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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
158/359

Sense158

 戦闘職の戦いも大分数を減らし、戦いが無差別的な物から手近な人との一騎打ち、若しくは、数人の小さなグループが鬩ぎ合う場へと化していた。

 二人の巧みな連係で複数のグループと渡り合うミュウとルカート。トウトビは、一人全く別の場所で一騎打ちを仕掛けられて苦戦を強いられている。

 セイ姉ぇは、その背後に複数の上位の水魔法を発動直前で停止させての目に見える形での威圧を行う。そして、一人で大立ち回りの無双を演じる獰猛なミカヅチ。

 残念ながら、ケイは敗退し、タクは、行方不明。大分数が減ったはずなのに、見つけられないって事は負けた可能性もある。一部、執拗にタクを狙っていたようにも思えるが、負けは負けだ。


「タクくんが居ないわね」

「負けたんでしょ。流石に、集中的に狙われたんじゃ少なからずダメージでも受けただろ」


 今残っている知り合いも全くの無傷ノーダメージという訳ではない。HPが多く残っている方が有利だし、連戦が続くから多い方が良い。タクが全く無事だとは思わない。

 まぁ、見つからない人の事は置いておいて、トウトビが一人、一本角の角付きのフルフェイスヘルムを着けた男とデッドヒートで苦戦を強いられている。

 トウトビは、忍者のように横走りでフルフェイスヘルムの男を視界に入れながら移動する。相手の攻撃を躱し、反撃の機会を伺っているトウトビだが、フルフェイスの男は、右のロングソードが攻撃。左のロングソードが防御と完全に分担し、武器のリーチ差で反撃を許さない。トウトビの速さと見切りが必殺の一撃を見事に紙一重で回避している様に見えるが、刃の切っ先が僅かに当たり、ちまちまとしたダメージを蓄積していく。

 周囲もその速さと一か所に留まらない二人を狙うために、広域魔法を選択するが、そのような好機を周囲が残しておかない。背後から突き立てる武器。まるで、二人の戦士の引き立て役でしかない様だ。


 また一方のセイ姉ぇは、魔法使い同士の一騎打ちをしている。セイ姉ぇが長杖を構えているのに対して、相手は、手に大判の本を持って、魔法を発動させている。

 互いの周囲には、余波から逃れるために既に人は居なくなり、激しい炎と氷の弾幕が繰り広げられている。

 空中での相殺を始め、時間差で襲う下級魔法の嵐、背後に出現させた目眩ましの防御系魔法に潜ませた魔法など、どちらも発動の場所とタイミングを熟知し、MPの許す限りで高度な魔法戦を繰り広げている。

 だが、セイ姉ぇの方が有利なのは、歴然だ。圧倒的なMP保有量と待機状態の上級魔法の数。

 そして、二人の弾幕勝負の終止符を打つために、先に動いたセイ姉ぇは、上級魔法を同時解放し、広範囲、連鎖チェーンダメージによって一瞬で終わらせる。

 だが、上級者同士の魔法戦の代償は、大きい。

 圧倒的なMP保有量でも有限であり、先ほどの戦いで底が見えた。これからの戦いは、それを節約して、如何に切らさないか。また、MPを消費しない戦闘法である肉弾戦も多くなる。アイテムによる外部補助を受けられないPVPにおいて、MPの回復は、自己回復だけが頼りだった。そして、完全に回復するほどの猶予を周囲のプレイヤーは、与えない。

 相変わらず、大立ち回りのミカヅチも知り合い連中の中で、負けてはいない。魔法使い同士の戦いが攻撃を受けない事前提なのだとしたら、近接戦闘では、忍耐の勝負だ。

 連撃を耐え、反撃の機会が巡ってくるまで耐え忍び、最小限のダメージに留め、最大のチャンスに最大限のダメージで相手を刈り取る。

 ピンチをチャンスに変える逆転の演武を披露している。見た目、美女と呼ばれるだけあってその動きは非常に引き付けるものがあり、強すぎる美は、逆に畏怖の思いを周囲に抱かせる。


「次だ! 掛かってこい!」


 勇ましい声と共にスクリーンに美しい姿を晒している。

 最後にミュウとルカートだが、即席とは次元の違う連携が相手に威圧感を与えて周囲から人を遠ざける。

 そして、二人の周囲に切り合う相手が居なくなると――


「いく。ルカちゃん」

「では、ミュウさん。手加減無用で」


 そんなやり取りの後、背中合わせの二人が急に距離を取り、互いに切り結び始める。

 今まで素晴らしい連携と友情を見せていたのに、気が狂ったのか会場を大いに驚かせる。だが、元々は無差別なバトルロワイヤルなのだ。弱い相手が居なければ探す。勝てそうになければ、最後まで逃げる。近くに相手が居なければ、一番近い人を狙う。そういうような戦いなのだ。

 そっと横を見れば、ヒノとコハクがやっぱりと言った感じで溜息を吐いている。その癖、楽しそうな微笑を浮かべているのだ。既に二人には分かっていた事だろう。

 ミュウとルカートの打ち合いは、十、二十と数を重ねる。互いに技量を出し切る激しい攻撃。

 ミュウの得意な多角度的な斬撃と魔法をルカートは、発動を見切り、剣の出鼻を挫いていく。受け身と言う点ではタクと似ているが全く違う。タクの様に迎撃からの強烈なカウンターとは違い、相手の出始めを阻止して、動揺した所に一撃を持ってくる。

