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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
136/359

Sense136

 冷静に考えてみれば、俺は、自分で自分の首を絞める行動を選択し、ベッドの上で悶々としていた。

 まるで、クロードの掌で踊るような滑稽さに、自分自身に嫌気が差す。それでも朝はやってくる。


「お兄ちゃん、朝食は! お昼は!? 夕飯は」

「朝食は、トーストと目玉焼き、サラダ。昼は、ラーメン、焼き豚、メンマに野菜がトッピング。夕飯は、母さんが作ってくれる。昼は、味噌と醤油どっちが良い?」


 取り出したのは、同じメーカーの味噌と醤油ラーメン。なお、残った焼き豚は、細かく切って明日のチャーハンの具にする予定だ。ちょっと豪勢になる。


「ラーメン、醤油!」

「じゃあ、俺は味噌な。作る時、別々だと面倒だから、一時半に一度ログアウトしてくれ」

「ははっふぁ!」

「口に食べ物入れて喋るな」

「んっ、ご馳走様! じゃあ」


 そう言って、朝食の食器をシンクの中に放り込んで、二階へと駆け上がる。

 どうして、そこまでテンションを上げられるのか、開始までまだ時間があるのに。反対に、俺の気持ちは自然と後ろ向きになってしまう。


「はぁ、そこまで盛り上がるものか?」


 一人呟きながら、食器を洗い、片付けていく。掃除も洗濯もこなしていき、開幕時間が迫る。

 開幕は、九時半。今は、その三十分前、もう準備を始めている人もいるだろうし、ログインしてしまうか。と思う。

 俺は、VRギアを装着して、ベッドに寝そべり、美羽の後を追うように、ログインする。


 降り立つのは、何時もの工房部。そこから店舗部に顔を出すと、既に外の賑わいが聞こえてきた。

 好奇心に誘われて、一度外へ出てみれば、通りには普段よりも多くの賑わいを見ることが出来た。これほどの人が集まったのを見たのは、OSOの正式稼働日の初ログイン直後だ。


「人多いな。もう、こんなに集まってるなら、開幕待つ事も無く始まってるだろうな」


 俺は、一人苦笑を浮かべて、店の中へと戻る。

 キョウコさんには、アトリエールの今日と明日の二日を臨時休業と伝え、俺と召喚MOBのリゥイとザクロは、町の中心部へと飛び出す。勿論、マスクとマントを装備して、顔や色を隠した状態で、だ。

 幼獣のリゥイたちも、幻を利用した隠蔽・偽装で色や尻尾を隠し、目立たないようになって貰った。

 度々面倒に巻き込まれたくないのだ。


 早速、中央広場へと跳んだが、人が多くて、少し歩き辛い。人の壁を少し強引に抜けて出た先は、露店が左右に並び、開幕前だと言うのに積極的に人に声を掛けていた。

 まるで、日曜市のような活気。並んでいる物も雑多で、それぞれが興味のある物、興味のある場所に集まっては離れていく。

 使役MOBを引き連れる俺に視線が集まるが、直ぐに離れる人の中を進み、目に留まった露店へと声を掛ける。


「なぁ、開始前なのに物売っていて良いのか?」

「いらっしゃい。問題ないさ。開始時刻ってのは、路上パフォーマンスとか各所のイベントが始まる合図みたいなもんさ。売ってる奴は、朝六時から売ってるし、まぁ、早々に商品が捌ければ、売れた金でゆるりとオークションでも……って甘い考えだよ」


 片膝立てた座り方の男は、そう言いながら、楽しそうに周囲を眺めている。男の売る物は、見た目、キワモノのような武器が並んでいる。彼が鍛冶師なのは分かるのだが、その中で逆に目立つごく普通のナイフ、長剣、細剣、斧、槍など。


「おいおい、これとこれ、それからそっちの武器。他とは別の素材使ってるだろ」


 値段に合わない装備。見栄えは、全く普通なのだが、鉄装備だろう。始めたばかりのプレイヤーでも、鉄装備レベルならステータスに下方修正が掛からない場合がある。良く見れば、ここには、重量系の武器は置かれておらず、重い装備として分類される斧は、軽く扱える手斧の部類だ。

