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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
119/359

Sense119

「うーん! よし、今日こそ狩りとアイテムの実験。リゥイ、ザクロ準備は良いか?」


 俺のパートナーである幼獣たちに声を掛け、出かける準備をする。

 幼獣たちは、リゥイの幻術を使って、色彩を変化させている。リゥイが茶色で一角を隠し、ザクロが小麦色で二尾の内の一本を隠して、と普段の姿とは違う隠蔽が施されている。

 今日は、学園祭の振替休日。一日をこの癒しのさらさら、もふもふの二匹と一緒に居られる幸せを謳歌しようと計画している。


「【ミニ・ポータル】設置完了。装備万全」


 装備は、オーカー・クリエーター一式。フードを目深に被り、痛み受けマスクを装備。更に、アバターアイテムである茶色のマントを羽織り、装備を隠す。マスクの所為で声が籠るが、息苦しさや視界を狭める感じはしないのは、ゲームファンタジーならではのご都合主義だろうか。

 鏡で俺の姿を見ると、フード、マスク、マントの三重装備の怪しさは極まり、色物プレイヤーとしか見られない。しかし現状、俺が町を歩けば、かなりの人の目に晒される。一週間後のイベントまでは、こうして雲隠れしようと決意したのだ。


「ポータル、転移」


 俺は、既に幻術を使って色を変えたリゥイとザクロを伴い、南の湿地帯を抜けた町へと跳んだ。

 薄暗く感じたアトリエールの工房部から一転、湿地帯を抜けた町【第四の町】。通称、迷宮街へと辿り着いた。

 少し、じめっとした湿気の含む空気と舗装された石畳。独特の低い石造りの建物が並ぶ町は、どこに居ても、特徴的でオリエンタル溢れる紋様の刻まれた建築物を見ることができた。


「四つのダンジョンを内包する。迷宮街か」


 中央に一際大きな建物は、ダンジョン。それも、第三の町に接続する鉱山系のダンジョンや第二の町を進んだホリアケイブなどの洞窟系ダンジョンとは全く別のダンジョン。

 入り口は、四種類だが、中身が全く違うダンジョンで現在、セイ姉ぇやミュウたちが最深部を目指しているダンジョンだ。

 一つ目は、セイ姉ぇのギルドが挑んでいる状態異常攻撃を多用するノーマルダンジョン。

 二つ目は、地形などが複雑で、足場の悪い場所での戦闘や移動に手間のかかる地形ダンジョン。

 三つ目は、多種多様なアンデッドが跋扈する暗黒空間のホラーダンジョン。

 最後に、アップデートで解放される予定の未知のダンジョン。


 この四つがこの町を中心とするメインの狩場であり、この周囲は、レベル差が大きく、攻略組でも無理と言わしめるレベルだ。

 まぁ、俺の今日の目的は、そんな前人未到の未開拓エリアでも、ダンジョンでもない。


「さて、ここから逆行すると、どれだけの敵に遭遇するかな」


 ソロで、フル装備、戦闘用センス構築でも第四の町から第一の町への敵を相手取るのが良い。

 敵の強さは、強くない。十分に周囲でレベルを上げたプレイヤーならば、適正レベルをややオーバーしている。と感じるほどだ。

 だが、この湿地帯の敵の恐ろしさは、レベルやMOB自体の強さには無い。


「ほら、いるな。うようよ居る」


 一見すると敵などいない静かな湿地帯だろう。目視できるとすれば、一度倒してノンアクティブ化したボスMOBのダークマンだけだろう。しかし、俺の【鷹の目】と【看破】のレベル上げには、このエリアが一番良いのだ。


