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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
127/359

Sense127

 俺たちが桃藤花の樹へと辿り着いた時、そこには溢れ返るほどのモンスターが居た。

 陽光に晒されても存在を維持していられるアンデッドの群れ。俺たち三人では対応し切れないほどの敵が一斉にこちらへと向く。


「うわっ……無理だろ。この数」

「ひーふーみ……うーん。百は超えたかな?」

「一人約三十から四十か」

「ミュウやタクは呑気に言ってる場合か! 逃げるぞ」


 俺が、振り向き、一歩足を樹から遠ざかろうとすると、俺たちを囲むように更に数十と言うアンデッドが地面より這い出てきた。

 完全に囲まれ、俺たちは逃げられない事を悟る。


「ああもう、負けるなら――【送還】」

「ふぅ、いやはや。この数の敵を相手にするなんて、ハードすぎるね」

「俺でもこりゃ裸足で逃げたくなるな。数の暴力だ」


 俺は、既に負けることを悟り、リゥイとザクロを召喚石へと戻す。ミュウもタクも同じようにデスペナルティーの覚悟を決めたようだ。だが、最後まで抗う意思を見せるために、自身の得物を構え、腰を落とす。


「ユン。俺には、攻撃。ミュウちゃんには、速度!」

「了解。【付加】――アタック、スピード!」


 俺のエンチャントを皮切りにアンデッドたちが襲ってくる。俺たちを囲う様に円陣を組み、逃げないように剣や槍をこちらへと向け、骨や腐肉の足で地面を踏み鳴らしている。

 辛うじて履いたままの汚れた革靴の底が地面を踏みしめ、素足のアンデッドは、骨のぶつかる音を響かせる。

 そして、そんなアンデッドの包囲網を飛び越えて来る者たちが居た。


「――スケルトン・ライダー?」


 タクが呟く先には、三体の人体模型の骨が各々の武器を持ち、中型クラスの動物に騎乗している。

 動物のモデルは、狼だろうか。半透明な体の随所に紫色の炎を纏い、襤褸の鞍でスケルトンを乗せている。

 それが三体。一人一殺という事だろうか。


「先手必勝! ――【サンライト・アロー】!」


 ミュウは空いた手から光の矢を放ち、スケルトン・ライダーの一体を巻き込み、更にその奥のアンデッド包囲網の一部に灰へと返す。その一撃だけでスケルトン・ライダーを葬り、アンデッド数体を葬った。

 一度に襲ってこないアンデッドと数体のスケルトン・ライダー。これならもしかして……そんな淡い期待を抱いたが。


「はははっ、嘘だろ。補充されるのかよ」


 包囲網の空いた穴を塞ぐ様に動くアンデットとその後ろで地面より這い出し補充される。また、アンデッドの壁を越えて、スケルトン・ライダーをまた一体補充される。


「こりゃ、イベント戦みたいな奴だろうな。逃げることは出来ず、だけど殲滅と言うほど苛烈な攻撃でもない」

「行き着くまでやり合うしか無いか。お姉ちゃん、サポートよろしく!」


 再びミュウとタクが同時に地面を蹴ってスケルトン・ライダーの前に躍り出る。

 ミュウとタクの連携は見事な物だった。ミュウが三体を同時に相手取り、相手のターゲットを自身に集める。本来の速さとエンチャントの強化を加えた速度に翻弄されるスケルトン・ライダー。狼に狙いを定め、足としての機動力を生かす前に尽くミュウに出鼻を挫かれる中、その隙にタクがアーツで着実にダメージを与えていく。

 ミュウが翻弄し、ターゲットを自身に集め、タクが攻撃で大ダメージを与える。タクへとターゲットが移りそうになると、その個体を集中的に狙い、ターゲットを戻す。

 俺もただ見ているだけではない。下手に攻撃して自分にターゲットが移ることを恐れたために、エンチャントの掛け直しや敵の妨害のための速度カースド。ポーションによる回復を主としたサポートを引き受ける。

 しかし、一体倒しても、また一体が包囲網の中に跳びこんでくる。強さとしては非常に弱いだろうが、終わりの見えない戦いと常時危険が纏わりつく危険。


「ユン、新しい個体が抜けるぞ!」

「了解!」


 包囲網の外より跳びこんでくる一体のスケルトン・ライダーは、ターゲット取りの遅れたミュウを突破して俺の方へと走ってくる。

 流石騎乗系のMOB。かなりの速さで迫り、突撃の勢いと長いリーチを利用した突きは、高威力だ。また高い位置からの振り下ろすような突きであるために、リーチの短い包丁や細かい取り回しの利かない長弓のような武器では、即時反撃が難しく避けることを優先する。


