Sense146
再びログインしたOSOの自身の工房。これからのPVP大会に向けて、インベントリの整理と必要なアイテム、センス構成を選別していく。
所持SP24
【弓Lv41】【長弓Lv18】【鷹の目Lv49】【俊足Lv10】【看破Lv9】【魔道Lv7】【地属性才能Lv23】【付加術Lv30】【調薬Lv43】【料理Lv31】
控え
【合成Lv37】【錬金Lv41】【調教Lv15】【彫金Lv7】【泳ぎLv15】【生産の心得Lv45】【言語学Lv21】【登山Lv13】【毒耐性Lv11】【麻痺耐性Lv6】【眠り耐性Lv6】【呪い耐性Lv11】【魅了耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【気絶耐性Lv6】【怒り耐性Lv1】
センスの構成をチェックしていた時、【料理】センスのレベルが規定値を超えたために【料理人】へと成長が可能だった。決して見落としでは無く、今回に向けて、成長させずに保留にしておいた。
センスを成長させたからと言って必ずしも、強くはない。
センスの持つステータスの上昇率に違いがあるだけで、レベルが下がれば、一時的な弱体化となる。同じように、派生系のセンスだったら、元のセンスは残っているので、逆行して使えば良いのだが、今回は、成長であり、元のセンスが消滅する。
「まぁ、PVPが終わるまでの辛抱かな。後は、必要なアイテムは……」
独り言を呟きながら、生産職としての戦いをするためにインベントリの中を整理する。
ポーション類、自己強化の強化丸薬、補充用の弓矢、状態異常喚起薬の合成矢が各十本、エンチャントストーンは各種二十個、マジックジェムはボムとクレイシールドが各十個、状態異常喚起薬は各種二十本、ダメージポーション三十本、ダイナマイト型とピンポン玉型の小型爆弾は二ダース、閃光弾は五個。
武器は、弓矢と三種の包丁を確認する。
自分の作った、自分でも扱いきれるか知らないアイテムたち。
後に控えるレイドボス討伐を考えて、捻出できるアイテムは、これだけだ。
ポーションや強化丸薬、補充用の弓矢は、以前より調薬、合成を使いストックがあるために大盤振る舞いできるが、状態異常系は、元の状態異常喚起薬を利用するために消費が激しい。
ダメージポーションと小型爆弾、閃光弾に至っては、素材の数が少なく現状のこれがほぼ全て。残っているのは、調合の試作品やデフォルトのバスケットボールサイズの爆弾だ。むしろ、使い辛くて危ない。
俺は、それらのアイテムをインベントリのショートカットを登録して、立ち上がり、腰を僅かに落とす。
右手を僅かに前にして構え、左手を後ろに下げる。体は、斜めのような立ち位置。イメージするのは、右手で弓や包丁を持つ。左手には、何時でもアイテムが取り出せるように。
その態勢から、ポーションを取り出し、また元に戻す。次に丸いビー玉大の茶色い丸薬、矢が単体、石、宝石と手の中に出現してはインベントリに戻し、ダイナマイト型やピンポン玉型の爆弾を手で握る。閃光弾は、ハンドボール程度の大きさのために取り落とさない様に注意しないと。
一通りの動きを確認して俺は、頷きアトリエールを出る。
会場となるのは、夜にPVPを行ったあの近くだ。町に近すぎてモンスターがスポーン(誕生)しない場所のために選ばれた。
そこへの人の流れは、中より外へと向かう人が多い。
だが、その人数もOSOのログイン人数を考えれば、少なく感じる。その理由は、特設スクリーンで町の各所に映像がリンクさせているらしい。今もすれ違う休業中のプレイヤー店舗の店内では、スクリーンが設置され、彼を応援するプレイヤーがその中で食べ物を持ち込んで今か今かと待っていた。
その姿は、さながらサッカーのサポーターのような雰囲気。街頭に設置されたスクリーンを腕を組んで見上げる人や足を止めて、スクリーンの状況を聞いている人が居る。
それを横目で見ながら会場へと足を踏み入れる。