「まずは、蛙から仕留めるか。【付加】――アタック、スピード」


 隠れる場所と言えば、まばらに立ち並ぶ木々の影や葉の中だろう。だが、このエリアの敵はそこには居ない。

 何も居ないただ蓮のような葉っぱへと弓を引く。

 蓮の葉を貫通し、水へと突き刺さる矢は水場に波紋を広げると、蓮の葉が裏返り、その裏に張り付く形で緑色の大きな蝦蟇が姿を現す。

 その一匹は、距離の離れた俺へと襲い掛かるためにその手足で跳躍するが、空中へと跳んだ蛙の体に連続して矢が突き刺さり、次に地面へと着地するときには息絶え、潰れた声で小さな断末魔を上げる。


 この湿地帯に出現する蛙――ムーア・フロッグ。ダメージ・ポーションの原料となるアイテムを落とすそのMOBの特徴は、隠れることだ。

 プレイヤーがムーア・フロッグの隠れる水場に近づいたら、水中よりピンク色の舌を伸ばした攻撃を加えてくる。

 しかも、攻撃を加える時は、その周囲に居る蛙がリンクして襲ってくるので、完全に複数モンスターからの不意打ちがプレイヤーに取って大きな障害になる。

 その後、戦闘に発展した場合、蛙は、体当たりや舌を利用した攻撃、更に水魔法を使用する。

 対処方法は、先手必勝。蛙が不意打ちするまでに僅かに溜めの時間がある。その間に数を減らせば、その後の展開に有利に進める。また俺のように、遠距離から攻撃して釣る方法もあるが、こういう場合、魔法が殆ど主だ。俺はソロだから一匹づつ相手にしている。


 また一匹をおびき寄せる。今度は矢でHPの半分程度削り、右手には、包丁を。左手にはダメージ・ポーションを構えて、敢えて接近を許す。

 蛙が跳びかかってきたところに、ダメージ・ポーションを投げる。周囲に散る黄色っぽい液体が蛙の表面に触れた瞬間、白い煙を上げながら、触れた個所をじゅっじゅっ、と溶かすような音が耳に届く。想像では、数値上の結果だけが現れると思ったが、視覚的な効果もあるとは、予想外だった。

 ダメージ・ポーション一つでは、負わせたダメージは小さすぎる。このレベルの敵では有効打にはなりえない。むしろ、その視覚的効果によってグロ耐性の無い人は、それだけで気分を害するのではないだろうか。別に、蛙の肉が溶け、骨が見えるわけでもない。だが、想像力豊かな人には、このダメージ・ポーションは、強酸のように思えるだろう。


「はぁ、まぁ使いどころだな。実験協力感謝する」


 まだ生き残っている蛙を靴裏で踏んで動きを止めると、その頭に包丁を突き立て、さくっと切り裂く。瞬く間に、ホログラムは消滅し、後には何も残らない。


「さて、このまま敵を狩りながら、セーフティー・エリアまで進むか。リゥイもザクロも気を付けてくれ」


 二匹と共に、セーフティー・エリアの道中を進む。

 この湿地帯の敵の大きな特徴は、不意打ち。俺は、それを見極め、先に潰し、進んでいく。

 このエリアの一般的なMOBは、先ほど出てきたムーア・フロッグ。他に、核の露出した黄色い平べったいゼリー状のMOBである粘菌スライム。そして、爆弾の原料となるMOBが一種。

 ただ、その一匹だけでは、爆弾の原料は揃わない。このエリアの採取素材が爆弾に足りない原料であり、今回の狩りの目的だ。


「はぁ、あの場所に黒爆石があるのか。粘菌スライムのど真ん中じゃないか」


 普通じゃ気づかない程度に黒い湿った土の露出した場所が黒爆石のある場所だ。

 その周囲には、地中に隠れ潜み、近づく者に襲い掛かろうと待ち構える粘菌スライムが五匹。弓で釣るにしてもスライム系は核以外には殆どダメージが入らない。そして地中の中の見えない核は流石に分からない。


