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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
132/359

Sense132

「ここが一階層の終点。さぁ、ここから先が第二階層だけど、準備は良い?」

「……」

「ユンちゃん?」


 俺は、このドーム状の場所を見回していた。


 広い空間を自由に泳ぎ回る空飛ぶ魚たち。せせらぐ水の中には、青白い光源が埋め込まれ、水面の影を水の中から照らし、ドーム状の天井に水面の影を作る。

 見上げるドームは、水の中から見上げた海面を見上げているようで、水槽からは見られない角度で魚たちを見ている。

 まるで――


「――空飛ぶ魚たちの水族館だな」

「中々、詩的な事を言うんだね。うーん、確かに、水族館っぽいね。あんまり気にせず通るし、第二階層は、歩き辛いから見て回る余裕は無いけど、うん。確かにそうかもね」


 しばらく、何も考えずに見上げる。どこか鋭さを持ったフォルムの魚が数匹纏まって、滑るように壁の突き当りまで進み、Uターンしてまた空を泳ぐ。雷撃を放った後のジェリーフィッシュ・サーチャーが数匹纏まって、ぷよぷよと体を震わせ、クラゲ同士で電撃を蓄えている。


「雰囲気も良いな。一人でまた来たい場所だ」

「えーっ、だれか一緒に来る人居ないの?」

「あー、幼獣と一緒に回れば良いけど、まだ弱いし、簡単にやられそうだから、成長したら来るかな」

「むぅ、誰か良い人とデートとかと言う話は無いの?」


 全く、セイ姉ぇは、そんな事あるわけないだろ。


「逆に聞くが、セイ姉ぇは居るのかよ」

「居ない、居ない。居たら良いんだけどね」

「……そうか。良かった」

「うん? ユンちゃん、何か言った」

「何でもない、何でもない。下の階段が次の階層だよな! 行こう」


 俺は、自分の言葉を隠すために、セイ姉ぇを急かす。空飛ぶ魚を見ていたい、と言う気持ちが少し後ろ髪を引かれるが、セイ姉ぇと一緒に階段を降りる。

 それにしても、セイ姉ぇからデートだの、良い人だのと言う言葉が出るとは。俺やミュウなどそんな影全くない。

 逆に、大学に進学して俺たちの知らない時間が増えたセイ姉ぇに彼氏が出来てもおかしくない。いや、未だに良い人が一人もいないのがおかしくある。身内贔屓でも、美人なのだ。


「何? ユンちゃん、にやにやして」

「何でもないって、それで第二階層は、どんな場所なの?」

「ちょっと歩き辛いかな? 水で滑りやすいし、薄暗い。敵はノンアクティブだから戦闘は、先手は取りやすいかな。試しに、このあたりで戦おうか。この階層に出現する敵は、右が鉄鋏ロブスターと左が石槌クラブ、奥には、バブル・シェルだよ」


 確かに、セイ姉ぇの言う通り。階層を降りてすぐの所に居た。

 この階層のMOBは、子どもくらいの大きさのあるエビとカニ、そして二枚貝だ。灰色のエビは、右手が特別大きく鉄が擦れるような音を上げ、自慢の鋏を振り上げている。灰色のごつごつしたカニは、背中にフジツボのようなものを付着させ、特別大きな左手を地面に振り下ろしている。最後に、泡を宙に吐き出している二枚貝。


「……強そうだね」

「防御力はとても高いよ。さぁ、第二階層の定番の組み合わせだけど――」

「うーん。使える物は何でも使って良い?」

「どうぞどうぞ。総合力が必要だからね。アイテム縛りやセンス・スキル縛りはさせないよ」


 なら、どうするか。距離としては、五十メートル。バブル・シェルは動かない固定砲台。いわゆる、魔法使いポジションで、鉄鋏ロブスターと石槌クラブは、前衛ポジションだろう。普段なら、短く感じる距離だが、足の遅い敵なら、まぁ様子見でこんなものか。

