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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
122/359

Sense122

「何で、イメージ通りに体が動かないのよ」

「そう苛立つな。誰だって最初は駄目なものだ。むしろ、繰り返して慣れれば良い」


 休憩中、気落ちしたような、でも苛立ちの言葉を口にするライナに対して俺は、適当に慰める。その間ザクロを膝に乗せ、リゥイの背中をブラッシングする。気持ち良さそうにブラッシングを受けるリゥイは目を細め、膝の上を陣取るザクロは、火を操る幼獣のためかぽかぽかと温かい。

 そんな俺を暫くの間、恨みがましく睨んでいるのだが、ふっ、と溜息を吐いて視線を外していく。


「……まぁ、スライムに囲まれた時は、助けてくれてありがとう」

「ライちゃん、素直じゃないよ」

「あんまり、ツンケンした態度をとると周りから反発喰らうぞ。馴染めとか言わないが感情はコントロールしろよ。後、俺も言われたことだが『打算的に物事を考えろ』だと」


 ミュウに言われたことだが、この二人を見ると何となく分かる気がする。俺は打算的に考えられなかったから巻き込まれた。打算とは、メリットとデメリットの事だ。

 この人と一緒に行動することで何か良い事があれば、協力する。その代償に、自分は時間的な拘束を受けるという損得勘定だ。

 そこには、人柄や性格も加味される。


「わ、分かったわ。でも、言いたいことは言うからね」

「感情的にならず、人に不快にしないように注意した方が双方の精神衛生上は良い。性格が合わない相手なら一度限りのパーティーでもありだろ。とは言え、ソロの俺が言うのも変だがな」


 言葉には、自嘲気味なニュアンスを込めて呟く。

 今までパーティーを組んだのも、友人や兄妹、生産職仲間たちなどと圧倒的にパーティー経験が少ない。そういう意味では、この二人とのパーティーは連携の試行錯誤の過程が見れるのではないか。とも思っている。


「ライちゃんも師匠も大概、ズバズバと言ってるよね」


 ジトっとした視線をアルから受けると、居た堪れなくなり、視線を逸らす。


「今日会って思ったけど、名前も顔も武器も隠して。二匹の使役MOBを引き連れて。師匠って何者?」

「それは、聞かないのがお約束。って奴だ」


 マスクの上から口許に人差し指を当てる。まぁ、こういう小さな動作も恰好が胡散臭ければ、行動にも胡散臭さが移るという物だ。二人は微妙な顔をしている。


「まぁ、使役MOBが欲しいなら調教師ギルドがある。そこを訪ねて一通り聞けば良い」

「調教師とMOBか……。その、二匹に触っても良い?」


 ライナは、右手を突き出し、既に触ろうと準備している。まぁ、無駄に終わるのだろうが。


「こいつらは、他人に殆ど懐かない。試しに触れば良い」


 まぁ、予想はすでに出来ているのだが。


「えっ、良いんですか! じゃあ、遠慮なく……」


 ライナが触ろうと近づくが、ザクロは怯えてしまい、俺のマントの中に隠れてしまう。リゥイは、すっと立ち上がり距離を取る。


「残念だったな。懐かれていないみたいだな」

「どうして……」


 今までに見せなかった絶望した様な表情には、マスクの下で苦笑してしまう。アルの様子から何時もの事らしい。また、悪癖を。と呟くのを聞こえる。


「ザク……。いや、小さい方は、人見知りや対人恐怖。そっちの避けた方は、親しい人以外には絶対に触らせない」

「何で? あんなに、ふわふわして気持ち良さそうなのに……。もう一度!」


 避けたリゥイの方へと突撃するが、甘いな。ミュウですら捕まえられなかったリゥイを初心者が捕まえられるはずがない。軽くその体を触ろうと迫るが、軽くあしらわれる。反骨精神のライナは、負けじと考えられる方法でリゥイに迫る。じりじりとすり足で近づき、不完全なフェイントを織り交ぜるが、全て看破され、避け続けられる。それも明らかに手加減し、あと一歩という場面を演出するリゥイ。


