Sense134
セイ姉ぇとのダンジョン探索も無事に終えた。
その際、手に入れた宝箱の中身諸々は、正直、俺にとっては無用の長物であり、セイ姉ぇに全て譲ることにした。その代わりと言っては何なのだが、倒した敵がドロップする食材系や素材系のアイテムを貰った。
別れ際に、ダンジョンで出会ったパーティーに手に入れたアイテムのリストを見せたら、非常に微妙な表情をされた。主に、残念な子を見る目で見られたが、別に後悔は無い。
ただ、セイ姉ぇは、サハギン印のサバ缶は決して譲らなかったのは、余談である。
翌日――世間では、VRギアの新規ロットの発売日。アトリエールにも安いポーションを求める新規プレイヤーが居る中、俺は、自分の工房に籠り、薬師の仕事をしている。
新しい素材も手に入り、モチベーションも高い。そして、手順を知っているからこそ出来たアイテムだ。
蘇生薬【消耗品】
蘇生【HP+150】
これが、初めて作った蘇生薬だ。ハイポーションとMPポーション、生命の水を混ぜて濃縮した混合液に桃藤花の花びらを一枚溶かし入れることで出来上がった。とても小さな小瓶の中には、鮮やかな桃色の液体が満たされている。
効果は、桃藤花を単体で使うよりも回復量は百五十倍。自動蘇生機能完備、と言えば聞えは良いが、所詮150だ。そして、スキル作成によるデフォルトの回復量は、100。
蘇生して攻撃を喰らった場合、ダメージが1でも100でも一撃喰らってまた死亡となっては意味は無い。この段階から回復量を引き上げて可能な限り、追撃による死亡の可能性を減らすのが、命題となる。
「材料さえ知ってれば簡単だけど、これって多くの手順を見直せるんだよね」
まず、素材となるハイポーション、MPポーション共々、生命の水を使う事で素材となるハイポーション、MPポーションの効果をより高めることが出来る。
「が、まずは、どのポーションでどのような効果があるかを調べないとな」
俺は、工房内のアイテムボックスから素材となりそうなアイテムを揃えていく。
初級ポーション、ポーション、ブルーポーション、濃縮ポーション、ハイポーション、そしてMPポーションである。
MP回復系のポーションは、現状この一種類であるために、初級ポーションからハイポーションまでの五種類を比較して、作り傾向を見なければ、ならない。
何故、蘇生薬の前提がハイポーションとMPポーション以上のランクのポーションなのか。回復量の法則。また、出来た蘇生薬をアレンジすることで、全く別種のポーションに派生させることができないか。
「タクから預かった花びらは、残り十八。色々と試すと足りないかもな。一応、途中経過でも報告するか」
フレンド通信のリストからタクを選択し、ログイン状況を確認する。
だが、珍しいことにタクは、今出られないようだ。ログインはしているが、手が放せないようだ。何かクエストやボス戦の途中なのかもしれない。
「まぁ、途中経過は無くても良いか。後で結果を出せば」
俺は、再び素材に目を向け、改良を加えていく。
初級ポーション、ポーション、ブルーポーションの三種類を素材とした蘇生薬は、失敗だった。結果から言えば、最後の工程で桃藤花の花びらが溶けずに、残ってしまう。そして、一度液体に浸した花びらは効力を失っている。完全な失敗だ。
つまり、ランクの低いポーションでは失敗は、予定調和だった。
だが、ポーションを数倍に濃縮した濃縮ポーションを使った蘇生薬は、一応は成功した。だが、それは回復量という意味ではない。
劣化の蘇生薬【消耗品】
劣化蘇生【HP+1】
泣きたくなるほどの酷い出来だ。蘇生薬とは名ばかりの粗悪品。劣化蘇生とは、自動蘇生が出来ない蘇生という事だ。回復量も効果も桃藤花と同じだ。こんな物を作るくらいなら、桃藤花をそのまま使った方が、コスト的に優しい。
だが、濃縮ポーションで粗悪品とはいえ蘇生薬が出来るなら、上位のポーションを濃縮して素材にすれば、回復量が上がるのだろうか。
「元々、濃縮ポーションは、回復量は上がらない名ばかりの物だった。けど、素材としての利用価値があれば……ハイポやMPポーションを濃縮して、蘇生薬の素材としたら……」
回復量はどれだけ上がるだろうか。まずは、ハイポーションとMPポーションを濃縮しなければ、話にならない。濃縮するために、ポーションを火にかけて、水気を更に飛ばす。