 タクが物理的に弱点を作って突くのなら、ルカートは精神的な弱点を作るのが上手い。

 だが、ミュウも途中で行動を中断して次の行動に移ったり、逆にフェイントを織り交ぜる。

 魔法の発動を察知したら、それを阻止するルカート。

 魔法の発動を囮にした剣戟の応酬を仕掛けるミュウ。


 二人の間で短い間に濃密な心理戦を繰り広げる二人。そして、その結末は――


「――あっ!」

「そこです!」


 互いに小さなダメージを重ねて、最後の最後で運がルカートの味方をした。

 ほんの一瞬、剣を引き戻すのが遅かったその隙を狙った最後の一撃。斬りつけられHPをゼロにしたミュウは、フィールドの外へと強制排出される。

 二人の戦いは、見ている方も手に汗握る一進一退の攻防だった。それが終わるまでに二人に注がれた熱い視線は、勝負の決着と共に歓声へと変化した。

 まだ、PVPは続いているが、ルカートはどこかやり切った表情でいる。

 その少し長いとも思える息継ぎの間に、ミュウが観客席の最前列へと飛び出していくのが見える。


「――ルカちゃん!」


 観客席で言うなら、丁度出入り口の場所。そこに、先ほどまでフィールドの中央で戦いを繰り広げていたミュウが現れた。


「私に勝ったんだから! 勝ち進んでよ!」

「はい! 任せて見ていてください!」


 そう言って、ミュウの方へと剣を掲げ、対してミュウは、親指を立てて笑顔で返す。

 その一連のやり取りで気力を充填したのか、ミュウとの戦いで満身創痍の筈だが、躊躇うことなく次なる相手へと向かっていくルカート。

 ミュウも選手から観客へと転身したために俺たちの近くに辿り着く。

 俺たちは、それを温かく迎えるのだった。


「いやー。負けちゃった」

「お疲れ、二人とも凄く格好良かったよ」

「せやな。せやけど、順番が違えば、二人とももう少し後の方でも生き残れたのに、勿体ない」


 二人を出迎えて、気軽に声を掛けるヒノとコハク。それに対して、初対面のレティーアは静かに見守り、ベルは、たった今まで接戦を繰り広げたミュウに興味津々だ。そして、ライナとアルは、さっきまで尊敬に近いような眼差しで観戦していたために、急に目の前に現れて固まってしまっている。


「ミュウ、残念だったな。お疲れ」

「すんごい、楽しかった! ちょっとルカちゃんに抜かされたかも。これは二つ名に恥じない様に邁進しないと」

「いや、ゲームに入り込みすぎるなよ」


 俺の呆れを含んだ言葉に、乾いた笑いを浮かべる。

 そして、俺の周囲に居る知り合いに気がついたのか、何か言いたそうにうずうずしている。


「えっと、気のせいかもしれないけど。気のせいなら恥ずかしいんだけど。前にあった事は?」


 エミリさんとは、文化祭の時に俺のクラスに来た時に覚えてたからだろうか。少し気恥ずかしそうにするミュウに対して、エミリさんは、肯定する。


「久しぶりね。文化祭の喫茶店に来てくれてありがとう」

「やっぱり!? お姉ちゃん、紹介!」


 周囲を置いていくミュウに対して、苦笑を浮かべ、エミリさんは、妹に姉と言われる俺に対して苦笑していた。


「まぁ、リアルのクラスメイトで同じ生産職仲間のエミリさん」

「【素材屋】のエミリよ。よろしくね」

「えっ……素材屋って昨日のPVPでお姉ちゃんを一番最初に叩き潰した。あの【素材屋】!?」


 ミュウさん。少しその言い方変えてください。まるで一番最初に呆気なくやられた様に聞こえますから。いや、事実だけど。

 エミリさんも困ったような曖昧な笑みを浮かべるし。

 そこを話題変える助け舟を出してくれるヒノ。


「ミュウもユンさんも友人と真正面からガチバトル仕掛けるってやっぱり似た者姉妹なのかな?」

「いや、俺はその時知り合いだって知らなかったし……」

「私が一方的に知ってただけかしら」


 そう言って視点補足をするエミリさん。狙ったわけじゃないよね。


「まぁ、ゲームだし。そう言う趣旨の戦いだから双方納得してやるものよ」


 そう言って、締めくくるエミリさん。そんなような物だな。と俺も同意する。


「でも、知り合い同士で戦い合うのは、姉妹の宿命のようやな」

「「えっ?」」


 俺とミュウが同じ様に首を傾げる。コハクの指し示す方へと視線を戻すとミカヅチが楽しそうにセイ姉ぇを追っていた。


「はははははっ! 真っ向から戦えよ!」

「嫌よ。ミカヅチは、もう少し周囲を倒してから来なさいよ。自分賭けしたトトが外れるじゃない!」

「大番狂わせを起こすためにやってるんだよ!」


 楽しい楽しい追いかけっこを繰り広げる二人。参加者もかなり人数を減らし、激戦を繰り広げるトウトビもあのフルフェイスヘルムの前に膝を付いている。そして、軽く剣の切っ先を押し当てて転送される。

 PVPは、佳境。誰が残ってもおかしくは無い状態に、俺は拳を固く握りしめる。


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