Sense10
ゲームからログアウトした俺と美羽は、夕飯のカレーを食べながら、互いに情報交換をしていた。
と言っても殆どは、美羽からの情報であり、俺はそれに相槌を打っている。
「ねぇ、聞いてよ。お兄ちゃん」
「何だ。また愚痴か?」
「うん。まあ、そうかな? もう転売屋の人たちがポーション買いあさって露店で売っているのよ。一個50Gのポーションが三倍の150G。最悪、500Gでも売れるほど品薄なんだから」
「知ってるよ。NPCのポーション入荷量の定数が決まっているんだろ?」
「そうそう。知ってたんだ」
「聞いた。あとは、俺自身が生産職だし、当分はポーション売って金にするかな?」
「そんなに金欠なの?」
「調教外して、細工取ったは良いけど、研磨と炉の道具買わないとまともにな」
「なんでそんなにお金かかる方向性に行くかな?」
ぶーと文句を言う。何を言う。研磨で宝石の原石から何の宝石か分かる瞬間は、苦労が報われた感があるんだぞ。
「にしても、錬金、合成、調合、細工って見事に生産だね。普通は、系統別に分かれるものだけど、これだとレベル上げがバラバラで効率悪いんじゃない?」
「いや、そんなことないぞ。西の森で採取した薬草を調合して初心者ポーション作って、合成でポーションにグレード上げた。石っころは、細工センスで鑑定すれば、宝石の原石や鉄鉱石って分かったり。錬金は余った素材を変換してちまちま成長させてるかな?」
うわっ、もう使いこなしてる。と言われてるが、残念だな。鉄鉱石は余って錬金素材にしているし、後は、土や骨、胆石とかの使い道が分からないんだ。
そういえば、こいつもβ版のプレイヤーなんだよな。聞いてみるか。
「なあ、土とか骨ってゲーム内で何に使うんだ?」
「農業なかったっけ?」
「農業?」
「うん。町の南地区に土地貸しがあって、プレイヤーはそこで植物系のアイテムを育てて、採取するんだけど、それって大体植物の種子が無いと栽培すらできないんだ。だから一部のプレイヤー向け」
「ふーん。じゃあ、胆石や薬石は?」
「お兄ちゃん、調合センスで試さなかった? 丸薬って回復量が初心者ポーション以上、ポーション未満のアイテムになるんだよ」
そうなると、骨粉は、骨の下位互換か? そして丸薬ってのは、ポーションの上位互換かそれ系列のアイテムと考えるべきか。そうなると、上位素材の薬石は、上位の丸薬の素材だな。
「ふむふむ。参考になった。狩りしようと思ったけど、調合で試したいことができたな」
「お兄ちゃんがゲームにハマってくれるのは良いけど、やっぱり妹としてはその非効率さを嘆きたいよ」
「ゲームは楽しむもんってお前が言ったんだろ。そんなせかせか追われたくはない」
妹の苦言もなんのその。家事の合間に考えられる様々な可能性を検証した。
種子の入手方法。一つだけ試してない方法があったからだ。
OSOにログインした俺は、まず錬金画面を開く。錬金画面では、錬金のスキルには≪上位変換≫と≪下位変換≫がある。
物質変換も、変換する物質ごとに系列が存在するように感じる。
錬金とは名ばかりで、鉄は鉄にしかならない。ただ上位の『上質な』となるだけだ。つまり、名前詐欺って奴だ。
そして矢のように同一物質の強度を上げる上位変換。名前自体が変わらずに、強度や使用回数が変わる。
最後に、植物だって上位変換しても別種にはなりはしない可能性。
俺は徐に取り出した十個の薬草に錬金を施す――そして生まれたのは予想通り、上質な薬草。
つまりはそういう事だ。そしてこれが上位なら下位で考えられる存在。
それは植物の元――種子への変換だ。
