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これは、テーマ小説「命小説」の投稿作品です。……いろいろ短縮したんですが、一万文字ぎりぎりでおさめました。いろいろ疑問が残るでしょうが、短縮した故なのでご了承下さい。
生まれ変わる命の為に
作:宮座頭数騎


 明かりのついた夜の街は、とても綺麗だけど、その中には危険で恐い闇が、いつも息を潜めて待っている。
 それでも闇の中でも大切な友達を、そして約束を守るために、オイラは捜し続ける。
 何年も、何百年時が絶とうとしても、オイラはきっと……、きっと会えると信じてるから――。


「う……うぅん、眩しいっす!」
 朝の小鳥の囀りと、眩しい太陽の光でオイラは目を覚ました。
 オイラは住んでる家が無いので、公園の木の上をいつも寝所としている。
 起き上がったオイラは木の上から飛び降りそしてくるくると回ったあと着地した。
 それから体を伸ばして欠伸をしたオイラは、公園の時計に眼を向ける。
「もう7時っすか、さぁーてと! 今日も張り切って捜すっすかね、あの人を」
 そしてオイラは公園でジョギングをしてる人達と挨拶を交わしながら、公園を後にした。
「とりあえず、コンビニにでも行こうっすかね」
 そう言っていつものようにオイラは、近くのコンビニをのんびりと目指す。


