ジャンル「ショートショート」 字数1000~1100
「あなたが落としたのは金の斧ですか。それともこの銀の斧ですか」
ある国のある湖にて。きこりが愛用の鉄斧を湖に落としてしまったところ、水から女神様が現れてこのように聞いた。
驚きに目をしばたたかせるきこり。しかし正直者の彼は動揺しながらも、「私の落としたのは鉄の斧です」と偽りなく答えた。
「あなたはとても正直者ですね。素敵。
ご褒美にこの金の斧と銀の斧もあげましょう」
女神様はきこりに二本の斧を渡し、湖の中に戻っていった。
それから数日後。二本の斧を受け取ってお金持ちになったきこりは“I国”から来た友人にこの間の出来事を話した。
「斧を湖に落としたら、水からすごく綺麗な女神様が出てきてさ。この金の斧と銀の斧をくれたんだよ」
「そりゃあ聞き過ごせないね」
話を聞いたI国の男性はいてもたってもいられなくなり、鉄の斧を持って噂の湖に向かった。
そうしておもむろに斧を湖に落とす。すると水から美しい女神様が出てきた。
「あなたが落としたのは金の斧ですか。銀の斧ですか」
「いや。僕が落としたのは鉄の斧さ」
I国の男性が正直に答える。すると女神様はテンプレどおり「あなたは正直者ですね」といってにっこり微笑んだ。
「ご褒美に金の斧と銀の斧を差し上げましょう」
しかしI国の男性は首を横に振る。そうして女神の手を取り、彼女の瞳を見つめた。
「そんなものより、君が欲しい」
――。
「え……えっ?」
突然のプロポーズに身を固くする女神様。しかし男性のほうはいたって大真面目だ。
「“すごく綺麗な”と聞いていたから期待してきたけど、想像以上だよ。本当に君は美しい。
正直者へのご褒美なら、君からのキッスが欲しいな」
「そ……そんな」
呟きながら顔を赤らめて身をよじらせる女神様。
「冗談は……やめてください」
しかし男性は女神様の耳元で「鉄の斧」と一言、囁いた。
「僕が正直者なのは、君も知っているだろう?」
必殺のセリフと共に男性の色目が炸裂する。女神様はもう茹で蛸も顔負けなくらい頬を染めて、
「お、お友達からお願いしますっ!」
そう残して水の中へ戻っていった。水際に二本の斧を残して。
男性は斧を拾い上げて、軽いため息をつく。
「やれやれ。お堅い女神様だ。けど口説き甲斐があるよ。
この斧はまた返しに来よう」
君に逢うために……ね。ウインクをして、男性は去っていった。
お金は口実。あるいはただの手段でしょ?
あなたが本当に欲しいのは、お金をきっかけにして得られるほかの何かでしょ?
ショートショート『正直者と女神』をお読みくださりありがとうございます! 金によくばりな登場人物を愛に貪欲な人物に差し替えてみました。言い回しは完全に私の妄想です(笑
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