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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
104/359

Sense104

久しぶりの更新。

難産だった。

警告:BL風描写・微あり

 昼の休み時間。巧と向かい合わせで食べる弁当は、何時と大して変わらない。

 ふりかけご飯に梅干、卵焼きにプチトマト、それから千切ったレタスとミニハンバーグに野菜炒め。別の容器には、カットフルーツ。収められている弁当箱は、黒の二段構造でシンプルなデザインだが、中身だけ見れば女子の弁当のような可愛らしさがある。

 まぁ、理由としては、弁当の中身を美羽に合わせている結果だ。

 美羽の弁当箱は、小さな花柄とチェックの入った弁当箱。沢山食べる美羽だが、お昼の弁当は至って普通だ。ただし、間食が多いのだが。


「……何時見ても美味そうな弁当だな。少しくれないか?」

「いや、お前は。自分のあるのに俺の弁当を要求するのか」


 巧の目の前には、学校の購買部で買ったカツサンドとタマゴサンド、そしてドリンク。午後の活動をする上で十分にカロリー摂取できそうな品目なのだが、視線の先には俺の弁当のおかずがある。


「たまには、他の味が欲しいじゃん」

「お前、自分の母親に作って貰えよ。もしくは、自分で作れ」

「いいじゃん。俺のも一口やるから」

「全く、仕方が無いな」


 俺は、箸でミニハンバーグを半分に千切り、ソースに絡めて巧に差し出す。

 ソースは、ケチャップとトンカツソースを一対一の割合で混ぜ、電子レンジで一度暖めたものだ。暖めることでケチャップの酸味が飛んで、ケチャップの甘みとソースのコクでそこそこ美味しいソースになる。


「はむっ、もぐもぐ。少しだともっと食いたくなるな」


 差し出されたハンバーグを食べる際、箸に口が接触しないようにしたのは、巧なりの気遣いなのだろう。また、緩んだ表情でハンバーグを食べる姿を見ると作り手としては嬉しいものがある。


「もうちょっと……」

「ダメだ。これ以上だと俺の分が減る」


 気のせいか、時折熱っぽい視線を感じる。これ以上踏み入るのは危険だと本能的な警報が鳴り響く。


「じゃあ、お返しにタマゴサンドを一口」

「じゃあ頂く」


 薄く焼かれた卵とマヨネーズが塗られたサンドイッチを一口頂く。まだ口のつけていない場所を選んで噛み千切れば、砂糖が入ったのだろう甘めのタマゴの味と少し柔らかいパン生地を味わう。


「市販はこんなものか」

「お前……要求レベル高すぎ」


 そう言いながら、タマゴサンドを食べていき、俺の食べた箇所を平然と食べた時、背筋に寒気を感じて反射的に背後を振り返る。


「っ!?」

「どうした? 峻」

「いや、凄い寒気が……いや、熱っぽいんだけど寒気が」

「風邪か?」


 平気でもぐもぐとタマゴサンドを食べ、カツサンドに手を伸ばした所で再び巧と向き合う。


「そう言えば、夜の訓練はどうする? 二人だけか?」

「ああ、そのことね。知り合いに声かけたら、何人か暇な人が来るようだ。まぁ、時間は九時か十時頃だし、場所は町の外縁だな」

「了解」


 俺たちは、昼飯を食べなが、学生らしい談笑を続けるが、この後の予定は決まっていた。


「ごちそうさま。それじゃあ、俺は調理室に行ってくるから」

「おう、こっちは、教室の準備とか色々始めるわ」


 俺は、自分の弁当を片付けて、調理室へと向かう。

 余裕を持って辿り着いた調理室には、既に遠藤さんが事前練習用の食材や道具、手順の簡易プリントを準備していた。

 俺は、置かれたエプロンを着けて手伝うことを尋ねる。


「遠藤さん、何か手伝うことある?」

「ないわよ。はい、レシピ」


 直接手渡された紙は、クッキーのレシピだ。種類としては、絞り出しクッキーと呼ばれるタイプのものだ。

 材料は、薄力粉、牛乳、バター、バニラエッセンス、グラニュー糖、卵黄。これがプレーンのタイプだ。そのトッピングとしてチョコチップ、イチゴとブルーベリーの二種類のジャム。合計四種類のクッキーの予定らしい。