「最近は、素材も見つかって、インスピレーションが刺激されることが多いな」
とは、言え。どれも週末のプレイヤー主催のイベントに出すような量も作ってないし、作ったらひっそりと店の商品棚に加えるだけだろうな、と自嘲気味な笑みが零れる。
何かが見つかったり、情報が整理されると、一気に進めるだけ進めたくなる。それに、アイテムの幅が非常に自由度が高くて楽しいのだ。
昨日得たモンスターの素材だって、食材として使うも良し、無毒化して強化丸薬の素材にするも良い。
それに、爆弾だって、形状のカスタマイズと起爆時間などの条件を細かく設定すれば、面白いアイテムになるだろう。とは言え、最大火力に問題があるために、まだまだ改良の余地があるのが、良い所だが。
「……時間が足りないな。けど、パズルみたいで面白い」
あっちを弄れば、結果が変わる。ここを変えると全く別種になる。
濃縮が終わるまでの間、物思いに耽っているとフレンド通信が入る。相手は、タクのようで、折り返しの連絡のようだ。
『よっ、ユン。どうした? 俺に連絡なんか寄越して』
「いや、頼まれていたことの途中経過――」
『頼んだ? ああっ、蘇生薬か? 確か材料が一つ足りなくて……』
「素材は揃った。で、一応作るのには成功したからその経過報告」
『そっか! 良い話が聞けて良かった! おい、蘇生薬が作れたそうだぞ!』
タクの声は明らかに別の誰かに向けて発せられたものだった。
「なぁ、だれか居るのか?」
『ああ、セイさん所のギルドがレイドクエストをやりに行きたいけど、細かい事は分からないからって【言語学】持ってるクロードと俺が案内になったわけ』
「おいおい、この前、防具や武器がボロボロだってのにすぐに準備出来たのか?」
生産職も週末のイベントに向けて水面下で忙しなく働いてるんだ。出来るのは、イベント後だと思っていたのに……。しかし、タクは俺の考えを否定する答えを口にする。
『そんな無茶はしないって。案内だけで。俺たちは、終わるまで花びら集めしてたんだよ』
「そうか。なら、良い」
『あっ、後でクロードさんとミカヅチも話を聞きたいからって店に寄って良いか?』
「分かった。サンプルだけ用意する。話を詰めるのはその辺で」
俺の話し合いのために、一度全ての作業を中断して、蘇生薬のサンプルだけを持って店舗部へと顔を出す。
しかし、いつ来るかも分からないし、夜の薄暗い店舗で本を読んで待つ気分じゃない。
「おっ、どうした。リゥイ、ザクロ。すまんな、リゥイは手伝ってくれ」
俺は、思いつきでカウンター席に道具を揃えていく。
食材は、昨日手に入れた魚で良いか。
それを捌き、血で汚れた魚をリゥイの水球で洗い流し、鍋に水を出して貰い、水を沸騰させる。
その間に、魚の臭み取りに使われる生姜を取出し細かく細切りにする。
基本的な野菜は、第二の町で買えるために多少は、持っている。野菜の種類は豊富で調味料と共に料理に使われる。
さて、沸騰したお湯に魚を軽く潜らせる。
そして、料理酒、水、醤油、砂糖、みりんで作ったタレを一煮立ちさせてから魚と臭み取りの生姜を入れる。
後は、浮いてきたアクを取ったら、火を止めて、そのまま煮含める。今回の魚の煮つけは、比較的薄味で作っている。
「よっ、ユン。旨そうな匂いがするな」
「タクにミカヅチ達か。で、結果はどうだった?」
アトリエールの入り口に立ってるのは、タク、ミカヅチ。そして、クロードの三人。ミカヅチだけは、普段の装備よりも大分簡素な布装備を着用している。
「この姿見てそれ言うのか? 失敗だよ、失敗。まぁ、相手の行動パターンでも見ながらじっくり話そうか」
肩を竦めて、カウンター席に座る三人。セイ姉ぇの予想通りと思うべきか、尊い犠牲と思うべきか。誰も死んでないけど……。
「まずは、腹ごしらえだ。大将、酒のツマミ」
「だから、俺は大将でも、飯屋でもないっての。これは、幼獣用に薄く味付けした奴だ」
俺の言葉に心なしか、足元でじゃれつく幼獣が嬉しそうにしている。
そして、俺の言葉を聞いて、酷く残念そうな顔をする三人。いや、そんなに食べたいのかよ。魚の煮つけ。
「……まぁ、余ったら分けてやらんこともないが」
「安心と安定のツンデレだな。酒が進みそうだ。なぁ、ミカヅチ」
「全くだ。話し合いなんか忘れて、それだけで語り明かせるほどだな。クロの字」
