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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
143/359

Sense143

 俺たちが案内された場所は、オークション会場の一般席より一段高く設置された個室のブース。出品者向けの少し広めのスペースでありその下に広がる一般席は、映画館の座席のように狭く並んでいる反面、こちらは貴賓席のようにゆったりとしている。

 この場に案内されて、驚きと物珍しさでそわそわとしているアルとライナの二人を微笑ましく思いながらも、出品目録を確認する。


 今回出されるアイテムは、消耗品やレア素材から始まり、アクセサリーや防具、武器が大まかな順番となっている。

 出されるアイテムは、個人の生産品やパーティーが集めた素材、そして、夏のキャンプイベントで発生したユニークアイテムなどが多く集まっている。

 オークションが始まるのを待ち望んでいる人の言葉を断片的に聞きながら、俺も始まるまでゆったりとした心持ちで居る。


『……やっぱり、魔法の調味料って必要? 意外と調味料系の食材が……』『私は、調理器具の方が欲しいかな?』『マギとクロード、それとリーリーがカスタマイズ済みの武器を出している……』『キャンプイベントで出た対アンデッド装備どうする? レイドボスの対策として』『ギルドとしては、強化素材を纏まった量欲しいからな……』『蘇生薬が完成したって。どうする? 買う?』『ああ、このアクセサリーセットは200万まで出せるけど?』『なぁ、俺は、このセット品の中のこれが欲しいんだけど、残りは持ってるんだ。だから共同購入しないか?』『うーん。まぁ、今回は欲しい物は無いから場の雰囲気を楽しみますか』『うひひっ、さぁて、売れたら幾らになるかな。売れたら、生産施設の向上とか店舗の改造も……』


 皆、思い思いの事を口にして、今か今かと待ち望んでいる。


「ねぇ、師匠。あなたは、何か欲しい物は無いの? 武器とか防具?」

「ん? 別に無いぞ。雰囲気だけ楽しめれば、区切りの良い所で抜けるつもりだし」

「「ええっ……」」


 最後まで見ても昼飯の準備には間に合うが、そこまで付き合うつもりはない。ただ、ライナとアルの視線が、勿体ない、最後まで居ようよ。という意味が込められているために、少し唸る。


「じゃあ、逆に金があったら何が欲しいんだ?」

「そんなの考えている訳ないじゃない。私は、アルの付き添いだし」

「想像するだけなら、タダだろ」

「うーん。僕は、ユニークアイテムかな? ネットで調べたユニークアイテムに、一日一回三十分間、特定のステータスを1.2倍させるアクセサリーとか、特定種族に対するメタな武器とか」

「まぁ、現実的だな。そのアクセサリーのシリーズは、一個十万Gから。セットで五十万からのスタートだ」


 オークションの出品表を見ながら呟く。

 アルの言ったアクセサリーは、恩恵の腕輪シリーズと呼ばれる特定ステータスを一時的に上昇させるアイテムだ。

 ATK、DFE、INT、MIND、SPEED、DEX、LUCKの七種。入手方法は、難易度のそこそこ高いクエストの報酬で低確率で入手できるアイテムだ。何度も挑戦できるが、パーティー推奨で移動や戦闘などを含めて二日間は掛かる。その上での低確率のために、狙って手に入れるのは難しい。

 ステータスが1.2倍増加すると気持ち変化が実感できるために、人気は高い。その反面、アクセサリーとしての補正値は無く、ステータスの一時強化の追加効果のみ。また、一度ステータスアップの効果を使うと装備の変更に二十四時間、丸一日の時間が必要になる。

 一時の強化を得る反面、アクセサリーの装備枠を減らす事にもなるために、長時間の戦闘よりも毎日、短い時間プレイするプレイヤー向けかもしれない。

 装備が変更できないデメリットは、メリットの乱用を防止するためのバランス調整と思えば、本当に極端な性能のユニーク品に比べれば、まだ優しく感じる。


「わ、私!? えっと……色々な服?」

「……ライナ」

「……ライちゃん」

「何よ! そんな目で見ないでよ! 私だって、能力優先でこの装備にしたけど、戦う時以外は、可愛い服で居たいわよ。アルは、そう言う服について頓着しないんだから!」

「だって、ライちゃん。服とか選ぶのに時間掛かるでしょ? あーでもない。こうでもないって」

「ううっ……何時か、絶対お金貯めて、自分の好きな装備を買うんだから」

「はいはい。服の試着だけならコスプレ喫茶みたいな所もあるから。そこにでも行ってこい」


 勿論、クロードのコムネスティー喫茶洋服店の事だ。喫茶店の奥のカウンターで色々な種類の服の試着が出来る。難点と言えば、少し色物な服と人の目を集めやすい点だ。


「ほらほら、オークションが始まるぞ。静かに」


 会場の光源が僅かに落とされ、オークションの檀上にスポットライトが当てられる。その壇上には、一人の男が司会として立ち、会場全体に声を響かせている。


 派手なタキシードに身を包んだ司会者が、大仰な言葉を並べて、オークションは始まる。

 最初は、素材系や消耗品の類からのオークションで特別高い値段を叩き出すという事無く進んでいく。

 ただし、後ろの方では――。


「続いては、本日の消耗品のもう一つの目玉! 市場に出回る蘇生アイテム。それのどれもが効果の低い物ばかり。そんな中で本日用意したのは、皆さん知っての通りOSOの良心こと【保母さん】の生成した蘇生薬。三本用意されております。それぞれバラでの競り。では一本目――10万から」