 手順もそれらを全て混ぜて絞り出し、最後にトッピングを上から乗せるだけシンプルなレシピだ。


「クッキーの種類を選んだのって、遠藤さん?」

「いいえ。クッキー班の子が持って来たレシピをそのまま参考にしているだけよ。問題もなさそうだったから」


 確かに作る際には、問題は無い。材料や手順、分量から作れるクッキーの個数や所要時間。型抜きのクッキーは余った生地を練り直す時間や手間に比べて、絞り出しは、一度作ったドロドロの生地を絞り出し袋に詰めて絞れば、手間は抑えられる。

 なのだが――俺は、卵黄の部分が気になった。


「なぁ、このレシピの卵黄って、タマゴの黄味だよな」

「そうね。何を当たり前なことを?」

「いや、黄味だけ使うと、白身が大量に余るだろ。捨てるの勿体無いな、と思って」


 俺の言葉に最初は、何を言っているのか分からない様子だったが、すぐに気が付いて拳を顎に押し付け、腕を組むようにして考え始める。


「確かに……それは気が付かなかった。材料だけ目が行っていて、捨てる部分があることを忘れてたわ」


 今日作るクッキーは、手順の確認と学園祭で宣伝するためのクッキーの写真を撮影するためだ。だから今日はそれほどの卵白がでないとしても、当日には大量の卵白を捨てることになるかもしれない。それは正直、勿体無い。


「……卵焼きにする?」

「白身だけの卵焼きを誰が食べるんだよ」

「冗談よ。でも、困ったわね」


 そう言って、件の問題食材であるタマゴを眺める。パックに入った白いタマゴ。


「峻くんは、何かアイディア無い?」

「うーん。今の道具なら可能かな。メレンゲクッキーにすることが出来る」

「メレンゲクッキー? そのレシピ詳しく教えて」


 目を細めて筆記用具を取り出す遠藤さんに、俺は簡単なメレンゲクッキーの作り方を教える。

 とは行っても材料は、タマゴ一個分の卵白に対して砂糖が六十グラム。卵白をあわ立ててメレンゲにしたら、砂糖を数回に分けて投入してアワを潰さないように混ぜる。

 出来上がったメレンゲを絞り出しクッキー同様に、絞り出し袋に入れて、押し出す。それをオーブンで三十分ほど加熱すれば出来る。


「と、砂糖が少なめだと触感だけで甘くないメレンゲクッキーになるからな」

「なんだか、カルメ焼きみたいね」

「あー。まぁ、似てないようで似た物だしな」

「じゃあ、値段はいくら位が妥当かしら。私としては、十個入って五十円とか」

「メレンゲクッキーって意外と小さいぞ。十五個で五十円とかが妥当かもしれないな。でも、そうなるとオーブンがクッキーとは別に欲しくなるな。当日は揃えられなければ、卵白は捨てなきゃならないしな」

「じゃあ、私は、色々な人に聞いてきて調整するから。今日は、両方とも作ってくれる? サンプルは必要そうだし」

「分かった。じゃあ、そっちは宜しく」


 遠藤さんが調理室を後にするとすれ違うようにクッキー班の女子が入ってくる。

 俺は、彼女たちと合わさりテキパキとクッキーとメレンゲクッキーを作り上げ、二つをオーブンに入れて一息ついている。


「クッキーって、写真取ったら持って帰っていいんだよね」

「ああ、ラッピングしてからの撮影だから、出来たクッキーの中から綺麗な奴をラッピングして、残りは、この場で食べるか持って帰るかして良いらしい」


 一人の女子が俺に確認してきたので、俺は、使った器具を洗いながら答える。

 すると、女子たちの間で黄色い声が上がる。誰に上げるだの、そんな女子にありがちな浮ついた話だ。

 なるほど、今朝男子が妙に浮き足立っていたのは、クッキーを貰えることを期待していたのか。全く今日は、バレンタインじゃあるまいし。しかし残念だな。この場に居る女子は皆、友人同士で食べることを話し合っている。


