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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
106/359

Sense106

 俺は、膝を抱えて目の前を恨めしそうに眺めている。

 俺の周りをリゥイが寄り添い、ザクロが心配そうに見上げるので、軽く撫でるが、全く気分が乗らない。

 目の前には、白銀の鎧を着た少女が高速で動き回り、三次元的な立体動作から繰り出される攻撃と全体的にアンバランスといえるほど無骨で大きな銀のガントレットをした左手で牽制の魔法を放ち、右のロングソードが的確な剣技を披露する。

 対する平凡な鎧に二本の長剣を構えた少年は、剣の受け流しと魔法の弾きによる鉄壁とも思える防御力を誇り、軽やかなステップで地面を滑るように移動し、自身の優位な立ち位置を常に選択し続ける。手を保護するナックルガードすら攻撃部位として利用し、時折放つ必殺のカウンターは、相手のミスを誘う幾合の打ち合いの末に齎される結果だ。

 それでも両者のカウントは一向に減らず、息切れをする様子も無い。


「今日こそ、タクミさんに私の実力を認めてもらいますよ!」

「くくくっ! そうだ、その意気だ! 来いっ!」


 今にも高笑いを始めそうな二人から可能な限りPVPで有用な情報を得ようとするのだが、正直に言うと実力差がありすぎて何処から評価し、自分の何処を改善すれば良いのか分からない。

 楽しそうに戦う二人を見て、羨ましいわけではない。俺は、負けて悔しいのだ。


「クソッ。状態異常に対する耐性も必要だな。ええぃ、手当たり次第にレベルを上げて状況に対応するしかないか」


 自身のセンスを対人戦用から状態異常のレベル上げに変え、状態異常アクセサリーを装備して、静かにレベル上げに耐える。


 目の前では、タクとミュウの二人は、手を変え、品を変えて攻め合っている。ミュウが

立体的な動きでタクの死角に移動すれば、タクは、背中に目があるように死角からの一撃を避けて逆襲の一撃を見舞う。

 小休止に距離を取るミュウに、休む暇なく接近し、俺の時のような時間差の攻撃を見舞うとミュウは無骨な銀のガントレットで左から迫る剣を上へと弾き上げ、右から迫る剣を真っ向から受け止める。体勢の流れたタクに向かって銀に輝くガントレットを硬く握り締めて、拳を振り下ろすと、半身を引いてタクが避ける。


 タクの所持センスは、【長剣】【魔力】【投擲】それと鎧系のセンス。あとは、肉体強化系だろうか。

 ミュウの所持センスは、【長剣】【魔力】【魔法才能】【光属性才能】【近接格闘】それと、同様に鎧系のセンス。三次元的な立体動作を可能にするセンスと身体強化系だろうか。俺より魔法系が成長していないといっていた点では、魔法系のセンスが枠を圧迫しているだろうが、それが圧縮されれば、更に手札が増えるだろう。

 ミュウは、剣、魔法、そして肉弾戦と身体全体を使うしなやかでいてアクロバットな戦い方。

 タクは、自在に二本の長剣を操り、堅い守りと的確な攻撃。そして高い回避能力が見て取れる。

 死力を尽くすような戦いは、刻々と迫る時間の中で、互いに放った剣戟は、首に吸い込まれるように振り抜かれる。


 カウント4――その数字がミュウの頭上に残り、タクの頭上には、5の表示が残っている。


 制限時間ギリギリに放った最後の一撃は、僅かな差でタクには届かなかったようだ。

 落胆の表情を浮かべながらも楽しそうに、そして誇らしげな表情を浮かべるミュウとそれに対して賞賛の声を送るタク。

 正直、敵わないな、この二人には。と羨望の視線を送る。チクチクと感じる感覚は、俺を蝕む状態異常によるものか、それとも幼馴染と妹が遠くに感じるためか。


「お姉ちゃん。どうだった? 私の戦いっぷり」

「どうって言われても、弱い俺には分からないし」


 体操座りで膝に顎を乗せて、不貞腐れたように視線を逸らす。本来、失礼な行動だが、置いて行かれた気分が不愉快だった。


「なに、不貞腐れてんだ。ユンは、初めてなんだから当然だろ。ほれほれ」


 頬を指で突っつくタクに別の意味の不愉快さを覚えて顔を向かい合わせると、真顔で俺に語りかけてくる。


「そりゃ、最初は全く出来なくて当然だって。俺らは、狩りが出来ない短時間に集まって、PVPの練習してたんだから、一回や二回で負かされたら俺らの立つ瀬がねぇって」


 タクの言葉に、自分の理不尽な振る舞いを恥じ、溜息が漏れる。何を考えて居たんだか。ミュウやタクがPVPをする間、俺はずっと調合や合成に向き合っていたのだ。不貞腐れるのはお門違いだった。


