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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
111/359

Sense111

「それでね! こう、なんて言ったらいいのかな!? アーマードスーツを着てね、三百六十度の暗黒宇宙から接近する敵をザシュッ!て!」

「それに敵のデザインが多彩でな。ファンシーなエイリアンかと思いきや、定番のグレイや円盤型UFO、果ては宇宙的な神話生物や星座の元となった英霊をモチーフにした英霊機体との戦闘。多方面のコアなファンを引き付けるだろうな」


 朝の通学路を美羽と歩いて登校。昨日と違う点は、今日は巧も居るという事だ。


「昨日から同じ事のループになってるぞ。少しは落ち着け」


 二人は、学園祭当日にも拘らず、ゲームの事を俺に楽しそうに語っている。俺と感動の共有しようと熱弁を振るうのだが、上手く伝わらず、共有が出来ていないために互いのテンションに差が生じる。

 イベントは、見る価値が十分あったようで何よりだ。トラブルもなく帰ってきたことを喜ぶべきなのだが、帰ってきてからのテンションが非常に高い。そして、疲れと興奮がピークに達して倒れるように眠った。


 イベントの内容としては、事前に全国各地のアーケード用のVR機体から接続したテスター二千人がイベントフィールドに集まり、ゲームの概要説明。全国各地のゲームセンターでは、イベントフィールドの中継映像が流される。


 新作VRゲーム【サイキック・ドラゴンアームズ】は、機械工学と超能力の融合した宇宙世界をテーマにしたゲーム。

 プレイヤーは、竜をモチーフにしたアーマードスーツを装着し、主武装となる超能力武装サイコ・ウェポンを選択する。

 プレイヤーの持つキャパシティーは、全員一律で、その範囲内でパーツを選択し、アーマードスーツを完成させる。

 パラメータは、サイキックの威力を変動させるパワー、機体の移動速度を表すスピード、機体の防御力を表すディフェンス、そして、超能力武装の使用回数が変動するスタミナ。

 これらのステータスや超能力を考慮して、機体をくみ上げて戦う。


 対戦モードは、オンラインVSバーサス、オフラインVS、オンラインミッション、オフラインミッション、ランダムトーナメント、タイムアタックなど。


 宇宙空間をフィールドにしているために平面ではなく立体での対応が必要でプレイヤースキルが求められ、またパーツやサイキックの成長があり、やり込めばやり込むほど強くなる。

 発売は、来年でアーケード専用を予定しているとのこと。


 ゲーム好きからしたら、早くやりたい。とか、他人よりも強くなりたい。と思うだろう。だが俺からしたら、ゲーセンのゲームは、一回百円という手軽さに危うさを感じる。

 あと一回、と百円をつぎ込んでいくといつの間にかお金が無くなる恐怖。一時の興奮と引き換えに最後には手元に何も残らないのではないか。と思ってしまう。

 決して、小さい頃のクレーンゲームに小遣いをつぎ込んだのに欲しかった物が取れないで帰ったとかはない。

 そもそも、クレーンゲームやルーレットの景品は取れないように配置してあったり、コンピュータが操作しているのだろう。

 ゲーセンの景品として得たときと実際に購入した際の差は殆ど無い。などよくある話だろう。


 故に、ゲーセンでゲームを楽しむよりも、似た内容の家庭用ゲームを購入してゲーセンでやる以上に遊べば、経済的に優しい。

 何? 子供らしくないだと……トラウマは人を大人にするんだよ。


 っと、話は逸れてしまった。

 VRゲームの概要説明と実際にテストプレイ、その後は感想などをメーカーに提出して終了。という流れらしい。メーカー側はランダムで抽選されたテストプレイヤー二十名に家庭用VRギア――OSOの対応している奴――を送るという話だ。

 これも今度の新規生産ロットを広告だったりするのだろう。まさに、損して得取れ。 


 話の内容を要約した結果がこれなのだ。

 その時の迫力や臨場感を理解できない俺は、朝の通学路でネット上に上がっていたイベント映像を見せられたが、海産物由来のパーツを有するR指定の入りそうなグロ外見の敵や倒した時のスプラッターな効果音に今日一日の食欲を大幅に減退させられた。


