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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
131/359

Sense131

 セイ姉ぇに誘われるままに、俺はポータルを経由し、ダンジョン街の二番目の地形型ダンジョンに居た。

 非常に静かで遠くでは水のせせらぎの音が聞こえる。洞窟のように狭くはない。天井は高く、壁は青白い光を放ちながらも冷たい鋭さよりも、ぼんやりとした柔らかな光を感じる。光源アイテムが無くても歩けるダンジョンは、非常に居心地が良い。

 たった二人だけなために下の階層へ行かず、最初の階層を回るだけの比較的近場での狩りだ。敵もノンアクティブが殆どのエリア。

 俺は、狩りと言うより散歩と言った雰囲気を感じている。


「セイ姉ぇ。どうして俺を誘ったんだ?」

「うん? 呼び出しておいて、直ぐに用件伝えて、さようなら。って寂しいじゃない。たまには、弟と一緒に回りたいの。ユンちゃんの成長を間近で見たくて」

「あー、ありがとう。けど……地雷ばかりだぞ。俺は」


 ゲーム開始直後からミュウやタクから色々と教わっているが、大体目についたものに対する疑問や必須な事の概要説明だけを受けていただけで、割と軽めの説明が多かったと思う。その結果、手探り状態だったり、最初に地雷と呼ばれるセンスを選ぶことは多かったが、使っていくと愛着が湧いてくるのだ。



「ユンちゃん、もしかしたら、ユンちゃんの持っている情報や考えは、古いかもしれないよ。ゲームだって、バージョンアップやデバッグされて少しづつ変化していったり、プレイヤーの環境も変わるんだから。だから情報に耳を傾けておかないと、認識とのズレが生まれると思うんだ」

「あー、そうだな」

「センスの見直しとか、デバックついでのバランス調整とかされるし。情報の少ないセンスは、検証専門のプレイヤーだっているんだから。自分のやってることは案外限定的なことかもしれないよ」

「うん。わかった。じゃあ、セイ姉ぇにチェックして貰おうか」

「任せなさい。客観的な評価や私の知ってる情報は教えてあげるから」


 ローブを下から押し上げるその胸を軽く叩き、胸を張るセイ姉ぇ。セイ姉ぇに自分の立ち位置をチェックして貰おう。それと自分の作ったアイテムを実際に見せて、使われる感想を直に聞けるのは良いかもしれない。


「でも、このダンジョンの第一階層では、やる事無いんだけどね」


 殆ど真っ直ぐなダンジョン。時折、左右で道が分かれており、小部屋だったり、通路に行き当たりだったりする。

 構造としては、全五階層で最深部にボスMOBが居り、そこまでの道にはショートカットは存在しない。そのために、ダンジョンの構造をシンプルに第一から第三階層までは、ほぼ一直線にすることで、ボス狙いのプレイヤーは、第一階層から第三階層までは殆どノンストップで進めるようにしたのだと。