「到着っす」
 そう言いながらコンビニに入ると、オイラを見て驚きの表情を浮かべた店員さんが、慌ててこっちに駆け寄る。
「れ、烈狐丸様! 耳と尻尾を隠しなさい! 何平然と出して歩いているんですが!」
 あ、自己紹介が遅れたね。
 オイラの名前は、玉藻 烈狐丸(たまも れっこまる)
 オイラは“天狐”と呼ばれる千年生きた妖狐がなる上級妖怪だ。そして見かけは中学生くらいの少年に見えるけど、これでも千十三歳。かなりの時を生きてる。
「大丈夫っすよ彩、皆コスプレと思って誰も何も言わないっすから」
 オイラが今話してるコンビニの店員の名前は式部 (しきぶ さい)
 オイラより年下だけど、オイラより人間社会に長くいる妖狐の中級クラス“白狐”の妖狐だ。
「いやいや! 例えそうだとしてですよ。一般人から変人に見られます! それに、語尾で『っす』とか言うのは止めて下さい。貴方様は妖狐の“善狐”で最上級妖狐。“天狐”なのですよ! 少しは威厳と言うものがないといけません! だから自覚して下さい! 人間に対してそんな喋り方をしてるあなたを見て私は――……って聞いてますか! 何、紐を外して週刊誌読んでるんですか!」
「え、なんか言ったっすか?」
「はぁ〜……」
 これ以上口にするのも疲れたといった様子で彩は呆れ果て、溜息を尽きながらガクッと肩を落とした。
 一応聞いてはいたが、ただ聞いてるのも暇だったから、週刊誌を読みながら聞いていただけなのに。そんな落ち込まなくても……。
 怒るのは解らなくもないけど、長話はオイラ嫌いなんだよねぇ。
「聞いてるっすよ。別に良いじゃないっすか。今の世の中は社交辞令ってやつっす。現に彩も人間界で人間に化けて、お客さんに敬語で話してるじゃないっすか」
 オイラが週刊誌を読みながらそう言うと、彩は訝しげに眉を顰めた。
「私の場合は仕方ないのですよ! 人間界で人間の文化を知るためにこうして人間界にいる訳で、仕方なく敬語で喋ってるんです。本来なら、こんな下等な生物なんてバラバラに引き裂くか、焼き殺すところ――!」
 話してる最中に彩は、横目で一瞥したオイラと眼を合わせると、一旦驚き、顔を青ざめ黙り込む。
「彩……、人間の事を悪く言うなっす。あんたは“善狐”なんすよ。いくら今の人間が嫌いでも、それ以上は怒るっす」
 週刊誌を閉じたオイラは、彩を鋭く睨み付けた。
 身体を小刻みに震わせたじろいだ彩は、小さい声で、すみません、と深々と頭を下げて謝った。
 ……だけど。彩が怒るのも解らない訳ではない。
 確かに今の時代、人間達は森林伐採、環境汚染、オゾン層の破壊、地球温暖化などと言った。地球を汚すだけの存在になりつつある。
 おかげで汚れた環境に住めなくなった小さな弱い命は、徐々に消えつつある。
 善狐の彩が人間に愛想をつくのはそこにある。
 それに彩だけではなく、他の妖怪達や人外の存在達と言った、人間達が知らない所で存在してる生き物達も、最近は人間を嫌い始めていた。
「……ですが、烈狐丸様。私は今の人間は快く思ってませんからね。これには全ての生き物達も同意のはずです」
 俯けてた顔を上げ、彩は人間に対する不満の気持ちをきっぱりと言い放った。
 それでも……。
 それでもオイラは信じたい。
 人間はまだ、捨てたものじゃないって。
 人間の中にも自分を犠牲にしてまで自然や、小さな命を守ろうとする思いやりがある者だっていた。
 現にオイラがこうして生きてるのも、自分の命を盾にしてまでオイラを守ってくれたあの人のおかげ。
 あの人のような人間は、きっとまだいる。
 今は間違った方向に進んでも、いつかはあの人のように優しい人がきっと、正しい方向に導いてくれると、オイラは信じたい。
 ――あの人と言えば、そうだ。
 オイラはあの人の生まれ変わりの情報を知るため彩に会いに来たんだ。
「――そういえば彩! あの人の生まれ変わりの居場所は突き止めたっすか?」
「えっ!」
 オイラが唐突に尋ねたので一瞬動揺した彩だが、間もなく怪訝そうに顔を顰て返事を返す。
「烈狐丸様……。何故あの人間にこだわるのですか? あの人間は数百年前の“あの戦い”で命を落としたのでしょう。生まれ変わりに会っても仕方ないですよ。それに、仮に烈狐丸様の言う通りまた選ばれたとしても、烈狐丸様が守る必要はないと思います。死んだ人間と約束などしても仕方ありま――……すみません」
 ……オイラは無意識的に怒りを露にしてしまったらしい。
 彩はそれを眼にした為、威圧され黙りこんでしまったのだった。
「いや、オイラこそすまないっす……」
 無意識にとはいえ、彩を黙らせるため威すような真似をしたことに罪悪感をうけ、オイラは頭を下げた。
 でも――。
 いくら彩でもあの人を侮辱するのだけは本当に止めてほしかった。
 オイラにとって大切な友達で命の恩人。
 その友達が最後にオイラと約束したこと――
『烈狐丸、俺は必ず生まれ変わる。その時は、なにもかも忘れてしまうかも知れない。でもきっと生まれ変った俺は、お前をすぐ受け入れるはずだ。だから、もし出会えたら、また友達になってくれ』
 ――そう、また友達になろうと言う約束。
 命尽きる前にあの人が言った最後の言葉。
 あの後オイラは決意した。
 もしあの人がまた、危険なあの戦いに参加させられたら、オイラは全力であの人を守ると心に誓った。
 だからオイラは一刻も早く、あの人の生まれ変わりの行方を捜し出すために、彩を始め、いろんな妖怪達に聞いて回っている。
「烈狐丸様、あの人間を捜すのは構いませんが、貴方様は我ら善狐の族長なのですよ。たまには、里に帰り皆に会いに行って下さい」
 そう彩はそのまま露骨に顔を顰て話す。
 族長か……、オイラはなる気は無いのに、いつの間にか勝手に族長になってたんだっけ。迷惑な話しだな。