「ほーら、ゲームよりも目先の学園祭に集中しろ」

「えっ!? もうなの。帰りにまた話すね!」

「いや、帰りは、学園祭の話にしてくれよ。全く……」


 また後でね、と校門から校舎へと駆け出す美羽に手を振り、巧と共に教室へと入る。

 既に、大方の準備は終わり、教室の半分にはテーブル席が、残りのスペースには、電気ケトルや今日使う食品、飲み物等が用意されている。

 十時から一般の入場が始まるまえだと言うのにそれほど慌ただしくない。


「物の準備は出来ているから、後は動きの最終チェックよ。それと外部のお客さんが沢山来るから失礼の無いように! 服装や行動、学園祭だからって無礼講じゃないんだから!」


 教室では、遠藤さんや実行委員の注意が何度も飛び交うが、どうもクラスの中は浮足立っている様子が見て取れる。

 いや、中には焦っている生徒もいる。


「すまん! 今日の俺の当番を変わってくれないか!」「はぁ? どうして?」「うちの妹が来るんだけど、案内を頼まれて……だから当番を交換してほしいんだ」「じゃあ仕方がないな。今日の一番最初の当番だけど、それでいいか?」「恩に着る!」


 何とも心温まる友情が垣間見えた。うんうん、家族サービスは大事にするんだぞ。


「それじゃあ、今日一番の当番の人は、さっそくエプロン着けてみて。それから事前にクラスメイト相手にそれぞれの動きを」


 予算はカットしたが、その分接客の方に力を入れる我がクラス。前々から手品を仕込んでいたクラスメイトは、並々と注がれたジュースを持って転ぶふりをして、実は紙コップは空である。という手品。

 最後に種を明かして、笑いを取ったりと中々手の込んだ喫茶店員だ。

 他にも、紅茶の淹れ方を解説しながら目の前で用意する女子店員や紅茶のうんちくを披露したり、今日のケーキに対する飲み物の組み合わせを提示したり。

 外部に発注したケーキは、今日はショートケーキとチーズケーキで、明日がチョコレートケーキとブルーベリータルト。俺も非番の時に一度客として来ようと思っている。


「はい。峻くん専用のエプロン」

「はぁ?」


 エプロン準備の係の一人が俺にエプロンを渡してきた。

 他の人は、無地やチェック柄の非常にシンプルなものだが、俺の渡されたエプロンは、非常に色彩が富んでいる。

 ベージュ色の生地には、赤や青、黄色の刺繍糸が使われ、鳥やひよこ、卵とストーリー性のあるエプロンが渡された。

 一言で言うなら、保育園の先生が着けるようなエプロンだ。

 さりげなく、ポケットの中には、ティッシュや紙ナプキンが収められている。


「なぁ、俺は会計だよな。金勘定をする……どうして、俺までエプロンを? てか、いつ作った。おい」

「エプロンは極秘裏に私たちが作ったわ! 理由は、着飾らなくてどうする!」


 クラスの中からは、どこからか服借りよう、とか俺を女装させて客の何人が男だと気が付くか、のトトカルチョを始めようとする奴らまでいる。おい、俺の意志は無視か。

 俺は、助けを求めるように巧と遠藤さんへと視線を送る。


「エプロンは、私の預かり知らぬところよ。予備のエプロンは無いし、作ってしまったものは仕方がないから着て貰えると有難いわ。それと女装は、嫌そうだから阻止するわ」

「別に女装とかさせられなければ、エプロンは問題ないけど……」


 他の人は、エプロンを着回すのに、俺だけ専用かよ。


「その……広告を着て歩くと思って、諦めて」

「わ、わかった」


 諦めてそのエプロンを着用する。手早く、後ろ手でエプロンの紐を結んで確認する。


「問題ない。着る分には、全く差は無い」

「……ふむふむ。接客スマイル一つ」


 巧の要求を怪訝な目で見るが、事前準備と思い深呼吸一つで気持ちを切り替える。


「――いらっしゃいませ。何名様でしょうか? お席に案内します」


 一息で接客用の笑顔を振りまく。クラスメイトの何人かは、顔を背け、手で顔を覆う。その顔は、随分赤いようで、風邪でも引いた……わけではないな。


「は、破壊力が高すぎるわ。少年のような線の細さを持ちながら、少女のような物腰の柔らかい接客。そして、少しきつめの美少女パーツを集めた顔での気負いのない笑顔にこれほどの威力があるとは! 男子の制服とか関係ない。もはや性別を超えた神の芸術! ごっつぁんです!」