「と、いう事で、軽く第一階層を回ってから第二階層辺りでユンちゃんを見極めたいと思うの」

「えっと……セイ姉ぇの実力だとこの辺だとちょっと効率が悪いんじゃないの? 俺としては、セイ姉ぇに合わせた方が良いと思うんだけど」

「ユンちゃん。ダンジョンの旨味は、最深部のボスや階層毎に段階的にレベルの違う敵が出る点だけじゃないのよ」


 そう言って、脇道を進むセイ姉ぇの後へと着いていく。

 中心の道から外れた場所は、より水音が大きくなり、逆にダンジョンを照らす光度が下がっていく。

 薄暗い道を危なげなく二人して進む。しばらくして、ある突き当りで木製に鉄枠の嵌った簡素な宝箱が見つかる。


「ダンジョンと言えば、お宝だよ。夢と希望が入ったランダム宝箱」

「へぇ、こんな所にあるんだ」

「大体、メインの道には無くて、脇道にランダムで現れるから。って言ってもここまで浅い場所だとそれ程大したことは無いけどね」


 そう言いながら、宝箱を開けるセイ姉ぇ。明らかに宝箱より大きなハンマーが出てきた。

 宝箱の中は、真黒の亜空間が広がっており、取り出したら宝箱が自然消滅した。


「微妙な効果だった。期待したけど、やっぱり早々良いのは出ないか」


 小さく溜息を吐くが、仕方がないね、と言って見せてくれるハンマーのステータスは、俺としてはどう判断すれば良いか、悩む。



 魔力のハンマー【装備品】


 ATK+37 追加効果:【MP+50】



 武器の種類は前衛向きなのだが、追加効果が、MPの最大値を増やす効果だけ。正直、力押しする人が多い、ハンマー使いにはMPにはそれほど重きを置いてないし、多分、生産職の作ったものの方が使いやすい。


「……微妙。で、これはどうするんだ?」

「売っちゃうかな? 大体、ダンジョンやクエスト報酬の武器の九割五分程度は、大体こんな微妙な武器ばっかりだし。まぁ、NPC店員に売ると、電子の海に消える代わりに、武器の性能と追加効果関係なく、安定した値段で売れる。こう言ったシステムがランダムで作る武器の中には良い武器もあって、初心者なら意外と長くは使えるんだけどね」


 そういうセイ姉ぇは、システム産の武器や防具、アクセサリーなどの装備品やポーションなどの消耗品について話してくれる。

 システム産の装備品は、決まった種類でエリア毎に決まった範囲の能力で、決まった追加効果が全てランダムで生み出される。だから、前衛向けの武器なのに、後衛向けの追加効果。後衛向けの武器なのに、全く意味の無い追加効果など。そんな組み合わせが多い。

 耐久度も平凡。プレイヤーメイドじゃないからランクを上げての強化も新たに追加効果を付与も出来ない。耐久限界を超えると跡も残らず消滅するために耐久度回復は可能だが修復は不可能だ。

 ただ、中には、ランダム生成でのみしか発生しない追加効果があったりするので、一概には悪いとも言えない。


 安定性や自由度、長く使うならプレイヤー製。

 ピーキーな性能ながら、組み合わせ次第では相乗効果で強くなるシステム製。


「やっぱり、プレイヤーメイドの方が使いやすくて良いと思うな。俺は」

「私もそうだよ。でも、中には微レアだけど、効果が良かったり、ユニーク品を限定的だけど超えるアイテムもあるから馬鹿に出来ないんだから」

「そんなもんかな?」

「そんなものだよ。ユンちゃんの持っている【身代わり宝玉の指輪】は、完全ユニーク。耐久無しで壊れないけど、扱い辛いでしょ? それに比べて、微レアの下位装備は、自身の耐久を消費して装備者のダメージ軽減だから使いようかな?」


 【身代わり:HP】【身代わり:火】の追加効果は、耐久度を消費してダメージや属性ダメージの一部抑える。耐久度が無くなれば、装備は自壊する。この装備は短い期間しか使えないが、複数装備することでダメージカット率を重複させたり、自壊さえしなければ、耐久度を回復させて使い続けられる。

 身代わり宝玉は、ダメージの量関係なく、嵌め込んだ宝石の能力分の攻撃を完全無効なために、弱い攻撃でも関係なく自動発動する。それに、宝石が消滅したら使用した宝石に応じた時間制限が掛かる。

 ユニーク度が高い装備ほど性能は、極端で、使い手が場を選ぶ。現に、常に身代わり宝玉を装備している訳ではない。


「だから、私の装備は、武器や防具はプレイヤーメイドで固めているけど、アクセサリーの半分は、微レア品だったり、状況によって変えてるかな。ユニーク品も何点か持ってるけど、どれもこれも限定的な強さだしね」

「追加効果が【身代わり】よりも【耐性】系の追加効果の方が良くないか? 態々耐久度を減らすより」

「追加効果の【耐性】は、出難い追加効果だし、強化素材さえあればプレイヤーメイドでも作れるし。そもそも耐性って数が多いから。物理と魔法の耐性、各属性の耐性、状態異常の耐性。そんな感じで全種類を十分な数集めるのは大変だからね。出易くて使い捨てでも補充が聞く【身代わり】の方が大多数の人は使うんじゃないかな」