 そう思いオイラは軽く溜息をついて頭を振った。
「了解っす。暇があれば会いに行って来るっす。ところで彩……」
「何でしょうか?」
「レジでお客さんが苛々しながら待ってるっすよ」
 オイラがそう言って指さす先には、中年のおじさんが不機嫌そうに鼻を鳴らし、彩を睨んでいた。
「えっ? ――あぁ! しまった!」
 彩は慌ててレジに向かい、中年のおじさんに叱られながらも何とかレジの仕事を済ませた。
「すみませんでした!」
 申し訳なさそうに頭を下げる彩。う〜む、彩の方がおじさんより年上なのに、
「全く、最近の若い者は!」
 などと愚痴りながらコンビニを出ていくおじさんを見てると、何故か妙な光景で、また滑稽に見えた。


「それじゃあ、オイラ行くっすね。フライドチキンありがとうっす!」
 フライドチキンの袋を片手に下げ、出口に向かうオイラ見て彩は、
「え? 烈狐丸様、フライドチキンなんて買いましたっけ?」
 そんな不思議そうに首を傾げるそんな彩に、
「もちろんっす、彩のおごりで」
 オイラは悪戯な笑みを浮かべ答えた。
「エェッ! 烈狐丸様ぁ!」
 慌てた彩は必死にオイラに待つよう叫ぶ。
 しかしオイラはわざと彩の呼び止める声を無視して、満面の笑みを浮かべてコンビニを後にした。


 ――それから、オイラは街のいろんな所をうろつき廻っていた。
 そして調度昼になる頃、スーパーの入口前を通り掛かったオイラの前に、小さな人影が突然飛び出して来た。
「うわっ!」
 ぶつかったオイラは大きく尻餅をついた。
 そして尻を摩りながら、
「痛たた。何するっすか! ちゃんと前を見て歩くっすよ!」
 オイラはそう注意しながら、正面の相手に眼を向けたのだが――、
「いってぇ〜」
 オイラとぶつかったのは、小学生くらいの男の子だった。
 男の子は何故か片手にキャットフードを抱えるように持っている。
 そしてオイラと同じように尻餅をついていて、痛そうに尻を摩っていた。
「君、大丈夫っすか?」
 オイラは立ち上がり、その男の子に手を差し延べた。
 すると男の子は、オイラの手を叩き、急いで自分で立ち上がり。その場から走り去ってしまった。
「――な、何だったんすかね……あの子?」
 オイラがその男の子が角を曲がり見えなくなるまでポカンと眺めていると、
「君っ!」
 店から店員さんが慌てて出て来て、
「君、さっき小学生らしい男の子を見なかったか?」
 肩を上下に動かしながら荒い息遣いでオイラに尋ねた。
「見たっすけど、何かあったんすか?」
 オイラが尋ね返すと、店員さんは悔しいそうに頷き、
「万引きだよ! その男の子が店の商品を盗んだんだ。君、何処に行ったかわかるかい?」
 そう聞いてきたので、
「あっちの方に走って行って、あの角を曲がって行ったっすよ」
 オイラは指さしながら店員さんに男の子の逃げた道を教えた。
「ありがとう!」
 店員さんは頭を軽く下げて、急ぎ男の子を追い掛ける為に駆け出す。
 今度は走り去る店員さんの背中を、オイラは見えなくなるまでまた呆然と眺めていた。
 ……にしても、万引きは何故か無くならない。
 もう何百年続いてる事やら、
 何百年経っても人間には盗み癖があるみたいだ。
 まぁ、オイラも人の事を言えないけどね。
 ――そして、オイラはその場を後にした。


