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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
105/359

Sense105

さぁ、再び戻ってきたゲームサイド

「お兄ちゃん、今日。巧さんにPVPの訓練に誘われているんだってね」

「なんだ? 美羽。お前も誘われたのか?」

「そうだよ。楽しみだね」


 夕食後、二人でお茶を飲みながら、今日作ったクッキーを摘んでいる。俺は、ブルーベリージャムの乗ったクッキーが好きで、美羽は、チョコチップが好みのようだ。

 兄妹揃って、食べるクッキーの種類と枚数を牽制と調整しながら食べている。俺はなるべくチョコチップを避けて手に取り、美羽は、ブルーベリーを避けて手に取る。

 世間一般では、兄弟姉妹が多いと勃発するおやつの争奪戦は、小さい頃は良くしたものだ。と昔の事を思い出して目を細める。


「あー、それで美羽? PVPって具体的にどうすれば良いんだ?」

「どふっふぇ?」


 どうって? と言っているのだろう。しゃべる時は、ちゃんと食べ物を飲み込んでからしゃべりなさい。だが、子どもの頃の頬袋を膨らませたハムスターのような食べ方じゃないだけマシか。あの頃はあの頃で可愛かったけど。


「うーん。具体的な心構え? いくら仮想現実でも人間相手に凶器向けるのって、よくよく考えたら」

「あー、お兄ちゃんはそっちのタイプか」

「そっちのタイプって?」

「武器を相手に向ける事に罪悪感を覚えるタイプと武器を向けられることに恐怖感を覚えるタイプ。これは適性があるかないかでも違うよね」

「俺は、前者か。そう言えば、前にPKにあった時も武器を向けられたけどあんまり恐怖感は無かったな」


 キャンプイベントの時は、切迫した状況でもあったために感情が麻痺していたのかもしれない。その時は、恐怖感は無く、むしろ反発心が強かったと思う。


「まぁ、ダメージは衝撃や微弱な痛みとしてあるだけだから、スポーツって考えれば良いんじゃないかな? 正々堂々と正面から撃破!」


 そう言って、捻りを加えたストレートを虚空へと放つ。うん、勇ましい姿ありがとう。


「でも、お兄ちゃんの戦闘スタイルだとPVPはどうなるのか難しいね」

「今日一日考えてたけど、俺が他人と武器を合わせるのって想像が……」

「まぁ、物は試しで早速、やってみればいいよ。今から行こう」

「そうだな。じゃあ、また後で」



 俺は、自室へと戻り、OSOへとログインする。目が覚める場所は何時もの工房部。夜のために室内を照らすランプの仄かな赤と部屋の隅へ行くほど濃くなる夜色。

 直後に、ミュウからのフレンド通信を受け取る。


『お姉ちゃん、すぐ来れそう?』

「ああ、問題ない。場所は町の外縁だよな」

『そうそう、西門を出てすぐの場所だよ。待ってるね』


 俺は、自分のパートナーたちを引き連れて、アトリエールを出る。

 人工的な明かりの点すランプや松明が町の中を照らし、頭上を見上げれば、夜空の星が良く見える。

 ただし、一度町を離れれば、そこには明かりの無い世界が広がる。

 俺が向かう西門の外縁も本来、夜になれば町の城壁から零れる明かりが逆により深い闇を作り出すような場所だ。

 しかし、俺が辿り着いた時には、頭上に幾つもの光魔法が打ち上げられ、広い範囲でプレイヤーたちが武器を構えたり、戦闘の良し悪しを語り合っている。


「お姉ちゃん、来たね!」

「おう、さっきぶり」


 先ほど分かれたミュウが剣を持ったまま大きく手を振っている。俺は、剣がすっぽ抜けないかひやひやしながら近づく。


「おう、ユン。来たな」

「来たけど、何すれば良いか分からん」


 周囲に視線を巡らして観察をすれば、見知った人がちらほらと居る。また、今まさに戦っている人のスタイルを参考にしようとするが、俺のような短剣のような短い得物や弓のような遠距離武器は少ないようだ。


