Sense12
なにこの重労働、もういや。
ガチガチに踏み固められた土をスコップで掘り起こし、クワで耕しました。ゲームの中でかなりの重労働だ。
こんちきしょー。
「はぁ、はぁ。もう、なんだよこれ」
エンチャントで速度上昇を掛けると、スコップを掘る時の速度が上がる。小さい土地と言うが、種子を植えられる状態にするまでに心が折れそうになる。
そしてなにより、ただ種子を撒くだけではアイテムは、上質化しないそうだ。
NPC曰く、土に色々な物を混ぜれば良い、とのこと。つまり、土とか、野草とか、骨や骨粉とか。つまり、肥料を混ぜろってことだよな。
もう、森で採取しまくったふわっふわの黒っぽい土混ぜたり、野草を藁のように敷き詰めたり、骨や骨粉を土と混ぜたりの下準備にかなり、時間が掛かった。
そして、気がついた。
センスステータス
所持SP3
【弓Lv9】【鷹の目Lv16】【魔法才能Lv11】【魔力Lv14】【錬金Lv5】【付加Lv13】【合成Lv8】【調合Lv8】【細工LV5】【生産の心得Lv6】
控え
【調教Lv1】
森を出る前に一度センスステータスを確認したんだが、合成と調合に関する行動をした覚えはない。だが上昇している、という事は、この畑仕事なのだろう。
なんか、骨とか土とか混ぜて土の中で肥料にした。と解釈できるんだろうか。それだったら成長も頷ける。
そして≪レシピ≫に追加されておりました。肥料が。つまり、手作業で作った扱いなのだ。
うーん。何とも釈然としない。釈然としないぞ!
だが、まあ良い。
後は、種子を撒いて、終了だ。3000G払って手に入れた土地で植えられる種子って二十個までなんだぜ。まあ、一日で薬草は収穫できるらしい。ファンタジーだな。
「うーん。終わった。おっ、チャットだ」
ぽーんと響く音にフレンド登録した人の名前は――タクだった。
「どうした?」
『いや、暇か? 暇なら狩りしようぜ。パーティーで』
「良いけどどこまで?」
『東のビッグボア狩りに行くんだ。パーティーのレベル上げに。だからお前も今回はレベル上げだから気兼ねなく来てくれ』
「いや、来ること前提かよ」
『良いじゃん。まあ、ぶっちゃけ、ポーション足りずに足止め状態』
「分かった。じゃあ東門の前で待ち合わせな」
『了解』
うーん、ビッグボア狩りか。ってことは西の鉱山にいるサンドマンレベルなのか。ちょっと興味あるな。
俺はさくっと装備とかの確認をした。矢の本数は十分あるし、強度もある。約三百本分の強度だ、戦闘中に弾切れはないだろう ただ、石の矢と木の矢だけだと心もとないな。今度鉄の矢を買いこんで、錬金で強化するか。今は金ないけど。
俺は、東門の所でタクを探した。すでに待っていたようだ。なんか初日よりも装備品が良くなっているようだ。なんか悔しい。俺は初期装備なのに。
「よぉ、ユン」
「ああ、良いのか? 俺が一緒でも」
正直不安たっぷりだ。まあ他のメンバーも男女比は二対二。俺達二人男だからちょっと偏っているが、まあ問題はないだろう。
「俺っ娘キタァァ!」
「うわぁっ、綺麗な子ですね」
「でも弓持ちじゃないか。大丈夫か? それに初期装備だし」
「いいじゃん。ゲームなんだし、楽しめば」
あー、うん。俺も気にしてるんですよ。初期装備で弓持ちって。あと、俺っ娘とか綺麗な子とか、俺男だから。
「タクさんのリアル友達連れてくる言ってたけど、レベル高い。しかも勝気系、いやクーデレ」
「美人さんです」
それ以上、容姿のこと言わないで! お願いだから。
それでもなんか、軽装の灰色の俺と同じくらいの身長だし。金髪ウェーブで白を基調とした法衣と杖は、聖職者っぽい。
「えっと、こいつは、ユンだ。見ての通り弓使いだが、まあ、多少は役立つだろ。役立たなくても今回の戦闘でセンス変える時の参考にはなるだろう」
「おい、端から役立たずって決めるな。俺は生産職だ」
