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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
124/359

Sense124

 今は、冷蔵庫を開けて、食材を確認する。本日の昼食は、ミートスパゲティーとインスタントのコーンスープ、生野菜のサラダだ。

 挽肉と微塵切りにした玉ねぎを加熱。白ワインとトマトケチャップを加えて味を調えて茹でたパスタに乗せ、パセリを振りかければ終了だ。

 他スープもサラダも茹でている間に用意ができる簡単なものだ。

 俺が昼食を準備していると二階から降りてくる人物が居る。


「おはよ~。お兄ちゃん」

「おはよう。って、もう昼飯だぞ。振替休日だからってだらけ過ぎだ。寝過ぎじゃないのか?」

「大丈夫大丈夫。睡眠時間は、何時もと同じだから。ただ、寝るのが遅かっただけ……四時間くらい」


 おいおい、生活リズムが狂うだろ。起きてきたのが大体十二時前後。普段の美羽の睡眠時間が六時間から七時間。逆算すると、午前四時か五時に寝たことになる。それまで延々と夜狩りでもしていたのだろう。

 兄としては感心しないのだが。


「ちゃんと規則正しい生活してくれよ。朝食だって抜いてるし……」

「でもね。平日の午前って人が居ないから夜遅くまでやる知り合いとやってたんだよ。一人でやるよりパーティー組んでレベルの高い所を目指した方が効率が良いんだよ」

「学園祭が終わっても元気な奴。早く顔洗って、着替えてこい」

「はぁ~い」


 ぺたぺたとスリッパを鳴らして、奥へと消えていく美羽に溜息を漏らしながら、こっそりと朝食を抜いた分程度にはスパゲティーを多めに盛り分けた。

 しばらくして、顔を洗いすっきりした様子の美羽と一緒にテーブルに着く。


「やったっ! ミートスパ! これに粉チーズを沢山掛けるのが美味しいんだよね。次は、カルボナーラでもお願いしようかな?」

「それはまた今度。夕飯の食材は、既に買い込んでいる。最近寒いし鍋物な」

「おおっ?! お肉にお魚、野菜の旨味が出た汁にご飯やうどんを投入するのも良いね。お父さんたちが居る日だし、みんなで食べれるね」

「まぁ、そんな所だ」

「ふむふむ、食材を買ってあるなら外に出る予定はないよね。じゃあ、私と鉱山ダンジョン行こう。オーク種の敵のレアドロップが中々落ちないんだよね。物欲センサー働いてるのかな?」

「あー、無理。先約ありだ」


 俺の一言に、美羽は目を細めて視線の鋭さが増す。


「ほうほう。今日は平日で。その先約ですか……うーん、相手は誰かな?」

「いや、ちょっとした事で――まぁ、ゲームで……「相手を今当てるから待ってて」……はい」


 あれかな? でも……条件から考えると。と首を捻りながら相手を予想する。


「お兄ちゃんが新しい交友関係を広げる可能性は低い。親しい生産職は、平日だし多分居ない。そうなると……今日休みで親しい人は――本命、巧さん関係。二番手が、優先してやりたい生産活動。ダークホースで、クロードさんかな?」

「……正解。巧に誘われた。と言うよりも俺が頼んだことに付き合わされることになった」

「ふむふむ。そこに私も入り込んでも良いかな? 臨時パーティー募集するよりも楽しそうだし」

「あー、巧に食後連絡を取るからその時に了解を得たら」


 美羽と巧と三人パーティーか。そう考えるとこの数か月に無かった組み合わせに少し新鮮な感じがする。普段は一緒に居ることが多いんだけどな。

 その後、メールで確認したら、是非。と言う返事を貰った。巧と美羽は、ゲームでも時折組んでいる時があるらしいので、その時の動きや何かは参考になりそうだ、とか、美羽という強い護衛が居るし、美羽の明るさには暗い洞窟でも少しは平気そうな気がする。

 そういう意味では、非常に有難かったりする。


「お兄ちゃん。先に行ってるけど、良い?」

「ああ、巧が先にアトリエールで待っているはずだから、詳しい話は、そこで」

「分かったでありますよ」


 びしっ、と敬礼を食器洗い中の俺の背中に送る美羽。俺も後を追うように、ちゃっちゃと終えて自室のVRギアを被る。

 何時もと変わりの無い導入によってOSOへとログインした俺は、アトリエールに立っていた。


「悪い。待たせたか」

「いや、ミュウちゃんに俺が詳しく話していたところ」

「お姉ちゃんは、どうしてそう面白そうな事を私に教えてくれないの」

「いや、商売の種だから」

「じゃあ、リゥイとザクロを出して、早く、早く」

「仕方がないな」


 俺は呟き、二匹の幼獣を召喚すると、現れた二匹を抱きしめて堪能し始めるミュウ。会う度にこれなので、二匹とも慣れた様な様子でされるがまま。ミュウが満足するまで俺たちはしばらく待ち――。