「レベル15以上は、まだ宝石のレベルが低くて付加できないんだよな。まぁ、ぼやいても仕方がない――【アースクエイク】!」


 俺が、地面に手を押し付けて使うのは、地属性の第四魔法――【アースクエイク】。地属性のレベルが15で習得可能な魔法で、指定したポイントに地震を発生させる魔法だ。

 副次効果として、地震中は、相手が軽いスタン状態になり、身動きが取れないために、ダメージと足止めの二つの性質を持つ。

 ただ、使い勝手は、非常に悪い。魔法を指定するのは敵ではなく、地面の座標なので、仲間にも被害が及ぶ事、また範囲が広くないので、大型モンスターの足止めするには狭すぎる。最後に、地面と接していないと効果が無いために、空中にいる虫や鳥などの飛行能力の持つMOBに対しては、無意味と言って良い。


 これらの使い勝手の悪さは、更にマッドプールに劣る足止めの性質や地属性の評判通りに味方すら阻害する効果で俺もあまり利用しないが、こういう隠れた敵を炙り出すのにはちょうど良い。


 衝撃を受けた粘菌スライムたちが、一斉に地面から湧き出すように現れ、バスケットボール大の核を露出させる。俺は、即座に矢を構え、核に狙いを付けて、打ち砕く。

 スライム種の足の遅さと俺の連射力が相まって、互いの距離の三分の二を詰めた距離で全て駆逐する。

 ただ――


「やっぱり、この前センスを成長させたりしたから、まだレベルが低いな。思ったより時間が掛かった。さてと、安全を確保できた所で、採取と行くか」


 俺は、インベントリから農業用のスコップを取出し、採取ポイントである黒い湿った土を掘り返す。

 ざっくざっくと地面を掘り返すと、土の中から拳に握れる程度の真っ黒な石が露出した。

 それこそが、俺の求めたアイテムである黒爆石であり、それをインベントリの中に収める。

 数にして八個。その場を離れて別の採取ポイントを探す。

 同様に、黒っぽい土を探し、黒爆石を採取していく。時に、ムーア・フロッグの群れの中にあるスポットを諦め、遠回りをして探し、時に、別の採取ポイントで薬草類や鉱石類の補充が出来たりと。有意義な時間を過ごせた。


「ふぅ、セーフティーエリアで休憩しよう。おいで、ザクロ、リゥイ」


 俺が、湿地帯でも少し高めの位置の乾いた地面に腰を下ろし、一本の樹に背中を預ける。

 ぽんぽん、と叩く自分の膝に頭を乗せるリゥイと俺の手に自分の首筋を擦り付けるザクロを撫でながら、深呼吸をする。


 やっと、雲隠れできた。という実感が湧いてきた。


 騒がしくなる前のソロプレイと同じ状況。時折、勧誘やら出羽亀を街中や平原で撒いて、ソロプレイをしたりしたが、こうして終始自分のペースで行動できると非常に楽だ。

 リアルでも文化祭準備や文化祭で慌ただしさがあり、夜は夜でPVPの自主訓練に参加した。


「意外と精神的に疲れてたのかもしれないな」


 独り言を呟いて、大きく脱力する。

 俺は、インベントリからサンドイッチを二つ取り出し、リゥイとザクロの鼻先に近づける。

 小さく啄むように食べるザクロと一度に三分の一ほど口に含むリゥイ。その様子をただ茫然と眺めていた。

 二匹が食べ終わった後、俺自身も空腹度が僅かに減っているために、サンドイッチと水筒を取り出す。

 鼻の長い動物が印となる会社の水筒は、保温効果のある魔法瓶仕様とは謳われているが、データで構成されたVRでは何の意味もないだろう。だが、使い心地は、現実とは違わず、中に入れておいた温かい紅茶に、ほっと息が漏れる。