周囲がえっ!? て表情している。うーん。そうだよな。そうだよな。弓持ち、生産職、初期装備とかアホだろって思うよ。でも事実金欠で何もできないんだから。
「それなら役には立つかもな。ちなみに何を作っている?」
うわー、弓とか初期装備の所に反応した男だよ。なんか見た目無骨だけどカッコいいんだよ。渋カッコいいし、鎧がなんか灰色とか鉛色で歴戦の戦士っぽいな。カッコいいけどムカつく。
「一応、ポーション」
「それは初心者か?」
「いや、一個上」
「なら、回復役にはなるな」
「あー、金欠で売っちゃった。全部」
「なっ!?」
タクは、腹抱えて笑うし、てか、さっきから俺が女と誤解されている所で笑い堪えてただろ。こいつ、後でしばく。
「お前は馬鹿か!? なんでポーションを全部売る!?」
「いや、初心者のポーションや丸薬で用足りるから」
「あほか!? 取得SPの合計が10を超えると、初心者ポーションの効果が減るんだぞ!」
「へー。ってことは、全部のセンスのレベルが10を超えるかそれくらいなんだ。俺はまだまだ余裕だな」
なんか鉛の戦士さんは、頭抱えている。隣の緑色の三角帽子に丸メガネの魔法職の人が宥めているっぽい。なんか魔女っぽい。
それにしても、ポーション足りなくてビッグボアに挑むんだったよな。つまり、まだぎりぎり初心者ポーションでも用足りる人たちってことだ。
それにしても最前線の人は、ポーションが必要なのはそういう理由か。
「じゃあ、説明するな。軽装格闘家がガンツ、隣の回復役がミニッツさん。鎧男がケイ。んで、魔女っ娘マミさん。そして俺は、鎧剣士のタクだ」
「へー。俺は、ユン。見ての通り、初期装備の金欠弓使いだ」
自分の自己紹介はどうかと思うが、事実そうだ。嘘言ったり、虚栄を張るよりはマシだと思った。
それから俺達は、ビッグボアの居る位置まで平原を抜けて移動する。弓使いの俺は、道中での戦いにまで矢を無駄使いするな。という事で道中の戦闘には参加させてもらえなかったが、代わりにみんなの見ていない場所で、鷹の目鍛えたり、エンチャントしたり、石や採取アイテムを回収。
なんか、解毒草とか、解痺草とかの基本的なアイテム。新しく≪レシピ≫の解毒ポーションの作り方に解毒草+ポーションが追加された。
つまり、≪レシピ≫のアイテムの作り方は、一つではない。
段階を経て作るやり方や、数通りの作り方があるようだ。殆どのプレイヤーは、NPCから買えるからって殆ど採取しないらしい。
そして石ころはなんと、銅鉱石とすず。これってインゴットにして合成すれば青銅のインゴットになるかも、ちょっとマギさんに相談してみよう。
後は、木の枝って木のあるところならどこでも取れるようだ。それに、平原先のビッグボアの近辺には鳥が出るらしい。辺りで鳥の羽根が容易に手に入る。
これの使い道って、裁縫センスで羽毛にして、ベッドや寝袋など休憩時の回復量増加アイテムにするらしい。みんな二束三文で売るらしいが、俺は、弓矢作るのに必要だからありがたいんだが。
道中は、俺はアイテム採取でほくほく顔で、なんか容姿に注目してるガンツさんやミニッツさんの視線が痛い。
ケイって男は、苦々しげにしたり、マミさんに宥められたり。おいタク。お前がリーダーっぽいんだから纏めろよと視線を向けるが苦笑い。
「じゃあ、このへんで迎え撃つか、ちょうどあそこにいるし。足の速いガンツさんがビックボア釣ってきて来てくれる?」
「いやいや、無理だって。ビッグボア足速いもん。遠距離でドカンとやろうよ」
「良いですけど、私、紙装甲で当たり所悪いと、一発死だってあり得ますよ。それに魔法って連続使用できないから巻き込まれたら」
あーどうするか? っておい考えてなかったのかよ。
「なあ、引き寄せるのって一撃入れれば良いんだよな」
「そうだな。まあ、直接一撃入れれば良いし」
「この位置からでも一撃入れればいいんならやるぞ」
タクが何? と訳わかんない様な感じだった。
「まあ、見てろって【付加】――アタック」