「絶対、おちょくって楽しんでるな」


 ライナとリゥイの追いかけっこは続き、終わる気配を見えないために、諦めるまで放置しておく。

 マントに隠れたザクロは、俺の胸元から頭だけ出し、警戒をしている。


「師匠。さっき戦って思ったんですけど……魔法ってどうしたら上手く使えます?」

「うん? どうしてって」


 アルの質問に先の戦闘を思い返せば、スライムに囲まれたアルは、風魔法を乱発していた。その多くは、頓珍漢な方向へと逸れたり、無駄の多い物が多かった。


「あー。魔法な。かなり感覚に頼っている人と理論に頼っている人の二通りが居るんだ」


 以前、ミュウとセイ姉ぇと魔法談義をした際、二人の認識は大きく違っていた。


「俺は、感覚派。って言えば良いのか? 敵に狙いを付けて、魔法を放つ。って単純な思考で行っている。実にファンタジーらしい考え方だよな」


 どう話したものか、と悩みながら、コートの胸元から頭をひょっこり出しているザクロの額や綺麗な三角の耳を優しく指先で撫でる。


「そうですね。魔法ってそれが普通なんじゃないですか?」

「もう一つは、システム的な理論派の思考だ」


 先の言った感覚派の代表例は、ミュウだ。言葉じゃなくて感性や体感、実戦主体の思考だろう。剣と魔法を並列で使用する場合、無駄な考えを省き、最短発動が感覚派だろう。

 対して、理論派とは、セイ姉ぇのような少数派の人を言う。また、俺もある一部分では理論派とも言えよう。


「ゲームのシステム的に魔法やアーツの発動プロセスを見ると――座標や敵を『指定』。次に、魔法やアーツの『選択』、MPを『消費』最後に『発動』の四段階がある。感覚派は、これらの全てを最短でやるが『指定』の精度は、個人差があったりする」

「えっと、師匠。その理論派って、どういうメリットがあるんですか?」

「うーん。俺も詳しいことは分からないんだ。そもそも感覚派だしな。聞いた話だと思考ルーチンを『指定』『選択』『消費』『発動』の組み立てが慣れると【無詠唱】や【並列魔法】のセンスと組み合わせて無駄の少ない発動ができるらしい」


 それが出来れば、下級の魔法を連射しながら発動に時間の掛かる上級の魔法を準備など、セイ姉ぇは、本人打たれ弱い後衛だが、安易に近づけさせない弾幕を張れてやっと一人前。と言うが、普通は他人に守って貰って真価を発揮するのが魔法使いのはずなのだが……


「まぁ、このゲームのシステム的な発動は、魔法やアーツに限らず、生産センスでも同じだ」

「へぇ~。そうなんですか」


 生産の場合は、生産道具を『指定』、素材と生産アイテムの『選択』素材を『消費』、最後に『発動』。最後の発動で失敗すれば、そのまま素材は消失。生産職は、何時も『指定』と『選択』の部分で頭を悩ませている。

 この『選択』の部分は、生産スキルを使うことで簡略化されているために、手作業による複雑かつ膨大な選択の連続によって武器や防具の性能が左右される。と生産職共通の認識だったりする。

 他にも、セイ姉ぇ曰く、マジックジェムやエンチャントストーンのシステム的な発動プロセスは、アイテムを起点として『指定』『選択』『消費』の三つの工程が事前に登録されているために、後は、キーワードによる『発動』だけ。というのが考え方らしい。


「まぁ、生産職の辺りは、詳しく説明すると面倒だから、魔法は、結局慣れが大きい。使っていけば、レベルも威力も上がっていくしな」

「それって結局の所、レベルが重要なんですかね?」

「センスの組み合わせ、個人の技量やステータスの管理、武器の相性。そういった諸々だ」


 諭すように言うと、俺は、インベントリから読み掛けの『魔法概論』を取り出す。


「何ですか、そのアイテム」

「本だよ。見ての通り、こういった本を一冊読むにもそれに対応するセンスが必要だ。まぁ、趣味やネタセンスって言われているものだ。俺は好き好んで使っているが」

「それに何か意味はあるんですか?」

「意味はあるけど理解はされないんだよ。一種の自己満足だ。コンスタントにレベルや強さだけを追い求めるのも良いけど、こういった物もあるんだ」


 掲げた本をもう一度インベントリに仕舞い込み、俺は重い腰を持ち上げる。


「さて、休憩は終わりだ。この後どうする?」

「ちょ、待って。ううっ、何で捕まらないのよ!」


 さっきからずっとリゥイを追いかけていたライナ。休憩前よりも疲れた顔をしているが、無視する。


「あー、ちょっとお金無いし、消耗品もさっきの戦闘で初級ポーションの効果が減ってたから……」


 早いな。いや俺の場合、スタートダッシュが遅かっただけで、戦闘系センスをメインに固めての集中したレベル上げすれば、二日くらいで目的のレベルに到達するだろう。それに俺が居ることで安全マージンは大分高く取れている。多少の無茶も出来るし、質の高いレベル上げならそれくらい行くのかもしれない。まぁ、低レベルの内はレベルが上がりやすいのもあるだろう。

 俺の毒と呪いの耐性のセンスだって、レベル11になっている。


「じゃあ、ドロップを売って、買い揃えれば良い。ただ、アイテムはNPCよりプレイヤーメイドの方が効果が高い場合があるし、売る人によっては、同じ効果でも安い場合がある。そうやって、良い店を探すことを俺は勧める」

「師匠、SPも獲得したんで、僕は、もう少し魔法寄りのセンス構成に変えてみたいです」

「じゃあ、私は、このままのスタイルで行こうかしら。アルが完全に後衛で私が前衛」


 どうやら、二人の中で少しだけ方向性が見えたらしい。


「あと、買い物に行くときは、一つだけ言っておく。NPC店でランタンや松明なんかの光源のアイテムを買っておいた方が良いぞ」

「何でですか?」

「お前ら学生だろ。昼間は学校で、まともに時間が確保できるのは、夕方から夜にかけてだ。夜の暗闇の対策は、センスや光魔法もあるが、店売りのアイテムでも解決できる。あって損は無いだろう」


