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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
159/359

Sense159

 人数も数える程しか残っていないフィールドでセイ姉ぇは、たった今。残りのMP全てを放出する勢いで氷と水の弾幕を発生させ、ミカヅチは、アーツを発動させて待ち構えて、必要最小限の魔法を返す。だがアーツでセイ姉ぇへと打ち打ち返した魔法をギリギリの所で操作し、軌道が逸れて別に誰かを襲う。

 ルカートやヒノが以前使った魔法を打ち返すアーツと同様の効果を持った技をミカヅチが使った。やはり、魔法への対抗手段が使用直前と直後に隙のあるアーツなだけに完全には受け止められなかったが、それでもダメージの軽減は出来ていた。

 それでも、ミカヅチの使用前後の隙は少ない方だろう。俺から見たら、硬直とも思えない一呼吸の半分程度の停止。それすらも見逃さずに責めるセイ姉ぇは、正直人間離れしていると思う。


 そう言えば、セイ姉ぇって理詰めやロジック、パズルゲームが得意で何時も手の上で踊らされていた気がした。ミカヅチも同様に、全て先読みして行動するセイ姉ぇに踊らされている。と言えば、そうとも言い切れない。


「もう、私に勝ちを譲っても良いでしょ!?」

「はははっ! こんな楽しい事に何で譲らなきゃならねぇんだ! もっと打って来いよ!」


 セイ姉ぇの表情には、焦りが見え隠れする。ミカヅチの粘り強さと魔法を弾くのではなく、より高度な技術である打ち返しをしているために、時折操作し切れない魔法を空中で相殺して余計なMPを使っている。

 打ち返される魔法を微妙な操作で逸らし、それすらも周囲の牽制に使っているが、MPが切れれば、貧弱なステータスしか残らない。

 その焦りがあるようだ。


 その間にも、一部の強力なプレイヤー同士が満身創痍の状態で一騎打ちを演じる。

 一瞬で決まる勝負や互いに一撃で終わるのに、拮抗した能力から長引く者までいる。場の歓声が徐々に大きくなる中で、俺は拳をより固く握りしめて、見守る。

 しばらく続く数の減らし合いももう片手の指で数えられるほどに減っていた。


「私の、勝ち!」


 最後の最後で弾き返せない上級魔法を使うセイ姉ぇとスキル使用後の硬直を狙われたミカヅチ。

 フルフェイスの男と最後に切り合いで負けるルカート。


 残るのは、セイ姉ぇとフルフェイスの二人。ただ、この男が妙な行動に既視感を覚えるのだ。二本のロングソードとトウトビに止めを刺した時の動作と言い。多分だが――。


 フルフェイスの男が、その素顔を覆う物を外し、会場が湧き立つ。その素顔の下に隠れていたのは、行方不明だったタクだった。まぁ、しぶといとは思っていたが、こんな方法で隠れていたとは。


「タクくん!? いや、まぁ残っていても不思議じゃないけど……どうやってここまで生き残れたのかな? あんなに集団で襲われて。お姉さん知りたいな」

「セイさん。そう言って、MP回復の時間稼ぎしているでしょ」

「バレた? こういう時は、エンターテイメントを大事にしてネタ晴らしする物だよ」

「まぁ、単純に言うと【認識阻害】の頭装備で顔隠して、こっそり襲って来た集団に紛れていただけだ。俺だって、あの数を正面から相手に出来る訳じゃないからな。逆利用だよ。逆利用」


 会場の各所から、汚ねぇぞ! 正々堂々と戦え! と笑いを抑えた声で野次が飛ぶ中、タクはそれに対して、勝てば良いんだよ。勝てば。と同じく吹き出しそうになりながら、答える。いや、笑いそうになるなら言わなければ良いのに。色々と場の雰囲気が台無しだ。

 他にも、リア充爆発しろ。三姉妹が幼馴染とかマジでリアル勝ち組野郎が。夜道に気を付けろー。と言った嫉妬の含んだ野次も笑顔で受け止めている。

 反対に、そのセイ姉ぇへと投げかけられる声援は、主に好意的な物が多い。だが、時折――


「結婚してくれー」「俺の嫁にー」「愛していますー」

「あはははっ、勘弁してください!」

「「「――ありがとうございました!」」」


 罵倒でないが、その言葉に何やら感じ入るものがあるのだろうか。恍惚とした表情で受け止める奴らが居た。

 何と言うか、そんな発言をしたら、周囲の奴らに即行でタコ殴りにあっていた。ついでミュウは、肩を回してウォーミングアップ中。ちょっと探しに行ってくる。って何を探しに!? 結局、ヒノとコハクに止められたが、据わった目で覚えておけよ。と凍えるような冷たい声で呟いていたのを聞いた。俺の妹様は、どうなってしまうのか。

