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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
126/359

Sense126

「「「……!?」」」


 俺たち三人は、突如として始まったクエストのインフォメーションに驚愕する。


「おい、タク。どうしてクエストが始まったんだよ」

「知らねぇって、何か条件があったんだろ。今までやらなかった事で」

「えっと、今までやらなかった。って言うと、解読? でもそれはやってあるでしょ。でも、スクショの画像からの解読で……」

「持ち出しできないこのオブジェクトをこの場で直に解読するのが条件か?」


 クエスト発生条件は、『地下室』で『オブジェクト』を『解読』。という三つの条件ならあり得そうだ。解読するための【言語学】を持っている探索者は、ごく少数だろうし、ここまで直接来ないだろう。

 正直、盲点であると言える条件。そしてこのRクエストって何だ? とにかく、クエストの詳細を開き確認する。



 ――【Rクエスト・桃藤花の巨狼討伐1/3】――


 要石を壊せ。――0/7。


 

 クエストの内容の意味が分からずに、タクたちに助けを求めるが、同じように首を左右に振る。


「分からない。けど、この場の重要な物はスクリーンショットで残しておこう」

「そうだな。とにかく、他に情報が無いか探してから外に出よう」


 ミュウの提案でタペストリーの地図をスクリーンショットで保存し、他に何か無いか隈なく探したが、特に重要な物は無かった。


「それにしても、Rクエストか。ミュウちゃんは、Rの文字に心当たりはある?」

「うーん。レアのRとか、関係って意味のリレイションのRかな?」


 ミュウの言うことは、可能性としてありそうだ。だが、そのうちの一つをタクが否定する。


「分からない。けど、関係って意味は違うと思う。繋がるクエストの場合は、クエストの前に連鎖を意味するチェインのCがあるはずだ。けど、俺もレア以外に思いつかないんだよな。ユンは思い当たる節とか無いか?」

「俺もお手上げだ」


 言葉の端々には、霊的な存在や神聖物であるニュアンスが多々あるために、それ関連の単語を調べれば、何かしら当たりは出そうだが、目の前のクエストを進めた方が真実に近づけそうである。


「最初の課題が、要石って言うけど何のことだ?」

「上に上がってみたら分かるんじゃない? 私が先に上がってみるよ」


 そう言い残しミュウは、そそくさとこの埃っぽい地下室から退散する。俺とタクも肩を竦めるものの薄暗い地下室に何時までも居たくないという思いは同じだ。

 狭く、圧迫感のある廃屋から出れば、風の抜けるような空が気持ち良い。俺は、開放感のまま体を伸ばし、辺りに視線を巡らせるが。


「ヒントは、このタペストリーのポイントかな」


 タペストリーに記されたポイントの数も七つと合致するために、多分そうなのだろう。

 それにしても、要石ってのは、地面に打ち込まれた石で地脈や地震を制御したり、時には霊を封印するものであったりする。霊的な象徴として考えるならば、触れてはいけないもの。という事だろう。それを壊すとは……


「要石ってのがなんか嫌だな。悪霊でも封じられていそうで」

「何でも良いんじゃないの? 其れより、ここから一番近いのはあっちだよ」


 ミュウは、一人ずいずいと進んでいく。少し強引じゃないか。とも思うが、後姿を見て分かった。


「全く、ミュウの奴は、好奇心を押さえられてない」

「仕方がないだろ。未知のクエストってだけで慎重にもなるが、興奮もする。大目に見ようぜ」


 まぁ、一人で駆け出したいのを押さえて、でも興奮で小さくスキップのように先を行くミュウ。少しそわそわした感じでまだまだ子どもだな。という印象を思ってしまう。


「それにしても、巨狼の討伐。ってことはボス戦があるのか……三人でやれるのか?」

「まぁ、駄目そうだったら逃げるだけだろ。逃げられないなら死んでまたクエストをやり直すだけだし」


 死んだときのデス・ペナルティーは痛いと思うが、別にレベルが下がるわけじゃない。ステータスの一部が一定時間低下するだけだ。低下した状態でもできる作業はあるし、ステータスに依存しない【センス】でも磨いていれば良い。