「【呪加】――ディフェンス」


 地面を転がるように、落ちてくるような突きを避け、駆け抜けるスケルトンの背にカースドを施す。

 勢いのまま包囲網の端まで駆け抜けるスケルトン・ライダーは、狼騎獣を操り、再度突撃をして来る。


「お姉ちゃん!」

「ユン!」


 二人が声を上げるが、心配など無い。既に俺は、迎撃準備を整えている。


「――【クレイシールド】」


 スケルトン・ライダーとの間に出現した土壁。車は急には止まれないとは言うが、勢いの付いたスケルトン・ライダーは生み出された土壁に盛大にぶつかり、その体を構成する骨を盛大に散らす。

 防御の下げられたスケルトン・ライダーが威力そのままでの攻撃で多大なダメージをその身に受ける。

 ふらふらになりながらも立ち上がる狼と辛うじて戦うだけの骨を残したスケルトン・ライダー。だが、俺はそいつらに追い討ちを掛ける。


「――【弓技・鎧通し(よろいとおし)】」


 土壁の横から飛び出し、至近距離で長弓を引き絞る。至近距離で放たれるアーツは、見えない壁を突き抜け、深海色の波紋を広げスケルトン・ライダーの体を突き抜け、上半身の骨を砕き散らす。

 防御無視の貫通攻撃を受けたスケルトン・ライダー。

 残った騎獣の狼霊もスケルトンの下半身を乗せたまま、アンデッド包囲網の外へと逃げていく。

 相手をやり過ごしたのか。それを確認する前に、アンデッド包囲網の外より新たなスケルトン・ライダーが追加され、それをミュウたちが食い止める。

 俺は、ミュウたちの背に向かって、エンチャントを掛け直す。


「サンキュ! ミュウちゃん、右押さえて!」

「了解!」


 三人の連携で大きく場が崩れることは無い。しかし、終わりの見えない戦闘とはこうも疲れるものだとは思わなかった。


「敵のレベルとしては良いかもしれないけど……何時までこいつらを相手にしないといけないの!」

「ミュウちゃん、落ち着いて!」

「あー、もう良くない? 死に戻りでも俺は全然問題ないんだが……」

「ユンまでそんなこと言って! ほら、次来るぞ!」


 タクがスケルトン・ライダーを切り捨てた時、新たなスケルトン・ライダーは現れなかった。むしろ、残った二体も包囲網を飛び越えて、囲むスケルトンたちが樹への道を作るように左右に割れる。


「何だ? やっと進んだのか?」

「そう、みたいだな」


 何十体のスケルトン・ライダーを倒しただろうか。数が分からないが、結構な数を倒したと思う。

 そして進んだ最後のステップ



 ――【Rクエスト・桃藤花の巨狼討伐3/3】――


 桃藤花の巨狼・ガルムファントムを倒せ。残り――0/1。



 クエストが最後の段階へと進んだ。それと同時に、樹の根元から霧が噴き出す。

 紫色の毒霧のようなガスが噴き出し、それが渦巻形を作る。半透明なガス状の体で構築された狼。その大きさは、巨狼に相応しい。

 全長は、十メートルはあるだろうか。高さは、人の二倍はありそうな狼。その四肢は、霊体でありながら鋭さを持ち、人間など一飲み出来そうなほどの大きな口を持つ。

 プレイヤーが対処できるレベルを明らかに逸脱したボス。巨大さに既視感を覚えつつ、俺はボスを見つめる。


(ぬし)らか、我の要石を壊したのは……』

「……ボスが喋った。AI持ちか」


 タクが感嘆の声を呟く。しかし、それを意に介さず、ストーリーは進んでいく。


『要石は、吸った生気を整える要所! それを壊したからこのように亡者共が溢れ出したではないか! この愚か者ども! それとも、樹の癒しに釣られたか!』


 ああ、思い出した。この大きさは、前に見たことがある。夏のキャンプイベント最終日に出てきたボス・幻獣大喰らいと同じだ。一人。いや、一パーティーで相手にするのは無謀だろう。