『20万!』


 おいおい、いきなり飛ばし過ぎだろ。それよりも司会者。出品者をどうして二つ名で呼ぶ。そして、保母さんと呼ぶな。

 俺が内心ツッコミをしている間にも、蘇生薬の値段はどんどん釣り上げられていく。


 30、35、37万、37万とんで100。おっと、オークションのルール上、10万台での最低上げ幅は、1万からで自動繰上げの38万、一気に40、42、49。他には、居ない、居ないぞ。49万で落札!


 最初の一本目を競り落としたのは、どこかのギルドのプレイヤーだろうか。大きく手を振って、自身が落札したことをアピールする。

 続いて、二本目は、47万。ここで前の落札価格を超えることが無く、値段を落とした。

 三本目は、これが最後という事で、オークションは、中年男性と若い女性の二人による競り合いとなり、56万まで上がった。

 最終的に競り落としたのは、中年男性。彼は、転売ギルドの幹部らしい。まぁ、転売されるのは、良い気はしないが、俺が言っても仕方がないだろう。もしかしたら、これを機に何か新しくルールを追加するかもしれない。


 最終的に、蘇生薬三本――152万G。暗算でその数字に辿り着いた瞬間、軽い眩暈を感じた。また、メニューの所持金欄にもしっかりと入金されていたために、落札直後にちゃんとアイテムが引き渡されたのだろう。自動入金されたお金の額を二度見してしまう。


 あー、これは、町の外には出たくないな。PKされたら所持金の半分が相手に移るから極力お金は持たない方針で……。


「師匠。凄い競り合いでしたね」

「そ、そうだな。見てて眩暈が……」

「ホント。場の熱気に当てられるような凄さがあったわね。これでまだ三分の一しか終わってないんだもの。凄いわ」


 俺としては、自分の出品したアイテムってこんなに評価されるの? って言う気持ちと一度に大金が手に入った事で緊張して冷汗が止まらない。今すぐにでもどこかに預けたい。


「最後の蘇生薬の出品者ってYUNってプレイヤー。あの一瞬で凄い儲けたんだろうな。僕ら二人が五日間で三万弱稼ぐ一方で、たった数分でその五十倍」

「……そうだな」

「でも、なんで【保母さん】? 生産職と何の関係が? 師匠は知ってるの?」

「……しらん」

 

 アルとライナの言葉に明確な回答を返せない。なんせ二人の話題にする人物は、目の前に居るのですから。なんだか自分の事を話されるとむず痒い思いが浮かぶ。

 

「ほら、次は防具やアクセサリーのオークションが始まるぞ」


 しばしのクールタイムが設けられてから再開されるオークション。先ほどのネタアイテムや趣味関連や消耗品とは違い、より多くの人が競に参加している。


『続いては、状態異常を起こす八つの指輪。これを装備して対応するセンスを装備するだけである程度の状態異常耐性が得られるレベリングアイテム。八つセットの販売――二十万から』


 俺も持って居る指輪と同じだ。夏のキャンプイベントでは、非常に危ない取扱い注意のアイテムとして扱われていた。その時は、用途が無いアイテムだったから安いレートで交換して貰ったために全種類が揃っているが、今は状況も違うし、状態異常の多いダンジョンが発見されて耐性への評価が上がったその結果――。


「――181万、183万! 最後に、184万! 他に居ませんね! では、184万で落札!」


 ぶふっ! 184万。あのアクセサリーだけでそれだけの価値か。今回競り落としたのは、中堅規模のギルドで複数人による共同購入のようだ。

 俺の予想だが、ギルドの共有アイテムとしてギルドメンバーに指輪を貸し出して、状態異常の耐性センスのレベル上げを容易にするのが目的かもしれない。184万でレベル上げの施設を作るのと同じと考えれば随分と安い買い物にも思える。


 他、カスタマイズの防具やアクセサリーの出品。クロードとリーリーも互いにコラボして出品。全身装備の魔法使いのカスタマイズ済み装備を男性向けと女性向けデザインで販売。クロードの手がけた男性向けがCS№32、女性向けがCS№33とクロードシリーズという恥ずかしい名を冠していたが、それが一種のステータスと認知されているようで、狙っている人の熱狂が熱い。