 どこのグルメレポーターだと、鼻を押さえながら饒舌に語り、仲間に首筋を軽く叩かれる女子のクラスメイト。いやいや、そんな物はありませんから。自分の顔を触ってむにゅむにゅと揉んでみるが、元々女顔と言われるが、そこまで言われるような顔ではない……はず。


「なぁ、巧? 俺ってそこまでか?」

「お前な。静姉ぇさんや美羽で美少女見慣れているからって、自分の容姿ぐらい客観的に判断しろよ」


 自分の容姿を客観的に判断。と言われても困る。


 目元は少し無気力感の漂う感じで細められ、髪も家族で同じシャンプーとトリートメントを使っているために似たような艶を持っている。昔は愛想笑いを振りまき可愛がられたが、それは子供特有の可愛らしさ。今では、愛想笑いよりも苦笑の方が多くなる。

 身体的には、同年代の平均的な背丈。学校のブレザーで体型は隠れているがかなり細めだが、決して貧弱ではない。美羽には、お日様みたいな匂いがすると言われたのは、もはや性別では測れないもので例えられたので判断材料にはならない。

 言動も、男らしい一人称の俺。


 結論は――


「俺のどこを女性的と判断するのかが理解できない」

「お前な……」


 呆れたように溜息を吐くが分からないものは、わからないのだ。


「うーん。人間は五感で判断するからね。視覚と聴覚で辛うじて男性。嗅覚と触覚は、ほぼ女性。この時点で二対二。最終的には、人間の願望が判断するから」

「つまり、『こんなかわいい子が男の子のはずがない。女の子であってほしい』だな」

「そうね。そういった願望で人は、白でも黒と言うものよ」


 正真正銘、男のはずなのに、なぜ辛うじて男性と判断される?

 妙に達観した感じの分析を下す遠藤さんに、クラスからはなるほど。と納得の唸り声が上がる。

 つまり、男子は、俺を女子だと思い込むことで、目の保養をして。

 女子は、俺を男だと思うことで、その……一部女子たちは、あの巧との妄想を膨らます事が容易に……。


 実際、遠藤さんの発言で――


「五感で峻くんを感知……」「二対二で最終判断は、味覚に頼るの!?」「つまり? きゃぁぁっ!」


 あらぬ妄想を広げている極一部の人たちに俺は顔を顰める。

 俺としては、なんだか最近は構うのも面倒になってきた。全く、好きにしろ。と投げやりになるのだが、なってはいけないという二つの気持ちが鬩ぎ合っている。


「はぁ~」

「はいはい、みんなも下らない話をいつまでもしないで準備を続けて。手の空いている人は、実行委員の手伝い」

「遠藤さんがクラス最後の良心に思える」


 俺の呟きに、あなたと二人合わせての良心よ。と言われた。俺はこのクラスを支えることができない気がする。

 とは言え、一度動き出したクラスは、実に団結した行動力を発揮する。

 一般の入場が始まり、校内を巡っているフリーのクラスメイトがうちのクラスを宣伝してくれていたために、普通に外部の客や中等部の生徒が様子見で高等部の出し物を見てくる。


「お会計は、三人で千二百円です。お土産にクッキーは如何ですか?」

「授業担当の先生特権で、プレゼントはくれないのかい?」

「それを世間一般では賄賂っていうんですよ」


 出口での精算で社会科担当の三十代のメタボ腹、二児のパパ先生が冗談を俺に言ってくるので教職員向けの口調で冗談を返す。


「あはははっ、敵わないな。じゃあ、クッキー二つ貰おうかな?」

「分かりました。こちらがクッキーです。では学園祭を楽しんでください」

「君たちも楽しんでね」


 そう言って、クッキー代を払って楽しそうに目を細める先生は、廊下へと出ていく。


「負けないぞ! 他の喫茶店には」「喫茶店戦争じゃ!」「うちには最終兵器がある! 明日に投入よ!」とまぁ一部で盛り上がっていたり――


「ほーら、君たちへの花だよ」「嬉しいな、俺たちに会いに来てくれたのかい?」「可愛いね? この後俺は、自由時間だから案内できるけど、どうする?」なんて、女子中学生や外部の女性相手にナンパする男たちなど。場も盛り上げているが、少しやりすぎな感じもある。

 その都度、会計の時、お客さんへフォローの一言を掛けるのだが、皆良い笑顔でいる。何気に、嬉しそうなのは、うちのクラス男子がそこそこ見れるレベルの外見だからだろう。


「全く、騒がしいな。けど――」


 学園祭は、始まったばかりだ。


リアル学園祭開始。

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