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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
113/359

Sense113

「確か、このあたりに美羽ちゃんのクラスの屋台があるよな。確かクレープ屋だろ」

「ああ、メイド服でクレープらしい。寄っていくか」


 運動部が集まるエリアを抜け、屋台の立ち並ぶ通りへと出て、パンフレットを確認しながら、二人で歩く。

 焼きそばのソースの匂いやフランクフルトや焼き鳥の焼けた音、蒸篭で蒸しあがる中華まんの視覚的な迫力は、周囲の客を集め、賑わいを見せていた。

 その一角に、甘い香り漂う屋台が一つ。人の集まりは、悪くない屋台があった。


「……あれが、美羽ちゃんたちの屋台か。可愛く出来てるな」

「ああ、美羽は……居た」


 元気に看板を持って声掛けしている時点で、美羽には料理をさせてはいけない。という考えが先に来る辺り、美羽の料理に対しての信頼度が窺えると思う。


「よっ、繁盛してるか?」

「あーっ! お兄ちゃん、それに巧さんも! 人の集まりは上々だよ。それより見てよ、この服。どう可愛いでしょ」


 ふふふんっ、と勝ち誇ったような表情でスカートの裾を摘まむ美羽。

 その場で一回転して見せる姿に、周囲の人々の口から嘆息が漏れる。

 だが、見慣れた妹が少し物珍しい服を着た所で、そんな複雑な言葉は口からは出ない。むしろ、ゲームで使っている鎧の方が特異性があると思う。


「おー、いいんじゃないか? じゃあ、イチゴ生クリームのクレープ頼む」

「むぅっ! そんな気のない返事をして! お兄ちゃんは妹が可愛い恰好しているのに! 惚れ直した、とかお前が一番だ! とかのセリフは!」

「はいはい。誰かに言われたのか? その言葉」


 それ以前に、その言葉は、家族以外の誰かに言わせろ。まぁ、言ったやつ見つけたら、俺が潰す。美羽に手を出す獣は徹底的に潰す。


「うぇぇっ、巧さんなら分かってくれるよね!」


 嘘泣きで巧に泣きつく美羽。おいおい、俺のイチゴ生クリームは無視かよ。


「うんうん、立派なメイドに変身して。それに比べて、峻は」

「うんうん、立派なメイドに変身しました。それに比べて、お兄ちゃんは」


 何だよ。あからさまな哀れみの視線は。

 良いから早くクレープ売ってくれよ。


「「分かってないな」」

「いや、何を言われているのか、分かりたくもない」


 何時もの如くか、と溜息が漏れる。

 しかし、二人の俺を見る目は、こいつは何を言っているんだ。と言うような視線。

 危うく、俺の方が間違っているのではないか、という錯覚を覚えるような気がした。


「折角、親に綺麗な顔で産んで貰ったのに、美羽ちゃんはこんなに素敵なメイドになることで親への恩返しをしているのに、お前ときたら――」

「そうだよ。私に対抗意識を燃やして、じゃあ自分も位の気持ちで、是非メイドに……」


「――却下っ!」


 どこから取り出したのか、メイド装備をエプロンポケットからはみ出させる美羽に俺は顔を顰める。


「ちっ、巧さん、お兄ちゃんはノリと勢いでやってくれるのに……」

「仕方がない。プランAは破棄。プランB以降を臨機応変に……」

「聞こえているからな。お前らの悪巧み」


 全く、俺たちが下らない立ち話をしている間にクレープ屋台の列は大分進み、俺たちの順番が回ってくる。


「すみません。イチゴ生クリームと……えっと、巧は」


 まだ美羽と話し込んでいるようだ。無視して俺とは違う味を選択する。


「……チョコバナナで。すまん、俺の妹が働かずに……」

「せ、先輩! 良いんですよ! 彼女は学校の愛されキャラですから」

「そうか? まぁ、度が過ぎたことはやってないよな」

「やってませんよ。峻先輩と巧先輩が絡む時だけ非常に、弾けているって感じです」


 初耳だな。俺は、常に一緒に居るために、常時このテンションかと思っているのだが、実は違うようだ。


「どうぞ、イチゴ生とチョコバナナです」

「ああ、ありがとう。暇だったらうちのクラスの喫茶店に来てくれよな」

「は、はい! 是非に! お邪魔させていただきます!」


 背筋を伸ばす男子生徒は、上下関係のみっちり叩きこまれた運動部系の人だろうか。俺みたいなただの年上に対して、そこまで畏まらなくても良いのに、と苦笑が漏れる。


「それじゃあ、美羽。俺たちも他の所回るから。くれぐれも羽目を外し過ぎるなよ」

「分かってるよ。お兄ちゃんは、心配性なんだから。巧さん! 明日は、私を高等部の出し物に案内してくださいね!」

「じゃあ、その時な。美羽ちゃんもクレープ屋台頑張れよー」


 俺からチョコバナナのクレープを受け取った巧は、美味しそうに一口。

 俺も歩きながら、イチゴ生クリームの酸味と甘みを味わっている。


「なぁ、巧? いつの間に、美羽と校舎を巡る約束したんだ?」

「前から。今日は、友達と回って、明日は俺が案内役でエスコートするんだ」

「お前、美羽と仲良いよな」

「俺は誰とだって仲が良いぜ」

「馬鹿言え」


 とは口では言うものの、実際こいつの交友関係は、ゲームリアル問わず広い。雰囲気と言えば良いのだろうか。

 巧の雰囲気は、非常に居心地が良い。一日会って話したら、もう友人。来る者は拒まず、去る者は追わず。のような感じだから広く浅く。それでいて、色んな事に積極的に首を突っ込む。

