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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
157/359

Sense157

 昨日は、会場を見上げる立場だったのが、今度は観戦する立場に変わった俺は、人が徐々に流入してくるスタジアムで今か今かと開始の時を待っていた。


「ねぇ、そっちのお菓子も食べたいからくれる?」

「じゃあ、その奴と交換で……」

「うーん。やっぱり狙いは、大穴狙いか? 安定したオッズの当たりをそれぞれ一口ずつ賭けるか」

「最大七千倍ってどうなってるんでしょうね?」


 待っている間、皆好き勝手やっている。露店で買った食べ物の交換やバトルロワイアルのトトカルチョでどこに賭けるか選んでいる。

 俺としても参加者の一覧を見て、自分の知り合いを探している所だが、如何せん人数が多い。

 見つけた名前は、タク、ミュウ、セイ姉ぇ、ルカート、トウトビ、ケイ、ミカヅチだ。前衛の比率が非常に高いのと、割と知り合いの参加率が低い事だろう。身内レベルの知り合いの参加率は高いが、間接的な知り合いは、それ程高くは無い。タクと一緒にPVPの訓練を受けていたガンツが出ていない所を見るとリアルに予定があるのか。


「それにしても、有望なプレイヤーが多いですね。師匠は誰に賭けますか?」

「賭けません。そもそも賭けてもこれだけ多いなら、負けるだろ」


 昨日、実際にPVPの中に跳びこんで実感したが、単純な個人の戦闘力よりもどれだけ上手く立ち回れるか。が重要となった。トトカルチョの種類には複数の種類があり、一位の予想の物と、選んだプレイヤーが十位までに入るか、三十位までと割と緩く設定されてたりする。

 まぁ、前評判や下馬評なんかもあり、第一陣は、単純にオッズの低い選手を選んだり。身内に投資して応援したり、第二陣の後発プレイヤーは、少ない額を緩いローリスク・ローリターンの賭けに入れるも良し。単純に観戦して楽しむだけでも良し。


「じゃあ、予想! 予想は?」

「じゃあ、本命、ミュウ。次点でセイ姉ぇ。大穴で全員同時敗北」

「全員身内ね。で、大穴の全員敗北ってネタで最大倍率七千の奴じゃない」


 エミリさんとレティーアという常識人には、そう訝しげに見られる。だが、こういった場は、必ず悪乗りする奴が居るんだよ。そいつが引き金となって全員同時敗北とかもあり得ると思うんだ。それに、身内の魔法職は多くないが全体的な魔法職は、六分の一くらいは居る。そいつらが、上手く逃げ回って同時に広域魔法を互いに放てば、クロスカウンターで可能性としてはあるだろう。


「なんだい? 幼馴染のタクくんには、ご祝儀は送らないのかい?」

「うん? ああ、ミニッツ。それに、ヒノにコハク」


 振り返った所には、タクのパーティーメンバーであるミニッツ。ミュウのパーティーメンバーであるヒノとコハクが居る。


「ガンツとマミさんは? それにリレイはどうした? 皆は参加しないのか?」


 俺の質問にミニッツは、疲れたように溜息を吐き出す。対して、ヒノとコハクは、特に何でもない様に言う。


「あいつ、学校の宿題が終わってないとかで今更ながらにやってるのよ。馬鹿よね。大事な時のために先に終えとかないと。それとマミは、別口でケイの応援。この子たちと観戦する予定だったけど、一緒にお願いできるかな?」

「リレイは、元々予定があったんや。うちとヒノは、元々目立つの好きやないしな」

「僕らも一緒で良いかな? 大人数の観戦の方が楽しいし」


 それは、別に問題ない事を聞くために、視線を左右に向けると大丈夫とハンドサインが送られる。まぁ、性格的にも問題を起こすような奴も居ない。

 ベルは、性格の方向性が少々危ない気がするが、ガンツやリレイと言った同種の人間に慣れているだろう。むしろ、ベルの社交性で話が盛り上がるのではないだろうか。

 ただ、一つ気になる事は、男女比がかなり偏っている点だ。男は、俺とアルだけ。まぁ、居辛く感じたようなら俺と率先して話したら良いかもしれないと思っていたが……。

 スタンドに二列に分かれて改めて列の編成をして受け入れる。


「初めまして、私は、ミニッツって言うわ。君たちは?」

「僕は、アルです。それと双子の姉のライナです。よろしくお願いします」

「へぇ、双子なんだ。アルくんは、賭けに誰を選ぶの?」

「僕は、まだ始めたばかりで全然分からないんです。色々と皆さんに意見を聞かせて貰って……」


 かなり口が達者な様子だ。お姉様や同年代にチヤホヤされている様に思える。逆にライナは、いきなり増えた人数に端によってレティーアとベルの二人で話している。なんか、ライナに悪い事をしたな。