「ミュウちゃんも満足した所で、話の確認だ。俺たちも今日の目的は三つ。ユンを廃村のポータルまで無事送り届けること。ユンが必要とする蘇生薬の素材を探すこと。最後に、桃藤花の樹の秘密を探る事。で問題ないな?」

「異議なし! レッツゴー!」


 大きく拳を振り上げるミュウ。俺は、既にホリア洞窟の事を思い、げっそりとしている。

 正直、俺を送り届けずに、二人だけで後ろ二つの目的を達成してください。えっ? 駄目? ですよね。

 慰めるようにすり寄ってくる二匹の想いが辛い。


 まぁ、洞窟までの道中は、特に障害は無い。


 ポータルで第二の町まで跳び、そこから街道に出現する敵を倒しながら進む。

 街道に出てくる敵は、蝶の羽を持つ豹のMOBフェアリー・パンサーや小さな畑荒らしという設定のケダマオニなどを倒していくのだが……。

 見敵必滅の心で切り捨てて進むミュウ、軽く撫でるように切り払っていくタクと安全快適な道中だった。


「あはははっ、二人が強すぎてサクサク進んでいくし……俺が居る必要あるかな」

「じゃあ、適当にエンチャントでもお願い。あとは、自衛しておいて」

「そもそも、洞窟に入ったら役に立たなくなるだろうし……最初からユンを戦力には数えてないぞ」


 あー、やっぱり。戦力にすら数えられてないとは。現時点で存在意義薄いし……


「やっぱり弱いね~。ここなら鉱山ダンジョンの地下三階層のオーク種やダンジョン街のノーマルダンジョン二階が適正か……」

「うーん。ソロだとそれだけど、二人ならもう少し強い所に行けそうだよな。明日時間あるなら俺と一緒に鉱山でも良く?」

「じゃあ、お願いします。ふふっ、楽しみだな」


 親友と妹は、仲良いな。三人人間が居れば、一人は会話に入り込めない場合があるけど、俺は余りの一人だよ。


「やっぱり帰って良い? ちょっと爆弾作りたい気分になって来た。それにお化け嫌い」

「ちょっと! お姉ちゃん、戻ってきてよ! 子どもじゃないんだから」

「良いから行くぞ! 駄々捏ねるなよ!」

「嫌だっ! やっぱり帰る!」


 俺自身も珍しいほどに抵抗するが、左手をミュウが掴み、引き摺るように洞窟内部へと連行される。

 洞窟の中は、暗く背筋の凍るような寒さがする。空気が肺に入ると痛みすら覚えそうなほど冷たく、重い。そして何より。


「うわぁぁっ! お化けの声がひゅぅぅって」

「大丈夫だよ。ただの風の音だよ。お化け屋敷の効果音だと思って」

「ほらっ、人魂が……」

「それはザクロの火の玉だろ。ユンが騒ぐから早速来たじゃないか……」


 何が来た? と疑問に浮かべるまでもない。風音に混じる潰れた呻き声とカタカタと硬い物がぶつかる接触音。ライトの奥の闇の中すら見通す【鷹の目】は、闇の中で目を不気味に赤く光らせるゾンビとスケルトンを見つける。


「うっ……」

「そんな怖くないだろ。こんなの……」


 そう言いながら、近づいて剣のナックルガードで手近なスケルトンの頭を殴り飛ばし、カラカラと骨が音を立てて抜け落ちていく。続くゾンビには、上半身と下半身をさようならする鋭い一撃を放つが、地面に落ちた上半身と上を失った下半身はそれでも動き続ける。

 攻撃が通用していない様子。更に、切っても殴っても意味をさなさいアンデッド達に俺の精神が盛大に悲鳴を上げる。

 ウィスプと違い、意志疎通は出来ないし、一方的に襲ってくるし、倒されてからが妙にリアルで怖い。そもそも、何でアンデッド系の消え方が、部分的に崩れるんだよ。


「ミュウちゃん!」

「合点承知。リゥイも出来るよね!――【ソル・レイ】」


 ミュウとリゥイが、離れた位置から光を放つ。ミュウは放射状に照射される熱光線が、リゥイは上から垂れ下がるような光のヴェールが。それを受けたアンデットは、体を崩しながら、燃えるようにして灰へと戻す。


