信じる距離と見える距離
企画【五枚】第四回参加作品です。五枚というキーワードで他の参加者さんの作品も探せます。
「あー、やっぱり降ってるじゃない」
「絵美が今日は降らないって言ったんだろ」
「和仁、どうしよう? 止むまで待つ?」
「はは。俺は降ると思ってたから、ちゃんと傘を持ってるよ。お前の分もな」
「さすが! 和仁、ステキ」
「茶化すなよ。お、佐織ちゃん、今帰り?」
「あ、うん。降ってきちゃったね」
「傘ないの? これ使いなよ、俺は予備持ってるからさ」
「ちょっと、かずひ」
「仲、いいんだね。傘ありがとう。じゃ、先行くね」
「また明日な。絵美、何で黙ってんの?」
「べ、別に! ちょっとくっつき過ぎじゃないの?」
「離れたら濡れるだろうが。嫌ならこの傘、使っていいぞ。俺は走って帰るからさ」
「こんなの、ドキドキするじゃん……」
「え、何?」
「何でもないっ!」
「肩に手を回したくらいでドキドキすんの?」
「聞こえてたなら言わせるなっ」
「ね、佐織。最近、目が和仁君追ってるよ」
「嘘? そんなこと」
「佐織はわかりやすいよね。好きなの?」
「智香子、声が大きい」
「ごめんごめん。その反応は、そうなんだね」
「わかんない。でも、優しいよね」
「まぁね。でも、彼、誰とでも付き合うって噂だよ」
「絵美と付き合ってるんじゃないの?」
「綾乃と付き合ってたんだけど、先月別れたって。絵美はよくわかんないけど、最近よく一緒にいるよね」
「噂はどこから出てるの?」
「美奈と由里が中学の頃に付き合ってたんだって。美奈の話だと、他にも三人くらい付き合ってたコがいるって。告白したのは全部女子からで、全部OKだったけど、付き合ってから振ったのは全部和仁君なんだってさ」
「美奈と由里って全然タイプが違うよね? 告白されたから付き合ってたのかな」
「さぁ? 私はそういう男はダメだわ」
「和仁、また別れたのかよ?」
「ああ、まぁな」
「綾乃ちゃん、可愛かったじゃねえかよ。贅沢なヤツだよなぁ。今は?」
「絵美ってコと付き合ってる」
「二週間も経ってないぜ? お前さ、ほどほどにしとけよ」
「健太に言われるとは思わなかったよ」
「いや、俺は和仁の考え方を知ってるからいいよ。けどさ、噂は一人歩きしてるぜ」
「噂は噂だろ。俺には噂なんか関係ない」
「そういうトコがモテんのかなぁ。俺も……いや、俺にはできんわ」
「面食いだもんなぁ。健太の方が贅沢だろ」
「そりゃあ使えるモンは使わないとな。和仁みたいに一人に絞るってのはもったいねえよ」
「俺は相手に浮気されるのはゴメンだからな。何人も見えねえよ」
「真面目なもんだ。んじゃ、そろそろ行くわ。今日は由里ちゃんが待ってるんでね」
「お前こそ、ほどほどにしとけよな」
「佐織! 聞いた? 和仁君と絵美が別れたんだって」
「智香子、声が大きいよ。何でそんなこと知ってるの?」
「昨日、絵美から電話があったもん。やっぱ、誰でも良かったんだね。綾乃と別れて寂しかっただけかぁ」
「そうなのかな……。そんないい加減なヒトには見えないよ」
「だって、綾乃と別れてすぐに絵美と付き合って、もう別れてるんだよ? 遊んでるとしか思えないじゃん」
「遊んでるっていうのは健太君みたいなヒ」
「健太君がそんなことする訳ないでしょ! あんなに優しいのに」
「智香子、もしかして健太君……?」
「……ナイショだよ? 実は三ヶ月前から付き合ってるんだ。昨日、抱かれちゃった」
「嘘でしょ? ひどいよ、それ」
「あはは、隠しててゴメンね?」
「ううん、そうじゃなくて……やっぱり、いい」
「佐織も夢ばかり見てないで、健太君みたいな男を探しなよ。将来の為にアルバイト掛け持ちしてるから、なかなか会えないんだけど、そこまで考えてくれてると安心だよ」
「……うん。智香子もうまくいくといいね」