 例えば――


「峻、峻! ちょっと行ってくる!」

「お、おい!」


 学園内に設けられた特設ステージ。バックのペンキをぶちまけた様な絵の前では、飛び入り参加型のイベントが始まっていた。

 景品は、近くの商店街から提供されたもので色々な種類があるようだ。

 参加する者、見る者、準備する者みな楽しそうに賑わっており、俺もその一角で眺めている。

 学園祭実行委員が参加者に手渡すのは、風船付の帽子とチャンバラの道具。柔らか素材の安全仕様の道具を用いた風船割りゲームに参加する巧は、スタートと同時に速攻で近くの人の頭をフルスイングして容赦のない圧倒的強者としてその存在を周囲に知らしめる。

 呆然とする人や他の人に集中するあまり自分の守りを疎かにする人たちを次々と打ち倒していく。


「ははははっ! 風船を割られたい奴から掛かってこい!」

「くそっ! 三人で掛かれば!」

「おっと、三人の内一人は確実に道連れにするぞ。お前か? それともお前か!」

「くっ……」


 チャンバラ二本構えて、切っ先を相手に向けて警告する様子。まさに悪役のやるようなセリフだ。だが、イベントの景品狙いの利害関係では、自分が負けない事が絶対条件。そういう相手との心理戦なんか、面白いと思ってしまう。

 他の参加者が潰し合いをする傍らでは巧を中心とする一角では、無言の駆け引きが行われる。

 徐々にリタイアする参加者。他の参加者が巧たちの方へと流れるのを焦り、一歩進み、頭の風船を狙う。それに合わせて、他二人もチャンバラを振ってくる。普通では難しいタイミングの連続攻撃。だが、上体を逸らして避けるスウェーと、すり足後退で一撃目を避け、二人目との距離を詰める。相手の力の入らないタイミングで二撃目を受け止め、三人目には、擦れ違い様のカウンターで頭の風船を割る。

 その後も、足捌きと体捌きで場を何度も湧かせる場面を作り出すが、最終的に十対一の包囲網によって攻撃の苛烈さは増し、最大の危機に瀕していた。


「ぬおおっ! 俺を狙うかっ! 最後まで戦う!」

「くぅっ! しつこい奴め! 足を狙え! 動きを止めろ!」

「こうなりゃ意地だ! タックル体にかませ!」

「ピピピィーッ! そこっ! チャンバラ以外の攻撃手段は反則ですよ! それから、あなたたちもう勝っても負けても景品貰えるんだからっ!」

「「「これは、男の意地の勝負だっ!」」」


 馬鹿ばっか。周りでは、その様子を見て、爆笑しているし……あっ、巧が足滑らせた。


 実行委員もここまで白熱するチャンバラ大会になるとは思わなかったのだろう。結果は大盛り上がり。巧は、善戦空しく、最後九対一まで数を減らしたが、最後に決死の相打ち覚悟に敗れて、九位タイの成績。

 まぁ、撃破を優先すれば、堂々の九位だが、そんな数を出すほど皆結果を気にしているわけじゃない。

 一位と二位の人は、とても良い笑顔を振りまき、巧以外のそれ以下は涙を堪える姿は、一段と印象深い一面だった。

 因みに巧が貰ってきた景品は、商店街の金券二千円分。


「なんであそこまで熱中してたんだ?」

「電機屋とゲーム屋がそれぞれエプソニーのVRギアを景品に出したんだよ」

「おいおい、大丈夫なのか? 流通的に」

「正確には、VRギアの引換券。発売日に持って行けば、交換してくれる権利書だ」


 上手い事商売するな。と思ってしまう。


「まぁ、そろそろ教室に戻って様子……」


 携帯が鳴る。短いデフォルトの着信音は、メールの受信らしい。俺は、内容を確認して、静かに溜息を吐く。


「明日のクッキーが足りないから手の空いた人は、集合だ」

「そうか、俺はこの後、教室に戻って順番だけど、大丈夫か?」

「どうだろうな。材料やオーブンの関係上、必要な人数を振り分け直すだろうけど……残りの時間は学園祭は見て回れないかもしれない」

「そうか。まぁ、明日もある。気にするな。今夜はログインできるか?」

「さぁ? まぁ、それほど遅くまで作業しないだろうし、親は休みだ。家事とかに時間は取られないから多分大丈夫」

「じゃあ、また後でな」


 俺たちは、その場で別れ、それぞれの場所へと向かった。

 こうして過ぎていった学園祭初日は、盛況のまま幕を閉じた。

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