「悪い。でも本当に、どう評価していいのか分からん。それに二人には、全く勝てる気がしない」

「いや、俺の方が本気のユンには勝てる気がしないって」


 そういう、タクに俺は首を傾げる。

 コイツは、俺に気を使っているのか? いやそんな必要な無い。しかし、タクの言う勝てる気がしないは、何を意味しているのか。


「だって、お前。あの魔法込めた宝石あるじゃん。あれ百個か二百個同時に使った無理心中なら絶対に勝てないって」

「アホか! 俺だってそんな方法考えつかなかったぞ!」


 確かにそれなら負けない。いや、むしろ、百個や二百個のボムの連鎖爆撃の跡地に俺も立っていられない。まさに玉砕覚悟でなければ出来ない戦術。コストパフォーマンスの最悪な手段。

 あれだ。最低、引き分けに持ち込める、って奴だ。


「そんなアドバイスは要らん。それより俺の戦い方は何処がいけなかったんだ?」


 タクとのPVP。結果は、一太刀も浴びせる事無く終わった。その改善点を求める。


「根本的に間違えてるとしか言いようの無い戦い方だったな」

「うんうん、タクさんの言うとおり。お姉ちゃんの戦い方は長所を生かしてない」

「えっと、つまり?」

「ダメダメって事だな」

「ダメダメって事だよね」


 親友と妹が同じことを言う。俺の心臓がしくしくと痛むのは状態異常の所為か、それとも二人に駄目出しされたのが原因か。


「まずは、一つずつ見ていくと。お姉ちゃんは、どうして近接戦を選んだのかな?」

「えっと……まぁ、色々な戦闘スタイルの開発?」

「まずは、そこから改善するべきだな。ユンの主武装は弓だろ? それで俺の主武装は、剣。わざわざ、俺と同じ土俵で戦う必要が無かったこと」


 だが、途中で本気になったタクからは、逃げ切れるとは思えなかった。最初に離れた位置から後退しながらの連続射撃でも直ぐに距離を詰められそうな気がする。距離を詰めるのが駄目なら、剣の一本でも投げて、攻撃の手を止めさせられれば、後はワンサイドゲームの完成だ。

 俺は、その思ったままを口にしたら――。


「そこは、お前。創意工夫だろ」

「いや、いきなり無茶振りかよ」

「お姉ちゃん、PVPの基本は相手の最も嫌がることをやり続けることだよ。相手の最悪はこっちの最善なんだから」


 ミュウに言われて、確かにそうだ。と思う。俺は、自分のスタイルの確立を優先し、常に自分にやり易い動きをしていた。

 自分の楽な行動は、決して相手の嫌がる事とは繋がらない。現に、タクは、俺の動きに合わせて攻めてきた。

 ミュウの場合は、積極的に死角や対処の難しい低い位置を攻撃したり、飛び回り、有利な位置取りをしていたようだ。まぁ、それを見事に対処し阻止するタクもタクだが。


「じゃあ、ユンお姉ちゃんが有利に戦う戦い方は?」


 相手の嫌がることで、自分の有利な戦い方。それは、延々と弓による遠距離攻撃とエンチャントとカースドによるステータスの数値上で有利にするくらいしか思いつかない。

 包丁は、あくまで近接してきた時の自衛手段と思っておけばいいだろう。

 しかし、そんな単調な攻め方じゃ、先ほどみたいにタクの投擲剣が俺に襲い掛かってくるだろう。


 そもそも武器の性質も大きく違う。

 タクの長剣から放たれた横薙ぎや突きと言った多彩な攻撃が可能だ。斬撃は、線としての攻撃。その線上に居れば攻撃を受けてしまう。

 線の範囲が広いために避ける範囲や方向が絞られたり、接近しての突きは、線とは違う点の攻撃。弓と同じように速度重視の攻撃である。

 対する弓は、点による攻撃だ。利点を言えば離れた位置から攻撃できることだが、線攻撃のように範囲は広くない。それを補うために面攻撃の弓系アーツはあるが、そのアーツは、ディレイ・タイムが長く一対一での戦いには向かない。

 同じ面攻撃なら、ボムやファイアーボールなどの爆発するタイプの下級魔法を選んだほうが硬直時間は短い。センス構成によっては、固定砲台と化すことも出来る。


 俺は、腕を組み悩む。

 それだけじゃ足りない。もっと工夫が必要だ。

 それは、捨て身で虚を突く方法か、それとも積極的に相手の不利な状況を作るか。


「麻痺に対する状態異常を事前に装備するのは現実的じゃないよな。他の状態異常だったら無意味だし……じゃあ、移動打ちで常に逃げ回りながら打つのが現実的かな? でも、番えている時に接近されたら対処が遅れるかもしれない」


