Sense148
「あはははっ! 楽しいね! 楽しいよ! こうして僕の刀たちを披露出来るんだから」
ゆったりとした茶色と白の和装と後ろで一本に括る錆鉄色の痛んだ髪が浪人のような印象を与える少年だ。
現在は、残っている人同士が一対一で戦い、全力で自分の生産職の意地を見せる場面へと推移している。
目があった瞬間、その相手と闘う。まるでモンスター育成ゲームのNPCのような感じで逃げられない。戦いの最中も外部からの余計な横やりはない。バトルロワイアル形式の筈なのに、遭遇戦トーナメントのような感じになってしまっている。
広いフィールドでそれぞれが戦っている。時折、移動で戦闘が重なる程度はハプニングであり、それもスパイスの一つとして会場を盛り上げる。
互いに生き残っているとは言え、相当HPを消耗している。かなり短い戦いの中で濃度を濃くした戦いが見られる。
「正直、げんなりするから見せるな」
半目で睨むが相手は其れを気にした様子も無く、浪人の格好からじゃらじゃらと金属を垂れ流しにする。ここ、重要だぞ。金属を垂れ流しだ。
「つれない事言わないでよ。大太刀、小太刀にクナイ、手裏剣、忍者刀、脇刺、仕込み刀。どれも良い出来でしょ?」
「だからって、じゃらじゃらと地面に突き刺すな」
パフォーマンスの一種だからと言ってもこれは正直、俺は相手にしたくなかった。
「名乗りを上げるとするよ。僕は、【刀鍛冶】のオトナシ。刀への愛は本物だよっ!」
どうしてこうなったのか? 最初は、目と目が会って、数度の切り合いを重ねた筈なのに、仕切り直しで離れた時、高笑いを始めて、刀とかをじゃらじゃらと地面へと落としていくのだ。
俺もぎょっとしたし、周囲も一瞬ぎょっとしたはずだ。
「さぁ、行くよ! まずは、クナイと手裏剣の弾幕からだ」
「――っ。【クレイシールド】」
何十本も纏めたクナイと手裏剣を素早く投げてくる。そうして、空中で散らばるそれらは、無差別、そして広範囲に。俺だけではなく周囲へと跳んでいく。俺は、落ち着いて、その場でクレイシールドを生み出し、やり過ごす。普通は、土壁に弾かれるクナイと手裏剣だが、その裏側に立つ俺には弾く音とは別の音がありありと聞こえる。サクッと突き刺さる音。まるで焼き菓子を割るような音に戦慄を覚えると同時に投擲物の鋭さに感心する。
周囲では、無差別の余波として無数の投擲物が散らばり、また他のプレイヤーから投げた本人は、睨まれている。危ない場面があったようだ。だが誰一人それでダメージを受けていないという事は、回避したのだろう。そっちも凄すぎる。
「あははっ! 防御で受け止めるか! じゃあ、今度はこれで!」
壁向こうで何かを言っているが直後に、土壁を貫き一本の刀が突き刺さる。
直後に、連続で貫通していく刀たちに土壁は限界だと悟り、その影から抜け出す。
飛び出した直後に土壁を突き抜ける一本の柄の無い刀。その後にも二本、三本と貫通して、土壁が崩れ落ちる。また俺の後を追うように、投げられる刀の群れ。足元に突き刺さる残りの刀も引き抜いては投げている様だが、尽きる様子はない。
ならば、タイミングを見計らって打って出るしかなさそうだ。
「一本リアル換算で二十万円。今投げたのが、二十本目だから四百万!」
「知らんって!」
「二十一! 二十二!」
弧を描くように走り込み、相手へと切りかかる。先ほどの様にクナイや手裏剣を無差別に投げられるより、両手に一本ずつなら対応できる。そう踏んで、相手へと切り掛かる。
右手に持つ刀の軌道を予測して、射線上から横に移動する。そのまま、顔の横を通り過ぎる一本目に冷汗を感じながら、二本目の刀を投げる予備動作の前に一気に距離を詰める。
順手に持った包丁に体重を乗せて、相手へと切りかかる。相手は、予備動作から体を庇う様に無理に体勢を捻り、左手を切られ、刀を取り落とした。両手が空いている状態は好機だ。インベントリから新しい武器を取り出す前に畳みかけ――