 レイド級ボス。Rとは、レイド。複数パーティー推奨のクエストだったのか。


『たった三人では、要石の人柱の数が足りんな。仕方がない、眷属たちよ。呼び戻して来い』


 複製音のように響く巨狼・ガルムファントムの声とは別に、狼の遠吠えに共鳴し、地中よりスケルトン・ライダーが七体現れ、何処かへと跳び退っていく。


『ここで食い殺して、樹の糧にするも良し。しかし、新たな人柱にするには、人数が少なすぎる。なら、この一撃に耐えたら考えるとしよう』


 大きく前足を振り上げた巨狼。その動作に俺たちは反応する。

 タクが前面に立ち、防御態勢を取り、俺がそのタクへとDEFとMINDのエンチャントを二重に施し、ミュウが光魔法で薄いバリアのような物を展開する。


『――抗うか。なら見せて貰おう』


 ただ一振り。振り上げられた前足が、放たれる衝撃波は、地面を抉り、アンデッドすら巻き込んで、俺たちを襲う。

 地面にしがみ付いて耐えようとしたが、無理で宙を紙のように舞い、そして受け身すらままならず、背中を打ち付ける。


「っ、かはっ……」


 派手な攻撃と体が持ち上がるほどの威力。そして、事実として五感で感じる衝撃が予想より少ないことに俺は、混乱する。

 現実なら身を裂かれる様な痛みが襲ってくるはずなのだが、ゲームとしての痛覚遮断が逆に人間の痛覚神経のオーバーフローを起こしているのではないか、と想像してしまう。

 ミュウもタクも地面に倒れ、巨狼を睨み上げる。


『ふん。その程度で我を打ち倒そうなど片腹痛いわ! 我を滅ぼしたければ、その十倍の戦力を持ってこい!』


 場に反響する声。やはり、このクエストは、大人数推奨だ。

 要石の数もパーティー上限の六より多い七。巨狼が人柱が足りない、もっと人を呼んで来い。ってことは、そう言う事なのだろう。

 それにしても、反響する声はちょっと辛いかも。重低音のスピーカーをガンガンと掛けられるような衝撃を頭に感じる。


『ふむ。間に合ったようだな』


 俺たちが起き上がれない状況の中で、先ほど放たれたスケルトン・ライダーたちが舞い戻る。

 その手に持つのは、鎖に巻かれて連れて来られた七人の人柱の幽霊。

 老いも若きも関係なく、雁字搦めの幽霊たちが絶叫している。


『やっぱり救われないのね』『嫌なの! もう、嫌なの!』『折角、死んだ妻に会えるのに!』『また暗い土の下か……次は何時に成るのかしら』『女神よ、これも試練なのですか』『私は元々村とは関係ない! 放してくれ!』『失敗しおったのか。まぁ、私らのように人柱にならなかった事を幸運だと思い、忘れるのじゃ』


 人柱だった幽霊たちが皆スケルトン・ライダーと共に地面の中へと潜り込んでいく。

 最後に見た顔は、達観した顔や諦めた表情の幽霊や泣き叫び助けを乞う子どもたちの悲鳴が何時までも場に木霊し続ける。


『我は、再び眠りにつく。次は無いと思え』


 再びガス状になり、消えていくガルムファントム。その後を追うように、地面へと沈んでいくアンデッド達。後に残されたのは、地面に転がる俺たちだけだ。

 低い視点から見上げる桃藤花の樹を始めてゆっくりと眺めるが、場違いかもしれないが綺麗だな。と思ってしまう。

 こういうのを現実逃避と言うのだろう。


「ユン、ミュウちゃん。大丈夫か?」

「俺は、何とか生きている。一番後ろに居たからダメージ少ないんじゃないか?」

「俺は、ヤバい。防具の耐久度が……」


 あんな緊張した場面の直後なのに、気の抜けた返事をする俺たち。しかしミュウだけは、一言も発せずに静かに立ち上がる。


「ごめん。私、ちょっと気分悪いから落ちて良い?」

「あ、ああ。分かった。ゆっくり休めよ」

「ミュウ、大丈夫か? 本当に」

「うん。少し水飲んで落ち着いてくる。ごめんなさい」


 それだけ言ってログアウトするミュウ。ただゲームなのに、顔が真っ青になっているようなほど、反応に生気を感じられない。

 あのイベントが衝撃的過ぎたのか、普段自信に満ちたミュウのプライドが今の一撃で粉砕されたのか……。


「ちょっと、俺も様子見てくる」

「分かった。再挑戦のための話をこの後したかったけど……。ミュウちゃんの調子が優れないんだ。仕方がないさ」

「ありがとう、タク。」

「何言ってるんだ。ミュウちゃんもお前も大事な仲間なんだ。当然だろ」


 心の中でタクに感謝をする。タクの後押しを貰い、俺もログアウトする。


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