プレイヤーへのエンチャント。付加はレベルが10を超えたあたりから、スキルの効果と持続時間をはじめ、次の詠唱までの待機時間が短くなった。
自身の攻撃力を高めてから、弓を引く。距離は目測二十メートル。射程は、自分の攻撃力にも依存する節があるようで、エンチャントの成長は、そのまま射程範囲の増加にもなる。
複雑な計算がなされる射程の計算だが、成長した弓と≪アーツ≫、そしてエンチャントを使えば、十分届く範囲だ。
鷹の目で狙いを定め、ギリギリと弓の弦が引かれる音を聞きながら、放す。
風を切って走る矢。鷹の目で当たる瞬間を確認するよりも早く、次の矢を番える。二射目を放つ時には、一射目が当たったことを確認できる。
「当たった。来るぞ!」
俺は、二射目を放ったが、今度は外した。
連続で遠距離射撃のアーツを使ったからMPが少ない。通常の射程に戻るまでに出来る事は、エンチャント一回分。
「【付加】――ディフェンス」
タクに防御のエンチャントを施し、迎撃する。
魔法職の火力は圧倒的だし、剣士二人と格闘家一人の打撃が凄かった。それでもビックボアの攻撃は一撃で前衛のHPの三割削る。ただタクは二割にとどまっている。あっ、そうか、俺は、防具なしだから防御が低いけど、タクは鎧持ち。そしてエンチャントは、本人のステータスを基準とした増加だ。つまり、エンチャントは、ステータスが高いほど効果が高くなる。
うん、良い発見になった。
俺も矢を射ながら、MPが回復したら、防御エンチャントを掛ける。ミニッツさんとマミさんのMPがギリギリ切れるところでやっとビッグボアを倒した。結構長いし強い。サンドマンもこの強さなのか。辛いな。
終わった後、みんなレベルチェック。心なしか嬉しそうだ。俺は、おっ、弓と、魔法才能と魔力、それに付加が上がってる。やっぱり強い敵と戦うと経験値の補正ががかるのか。
「いや、まさかここまであっさりビッグボア倒せるとは思わなかった。アイテム買ってきて無駄だったかもな」
「えっ、あれって時間掛かったじゃん」
「ユン。お前、パーティーで戦ったこと殆ど無いだろ?」
最初の姉妹のチュートリアルだけで、一人で細々と弱い敵をズドンだったからな。
「普通、取得SPが10未満のプレイヤーを含むパーティーが戦う場合、ポーションやMPポーションが必要になるんだぞ」
「あー、俺MPポーション見たことないな。どうやって作るの?」
「……」
なんか、タクが考え込んでいる。いや、考え込まれても。
「なあ、ユンだったか。聞いていいか?」
「なんだ? ケイ」
ケイはなんとなくこう呼ぶ。なんかさん付けしたくないから。
「何故、お前は付加のセンスを取った。使えないと言われてただろう」
「うーん。なんとなくだな。キャラの初期方針がサポート出来る万能キャラ目指したんだが、良い感じでゴミ扱いだし、だから生産職に乗り換えただけ。付加を持ってるのは、気紛れだ。最初は、これも取り換えるつもりだったんだから」
「そうか、もう一つ。どうして俺達前衛には、防御エンチャントを掛けた。攻撃エンチャントでも良かっただろ」
「今回の目的ってレベル上げだろ? 鎧センスとかガンツの皮鎧って攻撃受けなきゃレベル上がらないじゃん。だからだよ」
「そうか。その、付加に助けられたんだな。今回は、ありがとう」
なんか、背中がそわわっと粟立つ感じがした。男がデレるのって悪寒が。
「でも実際そうなんだよね。防御エンチャントでダメージ軽減したり、弓で遠距離から引き付けてくれなかったら、私たち後衛のMPが切れて危なかったもの」
「そう言ってもらえたら助かるかな?」
なんか、女性たちに褒められると照れくさい。
「さぁ、休憩ついでに反省会とインベントリの確認しよう。そしたらまた三匹ほどビッグボア狩って帰ろう」
音頭をとるタク。俺もインベントリで取得アイテムを見る。うん……パーティーで狩ったからアイテムが少ないが、なにこの猪の肉ってどうやって使うの?
生産職の俺の頭をドロップ品が悩ませるのだった。
改稿・完了