「まずは、俺たちがユンにPVPの極意を教えてやる」

「随分と上から目線だけど、聞いてやる」

「まず始めに、装備センスを整えることだ。モンスター相手で使える手段もプレイヤー相手では使えない場合が多い」

「そうなんだよね。私なんか、剣一本で相手を圧倒しようとしたら、速さと正確さで圧倒するトビちゃんと硬い守りからのカウンターのルカちゃんに負ける時があるからね」


 ミュウの私見を交えたタクの説明を聞き、俺は、自分のセンスを見て、対人戦闘用に調節を始める。

 とは、言ったものの、何が必要で、何が不必要なのか分からない。リゥイとザクロを常時召喚するためにも【調教】は外せないとなると。

 いくつかのセンスが成長可能だったために、成長させた。


 発見Lv30が成長し、看破へと。

 魔法才能と魔力がそれぞれ50を突破したことで二つが統合され、魔道に。

 速度上昇Lv30が成長し、俊足へと。


 合計三つ。消費SPは、看破で2、魔道で3、俊足で2の合計7。

 結果は、


 所持SP16

【弓Lv36】【長弓Lv9】【鷹の目Lv44】【俊足Lv1】【看破Lv1】【魔道Lv1】【地属性才能Lv21】【付加術Lv25】【料理Lv29】【調教Lv9】


 控え


【錬金Lv36】【合成Lv34】【彫金Lv6】【調薬Lv32】【泳ぎLv15】【生産の心得Lv40】【言語学Lv21】【登山Lv13】【毒耐性Lv6】【麻痺耐性Lv6】【眠り耐性Lv6】【呪い耐性Lv6】【魅了耐性Lv1】【混乱耐性Lv1】【気絶耐性Lv6】【怒り耐性Lv1】



 一度に多くのセンスを成長させたために不安はある程度残るが、どちらも一長一短だ。

 俊足ではステータス数値上のSPEEDが減少しているだろうが、速度を補うための補助スキルがある。看破は、敵の魔法やアーツの発動の瞬間が今までのような漠然とした感覚からよりはっきりとしたものに変わった。これからPVPを始める上で、敵対者の行動が分かるのは心強い。

 最後に、魔道だが、これはMPの総量が半分に減ってしまった。しかし、今まで圧迫していた魔法枠が一つ開いたことで、広い幅での選択肢を選べるようになった。

 もしも耐性系が必要ならば、弓を外して、耐性を組み込めば良い。


「よし、出来た。評価よろしく」

「どんな感じだ?」


 ミュウとタクにセンス構成を見て貰う。PVPをやる上で相手に手の内を晒すのは迂闊かもしれないが、客観的な評価は、欲しいのであえて見せる。


「ほへぇ、結構魔法レベル高かったんだ。魔法だけなら私より高いよね。でも、一度に三つも成長させて大丈夫?それにレベル低いセンスが多いし」

「あー、俺は、魔法使わないから【魔道】のセンスはどう評価して良いのか分からないな。ただ、まだ時間あるし、レベル低いうちは伸びやすいから集中的に伸ばせば大丈夫だろ。でも、近接で短剣。中距離が魔法、遠距離が弓だと、器用貧乏で決定力が足りないんじゃないか? それと調教って幼獣を戦闘に使うのか?」


 そう言えば、タクは、剣を主体に戦うスタイル。ミュウは、魔法と剣を併用する魔法剣士。俺は、センスだけ見ると、前後衛に魔法を使うオールラウンダー。決定力が足りないのは予想できるが。まぁ、内情を知らない人が見たら、何故調教と料理を装備している。と言われそうだが。


「まぁ、物は試しだな。どっちか相手してくれないか?」

「私よりタクさんの方が良いんじゃないですか?」

「分かった。ユン、あっちの広い場所に移動するぞ」


 俺とタクは、ある程度に人と離れた場所に移動し向かい合う。

 俺は何もしていないが、タクは手元を動かしているためにタクだけが見えるウィンドウを操作しているのだろう。

 しばらく、待つと俺の目の前に画面が表示される。


『プレイヤー TAKU からPVPの申請があります。受理しますか?』


 と言うものの下に、PVPのルールとYES/NOの二択。

 ルールは、戦闘するエリアの指定、対戦人数、勝利条件、制限時間などが記入されていた。

 俺は、それらをざっと目を通し、戦闘エリア外へと幼獣たちを避難させ、迷わずYESを選ぶ。不可視の壁がエリアの内外を隔絶し、その外側でミュウが俺たちの勝負を見守っている。


 ある程度距離の離れた場所にいるタクは、悠然と二本の長剣を構え、こちらの出方を伺っている。

 互いの身体には、邪魔にならない程度にオレンジのオーラが纏わり付き、カウントが5と示している。

 PVPの対戦形式の一つであるオーラバトル。

 オーラのある場所をダメージ判定エリアとし、最低ダメージの1以上受けた場合、カウントが減少。相手のカウントを0にした方が勝ち。

 他にも、身体の至るところに風船のような的を着けてそれを狙うバルーンバトルや最大HPの半分以下にしたら勝ちのハーフライフバトル。四分の一のクォーターライフバトル等、様々な形式がある。


「よし、受理されたな。じゃあ、まずはどっからでも掛かって来い!」

「タク、そんな漫画みたいな台詞を……」

「良いんだよ。一度言ってみたい台詞なんだから」

「全く、じゃあ遠慮はしないぞ。――【マッドプール】!」


 俺は、タクの足元を中心に半径一メートル程度を指定し、魔法を使う。

 しかし、詠唱した直後には飛び退いて避けられ、後にはぐずぐずと液状化する地面が残る。


「えげつねぇ。いきなり切り込んでくると思ったら、足止めの補助魔法かよ」


 地属性の第三魔法であるマッドプールは、少し特殊な魔法だ。

 フィールドに作用するタイプの魔法で直接的なダメージは無い。しかし、MPの消費量に応じて作り出す泥沼は、相手を足止めとSPEEDの一時的な低下が見込める。

 普段のように、宝石に魔法を込めるマジックジェムにすれば良いのでは、と言う疑問があるだろうが、今回はあえて魔法を織り交ぜた戦闘スタイルの確立が目的で、全てを曝け出すつもりは毛頭無い。