 3時を過ぎる頃、オイラは朝いた公園に戻ってきた。
 今日もいろんな場所を訪ねまわったが、収穫は無かった。う〜ん、あの人が見つかる日は一体いつになるやら。
 そう考えながら公園を散歩してると、
「ん?」
 花壇の前のベンチに、昼頃スーパーで万引きをしていた男の子が座ってるのをオイラは眼にした。
 男の子はオイラに気付いていない様子で、ずっとキャットフードを抱えていながら下を俯いてる。
「………」
 しばらく沈黙していた男の子は、腰掛けてたベンチから立ち、歩き出し、そして、
「あ!」
 オイラと目を合わせると、男の子は一目散に逃げ出した。
「あ、ちょっと待つっす!」
 オイラは慌てて追い掛ける。
 男の子との距離は案外離れていたけど、オイラは妖狐であの子は普通の人間の子供。人間と妖狐では走る速さは圧倒的に妖狐が速い。
 オイラは公園を出ようとした男の子にあっさりと追い付き、正面に回り込み立ち塞がる。
「――っ!」
 ピタリと止まった男の子は、オイラの足の速さに度肝を抜いた様子だった。
「君、駄目っすよ! 万引きなんかしちゃあ」
 オイラは気にせず手を伸ばし、男の子が抱えてるキャットフードをつかみ取ろうとしたが、次の瞬間――。
「ギャアァァ!」
 出した右手を噛み付かれた。
 次に男の子は、噛み付かれた手を押さえてうずくまるオイラの顔面に、助走をつけた跳び蹴りを食らわせた。
「グハァッ!」
 諸に食らったオイラは転がり、仰向けに倒れたところで男の子は、とどめの一撃を入れた。
「――ッ!」
 急所だ。急所を思いっきり蹴られた。
「――ま、……待つ、……すぅ……!」
 急所を押さえながら悶え苦しむ、オイラの呼び止める声を無視して、男の子は逃げ去った。


 ――時間が経ち、急所の痛みが退いたオイラは、直ぐさま男の子を捜し始めた。
 オイラは男の子に殴られた時に付いた、男の子の匂いを頼りに辿り、嗅ぎ付けることにした。
 ……それにしても、男の大切な部分を躊躇なく蹴るなんて、最近の小学生は恐ろしい。
  ――辿ること数十分後。
 オイラは公園から数キロ離れた大きな橋に辿りつき、そしてすぐに橋の下にいる男の子を見つけた。
 男の子は警戒してる割には橋から見ているオイラに気付いてなく、それでも辺りを見渡す。
 誰もいないと確信したのか、男の子は橋の下の奥へと歩き出す。オイラも橋の下へ向かい、近くの草むらで身を隠し様子を窺う。
「ごめんな、遅くなって」
 男の子はそう言ってしゃがみ込み、何かに手を添えるそぶりを見せる。
「ワンッ!」
 犬の鳴き声がするが、男の子の背中で隠れていて見えないな。
「ほら、食べ物」
 男の子はそう言うとキャットフードの袋を開けて、取り出した餌を犬にあげる。
 にしても、キャットフードを犬にあげるなんてなぁ。
「普通、犬ならドッグフードか、このフライドチキンとかじゃないっすか?」
 隠れていたオイラが出てきて呆れた声で近付くと、男の子はびくついてオイラの方に振り返る。
 男の子はオイラを見て何故、此処が分かったんだと言いたげに驚く。
「匂いを辿って此処に来たんすが――、成る程、君は犬に餌をあげる為に万引きしたんすね?」
 男の子は身構え、
「何なんだよお前! さっきといい……、キャットフードは開けたから返さないぞ!」
 オイラが近付くと後退りながら叫んだ。
 開けたから返さないって、なんとまぁ無茶苦茶な。
「君がそう言うのは別に構わないっすが、警察に捕まっても文句ないんすよね?」
「け、警察……」
 警察と耳にした途端に男の子は動揺を見せる。まあ、当然の反応だ。
「まぁ、謝れば店員さんも許してくれるかもしれないっす。オイラも一緒に謝りに行ったあげるから、それは返そうっすよ。ねっ」
 オイラは優しく声をかけた。それでも男の子は困惑の表情を見せて躊躇ってる。
「でも、食べ物がないと犬が……」
「食べ物なら、オイラのフライドチキンをあげるっすよ」
 コンビニで買ったまま食べてなかったフライドチキンを、オイラは男の子に渡した。
「いいの?」
 尋ねた男の子にオイラは笑顔で頷いた。
「ありがとう兄ちゃん。これ犬にあげるね、ちょっと待ってて」
「どんな犬かオイラも見てみたいっすね、見せてっす!」
 そう言ってオイラが近付いて見ようとすると、
「駄目! 絶対見ちゃ駄目!」
 男の子は必死にオイラに見せない様に犬を覆い隠した。
「えぇ、何でっすか?」
 オイラが尋ねると、男の子は顔を青くして黙り込む。何か見られてはマズイのだろうか。
 オイラが不可解に思うと、覆い隠された犬が男の子の脇から顔を出した。
 しかし、
「っ! これは!」
 オイラは犬の顔を見て驚愕した。
 男の子が見せたがらない理由が一目見てすぐに分かった。
 犬は犬でも、それは人面犬だったのだ。
「人面犬とは……、オイラ久々に見たっす」
 オイラがまじまじと見詰めながらそう言うと、
「こ、怖くないの? 気味が悪いとか思わないの!」
 キョトンと眼を丸くして男の子は尋ねた。
 軽く頷いたオイラは、
「そりゃ、オイラは妖怪だし、こういうのはよく見るっすからねぇ」
 軽い口調で平然と言葉を返す。それを聞いた男の子は、唖然とオイラを見据える。
「じゃあ、その尻尾と耳は……本物?」
「今更気付いたんすか君?」
 指さしながら話す男の子に、オイラは苦笑いする。
「そうだったんだ……。兄ちゃんは、狐の妖怪なの?」
「そうっすよ。オイラは狐の妖怪、妖狐の中でも最上級クラス天狐の、玉藻 烈狐丸っす!」
 誇らしげにオイラは名乗った。でも、なんかちょっと恥ずかしい名乗り方をしてしまったなと内心思う。
「そういえば、君の名前は?」
 その恥ずかしさを紛らわす為に、オイラは男の子に尋ねる。
「俺、金城 猛(かねしろ たける」
「金城 猛っすか、親は良い名前をくれたんすね」
 オイラがそう言うと、猛は唇を引き結び、不快そうに顔を顰た。
「あ、あれ? 猛君、オイラ悪い事言った?」