早速、残念な大人たちの話し合いが炸裂しそうだが、酒はどこか他所でやれ。
「まずは、話し合いだ。何の話をする?」
「じゃあ、俺たちの方から話すか」
タクが進行役になり、話を進めていく。
「ミカヅチのレイドクエストの話から聞こうか」
「分かった。まぁ、結果としては、完全な敗北だ。ギルドメンバーで集められる戦力としては、二十一人。四パーティー。バランスは悪くないし、防御に自信の無い物は後ろに下げさせた」
「で、内容は――」
俺は、そう言ったら、そう急かすな。と微笑一つ貰いながらも少しずつミカヅチは話していく。
「まず、お前らから聞いた初撃の衝撃波は、無かった。予想だが、ある一定の水準に達していない挑戦者を排除するための特別なモーションだろうな。で、普通に戦闘なんだが、まぁ、雑魚MOBのスケルトンライダーを随時呼び出して、こっちのパーティー一つが対応に回って、残りの三つのパーティーがボスに向かったわけよ。連携も悪くないし、防御の高い奴らが足止めして、左右から攻撃をする。回復も安全マージンを大目に取って戦った」
「そこまでして負けた。って何が足りなかったんだ?」
「そうだな。足りないものが多すぎたな。レイド・ボスは、大きな体で動きが鈍い。ただ、ダメージを受けていくと、攻撃力が上昇し、範囲攻撃も使用してくる。最終的に三割程削った所で、一番防御の薄い後衛のヒーラーがやられた。一応【桃藤花】を使わせて蘇生したが、ジリ貧でそのまま、弱い所から真っ先に潰されて行った。って感じかな。あと、デスペナがキツイ。レイドクエストのデスペナは、丸一日だってよ。普通は、一時間程度なのに……。まぁ、妥当と言えば妥当かもしれないし、装備の準備期間とでも思えばいいが……」
ここで話を一区切り。デス・ペナルティーが一日とは厳しい。とは言え、レベルが下がるわけでもない。全ステータスが一時的に減少するだけで、レベル上げの経験値効率が悪くなるわけでもない。
ただ、話から滲み出る敗戦の色が、空気を重くする。
休憩の意味も込めて、三人には魚の煮つけを振る舞う。ダンジョン産の美味しい魚の煮つけ。リゥイとザクロは、それを美味しそうに頬張って、食べ終わったら、皿を口に咥えて、催促する。
その様子に、少し場の雰囲気が和らぐ。
「まぁ、悪い話ばかりじゃない。イベントのPVPには間に合うし、そこで装備も調達するつもりだ。ボスは強い反面、弱点も多い。魔法防御は低くて、闇系以外の魔法全般が弱点。後は、アンデッド系に属するのかボスと取り巻き含めて銀装備のダメージの入りが良いって事は分かった。行動のパターンも割と単調だ。装備、パーティー構成さえ対応させれば、負ける敵じゃない」
女性にしては、獰猛な笑みを浮かべながら、取り出した一升瓶の酒を自前のコップに注ぐミカヅチ。台詞としてはカッコいいんだけど、どうも残念さが抜けない。
「という事で、今度は、複数のグループからなる混成部隊を予定だ。私のギルドから一パーティー、タクとミュウの所で一つのパーティーの予定だ。ユンはどうする? クエストの発見者の一人としてパーティー作って参加するか、どこかのパーティーに入るか?」
「因みに、生産者である俺は、不参加だぞ。一日のデスペナルティーは流石に厳しい。マギもリーリーも同じ。今回はパスだ」
ついでに、セイがお前を推薦した。と言われた。元々、参加する予定だったが、特に親しく組めるような人も居ない。
「参加するけど、少し保留。最悪、一人で参加するよ」
「まぁ、ユンならそうだよな。それに、共闘ペナルティーも無いんだし、パーティーに拘る必要もないもんな。じゃあ、この話は終わりで。次は、ユンが頼む」
「ああ、じゃあ、これを」
俺は、先ほど作った蘇生薬を三人の前に置く。小瓶の中で鮮やかな色の液体に三人の視線が吸い寄せられる。
「これが、蘇生薬か」
「ああ、幾つか素材は駄目にしたけど、そこそこ纏まった数とこれ以上の回復量の品は用意できると思う。まずは、これは渡しておく」
「サンキュー、ユン。これで強い敵とも良い戦いが出来そうだ」
「おいおい、一回は死ぬこと前提かよ」
「OSOは、避けゲーじゃねぇぞ。センスの組み方や戦い方で大きく変わるんだから。攻撃喰らってれば、死ぬって。別のオンラインゲームじゃデスペナが緩くて、死に戻りだって時間短縮のワープ手段みたいなもんなんだよ」