 結局、場の声援が消えるまで少しの時間を要した。その時間でセイ姉ぇのMPの回復に重点を置き、十分な量を回復した事だろう。それを分かっていて攻めないタクは、装備を切り替えて相対する。


 一人のプレイヤー相手にするには十分なMPを持つセイ姉ぇと新たに取り出した鉄色をした二本のロングソード。


 先に仕掛けたのは、タクの方だ。大きく一歩を踏み出し、距離を縮めるべく行動を開始する。だが、それに反応し、即座に魔法で打ち込むセイ姉ぇ。セイ姉ぇは、HPが割合的に残っているとは言え、魔法職であり、前衛職のタクと接近で戦うには、少ない。また、タクのHPは、それより更に少ない。

 そして、タクもミカヅチと同じように、スキルによる打ち返しや弾きを狙っているかと思っていたが――


「……斬りやがった」


 放たれた氷塊を右手の剣で切り裂き、続いて来る水弾を左手の剣で霧散させる。

 俺は、何があったか分からなかったが、ミュウやその他魔法職の方々は、苦々しい表情で見ている。


「タクさん。えげつないな。メタって来るなんて」

「メ、メタ?」


 メメタではない。メタ――特定のタイプや構成の相手を仮想敵として、有利に戦えるように選択すること。

 つい最近だったら、PKギルドの【獄炎隊】ギルドマスターのフレインの【暗殺】スキルは、対人のメタと言えよう。

 つまり現在タクは、魔法職に対してメタとなる武器を使っているのだ。


「タクさんが使ってるのは、多分だけど【封魔】の追加効果持ちだね。あれに切られると魔法の効果が無効化されるって奴だけど……」

「だけど?」

「恐ろしく入手が難しい。しかも、付けた装備の耐久度の最大値を半分以下にするから長く使えない。文字通りのメタ装備」


 それを二本も用意するなんて。他にもどんな装備を持ってるのか。と呟くミュウ。

 それもあるが、俺は、その剣の鈍い輝きと黒さに見覚えがある。黒鉄のインゴットから作り出された武器――そう対の肉断ち包丁・重黒と同じ色だ。

 あれは、相当な耐久力と重さがある。耐久力を犠牲にするなら、良いかもしれないが、それを使った武器を軽々と振るえるタクのステータスの方も恐ろしく感じる。

 そんな対策を講じられたセイ姉ぇは、一瞬驚くが、直ぐに無駄だと知り、下級魔法の牽制を取りやめる。


「驚いた。そんな対策をしてたんだ。仕方がないか――【アクア・ウォール】!」


 タクの周囲を三角形に囲う三枚の水の壁。それは、防御魔法だが、視界狭窄のために使用としたり、その陰に攻撃用の魔法を用意したりと様々な使い道を見せていた。

 そして、それを死角からの不意打ちを警戒したタクは、全ての水壁を一瞬の内に切り捨て、無効化した。


「……違うんだよ。それもフェイクだ」


 囲まれていたタクからは見えなかっただろう。だが、外野の俺たちには全てが見えていた。

 セイ姉ぇが生み出した水壁の包囲の更に外側に作られた五本の氷柱。縦、横、斜めと空中に浮かぶ氷は、以前足場にしたそれと同じ魔法を使って生み出された。また、その周囲を囲う様に旋回する水球が五個。


 それらを同時に操るセイ姉ぇの魔法職としてのセンスのレベルの高さは、先ほどの弾幕合戦とこの一瞬でも分かる。高レベルによる待機時間ディレイタイムの短縮は、ほぼノータイムと言って良いほどの連続魔法。