開始まで時間はまだあるが、少しづつ人が集まってきている様子だ。趣向の凝らされた装備や色物装備を手に持って今か今かと始まるのを待っている同輩の人たちへとマギさんとクロードが開始直前のインタビューを行っている。
緊張しているような人を見つけては二人で突撃インタビュー。クロードの真顔でとんでもないボケをしては、マギさんの明るい声で突っ込まれる。その一連の漫才も含めた行動は、参加者や観戦者の緊張を適度に抜き、程よい状態にしている。
しばらくそれらの光景を眺めていたら視線に気がついたのか、マギさんが顔を向ける。続けてクロードも、だ。
俺も小さく会釈すると、様子から自然体と察したのか、マギさんはウィンクを残す。知り合いばかりに関わっているほど暇でもないし、ギルドマスターと個人としての折り合いを付けている様子だった。
「マギさんも大変だよな。に、しても……」
俺がこの会場に足を踏み入れた時から妙に熱っぽい視線を観客席から感じる。また時折、聞きたくない幻聴が観客席から……。
「このユンさんと同じ衣装で同じようにエールを送る!」
「「「オッス!」」
「気合入れろ!」
「「「オッスッ!!」」」
「……」
まるで応援合戦さながらの必死さ。応援団長服は、俺が午前の時に着た奴と似ている気がするが……。と言うか、同じだ。
その応援合戦に呼応するように、街の各所でもPVP前の歓声が上がったり、会場の大声に埋もれないように特定のプレイヤーの名前を叫び、その人らしく生産者が観客席へと手を振ってアピールしている。
応援合戦も更にピークを迎えて、楽器系のセンスを持つ者が音楽を奏で、大男が自らの筋肉を誇示するために前面に立ちポージングしたり、コスプレ的なチアガールが恥ずかしげにボンボンを振っている。
「PVPと関係ないのにまるで前哨戦でも始めているようだな」
これは、下手をしたら殴り合いでも始まりそうだな。とか苦笑いを浮かべていると、それは始まった。
『ああっ、あー、マイクテス、マイクテス。こちらクロード。会場、感度は良好か?』
「ばっちり!」「感度良好であります!」「問題ないよ!」
各所で上がる声にスクリーン越しのクロードが満足げに頷いている。
『これよりスクリーンを会場に戻す。以降は、俺たちの説明、実況解説が音声で流れる』
『じゃあ、まずは――生産者のみなさん。ギルド主催のPVP・マイスタークラスに出場してくれてありがとう』
マギさんの開会の言葉だ。その声にこの場に集まった百五十を超える生産職が思い思いの言葉をスクリーンに投げ返す。
『この場に居ない生産職。戦闘を得意としない生産職。またリアル、ネット内外の様々な理由でこの舞台に立てなかった生産職の皆も見て楽しさを共有してほしいと思う。これは、生産職の優劣を決める物ではなく、自信を持って作った物への愛を披露する場です。負けたからと言って落ち込む必要はない。勝ったからと言って誇る場所でもない。ただお祭り騒ぎを楽しめばいい!』
マギさんの声に様々な反応を示す。続いて、クロードが言葉を引き継ぎ、細かい連絡事項を伝えてくる。
『また、明日の正午過ぎには、戦闘職向けのPVP・バトラークラス。明日の同じ時間に混合のPVP・マスタークラスを行う。またPVPのルールを事前に発表しなかったのは対策を取らせないためもあるが、ルールの設定に難航したのも理由だ』
その一言に場がざわめくが気にせずスクリーンの向こう側で話し続ける。
『ルールによってプレイヤーのセンス構成や武器によって状況が左右されてしまう。ダメージを一律にカウントする形式では、攻撃力は低いが手数の多い人が有利になる。ダメージ量で戦うなら魔法など。時間制限までのHP残量で決めるなら回復手段を持ち込んだ者が……様々なルールを検討した結果、完全なルールによる差を均一には出来なかった事を謝罪したい』
軽く頭を下げる光景に誰もが口を閉ざす。悩んで、誰もが楽しめるように工夫をした結果、無理だったことを素直に認めた。後で、文句が出ない様に。そして、先ほどのマギさんの言葉がここに来て思い出される。
――『生産職の優劣を決める物ではない』。