 他のキワモノは、カラーリングで見栄え重視だが、その実、銅装備。鉄と並ぶには性能に差がある。それが同じ値段。


「良く見てる。っか。素材を知ることが出来るって事は、同業か?」


 俺の奇異な姿にも特に何を言わず、使役MOBのリゥイとザクロを見たために、調教師だと思ったのだろう。


「まぁ、薬草系から始めているな。それに、知り合いに鉱石系に強い人がいるんで、そこそこ目にしている」

「別分野の同業か。そこそこやってるなら、お前には必要ないだろ」


 必要ない。と言われて何となく意味を理解したが、口は悪いが、こういう天邪鬼な奴は、俺は嫌いじゃない。


「お前も良い性格してるじゃないか。安い値段で売る武器の中に幾つか、鉄製の良い奴混ぜて」


 マスク越しでの皮肉に対して、意地の悪い笑みを浮かべて、俺の言葉に乗ってくる。


「もっと言うなら、見た目が派手な装備で苦戦する姿を想像すると滑稽だろ? その反対に、垢抜けない田舎冒険者っぽい奴らがスバスバ斬っていくギャップが面白いだろ。そういう、絵を想像して一人ほくそ笑んでるだけ。ただの自己満足さ」

「けど、良いのか? 普通の相場より安いだろ」


 ここに並んでいるのは、二千や三千で買えるような安い銅製の武器ばかり。安く買えるように追加効果を敢えて付けずに出したのだろう。鉄製の相場は、銅の三倍はするだろう。一つでも追加効果が付けば、銅製の十倍だ。


「普通はしねぇよ。まぁ、掘り出し物価格って奴だ。銅の方は、別に相場無視してるわけでもないし、鉄製が数点偶然紛れ込んだだけだ。それに、在庫処分で今まで作った売れ残りを出してるだけ。俺は、在庫処分が出来て嬉しい。客は、偶然良い武器が手に入って嬉しい。その場限りのラッキー。誰も損してないって事だ」

「揚げ足取りだな。けど、嫌いじゃないな」

「ああ、気の良い奴らは、みんなこっそり忍ばせる。ファンタジーの冒険者が最初に巡り合う武器が、他人よりも僅かに良ければ、自分はちょっと特別だと思える。例えそれが、演出されたものでも、本人の与り知らぬ事だ。本人が満足ならそれで良いじゃねぇか。そういう個人の世界を円滑に作り上げるのが、俺みたいな脇役。それが縁で俺の顧客になるかもしれねぇしな」

「最後の一言余計だろ。途中まで良いセリフだったのに。まぁ、祭りなんでそれも悪くないかもな」


 マスクの下で浮かべる微笑が伝わったのか、目の前の男は、歯を見せるほどに笑みを作る。

 こういう畑違いの生産職との話は、直接は関わらない内容でも一つの哲学みたいなものを感じる。これが、そういうゲームのための演技ロールだとしても、だ。


「じゃあ、俺は他を回るわ。結局、冷やかしみたいになって悪かったな」

「別に、これからもっと人が来るんだ。一々気にしてらんないっての。あんたが生産職なら、パフォーマンスエリアか消耗品のエリアに行けば良いさ。同族に会えるかもしれないし、中々、パフォーマンスや路上のゲームは楽しめるだろうな」

「ああ、助言は受け取る。早速行ってみる」


 再び、人の流れる大通りを歩き始める。

 ソロで歩く者、仲の良い同性、異性同士で行動する者、パーティー単位で行動し、ここで狩りの準備を行う者。客引きをする露店、じっと待つ露店、値段交渉する者と様々なプレイヤーが会話する中で、突如、轟音が町に響く。


 東西南北の町の端から中央の空に向かって放たれる一組六色。それが、町の中央で交差するように向かい、互いに衝突して、上空で色とりどりの光を振り撒く。

 時刻は、九時三十分。イベントの開始合図として放たれた魔法だ。


 火、水、風、土、光、闇の六つの魔法の色をした魔法の光が上空に放たれ、絡み合い、極太の魔法を作り上げる。

 東西南北ということは、あれ一本作るのに、一パーティー。計四パーティーがこの派手なパフォーマンスをこの日のために用意したのだ。それを思うと質の高さが窺える。


「良いな。なんだか楽しくなってきたかも」


 既にコンテストは、頭の片隅に追いやられ、目の前を楽しむことに集中していた。



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