 そんなゲーム事情や論議を繰り返しつつ、またも細い道を進んでいく。今度は、棍棒とハイポーション。どちらも追加効果なしのデフォルトで売る一択のアイテムだった。

 しばらく宝箱を探して歩く俺たちの前に、MOBが現れた。


「セイ姉ぇ。敵だ。なんか、黄色っぽいスライムみたいな」

「黄色い? スライム? ああっ、ジェリーフィッシュ・サーチャーの事ね。ああ、私も見えた。大丈夫大丈夫。あれはちょっと特殊なMOBだから」


 そうなのだろうか。俺は、怪訝そうな眼を黄色いクラゲへと向ける。俺たちの方へと真っ直ぐに、すーっと空中を滑るように移動する姿は、クラゲの動きと言うよりも古いSF映画のUFOの動きを見ているようである。


「ユンちゃん、サーチャーに攻撃してみて」

「えっ、分かった」


 セイ姉ぇに促され、俺は弓を引き絞る。手から離れた矢は、クラゲへと真っ直ぐに飛び、当てた。という感覚が自分の中にあった。だが、事実当たったが、倒れなかった。いや、一切のダメージを無効化していた。


「はぁ? 何だ、あれ」


 半透明の体に刺さった矢を触腕が何でもないように引き抜き、捨てる。そのまま、すぃーっと近づいてくるクラゲがちょっと不気味に感じる。


「逃げちゃダメ。絶対に大丈夫だから」

「でも、攻撃が……」

「そういうMOB。まぁ、見てて」


 そう言って、セイ姉ぇを信じて待つ。目の前一メートルも無い位置で止まる黄色いクラゲは、体を波打たせて、周囲へと放電する。

 薄暗い洞窟を一瞬、真っ白に染め上げ、電気が俺の体を貫く。

 隣のセイ姉ぇもその電撃を受けるが動じた様子は無い。俺ばかりが、腕を前に掲げて守りの態勢を取っていた。


「いっ……痛くないかも」


 派手な電気とダメージ無効の割に、ダメージは微々たるものだ。何ともちぐはぐな様子に俺は、首を傾げる。


「ほら、見て」


 そう言って、先ほどのクラゲを指差す。体の中の黄色は失われ、普通のクラゲのような青っぽい色になっている。動きも上下にぴょこぴょこと動くクラゲらしさがあって、先ほどの敵と同一とは思えない。


「えいっ」

「あっ、クラゲが……」


 その目の前のクラゲを何でもないように、手に持った杖で一突き。たったそれだけでクラゲは、萎んで消えてしまう。俺が攻撃してもダメージを受けなかったクラゲが、魔法職の気の抜けるような物理攻撃で死んでしまった。


「ジェリーフィッシュ・サーチャーってMOBは、サーチャーが攻撃してからじゃないとダメージが入らないの。でも攻撃した後だと、凄い簡単に倒せるMOBなんだ」

「なんでそんなややこしい。普通に強くすれば良いのに」

「単なる振り分けだよ。強いプレイヤーがこのダンジョン街まで初心者を引率したら、初心者はリスク無くポータルで転移できるでしょ。このダンジョン一階層は、ノンアクティブが殆どだから宝箱で装備さえ整えれば、初心者でも装備の力でごり押しできそうだよね。それを防止するために、サーチャーの名前のついている敵が居るの。サーチャーは、絶対に先制攻撃が成功するし、レベル差が大きい格下ほどダメージが増加する防御無視の特殊攻撃とか。そういう物を持った敵なんだよ。って言っても監視や対応策を抜けてやる人は居るだろうけどね」


 そう言って、ゲームのバランスは難しいね。というセイ姉ぇ。

 まぁ、初心者が自分で集めなくても、ギルドとかの組織が集めた武器を安く売ったりすれば、結局はごり押しが出来るだろう。

 互いに、OSOにおける考えを口にしながら、セイ姉ぇの後に続いていく。時折見つける宝箱に期待し、裏切られるが、それも楽しかったりする。

 そして、俺は、セイ姉ぇに誘われるままに一階層の広いドーム状の場所に出た。


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