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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
142/359

Sense142

 人を避けるように、目立たない裏路地へと一本入れば、人の足音や話し声が遠くに聞こえる。そのまま、音から離れるように歩けば、NPCの集まる小さな広間とベンチへと辿り着く。

 丸太を縦に切って作られた簡素なベンチに腰を掛け、溜息を吐き出す。

 今日の予定は、オークション。そして、夕方に生産職限定のPVP・マイスタークラス。

 明日は、一日を通して、一番盛り上がるであろう戦闘職のバトラークラスと総合部門であるマスタークラスのPVPが予定されている。俺は、マイスターのみの参加予定だから、明日は見ることに専念しよう。


「今は、何も考えずに……」


 そう言えば、まだフィオルさんの創作スイーツが一パック残っていた。

 周囲には誰も居ないし、空腹度も僅かに減っている。今の内に腹ごしらえをしよう。

 取り出した包みを広げると、収めた時と全く同じ状態で出てきた。それを爪楊枝で突き刺し、口許に持って行こうとするが、マスクの存在を忘れていたために、マスクの下から食べる。

 危うく、マスクとチョコレートソースが接触するところだった。

 創作スイーツの味は、丸型のベビーカステラのような感じだ。中身は、イチゴジャムでチョコレートソースの甘味とジャムの酸味が甘さ控えめの生地とよく合う。

 時折、購入しては自分で作るハーブティーも取出し、先ほどの溜息とは違う息が零れる。


「ベンチにお菓子とお茶を持ち込んで休んでいる仮面の男ってどう見られるんだろうか?」


 まぁ、決して好意的では無いにしろ。奇異の目で見られそうだ。だからこそ、裏路地の人の居ない場所を選んだんだ。

 そして、トラブルという物も、常に人の居ない場所へと集中するものだ。


「――ら、約束の――」

「――確か、うけ――」


 遠くで聞こえる喧騒とは違う。どこかくぐもりながらも断片的に聞こえる内容。怪しい取引現場のような会話に好奇心が刺激される。

 一本隣の路地。左右の建物が迫り来るような形で影を落とす場所。マスク越しに静かに見ていた。


「――他にも、来るぞ」

「ああ、ポーション類は、しばらくは大丈夫だろう。約束通り、手数料と俺らにとってはゴミアイテムだ」

「全く。バレた時のリスクが大きいっての。今回限りで頼むぞ」

「馬鹿言うな。お尋ね者同然の俺たちに手を貸した時点で、お前も共犯だろ」

「ひでぇ……。まぁ、この装備ならスタートダッシュする分には、悪くないだろ」

「お前はそれで良いさ。俺たちは、俺たちでやるだけさ」


 相手の会話を聞く限り、取引相手は、ギルド【獄炎隊】か【フォッシュ・ハウンド】のどちらかだろう。

 スタートダッシュ、という単語から考えるに取引相手は、第二陣のプレイヤー。

 ただ、情報が足りないな。奴らが別れた。第二陣プレイヤーがこっちに来た。

 慌てて、路地の死角へと移動して、その後を尾行する。

 防具の【認識阻害】が働いたのか、そのまま気づかれずに素通りされる。その後ろ姿と路地の向こう側に居るプレイヤーを交互に見て、どちらを追うか、考える。


 第二陣の方は、利害で動いている面が有りそうだ。単独だから上手く立ち回れば、情報が手に入りそうだ。

 そしてギルド側は、直接何をするか、を調べることが出来るだろうが、複数人のプレイヤーを相手にする。こちらはリスクが大きい。


「まぁ、安全安心の方へと行くかな」


 話を聞いたら、即PKって感じじゃなさそうな。第二陣のプレイヤーの後を付ける。

 真っ直ぐに、表通りの人の波に入り込みそうだったために、少し足を速めて、後を追う。

 人の中に紛れたために、少し見辛くなった。こういう時は、自分の身長がもう少しあれば、高い視点から見えるのに。と思ってしまう。

 これ以上見失うのは、不味いと思い、更に足を速めて、路地裏から飛び出した――。


「――きゃっ!? 痛っ! いきなり飛び出さないでよ!」

「大丈夫。ライちゃん? って、もしかして師匠?」

「あ、ああ。すまない。余所見をしていた。久しぶりだな」


 ぶつかった人物は、まぁこれもまた見知った人物。

 レティーアと良いこの双子の兄妹と良い。今日は、何かと縁のある日だ。首を巡らして、追っていたプレイヤーを探すが、もう人の中に紛れてしまい、完全に見失ってしまった。


「ううっ……折角、今まで稼いだお金の余りで買ったジュースが」

「えっと……ライちゃん。僕の分けてあげるから」

「なんか、本当にスマン。買い直すぞ」

「ありがと」

 

 道端で打ちひしがれているライナとその視線の先には、落ちたカップと零れるジュース。

 俺がぶつかったのが原因なために、素直に弁償する。

 ライナとアルを連れて、同じジュースを買い直す。この時点で、もう追う事は諦めた。


「シショー。何をそんなに急いでいたのよ」

「いや、少し慌てていてな」


 まぁ、嘘は言っていない。人ごみに入って見失いそうになったから慌てたら、衝突して完全に見失った。まぁ、なんか、怪しい動きがあった。って事はこっそりメールなんかで生産職の知り合いに送った。まぁ、返事は後で貰うとしよう。


「それにしても、二人とも。大分装備が変わったな」

「ふふん。そうでしょ! 今まで二人でずっと狩りを続けてコツコツ貯めたお金でさっき買ったのよ!」


 嬉しそうに、自分の腕に着けられたバックラーを嬉しそうに撫でる。そして、武器は、小回りが利く短槍へと変えたようだ。防具に関しては、藍色に染められた皮鎧。女の子が着るには、ちょっと武骨なデザインだが能力優先ならば別にとやかく言う必要はないだろう。