「――あはっ!」
妙に耳に残る喜色を帯びた声。オーラが揺らぐ無敵時間ではあるが、相手のHPは、今の一撃で残り二割を切っている。姿勢も崩れている筈なのに、楽しげな声。何かを仕出かす前に、仕留める。という意思に反し【看破】が警鐘を鳴らす。相手の右手、何もないはずの手は、今は相手の体に隠れて、再び見えた時、何本ものクナイが握られていた。
「ちっ!」
「残念、逃げられないよ!」
至近距離から散弾の様に放たれるクナイを受ける。数本が体の中心に刺さり、数本が体を傷つけて後ろへと通り過ぎ、残りがあらぬ方向へと跳んでいく。
インベントリから取り出す余裕は無かったはずなのだが、どうして投擲物を持っていたのか。取り出した物は、全て投げつくしていたと思ったのだが。
疑問に思いながらも、突く刺さったクナイを無造作に引き抜き、捨てる。
「全く、今ので残り四割か。一割削って、逆襲でそれ以上。って割に合わないな。で、どうして投擲物を持っていた?」
「普通は、相手を倒してからのネタ晴らしだけど、僕は教えるよ! だって、倒してからの自慢より倒す前の自慢の方が、それっぽいでしょ! 知ってる人は知っている。消耗品に『+』が着くことに!」
「ああ、成程ね。で、残りの『+』は幾つだ?」
「+3って所かな? 乱戦で沢山投げたからその時に一気に減っちゃった」
矢にも共通する事だが、消耗品の道具の中に+の表記が付く物がある。『鉄の矢+10』は、能力は、影響しないが、一定時間経過するとその数を減らして矢筒へと戻ってくる。
それと同じ様に、クナイと手裏剣も+の付く消耗品で投げても時間が経てば手に戻って来る。
戻らないのは、投げっぱなしの刀だけ。先ほど引き抜いたクナイは、もう戻っているようだ。
「全く、持ってるセンスは、鍛冶系に投擲系、後は、合成か?」
「そうだね。刀やクナイは、耐久力を極限まで減らして攻撃力へと回した武器群と回収される投擲物の味。どうかな?」
「二度と味わいたくない」
「そう、残念。でも、負けるためには、最低もう一度味わわなきゃいけない、よっ!」
互いに口を開き、軽口を叩くが、それも終わりと言う様に言葉の端を強めて、手の中で弄っていた手裏剣を投げてくる。
兎に角避けるために、相手から距離を取り、動き続ける。動きを読まれ、先読みで投げられない様に左右不規則に動き、狙いを付けさせない。
最初やったような投擲物の弾幕は、来ない。その反対に地面に突き刺した刀を次々と投げてくる。投擲物の残りの使用回数も+3と多いわけでもない。少し配分を考えているのだろうか。
結局、俺の腕前じゃ、跳んでくる刀やクナイを弾くなんて真似は出来そうにない。それに近づいてクナイの散弾を受けるのも勘弁願いたい。
けど、跳びこまないで勝てそうにないし、男は根性だ。
投げられる刀を掻い潜り、再び相手に接近する。空いている手には、マジックジェムを握り締めて、一気に距離を詰める。俺の目が見ているのは相手の手元。地面から刀を引き抜いて投げる動作の中で、どのタイミングで投擲物の攻撃に切り替えるか。
近づき、右手の刀が投げられた時、反対の手が後ろに隠れる。最初に俺が襲って返り討ちにあった時の様に、体で手を隠す。この瞬間に――。
「――【クレイシールド】!」
「なっ! けど、そんな時間稼ぎ!」
相手の目の前で生まれる土壁に投擲物が突き刺さり、至近距離で最初の出来事を再現するが、俺の行動は全く違う。
競り上がった土壁越しにそれらを投げ込み、俺は、土壁を強化する。
「【付加】――ディフェンス」
バラバラに相手に降り注ぐそれらは、しばらくの時間の後、腹に響く轟音を多重に響かせ、思わず耳を両手で塞ぎ蹲る。土壁に当たり、吹き抜ける黒煙交じり風が煙っぽく、強化を施したはずの土壁が脆くも崩れ去る。
空ける壁の向こうには、折れた刀と散らばるクナイや手裏剣。ただし、持ち主である少年の姿は無い。