「あ、和仁君。来てくれてありがと」
「佐織ちゃんから呼び出されるなんて嬉しいね。どしたの?」
「ちょっと、聞きたいことがあって。健太君と仲いいよね」
「うん、まぁ。アイツと何かあったの?」
「ううん。私は何も。でも、彼と付き合ってるっていう友達が二人いるの」
「ああ……そういうことか」
「ねぇ、本当なのかな? 二股とかだったらやめ」
「佐織ちゃん」
「……て……」
「俺達は、恋愛に関しては互いのやり方に干渉しないことにしてるんだ。どんな風に見えても、俺や健太なりの考えがある。それが良いのか悪いのか決めるのは、周りじゃない」
「でも! ……うん。そう、だよね。私もそう思う」
「聞きたいことってのはそれだけかな?」
「まだ、ある……」
「うん。けど、健太のことは今より詳しく話せることはないよ?」
「……和仁君は、好きなヒトっていないの?」
「この状況でそういうことを聞くってのがどういうことか、わかってるよね? 俺は本気で答えていいのかな?」
「……うん」
「いないよ」
「あ、の、付き合ってるヒトとか……は」
「いないよ」
「あ、え……うん」
「佐織ちゃん、耳、真っ赤だよ」
「意地悪……」
「俺、さ。自分から告白とか、したことがないんだ。さっきも言ったけど、好きなコってのができたことがないんだよ。おかしいかな?」
「ううん、そんなこと、ない」
「俺の噂は知ってるよね?」
「うん。でも、噂と、私の思ってる和仁君は、違うよ」
「噂よりヒドかったりしてな。はは」
「そんなことないよ! あ、と……」
「今ならまだ間に合うよ」
「……何が?」
「俺は何も聞かなかった、てのがさ。今、話してみて、思ってたのと違ったろ?」
「和仁君、ずるいよ。私の気持ちだけ聞いて、そんなのずるい」
「ちゃんと聞いてないよ?」
「あ……」
「佐織ちゃん、頬も真っ赤」
「意地悪! 私、和仁君が好き! 和仁君は私のこと、どう思うの?」
「はは、可愛いな」
「そういうことじゃなくて! 付き合ったり、とか……」
「俺でいいの?」
「ねぇ、あまりイジメないで……。私、ずっと、一生懸命なんだよ。顔見るのも恥ずかしいくらい、心臓だって音が聞こえるくらい、あ!」
「髪を触られるのは嫌い?」
「……ううん。好きなヒトなら、いい」
「俺の心臓の音、聞こえる?」
「……うん」
「じゃ、このまま聞いてよ。俺さ。よく知らないまま、好きって言えないんだよ。佐織ちゃんのこともちゃんとわかってる訳じゃない。付き合ってみないとわかんないんだよ」
「そう、だったんだね。やっぱり、噂なんかあてにならないよ」
「だから、俺はみんな好きって言えば好きだし、恋愛感情は誰にも持ってない。そんなんでも、いいのかな?」
「私は……もっと、和仁君に知って欲しい」
「そっか。ありがとね」
「ねぇ、もう一回」
「ん、何?」
「ギュって」
「ん、俺の顔見て和仁って呼べたらね」
「……和仁、んっ」
「よろしく、佐織」
「あ、雨。傘、忘れちゃった」
「嘘つけ。持ってたの、見たぞ」
「忘れたの!」
「貸してやろうか?」
「もう! 一緒に帰ろ」
「……そうだな」
「ねえ、お願い聞いてくれる?」
「いきなりだな。内容次第」
「健太君の二股をやめさせて」
「……佐織のことが好きになったらね」
勉強しながら愉しむという企画ですので、どうぞ、ご指導よろしくお願いいたします。
第四回の制限事項は、【小説家になろうで選択できるジャンルより一つを選択し、選択しなかったジャンルの要素を用いずに書く】でした。
これを小説と呼んで良いものか悩みながら、ずっと書いてみたかったかたちで書き上げられました。四回の企画投稿を通して、良い経験ができました。読み手として、書き手として、関わって下さったすべての方々、ありがとうございました。