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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
152/359

Sense152

 俺は、今まで作られ、集めた最強装備で身を固めて、東の森を目指す。


「……なぜ、私と同じ様にマスクを? それにマントまで装備して」


 森へと向けて移動する中、そう口を開く【素材屋】。理由を知っている他二人は、苦笑いを浮かべているが、俺はさも当然との様に適当な理由を並べる。


「他人に顔を覚えられたくないんだよ。誰とも知れない人がふらりと助けたって事にしたい」

「まぁ、仲間内だと違いは分かるけど他人だと防具の【認識阻害】でちょっと情報がぼやかされてるよね。でも、顔バレして集中的に狙ってきたらGMコールでも掛ければ十分じゃない? 私ならそうするけど」


 一歩引いた目で見るレティーアの言葉は、正論だろう。頼る所に頼る姿勢は、正しいと思う。

 勿論、今回のこともGMゲームマスターには、通報済みだ。だが、生産職がブラックリストの様に扱う連中も運営側からしたら等しく『お客様』な訳だ。

 俺たちとの騒動も一歩引いた視点から見れば、プレイヤー間のトラブル程度の事を繰り返しているという認識だ。そこにGMが率先して出てくる事も無いし、プレイヤーも呼び出す事も無い。GMコールで呼び出す例としては、セクハラ行為やRMTリアル・マネー・トレード、それも過去のログを調べて、運営がやり過ぎと判断された物から警告をして、それから対応を実行する。まぁ、あまりにも悪質なら、一発で退場になる場合がある。

 今回の事は、同時多発的なPKに対して、GMコールを実行。会話ログなどから悪質な物は、強制ログアウトさせられたが、悪質でない物は、そのまま。そして、PK討伐で一部が先行したために、一方的なPK行為からプレイヤー同士の戦いという風に認識されたのではないか。と分析。


 この世の中には、白か黒か。みたいな綺麗な切り分けは難しい。どこかにライン引きをすれば、必ずグレーな部分は生まれる。それを黒白の一方に入れるために締め付ければ、窮屈になり、緩め過ぎも無秩序を招く。運営の目的は、一方に肩入れするのではなく、双方を公平な視点で見つめて、対応するのだ。


 今回は、プレイヤー同士が解決できるレベルとして認識されたのだろう。

 

「まぁ、良い。私の武器は剣だ。そして、使役MOBも壁の役割は出来るだろう。だから前衛だ」


 エミリオは、腰に吊るした連接剣を見えるように触れ、自分のポジションを説明する。


「私はレティーア。武器は、鞭と魔法ですが、この場合は魔法メインの後衛ポジションでいきます。使役MOBは、全部は召喚できませんが、囮や遊撃なんかに」

「レティは、今回は、そっちだよね。私は、ベルガモットで愛称はベルだよ。武器は、全身とこの爪だよ。私は、前衛か遊撃だね」


 レティーアは、鞭を使うようだが今回は出番が無さそうだ。そして、ベルは、ジャケットやハーフパンツから伸びる肢体は、プロテクターで覆われており、籠手のようなプロテクターも手首の動き一つで爪が飛び出る仕込み武器だ。


「最後は、俺か。メインは、弓。サブが魔法と近接。どのポジションでも行ける」

「じゃあ、レティーアは、後衛。私とベルが前衛で。【薬師】は、臨機応変に」

「それじゃあ、索敵は、私の使役MOBで行います。ナツ、東北東方面を中心に索敵をお願い」


 暗い夜空へと投げる召喚石は、一羽の鳥の形を取り、上空を旋回してバランスを取る

 通常よりも二回りも大きいミルバードに、索敵のサインを出して見送ったレティーア。

 俺は、上空のナツが飛んで行った方向に目を凝らす。


「さて、相手に見つかる可能性もあるし、光源はなるべく使わない方向で」

「じゃあ、俺が誘導する。暗い中でも俺は動ける」


 俺たちは、鷹の目の暗視性能を頼りの森の中へと入っていく。

 空と前方を交互に確認しながら、無駄のないペースで進んでいく。エフェクトの光を気にして、誰もスキルやアーツは使わない。いや、このエリアにいる敵は、既に雑魚と言えるレベルだ。