 それともう一つ――


「アルに、かなりの視線が集まっている気がするな。主に嫉妬」

「見方によっては、ハーレムよね。まぁ、ユンくんも実際は両手に花なはずなのに、周囲には嫉妬の対象にすらなっていないと……」


 そこを指摘しないで欲しい。逆に、集めている視線が目の保養とか微笑ましいとかの部類なのだ。


「さぁ、参加者の締め切りも終わった事だし、そろそろ始まるわよ」

「ああ、けど、この中から知り合いを探さなきゃ……」


 スタンドからこれだけの人数から目当ての知り合いを見つけ出すのは、苦労しそうだ。だが、知り合いの殆どがこっちを真っ直ぐに見つめて手を振っている。

 横では、ダイレクトに彼らとチャットしているであろう、パーティーメンバーや知り合いたち。


「おねぇーちゃーん! がんばるよー!」


 そんな、剣を抜いたまま、ぶんぶんと振り回すな。近くの人が離れているだろ。とやや暴走気味のミュウとその近くで苦笑いを浮かべながら、軽く会釈するルカートと無表情のトウトビ。

 セイ姉ぇやタク、ミカヅチ達も同じ場所に固まって、話し合っている様子だ。こっちも軽く手を振り返すと、自分の存在が伝わった事を確認したのか、それぞれ別の場所に散っていく。

 開始で近くに居たら、共闘するか、潰し合うかの二択だ。そんなマッチポンプを疑われるような事を避けているのだろう。


 仕方がない、ご祝儀程度の期待感を込めて、セイ姉ぇとミュウ、それとタクに一口賭けてみるか。後は、ロマンを求めた『全員敗退』の七千倍に一口百Gを賭ける。所詮は、夢を買っただけだ。


『さぁ、PVPバトラークラス。皆が待ち望んだ真の最強決定戦! ルールは、昨日と同じ。回復禁止。生産職と違うのは、便利な消耗品などのアイテムの使用禁止だ。投擲武器などの消耗系装備は、その例外です。このPVPでは、自身の装備とセンスを駆使して貰おう!』

『長々とした会話は、クロードに任せて、カウントダウン!』


 空中スクリーンに浮かぶカウントが消滅を始める。

 偏りなく各所に散った知り合いたちを見るのに、鷹の目は非常に便利だが、散り過ぎていて一人に集中できない。

 それに最初の乱闘を抜けなければ、まともに戦闘を吟味も出来ないだろう。


『3、2、1、バトルスタート』


 始まると共に、プレイヤーたちが激しい衝突を繰り返す。

 騒音と観客の声援に圧倒され、ただ知り合いを探すためだけに視線を彷徨わせる。

 左右でも、それぞれの知り合いやパーティーメンバーに対しての応援の声を上げている。

「ほらっ、ユンさんも応援しないと!」

「えっ!? 俺は良いって」

「良いから!」


 背後の列に座るミニッツやヒノに肩を掴まれて、応援をせがまれる。

 どうしよう。とにかく、身内を応援しておくか。


「えっと、ガンバレ! ミュウ、セイ姉ぇ、タク――!」


 前に応援団の服装を着てやったのは、イベントという場の勢いあったが、こう素で応援すると少し恥ずかしい。

 その少し抑え気味な感じの応援に何かを感じ取ったのか、ベルのにやけた表情が印象に残る。

 そして――


「「「リア充なんて、死に晒せぇ!」」」


 突然何事か。と思うような声援が少し離れた男性集団から発せられる。

 地獄の底から響きそうな怨嗟の声と爪が喰いこんでいそうなほどに固く握りしめられた拳。そして、血涙でも流すのではないか、と思えるほどに血走った目は、嫉妬と狂気の色を感じる。

 彼らを駆り立てるのは、何なのだろう。


「罪な人ね。ユンくんは――」


 いや、俺が原因じゃないでしょう。

 そうだと思いたい。そして、左右後ろが俺に期待するような視線を送って来る!