 セオリー通り、後衛を即効で無力化。そして、敵すら利用する事を考えてスキルによる自己強化をする。


「――【食材の心得】。【付加】――アタック、スピード」

「えっ? いきなり何?」


 ウィークポイント発見のスキルとエンチャントによる自己強化とダメージ増加のスキル、それと情報補完。

 スキルによって補完された情報に基づき、俺は、弓を構える。狙うのは、二枚貝の隙間。そして呼吸をするように、泡を吐き、殻を開閉するバブル・シェルへと狙いを定める。

 一瞬で到達し、矢が刺さる。しかし、これで終わりではない。続けて、三本の矢を放ち、突き刺さる。計四本の矢を受けて、HPの五割を失うバブル・シェル。


「まさか居たの。ああ、良く見えるね。気がつかなかったよ」


 セイ姉ぇが感嘆の声を上げるが、この程度の距離は、慣れればそれなりだ。一方的に攻撃をするためには、これくらいの距離が必要だ。

 今の攻撃でエビとカニがリンクし、俺の方へとその大きな腕を振り上げて、向かってくる。

 だから、俺は――。


「――【攻撃しろ】」

「――おっ!?」


 俺の声に反応し、先ほど矢を受けてたバブル・シェルがエビとカニの背後から攻撃を放ったのだ。ウォーターボールを貝殻の間から生み出し、カニを狙っていく。こちらへと向かっていた二匹が味方に攻撃され、挟み撃ちになる状態だ。


 弓をエビへと射るが、その硬い甲殻に阻まれ、赤いマーカーの線上に刺さった数本分のダメージしか与えられない。


「ちっ、防御硬いな。【呪加】――ディフェンス、スピード」


  エビへのカースドを施し、その面倒な防御を下げる。カニは、その重い槌のような手で二枚貝を割らんばかりに振り下ろす。バブル・シェルが泡を吹き、抵抗するが、思う様にダメージは与えていない。


「これで、どうだ!」


 更に、防御の下がった甲殻へと矢が殺到し、今度こそ突き刺さる。

 十数本の矢を受けたエビが、力尽きた時、バブル・シェルも石槌クラブのハンマーアームによって叩き潰されていた。だが、相性の悪さにも関わらず、善戦はしたようだ。三割ほど敵のHPを削っていた。

 俺は、同じ要領でカースドで防御力を下げて、弓の連射力で一気に倒す。


「……ふぅ、こんなものか」

「ユンちゃん、凄いね。この距離から当たるなんて。それにバブル・シェルが不可思議な動きをしたけどあれは何かな?」

「まぁ、状態異常喚起薬の合成矢だな。今のは【魅了】の合成矢で、状態異常による無効化と囮役になって貰った訳」

「へぇ、ユンちゃんは、敵すらも【魅了】しちゃう悪女だったのか」


 誤解を招く言い方をしないでほしい。そして俺は、女じゃなくて男だ。


 俺の戦い方自体は、欠点だらけだ。

 合成矢自体がコストが高く、量産もしていない。それに、エンチャントやカースドを重複させるとより消費MPが増加する。だから、使用可能なエンチャントの全掛けは無理だ。戦闘では、一つか二つの強化。MP回復アイテムを使っても、三点強化が限界だ。

 それに、前衛としても微妙だ。ミュウの友人であるトウトビと比較しても、真似事レベルで弱い。正直、サブウェポン止まりだ。

 コスト度外視で、ヒーラーの真似事も出来る。

 ただ、固定砲台となる場合、そこそこある移動速度自体を無駄にしている感があるために、どこをとっても中途半端。


「正直、ゲームを始めてから役割も立ち位置を全く変わらない。弱いぞ、俺は」

「そんなことないよ。結構、余裕そうだったよ」

「余裕なのと、強いのは違うと思うぞ。寧ろ、余裕を持って勝てるのは、格下や同格相手だから。格上相手だともっと策もアイテムを投入しないと勝てない。コスト掛かり過ぎるって」

「うーん。ユンちゃんの分析は、大体正しいかな? でも、大事な事抜けてるよ」

「大事な事?」

「そう、このゲームは、ソロだけじゃない。パーティーでの戦いも出来るんだから。ユンちゃんの切れるカードは策やアイテムだけじゃないでしょ。言っちゃ悪いけど、ユンちゃんは、三階層では辛うじて一人で戦えるレベル。けど、四層、五層に降りた時、今の段階で戦えるかは疑問だよ。そりゃ、長い時間を掛けて、全てのレベルを上げれば、格下になるけど……パーティーを組んで、格上に挑むのがMMOの醍醐味の一つだし」

