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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第3部【リアルとイベントとRクエスト】
103/359

Sense103

当分リアルだと言ったが、リアルとゲームを交互にすることにした。

 高等部と中等部では、玄関口が違うので校門前で別れ、俺は、自分の教室へと向かう。

 遅くも無い時間での入室。普段どおりの教室だが、どこか浮き足立った雰囲気を感じる。それも主に男子だが、何故男子なのだろう。

 そんな教室の中を自分の席へと迷わず向かえば、先に到着していた親友が声を掛けてくる。


「おはよう、峻」

「おはよう、巧」

「文化祭の準備期間だな。午前中に授業が終わる」

「いや、半日じゃないから。午後に準備だからな」

「でも、やることやれば、早めに帰れるぜ! これでゲームだ!」


 この親友は、やはり学園祭よりゲームか。まぁ、気持ちは分からないでもない。と言えてしまうほどに俺もOSOにのめり込んでいるのは確かだ。


「お前の担当って確か道具作りだろ? 手は抜くなよ」

「当たり前だろ。まぁ、峻がこっちに居れば、作業が捗るんだけどな」

「いや、適材適所だって」


 巧が道具の準備。そして、俺は、クッキー作りと会計だ。接客と会計は男女混成でシフトを組んでおり、それぞれの担当は、クラス委員から指導を受けている。


「それにしても酷いぜ。遠藤は、俺と峻を引き離す!」

「喧しい。遠藤さんだって、大変なんだ。お前も労ってやれ」

「そうよ。私を労いなさい」


 顔を突き合わせていた俺たちの頭上から声が降ってくる。見上げる先には、一人の女子生徒が立っていた。

 長い髪を一本に編んで左肩から前に掛け、下縁眼鏡に気の強そうなつり目。表情は、柔らかいが、気の強そうな印象からハキハキとした真面目な性格を連想できる彼女は、クラス委員の遠藤さんだ。


「あんたらが現実的な提案をしないから私が苦労するんじゃない」

「あ、ああ。すまん」

「それと、巧くんと峻くんが一緒に居ると絶対に作業に支障が出るから分けたのよ」


 はっきりと事実を突きつける遠藤さんに、巧も少したじろぐ。


「それで、峻くん。今日、クッキー班を集めての事前練習の日は覚えているわね。お昼食べた後に調理室だから」

「ああ、覚えている。何か問題とかあるか?」

「今の所無いわ。まぁ、あったらまた実行委員と相談に行くからその時は頼りにするわ。それと、巧くん。あまり峻くんを困らせると、私たちまで連鎖的に困るから程ほどにね」


 そう言って、クラスを周り皆の話を纏めていくクラス委員の遠藤さん。

 それを遠目に眺める巧は、呟くように俺に尋ねる。


「なぁ、何でお前は、遠藤に頼りにされるんだ?」

「……あれ? 言ってなかったっけ?」


 学園祭の出し物を決めるとき、纏め役となったクラス委員の遠藤さんと実行委員。

 クラスの意見を可能な限り取り込もうと二人は努力した結果、実現不可能な案ができてしまった。二人で実行可能な範囲まで修正できるが、実行委員は他にも仕事があるために、暇そうに見えて――事実、帰宅部――真面目に考えてくれそうな俺に泣きついてきた。

 仕方なく、手伝いをしたのが始まりだ。


 学園祭の出し物で喫茶店という方向性は決まったものの問題点を二人で洗い出せば、出るわ出るわ。お花畑な内容そのもの。

 遠藤さんとは、意見や考え方も近い部分が多く、サクサクと案の修正を行う。


「余裕を持ったと思った計画だけど、実はカツカツね」「材料買ってケーキを作るなんて正直無理だろ。当日は料理部や他のクラスとオーブン争奪戦勃発でまともに数が揃えられない。と言うよりも料理部に優先的に割り振られるぞ。作る案は却下」「材料費ケチって衣装を豪華にするよりも楽な方向性でいいわよね。衣装も手作りのチープさがあっても良いよね」「それだったら統一の一点アクセサリーでも良いんじゃないか?」


 等々の話し合いで当初のクラスの意見は、ほぼカット。

 ケーキの材料買っても当日作る余裕無い。そのため材料が無駄になる。服は作ってもその時だけで大分無駄になる。ケーキが用意できないために、店の商品はドリンクだけの味気ない喫茶店になってしまう可能性がある。

 もしケーキを一日目に用意できても、二日目に用意できなければ意味は無い。

 素人学生がケーキを作ってどれだけ時間が掛かるのか、準備は可能か? を予測。

 学生の素人運営で店のようなクオリティーを求めることの間違いという結論に二人で辿り着いた。


 そうなると、ケーキは何処で用意するか。

 ケーキは、近くのケーキ屋さんに注文。それでも材料だけより割高。店の衣装は無いが、エプロンを作ってそこに凝った刺繍と統一の髪留めなどを製作での衣装コスト削減。

 これが基本の案となった。


 これを修正案としてクラスに発表した遠藤さんと実行委員だが、バッサリと当初の意見がカットされていて、一部不満はあったようだ。


 学園祭で喫茶店をやるのに料理が無い。という不満に対しては、折衷案でお土産のクッキー作りを提案。これなら、ケーキより保存期間が長く前日に作っておけば、オーブン争奪戦を回避できる。と言うことは俺の入れ知恵だ。