 そして、今でも複数の魔法を操っている傍らで貯め(チャージ)の必要な上級魔法を準備している。

 それでタクを吹き飛ばす気なんだろう。


「早々に決めないとヤバいかな?」

「ごめんね。いくら知り合いでも手加減は出来ないし、その対策は想定済みなんだよ」


 そう言って、杖を横に振る動作に合わせて、氷柱が砕けて、人の頭の大きさの氷が散っていく。幾十と砕けて飛んでいく氷塊は、一見無駄に見える。だが、その氷の一つをタクが剣で切り裂いたところで、止まるのはその一個。まだ大量に残る氷が、地面と逆さにしたお椀状のフィールドの見えない境界面に当たり、反射を繰り返す。

 ピンボールの様に跳ね返る氷塊を避けて、少しづつ数を減らすタクだが、そこに滞空させた水球で狙い撃つ。

 二刀流で手数が多いタクだが、不意を撃たれて、迎撃では無く、回避を選択。少しずつ、自身に襲う魔法だけを選別して切り裂き、セイ姉ぇの方へと近づいていく。

 後、少しでセイ姉ぇの所に辿り着くという所で。


「一歩遅かった。――【メイルシュトローム】!」


 二本の剣を構えたタクは、足元から発生した渦の中に巻き込まれた。大型の洗濯機も真っ青な錐揉み回転によってタクは、洗い流されている。

 あれは、酔いそうだ。と言うよりもあれだけ回転するならタクの汚れが良く落ちそうだな。と場違いな考えが頭を過る。


 これで勝負が決まった。そう思っていたが、タクはまだ渦の中で剣を構えたままだった。錐揉みから態勢を立て直したタクが、剣を振り抜き、渦を切り裂き飛び出す。

 咄嗟に、下がって魔法で迎撃しようとするが、その前にタクのロングソードが振るわれる。空中からの落下の勢いと腰の捻りで左に体を回し、左のロングソードを右から左へと横切りに振り抜き、右のロングソードを肩から袈裟斬りにした。


「セイ姉ぇの負け?」


 だが、両者共に動かず。そして――


『ドロー、ドロー。全滅による! ドローだ!』


 タクとセイ姉ぇが同時にフィールドの外へと排出される。

 実況解説の役目も忘れて魅入っていたマギさんの声が呼び水となって場が湧き立つ。まさかの全滅。何が起こったのか分からないが、それはすぐに動画編集と解説が入る。


『いや、今のは凄かった。どうやってタク選手は、あの渦の中を抜け出したんでしょうか? クロードは分かりますか?』

『それは、装飾品の追加効果だろう。ダメージを軽減する【身代わり:水】や【魔法ダメージ軽減:小】などの対魔法防御系を仕込んで耐えたと思われるな。一度装備を対魔法武器に変えた時に一緒に変えたんだろう。それに、序盤から中盤までは、別の装備で場を凌ぎ、最後の大舞台では、完全に対抗手段を取った。今までの汎用性の高い装飾品を使っているだろう先入観。対抗策は、一つで十分という心理を裏切る頭脳戦でもあったと思うな。

 だが、セイ選手も最後の最後に今まで滞空させていた水球を背後から中てて(あてて)の同時ノックダウン。実に素晴らしい白熱した戦いだ』


 両手の指を組み、手に顎を乗せて解説するクロード。それに対して、にこやかで爽やかな解説をするマギさん。


『では、午後からは、生産・戦闘混合のマスタークラス。自信がある者は是非参加してね。それでは、しばしの休憩です』


 先ほどの戦い。様々な感想が場を満たし、多くの感動を与えた。

 タクの特定の防御に特化させ、捨身も加味した対応策。そして、多彩な魔法を使って相手を追い詰めるセイ姉ぇ、二人の凄さがジワジワと押し寄せてくる。

 PVPが終わり選手たちが思い思いの場所に移っていく。先ほど激しい戦いを最後に繰り広げた二人が来る場所は、自然と注目が集まっている。


「いや、まさか。あそこで抜け出して来るなんて思わなかったよ。タクくんには驚かされたね。渦で拘束した後、氷塊をぶつけておけば良かったよ」

「俺としては、抜け出した後に、直接の攻撃じゃなくて投擲で一撃与えておければ良かったと思っている。いや、反省だ」


 そんな言葉を口にする姉と幼馴染。

 その話は、休憩中にでもこの人の集まりの中でやって貰いたい。 

 さぞ、話が盛り上がるだろう。

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