 以前はあれほど手間の掛かったビッグボアですら、発見と同時に弓の一撃で注意を引き、接近して来た敵を前衛の二人が瞬殺する。

 そうして突き進む先で、淡い橙色の光を発する場所を目にした。

 遠目から相手を確認するが、ライナとアルではない。PK達が、一人のプレイヤーを取り囲んでいる状況だ。


「ミルバードからの報告で、この周囲にPKの気配無し。増援に来る可能性は低いわ」

「相手は、前衛三人、遊撃一人、後衛二人。テンプレ通りのバランスの良いパーティーだ。それでどうする?」


 ライナとアルではないが、見過ごすわけにはいかない。


「とにかく数を減らすの優先かな? 前衛一人と後衛一人を先制して倒せれば、数は同等。失敗しても使役MOBで時間を稼ぎつつ、各個撃破で」

「なら、これを使うか」


 俺が取り出したのは、今日のPVPの残りだ。これを上手く使えば、相手を混乱に陥れることくらいは容易だ。


「分かった。じゃあ【薬師】は、準備。そして始まったら、私とベルは裏側から奇襲。レティーアは、魔法とMOBを利用した攪乱。行動する」


 静かに、相手の持つランプの光を頼りに移動を始める。

 俺も作戦の重要なキーとなるそれらを設置し、レティーアの傍に移動する。


「始めるけど、レティーアはどうだ?」

「ええ、完璧です。私も百個単位で欲しいですよ」

「材料しだいだ。まぁ、始めるか」


 俺は、マジックジェムを握りしめ、投げる。しかし、投げる場所は、相手の真ん中では無く、少し離れたライトの光と夜の闇の境界当たり。狙い通りの場所に音を立てて転がるマジックジェムに気がついた相手は、瞬時に臨戦態勢を整える。

 だが、何時までも視線の先には、変化はなく、怪訝そうに顔を顰めているのが分かる。

 一人は、気のせいだと早々に武器を下ろしたが、用心深い奴が居た。そいつは、一人その場所を離れて、ポイントへと移動して行き――


「――【ボム】」


 投げたマジックジェムだけではない、俺の一言を呼び水に起動する数個のマジックジェムとそれを囲む様に設置した爆弾は、強力な衝撃を生み出し、近くにいた一人を飲み込み、確殺。その余波、は、PK達にも及ぶ。

 だが、奇襲は、これで終わりではない。

 上空。夜の闇にまぎれたミルバードのナツは、それを投下する。事前に何か分かっている俺たちは、目を覆う様に手を翳し、結果を見詰める。


「ぐぁぁぁっ!」「な、何だ! これは!」「ちっ、視界がっ……」


 落下の衝撃で炸裂する閃光弾が、相手の視界を奪い、先制のチャンスを作り出す。

 光が収まった所で俺は、麻痺を付与した矢を放ち、ターゲットを次々と射抜いていく。爆弾による奇襲、閃光弾による目潰し、麻痺矢による行動不能。

 その後、駆け出し、後衛を優先的に排除するエミリオとベル。俺たちも遠距離でチクチクとダメージを与え、麻痺から回復する頃には、後衛二人と遊撃一人を倒した。

 残る前衛二人は、事態を理解した瞬間、逃亡を図った。最初に相手が逃げる場合は、どうするか、という話をした時、深追いはしないと決めていた。あくまで、俺たちの目的は、森に残っているプレイヤーを連れ出すのが目的だ。


「呆れる程に綺麗に繋がりましたね。爆弾に閃光弾。一人だけの軍隊を出来そうな勢いでしたよ。貸しの内容を思いつきました。今のアイテムを売ってください。勿論、代金は出します」