 なんか暗いムードになってきた。オイラこういう雰囲気は苦手なんだよなぁ。
「……親は嫌いだ、子供の気持ち何て全く分かってないから」
 親と何かあったのだろうか、凄い不機嫌そうに鼻を鳴らすと、猛は話しを続ける。
「毎日勉強しろとか、あーしろこーしろとか煩いんだよ」
「ん? でも、それは猛君が人間社会でしっかりと出来るようにするために厳しくしてるのでは?」
 オイラがそう言うと、それにムカついたのか猛は、
「でも! 俺はそのせいで遊びたくても皆より長く遊べないし、テレビとか見れないしゲームも余り出来ないから、いつも皆の話題に入れなくて、次第には虐められるし……、母さんと父さんに、虐めにあってるって言っても聞いてくれないんだよ」
 猛は次々に早口でオイラに不満を訴えた。
「虐め? 虐めにあってるのに、親は聞いてくれないんすか?」
 猛は深く頷いた。
 う〜ん、最近は親も子に冷たくなってるのか、なんか嫌だなぁ。だんだん人間は情が無くなってる気がして……。
 オイラがそう思って人面犬に眼を向ける猛を見たら、猛の表情は不満から一変して穏やかになった。
「でも、もう良いんだ。俺、コイツと友達になってから嫌なことや辛いことが、前より辛く無くなってきたから」
 そう言うと猛は、フライドチキンを食べる人面犬の頭を撫でた。
 成る程。猛にとっては人面犬は心を和ませる特別な存在らしい。
 人面犬は、元は死んだ悪い人間が生まれ変わった犬だ。戒めの為なのか人間の時の記憶を持っている。その分、犬としての生を辛く感じるだろう。
 そして特に人間から化け物扱いされ周りから迫害を受けるから、人間対し恐怖心も持っているはず。だがそんな人面犬に猛は優しく接してくれたから、人間の猛を恐がらず懐いたのだろうきっと。