「一ダース十二個の爆弾の連鎖爆撃だ。いくら小型でも残りHP位は削れるだろ」
とは言え、あれで与えるダメージが大き過ぎたら、俺まで巻き込まれる。蘇生薬の制作に集中して威力検証してなかったからこんな方法になってしまった。
「お見事。爆弾を盛大に投下か? 派手なオーバーキルだな。あんなの半分で十分なのに。それと今度、パイナップル爆弾でも作ってくれよ。そしたら、コマンダーごっこするから」
「はぁ、もう次の相手か? 休憩させてくれないか?」
「ありゃりゃ。パイナップルの件は無視か。まぁ、先に俺の相手が終わったから次に面白そうな奴を探してお前に決めたんだ」
随分と爽やかな笑みを浮かべる青年。こちらの戦う態勢が整うまで待ってくれているのだろう。俺は、ゆったりとした動作で立ち上がり、相手を観察する。
下半身は緑のジャージのような作りの服で、肩から軽くジャケットを羽織っているだけでその上半身の殆どが露わになっている。システムとしての防具なために装備していれば効果を得られるが、肌を覆っていない所に攻撃を受ければ、そこは他よりダメージが大きい。余り効率的な形状の服装ではない。
顔面や鎧の隙間なんかが、その例と言えよう。
キャラの肌は、浅黒く、体は非常に鍛えられた引き締まった腹筋が見て取れる。髪は、短い金髪。男性の平均身長よりも一回りも大きい背格好と鍛えられた肉体は、細マッチョの美丈夫と言えるだろう。それよりも言えるのは――。
「あんまり、上半身見せんな。それと色気を振り撒くな」
「ちっと、子どもにはキツイか? 悪いな。けど、これが俺スタイルって奴だ。派手だろ?」
それよりも、色気があるのだ。軽薄さのある色気と言うよりも野獣のような格好良い色気だ。女顔と言われる俺としては、ちょっと憧れる。
「名乗るとしようか。俺は【彫金師】のラングレイっていう。そんで、俺の武器は、この体だ」
そう言って構える腕には、固く握られた大きな拳と十指に嵌る指輪。体格に釣り合う太さの指に嵌る無骨な指輪は、まるでメリケンサックの様だ。殴られたら痛そうだ。
「まぁ、俺に合わせたちょっと荒いデザインだが、もっと小奇麗なの作ってやれるぜ」
「俺も【彫金】を持ってる。自分のアクセサリーは、自分で作るさ」
そう言って、俺の指に嵌る自作の指輪を見せれば、相手はにやりと嫌みのない笑みを浮かべる。
初めて作った無骨な鉄のリングも強化を重ね、銀のリングへと変わっている。まぁ、性能としては、最初より幾分か良くなっている。
「良いデザインだ。じゃあ、やろうぜ。勝負ってのは、派手に魅せるパフォーマンスだ」
そう言って、構えたステップを踏む。膝を柔らかく使い、体を上下に揺する。腕を軽く振り、ジャブやフックを交える姿はまるでボクサーのようだ。
対して俺は、包丁片手に、もう片方はボムのマジックジェムを持って相対する。
相手の残りHPは、一割。戦い方もインファイトが中心と考えれば、余計な攻撃を受けてダメージを喰らったのだろう。善くも今の今まで倒されずに残っている。体一つでは、リーチの差で不利だろうに。
だが、非常に楽しそうにシャドウ・ボクシングをしている。体幹はしっかりとブレが無く、しかし、メトロノームの様に揺れる上半身とリズムを取って振るわれる拳は、まるで全身が楽器のようだ。
そう、陽気な音楽を奏でる楽器。
「俺のダンスパーティーに招待だ」
「残念だけど、その招待。辞退しても良いか? 血生臭い舞踏会は、他の奴にしてくれよ」
「そんな小奇麗なもんじゃねぇさ。派手で陽気な武闘会さ。やっぱりダンスは、女を誘わなきゃな。男とは、無言で拳を交えるけど、女は丁寧に扱わないとな」
そう言って、野性味溢れる彼はウィンクをする。全く、ここまで来ると逆に鬱陶しさすら感じるな。もう少し黙ってれば、憧れるような格好良い男なのに。と溜息が漏れる。
休む間もなく行われるPVPは、終わりへと向かっていく。