横の二人も、うんうん、と肯定しているが、ゲームだから死ぬのが前提、という考えはあまり許容できない。所詮俺は、安全な道しか通らない臆病だ。
「そうだな。そう言えば、ユンには一方的に頼みごとを頼んだから蘇生薬を作成した時、どうするか話してなかったな」
「そうだっけ? まぁ、俺としては経験値が旨いから別に良いけど」
赤字になるほどの出費もないし、ゲーム通貨貰っても使い所としては、装備の充実と店舗の拡張、あとは素材の買い取り費用だけだ。どれも、小さい店舗を動かすだけの蓄えはある。
「あんまり好意に甘える訳にもいかねぇだろ」
「どの口が言う。まぁ、俺としては、Gよりアイテムの方が嬉しいかな?」
何言ってるんだ? こいつ、という冷ややな目で見るが、素直に俺の思っている事を口にする。
「アイテムか~。ユンが欲しそうなアイテムは無さそうなんだよな~。かと言って食材や素材じゃ釣り合わんし、強化素材もトレードのレートからして数は無いんだよな~。あっ」
何か閃いた様な声を上げるタク。
「出来た蘇生薬の半分を渡すわ。それならイーブンじゃないか?」
「まぁ、そんなもんなら良いのか?」
報酬の半分を貰うのと同じなら悪くは無い。
「じゃあ、それで。また出来たら、その時纏めて渡す。けど、まだ個別での品質が安定しないから」
「そんじゃあ、追加で集めた五つの花びらを渡しておくわ」
タクから花びら五枚を受け取り、蘇生薬を渡した。それにしても、ミカヅチからはレイドクエストの話を聞いたが、クロードは何故居るのだろうか。
「ユン。蘇生薬の件は終わったようだな。次は、俺からの依頼だ」
「はぁ」
今まで空気だったクロードから依頼と言われてもピンと来ない。
「タクの依頼の報酬で貰う約束の蘇生薬の半数をイベントのオークションに出してほしい」
「えっと……説明をしてくれ。詳細をプリーズ」
「オークションは、生産ギルドが主催し、出品者が最低落札価格を決めて参加プレイヤーが競う。ネタ的な物ならイベントに出たユニークアイテム。で目立つ奴を厳選した。それに、強化素材なんかもだ。ミカヅチも参加するか?」
「馬鹿か。私たちは、今日のクエストで武器や防具はガタガタ。アイテムも湯水のように使ったんだ。揃えるのは日数は掛からないが、個々人が貯めてる金が飛ぶんだぞ。金持ち転売ギルドと競って、落とせると思うのか?」
俺の目の前で予想外の展開が続く。オークションに出品する側? 俺が。
「オークションは、手数料二割取るだけ。残り八割は出品者に入る。出品者は、特等席からのオークションの様子を見ることが出来るだろうな。それに、参加も出来る。一応、ルールはあるが、それはまた今度教えよう」
「今回は、見ているだけだろうな。私たちは……良くて、セイ個人が何か買うだろうな」
「別に出品するのは良いけど、盛り上がるか? 蘇生薬が」
そもそも消耗品よりももっと良い物を出せばいいだろうに。
「まぁ、いいや。じゃあ、最低価格10万Gで頼むわ」
俺の設定した最低価格は、10万G。
頭をがしがしを掻くミカヅチと。欲が無いぞ、と呟くタク。
それ程おかしい額だろうか。そもそも桃藤花の花びらが素材としての取引をされている価格が10万G前後なのだ。それを考えれば、こんな物じゃないだろうか。
「数は、もう少し少なくて良いか? 俺だってストックが欲しいし」
「半数は言い過ぎたな。了解した。そうだな、それで頼む」
「はいはい。じゃあ、俺はまた作業に戻るから。お前らも帰れ」
俺の一言でミカヅチは、コップに入った酒を煽る様に飲み、タクは背伸びをして、クロードは、魚の煮つけを綺麗に食べた。
「ご馳走様で」
「お粗末様。ってか、ここは食事処じゃないからな」
「でも、ATKが少し上がる料理ってことはモンスター肉だろ? 良い物食わせて貰ったし、俺は、今からレベル上げに行くか」
「私は、どこかで酒盛りでもするかな? クロードはどうする?」
「俺は、戻ってオークションの目録に蘇生薬を入れる。まぁ、他にも最後の追い込みの生産があるがな」
くくくっ、と不気味な笑い声を残していくクロードに僅かな不安を感じるが、俺も更に煮つけのお替りを要求する幼獣たちに視線を逸らし、忘れることにする。
クロードも追い込みを掛けるようだし、俺も今夜は頑張るとするかな。
追加:オークションでの落札上限20万Gを廃止。
オークションでの展開を練り直さないと……。まぁ、鰻登りの展開も面白いかも。