「光とか浄化が弱点だから、ユンより幼獣の方が戦力になるな。それにしても、綺麗に燃え尽きたな、ゾンビとスケルトン」

「ほーら、お姉ちゃん。怖くないよ、怖くない。綺麗さっぱり消えちゃったんだから」


 洞窟に入ってからずっと手を離さずに握っているミュウの存在がどれほど有難いか。逆に言うと、絶対に逃げられない。実際、今この瞬間手を放そうとしても、放してくれない。

 絶対安全なミュウの傍を離れることは、アンデッドが押し寄せること意味するわけで。


「早くこの場を抜けたい」

「大丈夫大丈夫。壁のタクさんとアンデッドには私とリゥイが居るんだから。心配ないよ」

「ユン。心をしっかり持てよ。じゃないとこの洞窟では、足手纏いになるぞ」


 確かに、足手纏いは嫌だが、戦力的には問題ないだろう。

 俺の当初の恐怖心である海外ホラーのような人型の化け物に対する恐怖はない。恐怖は無いのだが、寒気や冷気と言った物だけは減らない。むしろ、洞窟を入った直後よりも増している。

 見られている。背中に視線を感じるのではなく、洞窟全体から複数の視線を向けられ、それが体に纏わりつくような重さがある。


「ほらっ、ちゃきちゃき歩けばその分早く進むよ」

「だから……無理だって」


 足を進めようと一歩踏み出す度に、恐怖で動きが緩慢になる。その焦りが更に動きにブレーキを掛けついに動けなくなってしまう。

 心なしか、ミュウの作り上げた光源が点滅を始め、その光度を弱め始めた。


「もう帰る! こんな所居たくない!」

「タクさん! スペクターが来ました! それにお姉ちゃんが完全に嵌りました!」

「ちっ、嵌ったか。ミュウちゃん、霊体のスペクター頼む。俺がユンを見る」


 ミュウが俺の手を放す。嫌だ、放さないで。怖い怖い……そうだ。リゥイにザクロの傍なら安全だ。

 俺は、傍に控える二匹を強く抱きしめる。

 二匹の温かさを感じるが、それに対して自分自身の手や頬が驚くほど冷たく感じる。体が悴み、その場で蹲り、身を震わす。

 どこからともなく、絡みつく視線が怖い。目に見えない恐怖、粘りつくような恐怖を感じながら、緊張で唾液を飲み込む。

 そして、気づきたくない事を気づいてしまった。

 

 この洞窟は――生き物の体内なのだ。


 粘りつく出所の無い視線は、まるで粘液のように。

 自分の体から温かみが抜けるのは、まるで消化されるように。

 最終的には、自分は、あのゾンビどもに食い散らかされるのではないか。


 一瞬の内に巡る想像が、より恐怖を掻き立て、自分の歯の根が噛み合わずにガチガチとぶつかる。

 冷蔵庫にでも放り込まれたような寒さと頭蓋骨に響く自分の音に、自分自身がスケルトンになったような錯覚さえ覚える。既に、自分は溶かされてスケルトンなのではないか。


「ちっ、混乱から錯乱にまで上がったか。気付け薬で正気に戻れ!」


 何も聞きたくない。何も知りたくない。自分の体に寒気が入り込み、ただ恐怖で満ちていくだけだった。そんな体に掛かる冷たい液体に何故か安心を覚える。

 どうしたんだろう? 何も聞きたくなかった耳が音を拾い始め、思考に靄が掛かるがちゃんと聞こえるようになる。


「……ユン! しっかりしろ!」

「タ、ク? ミュ、ウ」


 焦点の定まらない目で二人を見る。手から光弾を放ちながら宙を漂う半透明のお化け・スペクターに対峙している。洞窟を覆うように何十ものスペクターがこちらを見つめている。だが一斉に襲ってくるわけでもなく、気まぐれに数匹襲って来ては、ミュウに一撃で返り討ちにされている。


「ほら、もう一本。気付け薬だ!」

「何っ、ほぅ……」


 無理やり口に押し込まれるガラスの容器とそこから零れる液体を喉を鳴らしながら飲んでいく。

 そうすると、自分の今までの不甲斐ない姿を思い出すと共に、思考がクリアになっていく。


「ふはっ、もう良い。大丈夫だ」

「なら早い所、スペクターのエリアを抜けるぞ。それで終わりだ」

「タクさん! お姉ちゃん連れて先へ!」


 座り込んだ俺の手を引いて洞窟を一気に走り出すタク。俺はただその手に引かれるままに足を進める。殿を務めるミュウとリゥイの光が背中越しに見る。


「後ろを見るな! 前だけ集中してろ」

「わ、分かった」


 タクの言葉を素直に従い、後ろから目を背け前だけ見る。タクの視線の先には、洞窟の終わりが見え、光が入り込んでいた。

 俺たちは、そのまま左右で手を伸ばすアンデットの合間を抜けて、洞窟の外へと飛び出していく。 

なんで、ユンくんが錯乱したのか。それは次回……

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