Sense121
空腹度がすっからかんで動けない二人にサンドイッチを渡し、やっと自己紹介に入ることができた。
「空腹度のステータス管理能力が甘いのは、最初だから目を瞑るとしよう」
「はむ、はむ。これからよ! 次は同じ失敗しないわ」
「お手数掛けます」
二人は、渡したサンドイッチを食べて落ち着いたところで、改めて自己紹介に入る。
「サンドイッチご馳走様。改めて自己紹介をするわ。私は、双子の姉のライナード。ライナで良いわ」
「それで、僕は弟のアルファード。僕もアルでお願いします」
ライナとアルは、ミュウと大体背格好が同じようだ。二人の武器やセンスの構成は、テンプレートを踏襲した選択している。
ライナの容姿は、ハニーブロンドで肩まで掛かる癖っ毛。少し吊り目がちな目元と無愛想な表情は、気の強そうな感じがある。まぁ、口を開けば、きつい言葉が飛び出す。
アルは、ダークグリーンの髪に少し細められた垂れ目と常に微笑を浮かべる。線の細い繊細な男子や割れ物のような印象を受ける。俺に協力を頼む当たり、外見に似合わず図太いのかもしれない。
「すまんが、俺の方は、訳があって名前は言えない。まぁ、好きに呼ぶと良い」
二人は、額を合わせて、ひそひそ話をするのだが、内容はダダ漏れだ。
「所謂、ロールプレイ? 仮面のミステリアスも、お人好し要素が加わるとただの残念な人になるわよね」
「ライちゃん、色々教えてくれる先輩に失礼だよ。呼び方の方を考えようよ」
「先輩か、先生。後は師匠とか? うへっ、どれも似合わないわよ」
「言い過ぎだよ。尊敬の念すら籠ってないし……」
二人は、論議を重ねて『師匠』という呼び方に決まった。それも、お遊びの意味合いが多分に含まれており、尊敬など微塵も感じさせない。
「師匠、師匠はどれくらい強いんですか?」
「俺自身は強くない。ステータスだけで見れば弱い部類。それを装備やアイテム、魔法で随時補っているだけだ」
「「へぇ~」」
二人が、同時にやる気の無い感嘆を上げる。俺も相応のやる気で教えていくが。
「俺のスタイルは、一般的じゃないし独特だ。だから、同じやり方を強要しないし必要だと思えば、自分で率先して組み込めばいい。あと、俺も二人に合わせて時間は割かない。俺は俺のレベル上げする」
「分かったわ。無理に一緒に居て貰うんですもの。それくらいなら……」
「じゃあ、質問。師匠は、調教師なの? それとも短剣使いなの? 魔法使い。どれなの?」
二人は、俺の肩に掛かる矢立と弓を視認していない様子だ。【認識阻害】の効果範囲は名前だけじゃなくて、外装や装備の認識を阻んでくれているようだ。
二人の前で見せた物は、包丁一本。俺の少し後ろを付き従う二匹の幼獣。そして、魔法。
「俺は、どれでもあってどれでもない。戦闘は不得意だ。他に聞くことは」
二人は、今は思いつかない。と言うので、二人の平均は、レベル7。俺たちは、パーティーを組み、二人のレベルに適切な場所に移動した。俺は、二人に同行してもレベルを上げられるセンス構成に変更した。
所持SP18
【鷹の目Lv47】【俊足Lv6】【看破Lv7】【魔道Lv4】【地属性才能Lv22】【料理Lv31】【調教Lv13】【言語学Lv21】【毒耐性Lv6】【呪い耐性Lv6】
控え
【弓Lv39】【長弓Lv15】【付加術Lv27】【錬金Lv39】【合成Lv36】【彫金Lv7】【調薬Lv37】【泳ぎLv15】【生産の心得Lv43】【登山Lv13】【麻痺耐性Lv6】【眠り耐性Lv6】【魅了耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【気絶耐性Lv6】【怒り耐性Lv1】
センス装備から弓系と付加術を外し、言語学と毒、呪い耐性へと変更。メイン装備を包丁にして、アクセサリーには毒と呪い喚起の装備を使う。時間経過で発生する状態異常を耐えているだけで俺のレベルは上がるために、二人に合わせる必要もない。
言語学だって、本を読んでいれば自然とレベルは上がる。普段の行動と何ら違いは無い。傍に二人居るか居ないかの違いだ。