「熱帯雨林を生き延びるスーパーソルジャーにでもなる気かにゃ?」


 小さく息を吐くレティーアに、茶化したように言うベル。俺は決して機関銃をぶっぱなしながら脱出を成功させるような兵士でも何でないし、なりたくもない。


「全く、無駄話はそれくらいだ。大丈夫ですか?」


 PKに囲まれていたプレイヤーは、ゆるりと首を上げる。


「ありがとうございます。メニューを開こうとする素振りをすると小突かれるし、自分たちのギルドに加入するように強い勧誘を勧められるし……新聞の押し売りよりも性質たちが悪かったですよ」


 緊張が解けたのか、にへらっと表情を崩す相手に俺もマスクの下で目を細めている。


「一度、ログアウトしてから町に戻った方が良い。まだPKは沢山いる」

「分かりました。ありがとうございます」

「それと、何か気になる事を話していたりはしないか?」

「気になる事? そうですね……」


 少し俯き、考えるような素振りを見せる彼に期待をするが、少し時間が掛かりそうだ。思い出した情報をクロードの所にでも送ってくれれば一番だ。


「そうそう。PKの人たちは、言ってましたよ。PK関連のセンスについて」

「何!? 本当か!」


 余りに突飛だが、PKをするメリットとしては、非常に強い情報だ。

 PKで得られる物が、ゲーム内通貨のGゴールド以外にあれば、今回の騒動を起こす理由の一つだろう。


「確か、十人のプレイヤーを連続でキルすると条件を解放されるとか。それで、俺を囮に使っていたみたいです。パーティー内で倒した数は、共通するので……そう、こんな感じのスキルでっ! ――【暗殺】!」


 俯いた男がゆったりとした語調から顔を上げて、切りかかって来る。

 逆手に持った短刀が赤黒いエフェクトを発しながら、首元に吸い込まれるように振るわれる。いきなりの豹変と近くに居過ぎたことで咄嗟の回避が出来なかった。

 そのまま、振り抜かれる短刀の剣筋を眺め、ニタリと勝ち誇った笑みを浮かべる相手を見詰める。


「……確殺スキルか?」


 遅れて響くガラス板が砕けるような硬質的な音に、男の表情が強張り、次の瞬間、目の前の男が振り子のように倒れる。


「可愛い子に手を上げるなんて……どういうつもりかな? 男だから容赦しないよ」

「不穏な名前のスキル。それを受けてピンピンしている【薬師】もどうかと思う。次からは気を付ける」


 ベルに足払いをされ、腕を捻り地面へと跪き、その首には、連接剣が二重に巻きつき、まるで断頭台の死刑囚のような格好だ。


「ネタ晴らしをすると――これだな。身代わり宝玉の指輪。全く、俺には過ぎたアイテムだ」


 掲げる指に嵌る指輪――身代わり宝玉の指輪が先ほどの一撃を完全に無効化した。

 その証拠に、宝石に嵌め込んだヒスイが中心部に到達しそうな大きな亀裂を残している。


「と、ネタ晴らしは、これくらいで。どうしていきなり物騒な攻撃を仕掛けた? それとそのスキルとセンスの詳細は?」

「……大人しく言うと思ってるのか?」

「じゃあ、そのまま切り捨てて先に進む。【薬師】は、急いでいるんだから」


 口調を素に戻したのか、粗野な言葉遣いの男に【素材屋】が連接剣をじりじりと巻き込み、首に食い込む。真綿で首を締める様に減っていくHPを見ても、口を割りそうにない相手に俺は悩む。

 情報は欲しいが、時間もない。こういう時、どうすれば良い?

 今ある情報は、断片的だ。不確定情報だが、センスの入手方法とそのスキルだけ。

 対策を練るためには、詳しい効果を聞きたいが、無理そうだし。なんか、こう四人で一人を囲んでいると妙な罪悪感が……。


「もう、放置で良いよ。先に急ごう」

「……良いの? 襲われたんだけど」

「別に、たった一撃を偶然防いだだけだし。ただ、後を追って来たり、さっきのスキルで他のプレイヤーを襲ったりしないで貰いたいな」


 エミリオが連接剣の巻き取りと止め、半分の仮面の向こう側からこちらを見詰めてくる。また、背後のレティーアと相手の背中を押さえつけるベルも強い視線を投げかけてくる。

 俺は、何か変な事言ったか?