 それに――


「お前、この泥沼何時消えるんだ?」

「さぁ? まぁ、俺も嵌りたくないから小さめに指定したんだけどな」


 マッドプールは、実体系の魔法。つまり、自分にも影響を及ぼす。範囲を間違えてズポッ、移動してうっかり踏み抜き、グチュ。意外とリアルなために、結構不人気なのだ。

 大体、魔法使いは後衛のために、前衛の妨げになりそうな魔法は向かない。そういう意味では、この敵味方に厄介な魔法を状況に応じて使える経験が欲しいのだ。まぁ、使えないなら封印するしかない。


「【付加】――スピード。それじゃあ、軽く打ち合いでもします、かっ!」


 俺は、一息の内にタクとの距離を詰める。ベルトから抜いた包丁を構え、駆け抜けるように、包丁の刃を防具の隙間に合わせる。

 しかし、タクの持つ二本の長剣の内の一本で斜に受け止め、鋼同士がぶつかり、擦れ、不協和音を奏でながら、俺は駆け抜ける。

 選んだのは、速度を利用した当て逃げ戦法。近接の打ち合いは、最初から無理だと予想していたために、相手がフェイントなどを使う前に一撃離脱。

 俺は、足裏に力を込めて鋭角に曲がり、再びタクへと切り込んでいく。

 今度は、直線での移動ではなく、ジグザグに走り、左右のどちらに抜けるのかを予測させずに走り抜ける。


「……まぁ、及第点かな?」


 タクの呟きを耳にした時には、遅かった。いきなり迫ってくるように錯覚するほどの踏み込み。右手を僅かに下げ、その位置から瞬発力と踏み込みで繰り出される長剣の横薙ぎは、広い範囲をカバーしつつ、俺に迫る。

 咄嗟に、頭を下げ、長剣の刃から逃げるように避けるが、開いている左の長剣が速度重視の刺突を俺へと放つ。握られる武器は、剣を逸らし、弾くには不安があるが、それ以外に選択肢は無く、刃を合わすが――


 どすん、と右肩に衝撃が走り、オレンジ色のオーラが揺らぎ、カウントを4に減らす。正確に包丁で受け止めたが、逸らすには姿勢も威力も互いに差があり、あっさりと負けた。

 揺らいでいる間に、俺は慌てて後ろ跳びで距離を離し、タクの先ほどの動きを思い出す。


「一撃目の長剣は、広い範囲をカバーする誘導。二撃目は、確実に仕留める突きか」

「うーん。まぁ、一撃目は避けられないと思ったんだけどな。二撃目は保険だったんだけど」

「もっと持つかと思ったんだけどな」

「馬鹿言うなよ。今のユンなら息つく間もなく、倒せるぞ」


 大分挑発的な笑みを浮かべるタクに、俺も挑発を返す。


「ほぅ、やれるものならやってみろ。――【ボム】」


 開いた片手を前に突き出し、ボムを放つ。そして、その影に隠れるように走り、避けた位置を狙うつもりでいる。だが、これも。


「ったく【ショック・インパクト】」

「――っ!?」


 打ち出したはずのボムが、硬質な音を立てて打ち返された。

 再び、緊急回避するが、避けた目の前にタクが既に剣を振りかぶっていた。


 ――3


 再び離れようとするが、離れた分だけ距離を詰められる。そして、オーラの揺らぎが収まった直後に二本の剣を時間差で切り込んでくる。


 ――2


 初めての時間差攻撃に、目が追いつかず両方とも受ける。更に、距離を離そうとオーラの揺らぐ今のうちに【呪加】でタクの速度を下げる。


「【呪加】――スピード」


 目に見えて、動く速度が遅くなったのを良い事に再び距離を稼ぎ、新しい攻め方を考えようとした直後。


 ズン。


 ――1


 何があったのか分からずに、視線を下に向けると、長剣。膝が崩れて、ステータスに生じる麻痺のバッドステータス。タクの方を見ると、軽い投擲のフォーム。これだけで分かってしまう。

 あいつは【投擲】を持っている。投げた剣には、状態異常の追加効果でもあったのだろう。動けないこちらに向かって、悠然と歩いてくるように見える。

 実際は、ただ速度の低下でそう見えるだけかもしれない。だが、それが余計に俺の焦りを助長させる。


 動け、動け動け動っ――


 跪く俺の目の前で、タクの長剣が肩口に添えられる。


「これで、終わりだ」


 ぷつり。タクは、切っ先で軽くオーラを突き刺す。


 ――0


 初めてのPVPは、タクの圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです [一言] 土魔法と近接の相性が悪いは忘れてしまったのかな? 無意識に自分を除外しているのかもしれませんが、 たぶん雰囲気に中てられているのでしょうね。
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