上質な薬草を種子変換すればいいのか、それとも普通の薬草を変換すればいいのか。ここがミソだ。
試しに薬草から変換した。変換率は、二倍。錬金によって誕生したそれは、薬草の種子だった。
これは、栽培専用となっていたので、心なしか安心した。
もしもこれも調合素材なら、俺は膨大な数の調合をしなければならなくなるからだ。
そして上質な薬草も変換。結果は、二個の薬草。つまり、植物の素材にもグレードが存在する。
最下層が種子でそれから順々に上がっていくほど同系統では効果が高いという事だ。ただこれが所詮は薬草ってことだ。
≪レシピ≫に追加された上質な薬草を使ったポーションでも所詮は1.5倍程度。乾燥させたとしても元々が低い回復量のポーションでは微々たるもの。大量に集めて、合成ポーション化まで行ってやっとプレイヤーが扱えるレベルになるだろう。
「それにしたって、錬金で植物の種子作るってファンタジーだな。いや、金属の種類無視できない時点でもう現実重視って感じもあるけど」
ふうっ、後は、大量の胆石の使い道だが薬草と混ぜると初心者丸薬になることが判明。
同じ法則が適用されるなら、二つ合成で上位互換。また胆石の上位互換である薬石と上位互換である薬草若しくは上質な薬草でも丸薬の上位互換が生まれる。
この場合、前者は時間が掛かり、段階を経ているために効果が高く、後者は≪レシピ≫からの作成が可能。
「大体の法則が分かれば、アイテムの系統別で適応できるだろ。種子も手に入ったし、明日にでも畑買いに行こうか。その前に夜の狩りだ」
俺は弓矢を持って、自身にエンチャントを施して森の中を進む。アイテムを積極的に採取して、敵を探す。
昼間あれだけ動き回っていた森にどこから湧いてきたんだ。と言いたくなるような大量の敵たち。
暗い闇の中をばっさばっさと飛ぶコウモリや野犬だが、俺の鷹の目の暗視能力でくっきりと見える。
さらに遠視能力で遠距離からでも見え、敵が近付く前に仕留める。
コウモリや野犬は、脆い。本来の暗さでは、奇襲でダメージを蓄積してしまい倒されるプレイヤーも居るだろうが、俺には取るに足らない美味しい獲物だ。
光魔法ならライトとか灯して戦うのも良いだろうが、誰も好き好んでこんな所には来ないだろう。タク曰く、MOBのバランスが悪いってのは、こういう環境下の戦いって意味だろう。初心者には辛すぎるはずだ。
大体は、夜狩りするなら、昼夜問わず同じ明るさのダンジョンに籠るそうだ。
つまり、この狩り場は俺の独占。コウモリからは、毒血と皮膜。おいおい、毒ってこれで毒物作れって言われてるようなものだろ。と思ったら調薬スキルにありました。毒物って毒血と薬草で作るんだ。本来は、ポーション系の調合失敗では作らないってことなのだろう。
そして解毒ポーションもありました。毒血とポーションで作る。つまり、毒を持って毒を制すか? まあシステム的なものだし。
そして野犬は、犬の毛皮と牙と犬肉。用途が分からない。
これはきっとほかの生産系の人用のアイテムだよな。ほら、皮鎧とかに使いそうだし。牙は、武器の装飾に使いそうだし。
結構、次から次へと出てくるので数だけは集まる。そして、弱い割にドロップ率とかめっちゃ良い。俺は苦労なく倒せるが、他の人は苦労するんだろうな。
そして狩りの最中分かったのだが、付加時の光は、闇の中でも光る。これは、敵に自分の位置を知らせる事になりそうだ。MOBはAI操作だから良いが、プレイヤーなんかにはすぐに見つかりそうだな。
あれ? なんか闇夜に紛れる弓使いって暗殺者スタイル突き進んでいるような気がする。
まあ、俺は生産職だし、正面から戦っても勝てないなら不意打ち戦法でも良いかもしれない。
改稿・完了