ルール自体が不平等ではあるが、その理念を持っていると宣言している。
全く、細かい所まで考えて、大変だったんだろうな。と思う。
それからPVPのルールの説明が始まった。
バトル形式は、オーラバトルをベースとしたバトルロワイアル形式。オーラに攻撃を受ける度にダメージ分HPが減少。一定量のダメージは、追撃防止のために無敵時間が発生する。
HPが無くなったプレイヤーはフィールド内から強制排出。また、回復手段は全て禁止となっている。そのために、インベントリのポーション類やMPポーション、回復魔法が使用にロックが掛かっている様子だ。
だが、他の強化丸薬や状態異常薬などは、無事であることにホッとする。
俺のスキルや魔法の使用状況も手早く確認したが、問題は回復の使用禁止だけだった。
『さぁ、皆々の者。準備は良いか? では、構え!』
クロードの言葉と共に、スクリーン上部にカウントが表示される。30の数字は、小数点を消費してどんどんと数を減らす。
10を下回ると赤く色づき、0になった瞬間、甲高いブザーの音が戦いの合図を鳴らす。
「「「うらぁー、らららっ!」」」
「……」
大声を張り上げ、メイスと木と鉄の複合盾を持って突撃するバイキングスタイルの中年と子どもの身長を超えるタワーシールドを掲げながらこちらも突撃するフルプレートの騎士が互いに激突し、反発するように倒れる。
他にも、始まる前まで隣の人と談笑していた男女は、互いに親の仇でも取るような鬼気迫る雰囲気の中で自分の作りし得物を手に殺しに掛かっている。
余りに直前の雰囲気から一転して殺伐とした空間に放心したのは俺以外にも居たようだ。
「その首貰った!」
「うわっ!」
斜め前からの不意打ち。これに気が付けたのは【看破】のセンスの影響だろう。仰け反るような格好で回避するが、達人のような紙一重の避けではない。逃げ腰な格好である。
「くくくっ、我が愛鎌が血に飢えておるわ。くくくっ」
「鎌って、投鎌か。またコアなチョイスだな」
相手が話している間にも弓を構え、矢を番えて相手を見る。会話で少しでも相手の攻撃を遅らせたいのだが、周囲では同じような乱戦。あぶれた人が何時俺を多人数で襲ってくるか分からない。
「おおっ、女子は俺の鎌に対する愛を一部でも理解してくれるとは! 嬉しい日だ」
「いや、女子じゃねぇし。てか、鎌って大体大鎌や鎖鎌が多いと思うけど。まぁ、戦闘に慣れてない生産職が使う分には、扱いやすいのか」
左右の鎌を順手で構える目の前の男は、俺の鎌への分析を満足そうに頷き――
「嬉しいな。俺の鎌をそこまで理解してくれるなんて――じゃあ、往生せいやっ!」
「だから、何でそんなにテンションの差が激しいんだよ!」
俺は、非難にも似た声を上げて回避行動に移る。
だが、最初の不意打ちは、俺の不注意だがよくよく見れば、この男の動きは非常に直線的だ。鎌を振る前に、一度、後ろに引いてから腕のスナップを利かせて振り抜くために早く感じるが、速さに目が慣れれば怖くは無い。非常に単調な攻撃だ。
口では、非常に物騒な感じだが、雰囲気から本当に悪意を持っているようには感じない。
だからと言って、何時までも回避して、他の人に群がられたら捌けるとは思えない。
「足元が疎か!」
大きく構えを取った瞬間、俺もバックステップで後退し、番えたままの矢を引き、がら空きの足元へと矢を放つ。
狙いは、太もも。突き刺さる矢は、大振りの構えから振り抜こうと踏み出した足に突き刺さり、出鼻を挫く。
相手のオーラが揺らぎ、無敵時間が生まれる。二度も同じ失敗はしない。相手は、突き刺さった矢を無視して更に踏み出してくるのを予想して、俺は素早く踵を返し、逃げる。
「相手をしろ! 俺の鎌で切らせろ!」
「そんな猟奇的な誘いは要らん! じゃあな!」
軽く言葉を置いて、取り出した速度のエンチャントストーンを起動させて、逃げ足を速める。
敵対者だらけの空間を当ても無く、逃げる。これから先は遭遇戦の連続。なるべく死角を減らすために、頭を動かしながら、人の間を縫って進む。
ここまで来るのに長かった。まぁ、自業自得ですけど