「その、ガンバレー! みんな、負けない様に――!」


「「「我らが、聖母が応戦してるぞ! これは聖戦ジハードだ! 死力を尽くせ!」」」

「「「大いなる聖保母の加護は我らにあるぞ! 死すら恐れず、奴らをリア充どもを抹殺する!」」」 


「……」


 一部、狂信的な何かに取りつかれた人たちが、各々の武器を掲げて、ヒャッハー、と言いながら近くの男どもに襲い掛かる。

 連携など無い散発的な攻撃だが、何かセンサーでも働いているのか、確実に自身と同類かそうでないかを判断して、襲い掛かる。


「ユンくんがそう期待された通りに動くから皆、盛り上がるのよ。ユンくんって結構、あざとい系?」

「そんな事は決してない!」


 エミリさんに強く否定するが、期待に押されて、やってしまうのは事実だ。


「ああっ!? ケイが男性集団に飲み込まれて消えた!?」

「彼は、嫉妬の波に抗えなかったのね。他にも、ゲームで恋人を作ったって噂の人がやられているよ」

「世の中、無常ね」


 そんな感想を口にするミニッツとレティーアの二人。


「うわっ、凄い。魔法の使い方が一番上手だ」

「あの魔法の弾幕を張っているのが【水静の魔女】――セイってプレイヤーや。魔法職の理想を体現した戦い方をしているんや」

「と、言うより無理でしょ。あの理論的な最短連射撃と上級魔法の遅延で適所に使うし――」


 何とか、その魔法の弾幕を潜り抜けた一人がセイ姉ぇに近づくが。


「――今の様に、棒術も結構上手いから逆に突破したら、棒で突かれて、魔法で凍らされるから」


 セイ姉ぇを注意深く観察するアルとそれを解説するコハクと冷汗流しながら、怒涛の魔法を見詰めるベル。

 そして、戦士としての戦いを同じように観察するのは、ライナとヒノだ。


「へぇ、ライナちゃんは、槍を使った戦い方なんだ」

「ええ、だから誰を参考にしたらいいのか」

「じゃあ、ミカヅチさんかな? あの人は、基本は棒術だけど、長物の武器の使い方の基本は、同じだから。棒か槍かの違いって」


 そうして会場を探すとミカヅチは、即席の連携を捌きながらも、棒を巧みに操り、反撃を加える。

 体幹がブレずに、繰り出す鋭い突きが防具の隙間を縫う様に突き立てられる。

 結構な速度で出しているが俺と訓練した時は、もう少し遅かったと思うのだが、そうなるとミカヅチは手加減していたことになる。まぁ、当然だが、明らかな力量差を見せられる。


「ほら、ユンくん。あなたの妹さんも頑張っているわよ」

「ああ、本当だ。って言うか。何でああなっているんだ?」


 最初にバラバラに移動していたはずが、いつの間にか、ミュウとルカートが合流して背中合わせに剣を構えている。

 その周囲には、同じように共闘するプレイヤーたち。

 有力なプレイヤーを先に潰そうとしているが、逆に手を出せば、二人に斬られる千日手状態。

 別の所では、トウトビがプレイヤーに気づかれない様に背後から近づき、辻斬りしていく。俺たちは、一段高い観客席で見ているから分かるが、PVP参加者視点では分からないだろう。

 かなりの速度で音も無く走り抜けて、切りつけた相手は、隣の相手が切ったと思い、混戦、乱戦へと発展し、その現象がミュウたちを囲む包囲網に到達する。

 折角構築した即席の共闘も瓦解を始め、既に包囲網は、崩れ始めを感じ取ったミュウとルカートの突破が始まった。

 これは、トウトビが意図してやったのなら、凄いし。意図しなくても、まだ多少は機能している包囲網を突破する二人も十分凄い。


「すげぇな。流石、普段からパーティーを組むだけの事はある。息がピッタリだ」


 阿吽の呼吸とでも言えばいいのだろう。鋭い攻撃をアクロバティックに躱すミュウの背後で突き出した武器を引き戻す間も無く、ルカートに切られ、蹴り飛ばされ。そのルカートの背後の隙を埋めるように飛び上がったミュウが空中で蹴りと斬撃を近づいたプレイヤーへと浴びせて、しなやかに着地する。


「あれは、無理だろ。絶対に参考にしちゃいけない分類の奴だ」

「そうね。あれを出来るようになるには、まずは、宇宙飛行士の訓練を受けた方が早いんじゃないかしら」


 それほどまでにミュウの動きは、複雑な三次元的な動きをし、普通の人間だったら視界で敵を認識する前に通り過ぎそうだ。

 相変わらず、ミュウのぶっ飛びっぷりを久々に見た気がした。そして、その陰に隠れていたがそのミュウに動きを合わせられるルカートも異常と言えば異常だろう。


「妹ちゃんに隠れているけど、やっぱりあの子も二つ名持ちなだけあるわね」

「ルカートも二つ名を持っているのか?」

「ええ、【隠し刃】って。ミュウちゃんの後ろを守っている意味もあるし、誰が組んでも組んだ人たちを目立たずにだけど、支えているから……。諺に、能ある鷹は爪を隠す、って言葉があるから彼女は、剣士で、隠す物は、爪じゃなくて刃だから【隠し刃】って誰かが言ったらそれが定着したらしいわ」

「あっ、それ言ったの僕だよ。本人は、可愛くないって嫌がっていたけど……」


 ヒノが自分が言ったと言っている。身内で二つ名付けるのは、ちょっと恥ずかしかろう。そして、それが定着してしまったルカートの今の心の内は、どうなのだろうか。

 そうしている内に、徐々に周囲のプレイヤーの数が減り、戦いも中盤戦に入って来た。


7/4:トトカルチョ購入描写記入

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前にもどこかの話で出てきましたが、トトカルチョってサッカー以外に使うんですかね?
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