 そう思っていたら、
「でも、コイツ最近元気ないんだ」
 そういって猛が人面犬を心配そうに見据える。
「んん、そうっすか?」
 オイラも顔色を伺う。
 ……う〜ん、ぱっと見ても何も無表情で変化は見られないのだが……。
 そう考え首を傾げると、
「えぇ〜、妖怪の癖に妖怪の事も解らないのかよ!」
 呆れ顔で猛に馬鹿にされてしまった。
 少し頭にきたが、大人げ無いから怒らずに、
「オイラより、猛君の方が付き合い長いんでしょ? だったら今日会ったオイラは解らなくて、付き合い長い猛君の方は解って当然なんじゃないっすか?」
 笑顔でそう理屈をつけた。
「ん、そうか、そりゃそうだね」
 納得した猛は返事を返した後、軽く笑った。


 ――それから時間が経ち、
「さてと、じゃあ行くっすか!」
 猛を見据えながらオイラは立ち上がり手を差し延べた。
「え、行くって何処に?」
「決まってるじゃないっすか、スーパーにっすよ」
 不可解そうに尋ねる猛にオイラが当然そうに答えると、猛は嫌そうな表情で、
「やっぱり行かなきゃ駄目?」
 行きたくないと目で訴えた。だが、猛が悪いことをした事にかわりない。
「駄目っす」
「えぇ〜」
 きっぱり言い張るオイラに猛は不満の表情を見せる。
 オイラは親や教師ではないけど、やっぱりこのままにさせとくのは良くない。
 こういう小さい事から悪事に走ってしまう人間もいるかだ。そう思うとオイラは尚更放ってはおけない。
「オイラもついて言って一緒に謝るっすから、行こうっすよ」
 オイラは念を押すように宥めた。
「わかったよ……、いくよ」
 猛は観念して一緒に行く決意をしてくれた。
 しばらくして、オイラ達はスーパーの店員に訳を話し(もちろん、人面犬については話してない)それからかなり叱られたが、何とか警察沙汰にするのは許してもらった。
「いやあ、話せば解るものっすね」
「そうだね、ありがとう烈狐丸兄ちゃんと、彩兄ちゃん」
「何で私まで……」
 いったい何回目になるだろうか、ガクッと俯き歎く彩。
「まぁ、良いじゃないっすか、大人な彩も一緒なら店員さんとの話も上手くつけやすいと思ったんすよ」
「私はバイトがまだ残ってるんですよ! もう、面倒事は持ち込まないで下さいね」
「わかったっす」

 オイラはにっこり笑ってみせた。
 やはり不機嫌そうに顔を顰た彩は、渋々とバイト先のコンビニに歩き出した。
「彩、本当にありがとうっす!」
 本当の感謝の気持ちを込めて、オイラは声を掛けて手を振った。すると彩は後ろを振り向かず手を振って返した。
 不機嫌そうだったが、実は笑ってるのではと、彩の背中を見てオイラは思った。
「烈狐丸兄ちゃん!」
「ん、何すか?」
 後ろから猛に声を掛けられて、オイラは振り向く。猛はもじもじと何かを言おうとしていたが、意を決して話し出す。
「今日は、本当にありがとう。あと、公園ではごめんね」
 そう言うと猛は頭を下げた。ちょっと生意気な子供かと思っていたけど、意外に素直なんだなとオイラは思った。
「ああ、大丈夫。気にしてないっすよ」
 オイラは満面の笑みで返した。それを見た猛も、安心の含みある笑みを浮かべた。
「……あ、もう夕方だ。俺急いで帰らないと、じゃあね烈狐丸兄ちゃん!」
 そう言って猛は急いで走り出し、信号を渡る。
 その時の信号は青だった。
 だが――
「猛君危ないっす!」
「えっ!」
 信号が青だったのにも関わらず、車が信号を無視して飛び出してきた。
 オイラは叫ぶと同時に駆け出していた。
 けれども猛との距離があり過ぎて、間に合わない。
 猛が轢かれる――
 そう感じた刹那。
 向かいの歩道から人面犬が飛び出して、猛に体当たりを食らわせた。
 人面犬の体当たりにより、猛は車に当たるぎりぎりのところで、後ろに突き飛ばされて助かった。
 しかし……。
 猛を助けた人面犬は――