「ねぇねぇ、峻くんは誰にクッキーを上げるの?」

「家に持って帰って家族と食べる」

「ツマンナイ。じゃ、巧くんは?」


 何がツマンナイなのだろうか。何故、俺が巧に渡さなければならないのだろう。俺は、黙っていると、女子たちの間は、俺たちのことで色々言って来る。


「峻くんって、巧くんと仲が良いよね」「ホントホント。何時も一緒に居るし、今日だって、お昼を食べさせあっていて」「外見だけならラブラブって感じだよね~」「今日も、ご馳走様」「本当に何も無いの?」


 皆が口々にそのような事を言うが、意味が分からない。それに外見だけって、遠まわしに俺が女顔って言いたいのか。


「別に、お前らが何を期待しているのか知らんが、ただの友達で腐れ縁なだけだ」

「ええ~っ、至高の萌えが! 私たちの日々の楽しみを否定しないでぇ」

「その、楽しみって何だよ」


 ジト目で女子たちを睨むが、堪えた様子は無い。むしろ、胸を張って答える。


「究極の男女の平等が目の前にあるのよ! 男の娘と男の子の素敵なイチャイチャな日常が!」


 男の子と男の子? 男の友達同士なのだから別に普通な気がするが、そこをあえてイチャイチャとか表現する所は、なぜか、クロードやリレイといった面々とは別のベクトルで突き進んでいる同種のような気配を感じる。


「イチャイチャだろうが、なんだろうがしてない!」

「いいのよ! 私たちがフィルターを掛けて見ているだけだから!」

「フィルターって何とか聞きたいけど、凄く怖い! 頼むから普通に俺らを見ろよ」


 俺が抗議の声を上げるが、女子同士で顔を合わせて話し合っている。

「私たちのこれは普通よ」「婦女子の嗜みって奴?」「腐の間違いだけどね」「まぁ、良いじゃない。実際、どっちが受け、どっちが攻め!」「安心して! 昔の日本は、同性の結婚は出来ないけど、今は出来るから!」