「こういうネタ的なアイテムがあるって良いよな」


 紅茶も水筒も企業の広告アイテム。ゲーム的な恩恵は無いに等しいが、個人的には、こういう無駄が彩りを持っているように思える。

 そんな俺たちをセーフティーエリアの外側からこちらに存在をアピールする群れが存在した。

 そもそも、黄色い火の玉がゆらゆらと動いているだけで、こちらにアピールしているのかすら分からないが、そう感じるのだ。


「ウィスプか。ついでだし、ちょっとお裾分けでもして貰うか」


 正確な名前は、ウィル・オ・ウィスプ。鬼火や人魂などと呼ばれるゴーストである。中心の丸い半透明な部分が人魂で周囲の炎は、喜怒哀楽の色を持っている。喜びの緑。怒りの赤。哀しみの青。そして、今は楽しいの黄色。

 ウィスプを倒せば、爆弾の原料の燐魂結晶の欠片を通常ドロップするのだが、小さく、黒爆石の十分の一程度の大きさだ。稀に黒爆石と同じ大きさの燐魂結晶を落とすが、レアドロップ並の確率。それに、ウィスプ自体が弱いMOBであるために、経験値やドロップとしての旨みは少ないのだ。

 ノンアクティブな旨みの無いMOBは、放置される傾向にある。

 ただし――


「これ、食べるか?」


 ザクロとリゥイを木の傍で待って貰い、一人黄色いウィスプの群れの中に進んでいく。

 俺の手には、ハイポーションの調合などに使う薬霊草の束を掲げている。

 ウィスプたちは、その薬霊草に集まるように漂う。

 敵対しないウィスプの炎は、熱さを感じさせず、中の人魂や炎の動きから表情がないのに、小さな動きに感情という物を見ることができる。炎が舐めるように、薬霊草に触れると、アイテムは消失……いや、ウィスプに吸収され、吸収したウィスプは喜びの緑色へと変色する。

 

 ウィスプは、物の生気を奪って生きるという設定のMOB。敵対しなければ襲われず、逆にこうしたアイテムを与えることができるのだ。そしてその代わりに、ウィスプは、中心の人魂からレアドロップの燐魂結晶を抽出する。


 野生のモンスターとの物々交換。これはこれで面白いし、何より普通に倒すよりも良い物が手に入る。時折――。


「おっ、燐魂鉱石が混じってる。なんか良いことがありそう」


 時折ウィスプは、鉱石系のアイテムである燐魂鉱石を交換してくれる。割合で言ったら、二十対一くらいの低さだ。得た時の良いことが有りそうな予感と言う物は、当たらなくても気分が良い。

 暫くウィスプたちと戯れ、待つことに痺れを切らしたリゥイとザクロを囲んで、ウィスプたちの人魂とザクロの狐火が、ふわりと湿った湿地帯を明るく照らす。満足したウィスプの群れは、緑色の炎を宿したまま、虚空へと消えていく。俺たちも十分に休憩を取ったために、探索を再開する。

 その後も、敵性MOBの蛙と粘菌を倒し、爆弾原料は採取に回る。

 低かったセンスは、高いレベルの狩場でのレベリングによって、センス成長前に僅かに劣る水準までステータスを引き上げられた。

 目的以外の採取アイテムとしては、宝石の原石や一般的な鉱石を見つける中で、俺たちの探索は、湿地帯の終わりに差し掛かった。

 もうじき、第一の町をぐるっと囲うような平原に出るだろう。その足で、ポータルへと戻って、工房で爆弾の調合を探そう。と頭の中で手順を組み立てていた。


「工房に戻ったら、爆弾の研究とダメージ・ポーションに一工夫できないかの研究をやろうか」


 俺の呟きに、どこか不機嫌そうに頭突きをしてくる。僅かに覗く角が刺さらないように配慮しているが、小突いて不満を表すのは変わりない。


「悪かった! 帰ったらブラシでも掛けるか」


 俺の一言に、ふしっ、と息を吐き出すリゥイ。久しぶりに外に出かけたのにそれが終わってしまうのが名残惜しいのか。そう言えば、久しく小突かれなかったな。と思い出し、マスクの下で自嘲気味な笑みを浮かべる。




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