「別に、頑なにソロだけでやってるわけじゃないさ。けどな」


 けど、ずっとシコリのように胸の中にある考えがある。


「中途半端で、地雷って言われるセンス持ってる俺が居ても良いのか? ほら、居ても邪魔になりそうだし」


 邪険に扱われるのは、嫌だな。そんな漠然とした思いがあったのかもしれない。生産職としての誇りはある。それと一緒に、自分が積極的に戦わない大義名分にしていた。

 積極的に出ることは好きじゃないが、別に嫌いじゃない。呼ばれれば、パーティーも組むが自分からは殆どなかったと思う。

 新しいポータルに連れて行って貰う時も、他のパーティーに守って貰っていた。自分も積極的に戦えるのに、後ろで守りに回っていた。

 だから、言葉を口にする。


「俺みたいな半端者をパーティーに組み込むよりも、特化した人を組み込んだ方が良くないか?」

「はぁ、やっぱり、ユンちゃんは、勘違いしてるよ。昔は、地雷って呼ばれていても、ユンちゃんは、そのセンスを使い続けた強さと実績がある。MOBに強い人もいれば、PVPに強い人もいる。前衛向け、後衛向けっているけど、ユンちゃんは、パーティー向けだよ」

「パーティー向け」


 俺が、パーティー向け。と言われてもピンと来ないのは、パーティーの経験が足りないためか。


「ユンちゃんは、中途半端かもしれない。けど、状況に合わせたスタイルと他者の能力を一時的に引き上げる【付加】が高レベルで使える。戦闘に特化した人と戦闘で特化させる人だと、戦闘で特化させるユンちゃんが劣っている。ってわけじゃないんだし。それに、楽しい人と一緒に居ると騒がしいけど、楽しいよ」

「……ありがと、セイ姉ぇ」


 ちょっと自分自身の暗い考えに沈んでいたのかもしれない。笑おうと思ったが、上手く笑えないかもしれない。


「さぁ、ユンちゃんが強いことを証明するためにも行こう。私がダメージ・ディーラー。でユンちゃんがサポートと援護射撃。お願いするね」

「いや、セイ姉ぇ? 水系統の魔法がメインだろ。あいつら、水に耐性ないか?」


 俺が指差す先には、MOBの集団。俺が先ほど倒したのと同じ組み合わせの集団は、水と氷の魔法を主体とするセイ姉ぇには不利なように思うのだが。


「大丈夫、大丈夫。さぁ、お願い」

「本当に大丈夫なのか? 【付加】――インテリジェンス」


 懐疑的な思いを抱きながら、セイ姉ぇにINTのエンチャントを施す。

 セイ姉ぇは、魔法の準備をする。低レベルの魔法ならこれほどの長い準備は必要ない。

 そして、詠唱と共に、青のラインがセイ姉ぇの周りに展開される。

 光度が最高潮になった時、セイ姉ぇが魔法を口にする。


「――【スチーム・ピラー】」


 杖を掲げた先の地面から高熱で沸騰し、気体となった水蒸気の柱が地面を突き進んで、MOBを飲み込む。

 水蒸気の柱に飲み込まれ、中の様子がシルエットだけしか見えない。離れた位置で見ている俺にも熱気が伝わる。


「うーん。エンチャントの強化って良いね。いつもは、九割程度削るけど――」


 未だ勢いの衰えないスチーム・ピラーの中にいたシルエットは消失していた。


「これじゃ、オーバー・キルになっちゃうわね。ジャストキルするのが一番MP効率が良いんだけど……」

「……この威力ってマジっすか。だって、セイ姉ぇ、氷がメインじゃ」

「うん? 私の二つ名は【水静の魔女】よ。水を基本とした気体、液体、そして固体を使うの。状況によって使い分ける。水に耐性があっても、高温の熱傷効果のある水までは耐性はないよ」

「……あの集団を一撃って、耐性すら軽く超える攻撃って。セイ姉ぇがチートだろ」

「嫌だな。ユンちゃんが居たからだよ」


 セイ姉ぇはそう言うが、謙遜だと思う。まだ余裕もありそうなセイ姉ぇを見ていると、最強魔法という訳でもなさそうだ。

 にっこりと俺へと笑いかけるセイ姉ぇを少し怖く思えてしまう。願わくば、俺にあの魔法が向かいませんように。

 

 

変更点

いつもは、七割から七割五分削るけど――

いつもは、九割程度削るけど――


セイ姉ぇへのエンチャントの強化は、この時、約25%程度の上昇率。

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