 太陽が沈み始める頃、橋の下でオイラと猛は、変わり果てた人面犬の遺体を埋葬した。
 オイラは二人で作った人面犬のお墓の前に座り、手を当て人面犬の冥福を祈った。
「ぅ……ふぐっ……」
 オイラの後ろで猛は泣いていた。
 ぼろぼろと、ずっと涙を流していて、それを手で何度も拭う。
 オイラもそんな猛を見てたら、いつのまにか涙を流していた。
 小さな命が消える瞬間を、オイラはよく見る。
 確かに悲しい気持ちにはなるが、今日は何故か凄く悲しかった。
 もしかしたら今の猛が、昔友達を失った時に泣いたオイラと、似てるからなのかもしれない。


 それからオイラは猛を家まで送った。
 家の前に来ても猛は泣き止まなかった。
「猛……」
「烈狐丸兄ちゃん……、俺のせいで、俺のせいであいつが……」

 猛は歎いた、声をひくつかせながら……。
 猛は自分のせいで、人面犬は死んだと言うが……それは、
「……それは違うっすよ」
「……えっ?」
「……人面犬が命を犠牲にしてまで猛を守ったのは、友達の猛に生きてほしかったからっすよ。じゃなきゃ、猛を助けるはずないじゃないっすか!」
 力強く言い放つオイラに、猛は潤んだ瞳を開いたまま茫然とする。それでもオイラは話を続けた。
「猛のせいで死んだんじゃなく、猛の為に命を盾にして守ったんすよ!」
「俺の為に……」
「……猛。オイラも昔、猛のように友達を失った事があるっす。けど、友達は死ぬ前に、生まれ変わったらまた友達になってと言っていたっす。……オイラは今もその友達を、生まれ変わりを捜してるっす」
 猛はこの話を聞いて、オイラが何を伝えたいのかを呆然と伺う。
 そしてオイラは言う。
「だから猛も捜すんすよ! オイラと同じように、猛が人面犬の生まれ変わりを。そして、出会えたらまた友達になってあげるんす!」
「また出会う……また友達に?」
 オイラは深く頷く。それを見た猛の悲しげな表情は、長い沈黙の後で、まるで希望を掴んだような喜びと決意の顔に変わる。
「そうか……、そうなんだ! 烈狐丸兄ちゃん! 俺、捜すよ! あいつの生まれ変わり。必ず見つけ出して言うんだ! “ありがとう”って」
 元気になった猛を見て、オイラは何度も軽く頷いた。
「じゃあ猛、オイラと競争しようっす。どっちが早く友達に出会えるか」
「うん! 俺、負けないよ、きっと早く見つけてやる。どんなに辛くても絶対に!」
 そしてオイラと猛は、指切りを交わした。
 指切りを終えた猛は微笑んでいた。


 泣き止んでくれてよかった。更にそれだけじゃなく猛は強い気持ちと心を得たようだ。
 きっと今の猛なら、見つけ出せる。生まれ変わった友達を。
 だからオイラもきっと捜し出す。大切な友達を、だから出会えたらオイラは最初に言う。
 “友達になろう”って。
 きっと、友達になってくれるよね。

 炎――


ここまでお読みになられた方、誠にありがとうございます。この話しなのですが、実はある連載作品の登場人物の一人、烈狐丸を主人公にした物語です。烈狐丸が捜してるあの人“炎”とは、その連載作品の主人公の事です。近い内に投稿されますので、見つけたら是非読んで下さい。では、改めてありがとうございました。













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