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ジャンル「ショートショート」 字数:900~1000
序章 『短編集』
『専門家のご意見』(ss)
 私は地方の大学で文学のゼミ教授を務めている。
 様々な作品を読み、そこに隠されたメッセージや、情景の読み解きを語らうのが私のゼミの特質だ。
 文学は実に奥深い。一行の描写さえ、読解ひとつで様々な顔を見せる。生涯を費やして突き詰めるに値する学問であると自負している。
 今日はそんなゼミの学生がメガホンを執った映画の上映会にやってきた。映画研究サークルという素人に毛が生えた集団の撮った恋愛映画とのことだが、なかなか評判は良いと聞く。現にスクリーンの張られた大教室には女子学生を中心に、それなりの数の客が席を埋めていた。
 前評判に誤りはないらしい。が、私は厳しい目で鑑賞させてもらうぞ?
 明かりが落ち、上映が始まる。私は手帳にペン先を当て、ときおりメモを書き加えながらの鑑賞を行った。
 ――その感想を結論から言わせてもらおう。
 なかなかどうして、良い出来だったではないか。
 特にヤマ場での“雨”の描写が素晴らしかった。青年二人がヒロインを巡って殴り合うシーン。二人が上着を脱ぎ捨て拳を構えたところで、ぽつぽつと水滴が地を打ち、次第にそれは大雨へと変わる……。順風満帆だった若者たちの関係に暗雲の立ち込めるさまを見事に描いていた。
 さすがは私の教え子だ。上映後のアンケート用紙にも高評価を綴るとしよう。
“人物の心理を天候という視覚効果に結びつけた表現は見事。深い含蓄を堪能させてもらった”
 久々に良い作品と出会えたものだ。私は素晴らしい描写の余韻をかみ締めつつ、教室を後にした。


 上映が終わり、静けさに満ちた教室がざわめきを取り戻す。映画を鑑賞し終えた女子学生は、評判通りの映画に満足げな表情を浮かべた。
「ね、ね! 映画、すごいよかったね!」
「うん。評判どおりだったよ。喧嘩のところ最高だった!」
「あ、やっぱそこ!? 雨のとこでしょ?」
「うんうん。だってさ、あのシーン」
 女子学生は顔を見合わせて口元を綻ばせた。

『センパイのシャツ、雨でスッケスケだったもんね!』

「――ほんっと雨を降らせた人、わかってる! って感じ。筋肉のラインが丸見えだったもん!」
「私、シャツが張り付いたセンパイの背中にほくろ見つけちゃった♪」
「嘘!? もっかい見なきゃ♪」

 さきほど綴られた文学的なご高説を尻目に、恋愛映画の専門家プロフェッショナルたちはそれぞれの意見を交し合っていた。


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