「俺の話を聞けっ!」


 あまりに捲くし立てられた言葉を無理やり中断する。

 全く、何故が俺の周りには変な奴しか居ないんだよ。

 そう、溜息を吐く。もう、時間に余裕があるからしゃべるんだ。こいつらを働かせれば、口数も減るだろう。


「手が開いているなら自販機か購買でジュース買ってこないか? 試食の時に、飲み物無しでクッキーは辛いだろ」

「あー、そうね。じゃあ、私、行く。あともう一人」


 そう言って、女子の中から数人居れば良いのだが、結局全員が暇だということで、俺以外が休憩と称して、お手洗いやジュースを買いに行った。

 俺は、ホットのコーヒーを二本頼み、ジュース代だけを渡してオーブンを眺めた。

 あと、十五分ほど。この開いた時間で先ほどの言葉を反芻させると、徐々にその意味が分かり、寒気にも似た悪寒と顔から血の気が引く。


「いやいやいや、ありえない。それは無い! うん」

「何が、無いんだ?」

「うわっ!」


 考えに耽っていたためだろう調理室に巧が入ってきたのに気が付かなかった。


「何を一人で驚いているんだ?」

「なんでもない。なんでも」

「ふ~ん。そうか……他の奴らは?」

「居ると余計な事しかしゃべらないから、飲み物買いに行かせた。そっちは?」

「こっちは、足りない材料を買い出しに行ったり、戻ってきたらこっちの様子見」

「実際は?」

「こっちにくれば、あわよくば、クッキーが食えるってことで皆が血眼になって立候補していたから遠藤の采配で俺が送られた」

「ふぅ~ん」


 気の無い返事を返す。

 普通にしゃべれている。うん、あんまり意識していない。つまり、俺はノーマルだ。女子たちが想像するようなことは無い。うん、少し自信を取り戻したぞ。


「そう言えば、一人で思い詰めた様な表情だったけど、何かあったのか?」


 ここに来て、伏兵かよ。もう、この話題は放置してくれよ。


「何も無い」

「嘘だな。何か気になることがあるだろ」

「無いったらない」

「何を気にしてるんだ~?」


 俺が顔を背けるが、巧が俺の前に立とうとする。それを何度も続けると、距離を詰められ、頭をぐりぐりと撫でると表現するのもおこがましい手付きで触られる。


「やめろ~」

「あははっ、ういやつめ、ういやつめ」


 何処の悪代官だ。と問い詰めたくなるような口調。

 そして間が悪い。飲み物を買いに行っていた女子たちが帰ってきた。


 そこからは、今まで感じていた謎の視線と同じような熱の篭った視線を俺たちは、受けることになる。

 巧は、うろたえる俺を見て楽しそうにニヤニヤしているのが気に食わない。


「どうしてそんなに余裕なんだよ。巧だって被害者だろ」

「峻は頭が固いな。あくまでフィクションとしてのソレが好きなだけだ。彼女たちは、いわば、俺たちのファンって言い方が出来るだろ」

「何だよ、その理論」

「まぁ、適当にガス抜きしてやるのが一番だろ。変な創作物作られて、誤解が広がるよりは」

「そうなのか?」


 そう言って巧は、俺から女子の方に視線を流すと、曖昧な笑みを浮かべている。おいおい、変な創作物は止めてくれよ。


「峻。ここはファンサービスして、ガス抜きしてやれば、大人しくなるだろ」

「……そうなのか?」


 何だか騙されている気がするが、巧は、自分も巻き込んだ自爆ネタをするとは思えない。そもそも、ガス抜きなど必要なのだろうか。俺たち以外の別の人に頼めばいいのに。


「……やっぱり騙されている気がする」

「騙されなかったか、峻は意外とノリが良いから騙された事に気が付いても突き進むと思ったのに」

「やっぱりか。全く」


 俺は、恥を回避できたことに安堵の溜息を漏らす。

 肩を竦める巧と目の前でお預けを喰らった女子たち。

 俺は彼女らを意に介さず、綺麗に焼きあがったクッキーとメレンゲを取り出す。

 適当に熱が取れた段階で、事前に用意したラッピング様に袋と針金で纏めて、売り物としての体裁を整える。

 出来上がったものをデジカメで何枚か撮影し、後は、片付けをした。

 出来たクッキーは、急遽作ったメレンゲクッキーを合わせて、一人三袋ほどだ。

 俺は、クッキー二つとメレンゲクッキー一つを貰い、教室に戻る。


「よし、片付けが終わったし、帰るか」


 まだ作業をしている一部の人や友人としゃべり続けて帰らないクラスメイトの中に、巧が居た。


「待っててくれたのか?」

「そ、早速帰るか」

「ちょっと待て」


 出口へと向かう巧を呼び止め、振り向き様に、クッキーを一袋押し付ける。


「ほら、おすそ分けだ。綺麗に出来たからな」

「あ、ああ。サンキュー」

「じゃあ、帰るか」


 無造作にクッキーを渡して、巧はそれを鞄に仕舞い込む。


 教室を出る時、背後から小さな声で、ツンデレだ。という言葉は、俺の耳には届かなかった。

リアルユンくん、マジ、ツンデレ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >徐々にその意味が分かり、寒気にも似た悪寒と顔から血の気が引く。 幼い頃に家に入ってきた蝶々を捕まえたら、実はでっかい蛾だった事を後で知った時の気持ちですよね。分かります。
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