポジションと相手によって変わるんだから通り一辺倒のセンス構成だと今日のタクさんみたいに装備で対策取られるのは、見ていて分かったかな」
「そうよね。私のメインとなる属性の防御と対魔法装備の【封魔】を惜しげも無く用意した様にね。時間とお金と手間さえ掛ければ、簡単に状況は覆せちゃうし」
「いや、でもセイさん凄いって。複数の水属性対策のアクセサリーをたった一つの上級魔法で破壊するんだから。単純な火力特化なら、対策なんて無意味なくらいのゴリ押しも十分メタに対する対策だって」
ミュウ個人の分析では、飛び回って行動に無駄が多く、少しゴリ押し気味な戦い方あるのが反省点らしい。ミュウのこれからの目的は、無駄のない攻撃と高いスペックを制御できるだけのプレイヤースキルと考えている様だ。
セイ姉ぇもタクも汎用型に近いタイプのセンス構成だが、どちらも磨くべき部分や取るべき対策が思いついたようで三人で議論を交わしている。
ライトなゲームユーザーの俺としては、付いていけないので早々に話から意識を逸らす。同じ様に、戦闘職の話を半分も理解できないエミリさんは、苦笑いを浮かべてこちらと目が合う。
「まぁ、俺たちには、遠い話だな」
「ええ。まぁ私たちは私たちで別の話をしましょうか。ユンくんは、さっき賭けをしたみたいだけど、結果はどう?」
そう言えば、締切ギリギリになって賭けたのを思い出した。
一位予測の所に、ミュウとセイ姉ぇ、タクにご祝儀で一口百Gを掛けた。結果は、セイ姉ぇとタクの同士討ちでもう一つご祝儀とは別に何の気なしに賭けた七千倍の『全滅』で勝ってしまった。
「えっと……ミュウとセイ姉ぇ、タクにそれぞれ最少金額で賭けましたよ」
「それって三十位予測? セイさんとタクくんの二人のオッズが低いから微々たるものじゃない?」
「いや、賭けたのは、単勝。ご祝儀と期待を込めて選んだんだけど負けました」
「惜しかったね。どっちか生き残っていれば、良い金額になったんじゃない? 一位予想のオッズは、難しいから最少金額でも小さな買い物くらいは出来たのに」
「もう一つ賭けていて、そっちの方で当たりました」
それを聞いて、議論をしていたセイ姉ぇタクが止めて耳を傾ける。ミュウは、美味しそうにおかわり要求している。
エミリさんは、最後に俺が言った言葉の意味が分かっておらずに、素での返答をした。
「他にも、ご祝儀出した訳でもないし……期待の低い人に三十位予測でもした?」
「……全滅に一口。七千倍になって帰ってきました」
口にすると何たる酷い物か。同じ様に全滅に面白半分で賭けた人は、そのリターンの大きさをどう感じるものか。俺は、現実感が無くふっと湧いて出た様なあぶく銭なので、近い内に使い切るつもりだ。
「最低百掛けの七千って七十万Gの儲け。……ユンくんは、昨日に引き続き大儲けね」
感心した様な呟きに俺は、苦笑を浮かべる。何とも予想外な収入と言うと実感が無くて困る。特に何か欲しい物があるわけでもないし。強いて言えば……
「まぁ、今回の臨時収入は、少し残して後は店の拡張に使うかな」
店の店舗部、奥の工房部拡張、生産道具の購入。他に、調理場所、畑の拡張などは、設備の充実や店舗の拡張を繰り返す度に必要な金額が増すのだ。
ちょっと気恥ずかしそうに言う俺に、エミリさんは、そうなの。と同意するが、こちらに耳を傾ける二人は、暖かな目で見守っている。
「何だよ。その眼は――」
「昔は、金欠に喘いでいたのに……即決する程に成長したんだな。ユン」
「ユンちゃん、昔から運があるのよね。神に愛された。とは言わないけど引きが強いんだよね。レア装備然り、幼獣然り」
そう言われると、あー、納得とかエミリさんに言われてしまった。
俺としては、人生の彩り程度の運がある気がするが、どっちかっていうとミュウの方が運が強い気がする。
「ミュウの方が運が良いだろ。無謀に突っ込んでも確実に生還してくる」
勿論、ゲームの話だ。無謀にも、ステータスに明らかに差がある敵との戦い。そこを退いてもまだ逆転のチャンスがあると言うのに、あえてそのタイミングを選んで、勝利をもぎ取っていく。
どう考えても、無理だろ。と言う時ですら、それなのだ。時々、自分の望む現象すら引き寄せるのではないか、と思ってしまう。
そして、客観性を持っているエミリさんが一言。
「私としては、大差ない程に運が良いと思うけど」
「何を言うか。ミュウの運の良さはな」
そう言う、俺のミュウに纏わる逸話を幾つか語る。本人は、何? と言った感じだったが止まらず話す俺に、セイ姉ぇとタクは苦笑を浮かべる。それを真剣に聞いているエミリさんは、最後に一言。
「やっぱり、兄妹仲が良いのね。私は、一人っ子だから少し羨ましいかも」
「ユン。シスコンが過ぎると危険だぞ」
「俺は、シスコンじゃない」
「そうよね。どっちかって言うと、ミュウちゃんの方がそう言う気が強いのよね」
「うーん? 私がどうしたの?」
今までの会話を近くに居ながら聞いていないミュウに、慌てて、何でもない。と話題を変えようとするとタクがニヤニヤ笑っており、セイ姉ぇとエミリさんが微笑ましい物を見るような目をしている。
タク、後で絶対に泣かす。