「甘い。攻撃されたら、返り討ちにしても文句の言えないPKに対して温情なんて。馬鹿か?」

「ごめん。私もそれ思ってた。何と言うか、甘過ぎる」


 跪く男と後ろに控えるレティーアから言われた。分かっているけど、どうしても弱い者苛めしているような気分になるんだよ。さっきの爆撃は、卑怯だ? 知らんな。


「分かった。と言うより無理だ。あのスキルは、回数制限がある。さっきので打ち止めだ」

「……それを信じると思う? 私は、このまま死に戻りさせるのが一番だと思うけど」


 押さえつける腕とは反対の手では、凶悪な金属製の爪を出したり、引っ込めたりして男の耳元で鳴らしているベル。別に恐怖心は無いようで、煩さにげんなりと言った表情だ。


「こればっかりは、信じて貰わないと困るな。まぁ、放して貰えるなら、信用を得るために少しは話すさ。この強力なスキルだって欠点が無いわけじゃない」


 そう言う男をじっと観察して【素材屋】は、連接剣を元の長剣に戻し、話を始めろ。と視線で指示している。


「まずは、センス名は【暗殺】だ。得られる物は、対プレイヤー戦闘限定で攻撃ステータスが強化されるのが一つ。もう一つがさっきのスキル【暗殺】だ。あと、さっき言った条件は、嘘だから。本当の条件は言わないぞ」


 結構、強かなのか。一部話に嘘が混じっているのかもしれない。話半分に聞いておく必要はありそうだ。


「で、だ。スキル【暗殺】は、対人限定の割合ダメージのスキルだ。通常の場所で、四分の一。急所付近でHPの半分。首や目。心臓とかの急所部分は、一撃死の……確かに、急所に入ったのに。あんた変過ぎ」

「スキルと武器の関係性は? 急所を安全に狙うなら槍でも良いでしょ」

「ちっ……そこに気がつくかよ。ノーコメント」


 それは、関係性はある。と言っているような物だろ。だが、詳しい関係性を知らなきゃ対処も出来ない。保留だ。


「で、最後にデメリットだが、さっき言ったスキルは、回数制限有りだ。クールタイムがとても長い。それともう一つは、このリスクがデカくて、レベル上げが難しい。【暗殺】センスのレベルは、PKでしか上げられない。そして、プレイヤーにキルされるとレベルが下がり、下がったレベルに応じて、倒したプレイヤーに多少なりとも経験値が流れる。どうだ? プレイヤーに対して特化されてる反面、狙う側が狙われる側になるんだから」

「……本当に話して良かったのか?」


 聞いた本人が言う言葉じゃないし、今の話を全部鵜呑みにするつもりはないが、それが本当ならなるべく自分のセンスは隠すべきだったはずだ。今、この場で俺たちがPKKプレイヤー・キラー・キルした場合のメリットがあるのだから。


「うーん? どうせ、俺たちも一枚岩ってわけじゃないし、どこかで情報が漏れてるでしょ。因みに、さっきの奴ら六人全員が低レベル持ちだったんだよな。森に来た奴らをレベル上げの餌にするつもりだったけど、逆に餌にされたね」


 どこか冷めた言葉に、男とさっきのパーティーの関係が薄く感じる。


「じゃあ、放して。動き封じられたままだと戦闘継続って判断されてログアウトできないから」

「……もう、十分だ。ただ、そんなセンスとスキルがある事を頭の端に置いておく」

「ありがとね。じゃあ……」


 武器の短刀を仕舞い、森の中につかつかと歩いていく。

 それを見送り、ログアウトするのを確認してから俺たちは再び先に進む。


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