 アルの方は、完全に防具は、後回し。年季の入ったような杖に首には、INTの基礎値が高い種類のアクセサリー。

 完全に、魔法使いの道を歩むようだ。


「でも、見たかった物も見れなくて残念です」

「見たかったもの?」

「オークションよ。オークション。どんな風に行われるかとか、どういうアイテムが幾らかとか、アルが見たがってたんだけどね」


 ちょっと視線を逸らして、頬を爪で掻くライナ。


「ライちゃんの装備が予算よりちょっと高かったからオークション見学のための費用を使ったんですよ。だから、次の機会にお預けです」

「オークションが先でも良いって言ったけど。アルが後になってなかったら困る。って買ったのよ。お金が戻ってくるんだし」

「あー、たしか。そんなルールだったな」


 一通り、クロ―ドからレクチャーを受けたオークションの使い方は、入場料の1万G支払い、オークション会場に入る。そこで、一度でも手を上げれば、そのまま入場料は、払い戻される。一度も手を上げずに過ごした場合、支払った1万Gは戻ってこない。いわば、オークションの場を活性化させるための方法だ。

 入場で一万払い、一度でも手を上げれば、戻ってくるなら、無理にでも手を上げる。すると最低入札価格は、上がる寸法だ。

 手が多く上がることで、場が盛り上がり、活性化する。

 他にも、値段の釣り上げ方の細かいルールは、その場でもNPCから聞けるためにその時は聞き流した。

 そして、入場には、一つ。特別なルールがある。


「なら、俺と一緒に入るか?」

「シショー。哀れに思って入場料を自分が出すとか言ったら怒るわよ」


 ジト目で睨んでくるライナ。別にそんな事は無いが、先輩面をすることになっているのは、事実だ。


「入場のもう一つのルール。出品者を含むパーティー六名までは、出品側で参加可能だ」


 これは、個人の生産職ではなく、ギルドやパーティー向けのルールだ。パーティーやギルドで保有する共有している強化素材などのボスのレアドロップやイベントでのユニークアイテムを売る場合、関係者がその売り買いの現場を見ることが出来るように、としたルールだ。勿論、観戦以外にも入札の参加も許されている。


「と、こういう出品者向けのルールもある。今回はそれを使って入る」

「あー、師匠って生産職だったわね。わー、凄い。ポーションの一円オークション?」

「ライちゃん、声に感情籠ってないよ。例え、安いアイテムでも出店すれば、入場料を払ったのと同じなんだから」

「お前ら……。俺を何だと思っている」


 そんなどこぞのネットオークションの最低価格開始なんて……。ギルド側と言うよりクロードが即効弾きそうだ。


「お前らの俺への認識がどういう物か……小一時間問い詰めたい気分だ。で、どうする? 行くか?」

「えっと……その反応は、ホントにホント?」

「だから、出展するからその様子見も兼ねて行くんだ」

「行きます! こういうのを渡りに船って言うんだよね。ライちゃん」

「アル……変わり身早いわね。呆れているわよ」


 いや、お前らが最初に疑って掛かったからだ。とは言え、この反応は案外普通なのかもしれない。

 ネット上では、いくらでも虚言を吐けるし、自分をリアル以上に着飾ることも出来る。

 逆に、自身のキャラも着飾る事が出来る。

 実態の伴わない虚飾塗れって事もあるなら、相手を疑うのも必要という事だろうか。甘い事を言う奴ほど信用するな。と言う事だろうか。


「まぁ、行くとするか」


 別に欲しい物は、特にないが、アクセサリーなどは今後、作成するときに、能力やデザインなどを参考にしたい。

 目の保養という意味では、アルやライナと目的は同じだろうか。

 俺たちは、大通りの一番目立つ所にある生産ギルドへと辿り着いた。


 周囲の建物の倍の大きさの三階建ての建物は朱塗りの柱と看板。少し品のある細部の作りなどは、構想から制作、設立まで数か月と言う時間とあり得ないほどのゲーム通貨が使用された。

 まずは、設置場所を決める。ギルドの拠点であるギルドルームは、基本、ゲーム特有の質量保存無視の亜空間が広がっているために普通の家程度の外見だが、見た目から拘り一番目立つ場所の建物三軒をレンタルから買い取り、俺の【アトリエール】建設と同じような建設クエストを発生させて、三軒全てを更地にして、その上に作り上げる。

 そこまでに一人の所持金では、賄いきれないほどの通貨が動き、設立された目立つ外部。中身は、より凄い。

 最大限まで亜空間が拡張されたギルドルーム。外部の受付カウンターでは、NPCが忙しなく働き、素材や商品の売買を行っている。また個人で生産設備が間に合わない人のための共同生産所なら誰でも生産が行える場所だ。ただ設備自体は低いランクの物である程度、自分で稼げたなら後は自分で揃えて貰う。いわば、生産の体験や初心者支援だ。

 そして、二階は、亜空間が広がるオークション会場。三階が会議室などの多目的施設。


 その姿に圧倒される二人は、口を広げて見上げている。


 現実では、この大きさの建物は別に不思議じゃないだろうに。もっとも、建物の外見と釣り合わない数の人間が出入りする様子を見ると、違和感は感じなくは無い。


「ほら、何時までも惚けてないで、入るぞ」

「「あっ! ハイ!」」


 まぁ、また入り口から中に入って外観と内部の差にもう一度惚け、オークション会場に入る時と合計二回は、立ち止まった姿に、マスク下で苦笑を浮かべた。



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