 俺の場合は、【鷹の目】センスの暗視性能には随分と助けられた。ミュウも光魔法の【ライト】を打ち上げて視界を確保している。


「そうね。昨日は、夕方の暗さで切り上げたから確かに必要ね」

「じゃあ、僕が光魔法を覚えるよ。風と光の二種類を使っていくよ。今は金欠だし、その内、プレイヤーメイドの装備とか欲しいから節約しないと」

「じゃあ、アル。お願い。必要なら、私も何か役立つセンスを取るわ。アルにだけSPの負担はさせられないもの」


 二人の会話を聞いていると、金欠時代の自分を思い出す。あの時は、森を駆けずり回って採取アイテムの確保して、自分で調合していたな。それに、金がある程度溜まっても、設備投資でまた金が飛んでいく。最終的に店を持てるまでになったが、小さいカウンターと工房部のまま。

 この前、ミニ・ポータルを買ったからまた金欠気味だし。


「私たちは、お店の位置とか知らないけど、どこか良いお店はある?」

「……」


 この場で、俺のアトリエールを紹介すると、マッチポンプになってしまう。そもそもアトリエールの顧客は、困っていないし、無難な返答をするか。


「……露店がある。露店を見て回って、露店を開くプレイヤーに聞いて回れば良い。駄目なら、生産職向けの総合ギルドが今週から設立されていたはずだ。店の情報が欲しいならそこに向かえば良いし、その場で買える物もある」


 ただ、ギルドの委託販売は、僅かに手数料込みで割高になっている。地道に歩いて、顔を繋ぐのも面白い。


「わかったわ。それと一緒に――「回らないからな」――」


 おいおい、睨むな。上目遣いでも吊り目の女がやると年下でも怖いぞ。


「自分の好みの生産職を探すつもりで回れ、親しくなれば多少の融通は聞いてくれるかもしれないぞ」

「そうなんですか?」

「俺の普段行くところは、色々と融通し合っている」


 相手の必要とする素材があれば、提供し、逆にこちらも提供する。いや、これは生産職同士のネットワークか。でも、ミュウやタクなんかが拾ってくるアイテムに珍しいものが混じっていれば、色を付けた値段で買い取ることもある。


「とにかく、打算的に交流してみろ。そこから親しくなれば良いんだから。っと、通信か」


 二人と話している途中で、フレンド通信が入る。相手は、タク。このタイミングで連絡が入るとは。


「なんだ? お前から連絡って」

『よっ、昨日ぶり。今はお前の店に居るけど、奥に居ないみたいだから』

「当然だ。外で狩りをしている。で、用件は?」


 俺は、そろそろこの通信を切って、二人との話に戻ろうと思うのだが、二人はジェスチャーでこちらを優先して良いと伝えてくる。


『実はな。ユンに『桃藤花』の加工を頼みたい』

「……分かった。話を詳しく聞きたい」

『レベル上げついでに集めたからな。それを使い切ってでも良いからやってほしい』

「こっちとしては、俺自身が弱くて取りに行けないから願ってもないが。失敗するかもしれないぞ」

『そしたら、またレベル上げついでにあの樹で集めるわ』

「……今から行く。ついでだし、話したいこともある」

『待ってるぞ』


 俺は、タクとの通信を切り、二人に顔を向ける。

 しかし、どう話したら良いか。初心者支援を始めたは良いが、途中で放り出すのは……


「何を気にしているのよ。お呼びが掛かったんでしょ?」

「ああ、そうなんだが……」

「打算的に。でしたっけ? 僕たちとさっきの通信。どっちが利が多いか打算的に考えたらどうなります」


 そんなのは比べるまでもなく、タクの案件の用が利は大きいだろう。だが、ここで別れるのも自分の役割放棄になりそうで。


「何を迷ってるのよ! もう、さっきみたいな無謀な真似はしないわよ。それに、四六時中あんたを必要とするわけじゃないわよ。男なのにうだうだしない!」

「ライちゃん。ちょっと言い過ぎ。でも、僕らは、色々とセンスを試してみるので、さっきよりレベルの低いところで狩りをしてますよ」

「……ありがとう。俺は行くが、町まで送るか?」

「良いからさっさと行きなさい!」


 ライナに背中を押され、無理やり歩かされた。


「何かあったら気兼ねなく通信するんだぞ!」

「あんたは私たちの保護者か! 心配しなくても人とトラブルは起こさないわよ!」

「ライちゃん、自分が心配の原因って知ってるんだ」


 まぁ、アルがツッコミを入れている分にはまだ大丈夫なのだろう。

 俺は、パーティーから抜け出し、ポータル経由でアトリエールの工房へと戻ってきた。

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