 殆ど独白に近いような自己分析。PVPに必要な駆け引きや一瞬の閃き、プレイヤースキル全てが足りない状況ではたまたこのような分析が役立つのかは、甚だ疑問である。


「分からん。誰か同レベルのプレイヤーは居ないものか」

「ほぅ、中々面白いことを口走るな。嬢ちゃん。手頃な相手なら私の隣に居るぞ」


 座り込んでいた俺は、身体を捻り、声をする方を見上げると胸の下で腕を組む長身の女性と黒一色の男が立っていた。


「ちと暇で来て見たら随分と面白そうな話をしているな。俺も参加はしないがPVPの相手ぐらいは出来るぞ」

「あー、ミカズチさんにクロードさん、こんばんわ」

「こんばんわ」

 

 俺たちが、挨拶をする相手は、セイ姉ぇの所属するギルド【ヤオヨロズ】のギルドマスター・ミカズチと布と皮専門の防具職人のクロードだった。クロードの衣装は相変わらずだが、ミカズチの服装は以前見た服よりも扇情的な衣装だ。

 柔らかそうな白い生地が胸元を覆い隠し、細い胴回りを彼女の髪と同系統の濃い赤地の布がきつく巻かれ、引き締められている。じゃらじゃらとした金属の装飾の目立つ布製の腰布とボテッとしたズボン。腕には、バンテージのように巻かれた黒色の布。頭にも同じ色の細い布が鉢巻のように巻かれている。

 肩や腕の露出が多く、激しい動きをすれば、色々とズレて視覚的な問題がありそうな服を平然と着ているので、俺は目のやり場に困る。


「あー、そのミカズチさん、ミカズチさん。どうしてそんな挑発的な衣装を?」

「ふむ。そこのクロの字が新たなデザインの防具を作ってみたと言ってな。買った」

「可愛い系の衣装や実用的なデザインも捨てがたいが、ファンタジーといえば、セクシー防具だからな。中々に印象的な見た目だろう」


 そんな意見を聞いてくるなよ。目に毒だって。


「そんな恥ずかしい衣装、無理だって」

「ふむ、嬢ちゃんは、ネットの世界ではハジケないタイプか。いや残念だ」

「いや、リアルもネットも絶対に嫌な事以外は、割とやってくれる。嫌々と言いながらもノリが良い奴だよ、ユンは」

「タク! そんな情報は提供するな!」


 正直、目の前の衣装には、大分目を引き、集中力を掻き乱す。そして、タクから齎された情報に三日月型の形の良い笑みを口元に貼り付けるミカヅチ。

 また、その扇情的な衣装も、心理戦には有効に働くかもしれないが、俺やミュウの精神衛生上の観点からよろしくない。なるべく視線を逸らす。


「そもそも、見えたら恥ずかしいだろ」

「はははっ、恥ずかしくない身体をしているつもりだがな」

「おおっ!? ミカズチさん、まさに大人の女性って感じで憧れる!」

「ミュウ、そんな所に憧れちゃいけません!」


 ミュウは、目を輝かせているために、俺には不安要素しかない。


「安心しろ。防具は、どんなに激しく動いても、ズレない。だから不意なポロリなどありはしないだろ」


 考えても見て欲しい。頭の防具である帽子が戦闘中にずり落ちて来たら。それで負けたら目も当てられない、と語るクロード。ゲームなのだから不可視の力が働いて、落ちるような帽子も落ちないのは分かったけど。


「……まぁ、ズレないのは分かったけど……防具の耐久力が無くなって、破損したら?」

「……」

「おい、目を逸らすな!」

「まぁ、良質な素材を使ってある。修理さえすれば、未然に防げる……はず」


 尻すぼみな言葉でも俺にはしっかり聞こえてるから。


「はぁ、全く。で、クロードが俺の練習相手になってくれるの?」

「俺を甘く見ているようだな。一応、そこのミカズチから指導を受けた。一般的な魔法使いを仮想敵とする場合の練習台にはなるはずだ」


 そう言って、長さ一メートルと二十センチほどの杖を取り出す。

 両端が丸みを帯びた年季の入った色合いの木製の杖は、ヘッドの部分に宝石が嵌め込まれ、見栄えも十分である。


「対戦形式は、オーラカウント5。制限時間は、長めにした。さぁ、理詰めで考えるもの良いが、感覚に頼るのも一つの手だ。実践での空気は、重要だぞ」


 クロードに連れられて向かい合う。

 今度は、弓を重視したPVPを意識して、センスを構築し直す。

 クロードの肩から離れたクツシタがリゥイたちの隣に並ぶのを見て、PVPを始める。


 ――相手の嫌がること。俺が選択した方法は。



最近、迷走気味といわれたアロハ座長です。

一本五千字前後。ラノベのページに換算すると6~7ページ前後でしょうか。少し気長に見守っていただければ幸いです。

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