 後は、喫茶店をやる上でのメニューの作り方などの相談を時折受けたのだが、それはゲーム内の知人の話の受け売りをそのまま話したら、即採用。

 小さな相談事には、答え始めたら妙な信頼を勝ち取り、実行委員には、余裕のある計画と予想していた程に忙しくないことに泣いて喜ばれた。


「あー、なるほど。と言うか。そこまで手伝うんだったら正式に役割貰えばいいじゃん」

「何で俺が?」

「いや、そこまで手伝ってるなら役割貰って矢面に立てば良いじゃん」

「それが嫌なんだよ。人の表に立つくらいなら、影で細々としていたいんだよ」


 前に出て指揮を執るなんて俺の柄じゃ無い。目立たずに、小さい事をするのが良いんだよ。自分が表に出るよりもサポートする方が性に合っている気がする。


「時々、峻の事が分からなくなるよ。基本は、真面目でお人よしだけど、もう少し目立つことを覚えても良いと思うぞ」

「……そうらしいな」


 自分では目立つ気は無いのだが……これは目立たないために正当な評価を下されないのか? 言われてみれば、それが原因で苦労人気質な気もするし、最近のOSOみたく有名税で面倒が増えるのも考え物だ。

 いつか、自分にも得になるようなことがあるだろうか。うーん、俺の幸せとか得って、物質的な欲よりも、安穏とした精神的な安定の優先順位が高いような。

 例えば、気分の良い日に友人と無駄話したり、動物とのふれあいだったり。そんな癒しを……


「よくよく考えたら、そんなに損してない気もするな。一割の面倒を過大に見ていたから損した気分になるだけだ」


 巧が珍しくジト目で俺を見ている。失礼な奴だ。人の幸福は人の数だけあるんだ。


「……深く考えるのは止めだ。それより今日の夜は暇か?」

「またゲームの誘いか?」

「正解。正しく言うと、二週間後のプレイヤー主催のイベントに向けての練習相手が欲しいんだよな。対人戦の」

「何で対人戦の練習が必要なんだ?」

「お前……モンスターと同じように相手をする気か?」

「ダメか?」


 当然だ。と巧に言われた。

 巧が言うには、対モンスター戦と対人戦、それから対集団戦では、戦闘に求められるプレイヤースキルが全く異なるとの事。

 モンスターは、コンピュータのアルゴリズムによって決められた範囲の行動しかしないために、初見での看破は難しくとも、事前の情報や慣れがあれば問題なく対応できる。

 まぁ、それでもモンスターの一団に囲まれて、物量差で負けることはあるが、モンスターに対する戦闘は、それほど高いプレイヤースキルは求められない。

 本当に求められるのは、対人戦だと言う。

 人間は、高度な思考を持ち、数手先、攻撃の予測による回避、または反撃など突拍子も無い行動を取ったりと、予測が難しい。そんな中にモンスター同様馬鹿正直に進んでいけば、性能に差は無くてもプレイヤースキルの差で負けてしまうだろう。

 特に、対人戦闘では、相手はこちらの隙を容赦なく突いて来る。アーツや魔法使用後のディレイタイムを狙うのなんか当たり前。フェイントなどは常套手段らしい。


「――と、つまり対人戦闘に必要なのは、レベルよりもプレイヤー個人の経験。どれだけ相手の裏の裏を読むかが必要になるんだ」

「へ~、じゃあ、対集団戦は?」

「アレもまた機会があれば説明するが、今は対人戦だ。それでその慣れのためにも峻に相手をして貰おうと思ってるんだ」

「分かった。けど、対人戦闘の練習ってレベル上がるか?」

「うーん。素振り程度には、経験値が入るようだから一応は上がるが、一番は適正レベルで狩りだな」

「なら手伝ってもいいぞ。むしろ、俺に対人戦を教えてくれよ」

「ああ、じゃあ詳しい話は昼飯の時にでも詰めるか」


 そのままホームルームの時間になったために自分の席に戻る。

 教師が今日から一週間の学園祭の準備の簡単な説明をする中、俺はぼんやりと対人戦について考える。

 夏のキャンプイベントでプレイヤーに襲われた時、選択肢として逃げる以外が出来たかもしれない。それに、助けに来た巧や静姉ぇたちの勇姿は、今でも覚えている。


 のらりくらりと剣を躱していた巧。あれがモンスター相手にする剣で、それを避ける巧の動きがプレイヤー相手にする動きだとしたら、プレイヤーを想定した動きの方が有利だった。

 俺は、ぼんやりとその時の動きを思い出しながら、対人戦闘に必要な動作を思い描くのだった。


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