 スタートが70万だったものが、220万超えた。

 防具の六か所とカスタマイズされた汎用性の高い杖で7アイテム。スタート時の値段が安く感じるが、最終的にそれだけの値段にまで跳ね上がった事に驚きだ。


 武器部門のオークションも白熱。今回のオークションの出品傾向は、新作と銀製の武器が中心だ。

 新作は、個人向け。そして、銀製の武器は、型打ちの武器をギルドやパーティー単位の数を揃えている。特に、アンデッド対策。アンデッドへのダメージ増加が見込める銀装備は、多くの人が共同購入という形で行っている。


「どれも凄いね。特にトップ環境を走る生産職の人のは……」

「可愛かったな。私もあんな服着てみたいかも」


 デザインの模倣だけなら他の生産職に頼めば出来るだろう。とは思わない。

 オークションも最後に近づいてきた。


『成形が現状難しいと言われるブルライト鋼を使った武器を見事に完成。この日、鍛冶師・マギが出品したのは、これだ! ブルライト鋼を使って打ち上げられた長槍。金属自体に水属性の追加効果を持ち、高い物理攻撃と耐久性を誇る一品。開始価格は、40万から――』


 マギさんの打ったブルライト製の武器か。俺の持つ解体包丁と同じような蒼の輝きを放つ一本の槍。尖端が螺旋状に捩じれ、三つ又に分かれた武器は、海神・ポセイドンが掲げるような神聖な武器を連想させる。


「さて、あと三つ。これで……っ!?」


 競りが始まる中で俺は、そいつを見つけた。継ぎ接ぎ感のある装備とは反対に、絶対に手に入れる気概の持った男。先ほどまでオークションを蹴ってまで追おうと思った男がそこで競り合いに参加している。


『41万』『42』『43』……


 互いに牽制のように少しずつ値段を釣り上げていく。その間に、なぜあの男が居るのか、なぜ競りに参加しているのかを考える。


 そもそも外見だけでレベルが判断できるのか、継ぎ接ぎ染みた装備で難癖付ける人が居るのか。あの男が装備するには、あのブルライト製の槍は、要求されるステータスが足りないのではないだろうか。

 なら、誰かの代理。そうだ、装備の代理購入なら納得いく。


『68万』『69万』……


 その考えに辿り着いて俺が願ったのは、どうかあの男に競り落とされない事だけだ。マギさんの武器が生産職共通の敵と認識されているような人の手に渡るのは、我慢ならない。

 だからと言って、ここで俺がオークションの場を乱すのは、同じ生産職としてこの日を待ち望んだのを壊すことになるんじゃないだろうか。

 手に汗握る光景に、俺は自分の手を強く握りしめて、心の中で祈り続ける。


『122万!』『123万!』


 あの男ともう一人、銀色のプレートメイルの鎧と布の混合装備した人の一騎打ち。互いの後姿を見守りながら、オークションの行く末を見守る。


 だが、直ぐに終わりを告げる。


『出ました! 最終価格は、124万! インフレしている様な気がしますが、単品としては最高額。落札が確定しました!』


 競りに勝った。プレートメイルの金属と布の混合装備の騎士然とした人が競り勝った。

 競り負けた男の悔しそうな顔を見て、安堵の息が漏れる。

 

「これも凄かった! 何あの最後の一騎打ち。片や淡々と値を釣り上げて、もう一人は、苦しそうに値を上げていく姿。凄かった。ライちゃんもそう思うよね」

「そうね。息をするのも忘れていたかも……」

「……」


 俺としては、二人とは、全く別の意味で緊張していた。だが、その緊張の糸も途切れたのか、その後のオークションの流れがどうしても頭に入らない。

 気がついたら、全てが終わり、参加者が少しずつ席を離れている所だった。ある人は、目的のアイテムが手に入らずに落胆し、またある人は、落札者に直接交渉を持ちかける。またある人は、次回のオークションに期待を持っている。


 様々な人が居る中で、あの取引男もプレートメイルの落札者も既にいない。


「見れて良かった。複数人の合同購入や単独でお金沢山持ってるんだから。僕らもまた頑張らないと」

「うーん。ギルドに入ることも視野に入れた方が良いのかしら」


 二人してオークションの状況にきゃっきゃと興奮の色の混ぜた声で話している。


「ほら、そろそろ出るぞ。俺は、これから昼飯に行くからログアウトする。お前らは?」

「私たちも一度休憩挟んでからまた」

「師匠。師匠は、何かイベントに参加しないんですか? 例えばPVPとかに」


 ……PVPの参加。二人の言葉に参加する。という言葉が喉まで出かかったが何とか押し戻す。

 俺が参加する生産職向けのマイスタークラスは、ユンとして参加する。二人にマスクやマントを外した姿を見せるつもりはない。だから、雲隠れ中の俺は、参加していない。


「参加しない。元々、俺は弱いからな」

「そう、なんですか。知り合いが一人でも参加すれば、それだけ見るのに集中できると思ったんですけど」

「ただ、当日は飛び入りも可能なはずだ。まぁ、気分が乗ったら」


 それだけ言うと二人の表情は、心なしか嬉しそうになる。何ともいえないむず痒さを覚え、逃げるように二人と別れてログアウトする。


 

オークション描写が難しい。

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