「ほらほら、タクさんに、お姉ちゃんもあれが最初の要石じゃないの?」


 指差す先には、先ほど廃村の周辺を探索した時に見た岩があった。なんの変哲もない腰を掛けるには丁度良さそうな岩でこれ以外には特にそれらしきオブジェクトは存在しない。


「さぁ、始めよう。お姉ちゃんお願い」

「俺か。まぁ、やる事変わらないから良いけど」


 インベントリからピッケルを取出し、振り下ろす。甲高い硬質的な音と手応え、そして要石に出来た傷の小ささから普通の見た目とは違い、壊れ辛いことが分かった。


「硬っ、全部の要石を壊し終わる前にピッケルが壊れるんじゃないか?」

「もしそうなったら、私が魔法で消し飛ばすよ」

「じゃあ、その方向でよろしく。はっ!」


 二度、三度とピッケルを振り下ろし、傷を大きくしていく。そして、数分を掛けて要石を壊した時、変化が起こる。


「何だ!?」

「ユン下がれ! ミュウちゃん」

「はい!」


 俺を後ろに下げ、ミュウとタクが前に出て剣を構える。リゥイとザクロも尻尾と鬣を逆立てて臨戦態勢に入る中、俺は、割れた要石の後をじっと見つめている。

 白い煙を吹き出し、煙が徐々に人の形を作る。半透明のどこか田舎臭い感じの大人の女性で、顔に生気は無くただ一方的に言葉を口にする。


『――私を解放してくれたことには感謝するわ。けど、今すぐ帰りなさい。まだ間に合うから』


 それだけを残して、女性は消えていく。幽霊や亡霊が成仏するようにふっと空気に溶けていく。


「何だ。今のは」

「クエスト用のキャラじゃないか? 他にも要石一つずつに同じような物があるとか」

「ほら、クエストの分子が増えているからちゃんと進んでいるよ」


 俺の疑問に、タクが正解を口にする。確かに、イベント用のキャラなら納得できる。滅んだ村の村人か。でもどうして……。

 警告を発しながらも、クエストへの興味、村の滅んだ理由が次の要石で分かるかもしれない。そういった好奇心を刺激する何かがあった。

 止めるように警告しながらも、次で真相に近づける。まるで、読むほどに凄惨な光景を目にし、逆に読み進めなければ真実には永遠に辿り着けない。まるで推理小説のような展開。


「……面白くなってきたな」

「おっ、ユンがここに来て乗り気になったか。じゃあ、今日中にクエストの巨狼の正体でも見ようか」

「賛成! 次は、あっちの方向! レッツ、ゴー!」


 要石を壊していくと、同じように人が現れる。小さな子供、精悍な若者、そばかすのある顔の少女、隻眼の狩人、太った行商風の男、ローブを羽織った老婆。出てくる人間は全く統一性は無いが、その語る言葉は徐々に核心に近づいていく。


『お爺ちゃんが言ってたんだ。村の実りが悪くなるとイケニエを出す、って。それと石が壊れたらその下に人を埋めて新たな石を置くって。ヒトバシラって言うんだって。意味は知らないけど』


『ははっ、村のために戦ったけど、結局負けたさ。俺らが壊した【蠱毒の法】を直すために俺らが蠱毒の法の人柱になってこの地に縛られて……お前らも俺みたいになりたくなかったら帰れよ。こんなはずじゃなかったのにな。あの狼を殺せば、あの樹は村の物になるはずだったのに、癒しの力で死んだ妻が生き返ると思ったのに……。こんなことなら普通に死んで妻の下へと行きたかった。何時までもここに縛られて……妻も愛想を尽かしているだろうな』


『洞窟の中の化け物ってみんな狼に縛られた人なのよ。狼と戦って、でも逃げ出した人たちはずっとあの洞窟に縛られてるの。地獄にも天国にもいけない。私は、村に置いて行かれたけどね。生きたまま、埋められたの。でも、私は運が良い方。こうして天国に行けるからね。じゃあね』


『周囲の森で動物が減った。占い師のお婆によると、樹への生贄が足りないと森の動物を勝手に生贄にする。ってだから村から生贄を出さないといけない。って……まぁ、女神の信仰を持つ俺だ。女神のために生贄になったんだ。文句は無い』


『運が無い。武器をただ届けに来ただけなのに。まぁ、その武器も化け物には歯が立たなかったのですがね。なんでも【蠱毒の法】は、生気を効率良く集める術らしいですけど……この要石は制御だけで【蠱毒の法】は壊せないそうですよ。さて、解放されたことだし、何時までも幽霊じゃいけませんね。次の人生でもまた商売をしましょう』


『私は、占い師じゃ。まぁ、もう何かを知る力もないがの。さて、要石を壊して回るという事は、あの巨狼と戦うのじゃろう。止めろと言ってももう遅いのかもしれんの。さて、巨狼についてじゃ。奴は、ただ女神に樹を預けられただけじゃ。私たちがただ土地神だの、生贄と言っておるだけじゃて。外敵を【蠱毒の法】が優先的に食っておるからこの辺りには、外敵が少なく村を興し易かった。【蠱毒の法】の餌である外敵が居なくなれば、村の畑や森の動物が食われる。だから生贄なだけじゃった。奴は、別に私たちなど歯牙にもかけんよ。ただ自分の与えられた使命だけを果たす。そんな存在じゃ。さて、私もそろそろ行くかのう。洞窟の中の奴らももしかしたら、巨狼を倒せば魂だけは救われるかもしれんの』


 全ての要石を壊した時、大体のバックグラウンドは見えてきた。

 村が不作に陥り、生贄を差し出す。それに反抗した村人が要石を壊し、巨狼を倒そうと決起した。しかし、作戦は失敗し、村は滅んだ。

 生きたまま人柱になった者、ホリア洞窟でアンデッドになった者。

 外敵を喰らう【蠱毒の法】に守られると同時に【蠱毒の法】に生贄を捧げる村。結局は、村から逃げるか、現状に甘んじるしかない環境。巨狼も自分の使命にしか眼中にない。その運命を打破しようとして、巨狼の怒りに触れて全てが滅んだ。


「なんか、悲しい話だな。子どもや女の子が幽霊として出てきた時は、驚いた」

「そうだね。設定とはいえ悲しい話だね。でもさ。クエストは途中だよ。巨狼を倒せば、魂だけは救われるのなら、ちゃんと救いは用意されているよ」

「ミュウちゃんの言う通りだ。クエストは次のステップに進んだぞ」


 メニューを開いたであろうタク。俺も進んだクエストの詳細に目を通す。



 ――【Rクエスト・桃藤花の巨狼討伐2/3】――


 桃藤花の樹にて湧き出るモンスターを倒せ。――0/1。



 クエストは進んでいる。確実に。 

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