なお、借りた本のタイトルは『童話文庫』『武器事典・弓編』『魔法概論』という名前だけは仰々しいものだが、その実は、紙媒体にしたゲームの設定やサイドストーリー、装備や魔法の分類などの本だったりする。
ただし、読むためには相当な言語学のレベルが必要で、内容も結構メタな物があったりする。
ありきたりな何とか山の竜退治の童話では、退治した冒険者・アランがドラゴンを仲間と共に倒し、戦いの中で、弱点を突いて勝利した話は、弱点の描写が非常に凝っている。
また、一角獣のリゥイや空天狐のザクロ。それに、リーリーのパートナーである不死鳥のネシアスなど、以前のキャンプイベントで出現した幻獣に関する童話があったりする。
幻獣をモデルとしている童話などが流し読みだけでも幾つもの話を見つける事が出来た。面白い内容ではあるが、内容が難解だったり、OSOの世界観オリジナルの言い回しがあったりと、現在は解読して、自分で読み易いようにノートに書き写したりしているが、それは一人の作業。
今野外でも読める本は、弓に関する参考資料で――。
「ほらっ! 【パリィ】で止まったわよ。今のうちに殴って!」
「えい! やっ!」
「……」
ライナは、木の板を金属板で補強した盾。部分鎧。そして槍を構えており、アルは、棍棒のような武器を両手で握りしめて、スライムに振り下ろしている。
はっきり言ってしまえば、連携も何もない泥臭い動きだ。
まぁ、昨日始めたためにそういうのは当然だろう。そもそも、βテスターの古株であるミュウやセイ姉ぇ、タクとその他愉快な仲間たちは、最初から別次元だったような気がする。
俺も最初は、こんな気持ちで見られていたんだろうな。と思い、感慨深く感じる。
「まだまだ。沢山動画を見て、イメージトレーニングしたのに……」
「ライちゃん、それで動けたら凄いよ」
確かに、俺も最初は、ミュウにボロクソ言われたのを思い出し、仮面の下ではほろりと涙目になる。それと同時に、当時理由も分からずやっていた射撃のルーチンワークは、攻撃の最適化と応用技術を使う上での基礎になったのを思い出す。
弓を持つ手と状況に合わせて矢やポーションを使う自由な左手。徐々に組み立てたスタイルを二人は、作っていけるだろうか。
「まぁ、連携が無くても、少しずつ覚えればいいか。対人戦と対MOB戦闘は、全く別だしな」
そう一人呟いて、再び本を開く。
武器事典を借りた理由は、ゲームにおける弓矢の扱い。正確には、矢自体の改造は可能かの確認のために、矢に関する記述を探した。
意外と、毒の矢など、鏃に毒塗る行為に関する記述は見つかったが、それ以外。爆弾弓矢の記述は見つからない。
代わりに、面白い矢を見つけたのだが。
「――ダート矢。ダーツの事か」
弓矢のカテゴリーに入るのか疑問のあるが、歴とした矢の一種。分類は、投擲と弓矢の二面性を持つが弓を介さない矢である。
ダーツは、もともと、兵士が夜の酒場で弓矢を使って木の樽に狙いを着けていたのが原型らしい。其れから、矢を短く加工して投げやすく安定性の増したものがダート矢となり、遊戯のダーツとなったのが大まかな流れだったと思うのだが……。
「……まぁ、ネタ装備だな。やっと見つかったか。欲しい情報」
俺の見つけたのは、矢の直接の改良方法ではないが、それの基礎となる情報だ。矢に魔法を組み込む場合は、トレントウッドやそれ以上の霊木が望ましい。とある。
つまり、今まで木の枝から合成していた矢の材料の組み合わせ自体を考え直さなければいけない。それ以前に、今日逃げたトレントからトレントウッドから入手できるのだ。
「トレントを倒すか。それとも、リーリーに頼んで少し分けてもらうか……」
「やばっ! 囲まれた! アル、何とかしてっ!」
「えっ?! ちょっと――【ウィンド】、【ウィンド】!」
スライムに囲まれ、槍を一心不乱にゼリー質に突き刺すライナと魔法を連発するアル。俺は、溜息を吐きながら、本をインベントリに仕舞い込み、包丁一本とレベル差で周囲に集まるスライムを瞬殺していく。
二人は、囲まれた緊張感からの解放され、すぐには動きたくない様子だった。
これは、前途多難である。と思って、見守ることにした。