ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ジャンル「コメディ」 字数3100~3200
序章 『短編集』
『完成されたすれ違い』(コメディ)
「なあ、肝試し行こう。肝試し」
 夏休みの終了を目前に控えた8月の出校日。俺はクラスの友人からそんな誘いを受けた。
「こないだ、兄貴がさ。県内で有名な心霊スポットを回ってきたらしいんだ。
 それで何箇所か面白そうな場所があったっていうから、僕も一回行ってみたいな、って」
 そんなことを言いつつ友人は地図を広げた。彼が言うには、地元で噂となっている心霊スポットが近場にもいくつかあるらしい。
 廃墟、潰れたラブホ、旧国道トンネル。なかなかバリエーションに富んでいた。高校生の俺たちが向かえる範囲にもいくつか点在している。
「特にこのラブホなんて、テレビ局の取材も入ったことあるっていうぜ? これは地元民として押さえておかないと」
「うーん」
 正直、気は進まなかった。怖いものが苦手というわけじゃないが別に好きでもない。宿題と課題テストの対策時間を削ってまで行ってみたいとは思わなかったのだ。
「でも肝試しって、意外と危ない目に会うかもって聞くな。ヤンキーとかホームレスとかに鉢会ったりして」
「そういうのも含めてスリルがあるんじゃないか。なあ行こうぜ! 俺とラブホに!」
「誤解を招く言い方をするな」
 やや力を込めたチョップを友人の額に食らわせる。不必要にでかい声を出しやがった友人は患部を押さえながらも、しつこく俺を肝試しに誘った。
 俺は相変わらず乗り気にはならなかったが、それでもあまりに彼が熱心に俺を誘うので、最終的には誘いを受け肝試しに付き合うことになってしまった。
「せめて行くのはトンネルにしとこう。ホテルや廃墟だと、不法侵入とかにもひっかかる」
 友人にも少しは悪気というものが芽生えたのだろうか。こちらの提案はあっさりと受け入れられた。
 そして約束を取り付け、彼は席に戻ってゆく。貴重な昼休みを無駄に使ったかな。そんなことを思いながら、俺はパンの包装紙をゴミ箱に投げ込んだ。


 それから1、2分経った頃か。ぼんやりと文庫本を読み進める俺と尋ねてくる者がいた。
「ね、ねえ武藤くん」
「ああ。みゆきさん」
 声に反応して本をたたむ。訪問者は同じクラスに所属する古賀みゆきだった。
「今日、帰りは……」
「うん。普通に帰るよ。みゆきさんは?」
「私も予定はないです」
「じゃあいつも通りホームルーム後に駐輪場でね」
 彼女と帰宅の約束を交わす。一応、みゆきさんとの関係は恋人同士、だ。それでちょくちょく俺たちは下校の足並みを揃える打ち合わせをしておくことがあった。
 しかしみゆきさんは約束が終わってもそこを動こうとしない。まだ何か用事があるのだろうか。俺が何も言わずに本を机にしまおうとすると、みゆきさんは少し上ずった声で話を始めた。
「あ、あの武藤くん。さっきちょっと聞いちゃったんだけど、木場くんと今度……その……」
 声調に謎の緊張が感じられる。それに合わせてか、俺も無意味に姿勢を正した。
「その……何?」
「その……えと……。で、出かけるって話して……ました?」
 彼女の言葉を脳内で噛み砕き理解する。ああ、さっきの肝試しの話だろう。俺は頷いて肯定する。
「うん。あいつがどうしてもって言うから」
「え……?」
 返答を受けると、何故かみゆきさんの頬は赤く高潮しながら、表情だけ青ざめたような感じに染まった。
「でも、そんな……。そういうのって普通、その……恋人同士でするものじゃないんですか」
 ――確かに肝試しはカップルとか男女のグループで行くほうが盛り上がるだろうな。みゆきさんの言う通りだ。
 でも女の子は夜遅くに出歩きにくいだろうし、男だけで行くケースもさほど希少ではないと思う。
「別に男たちだけでもいい気はするけど」
「お、男の子たちだけって……! そ、そんなの変ですっ!」
 やたら男だけでの肝試しに苦言を呈するみゆきさん。反論をしようと思えばできないこともない。しかしあまりに力を入れて熱弁をふるうものだから譲歩の姿勢を見せておくことにする。
 ――俺はけっこう押しに弱いタイプなのかもしれない。
「じゃ、じゃあみゆきさんも参加する?」
「なっ!!」
 瞬間、みゆきさんの顔色にやや赤が多目にブレンドされた。逆に表情は氷みたいに固まる。
「ひどいです! 人をかっ、数合わせみたいにっ!
 不潔です! 不誠実です! わ、彼女わたしというものがありながらっ!」
 え? なんで俺、いま怒られてるの?
 意味不明な感情の展開に戸惑い焦りながらも、なんとかフォローの言葉を捜す。
 ――なんだろう。みゆきさんは自分を肝試しに誘って欲しかったのだろうか。
「でも確かみゆきさんって、こういうの(怖いもの系)苦手だったんじゃ?」
「う……。それは、えと、嫌というわけじゃないんですけど。……なんていうか私たちまだ高校生だし、もう少し大人になってからのが嬉しいっていいますか……」
 肝試しってあまりいい大人がやるようなイベントでもない気がするが。
「まあ夏の風物詩みたいな感じで、やるならいい時期かなと気楽に考えてるんだけど」
 俺が言うと、みゆきさんは更に顔を紅くして俯いた。理由はわからない。だがさすがに心配になって、彼女の表情を覗きこむ。
 すると彼女は
 わ、私のせい? 私がこういうの奥手だから武藤くん欲求不満になって男の子と……? ……だめだめっ! そんなのっ! ……でもは、恥ずかしいし……。でもひと夏の思い出は欲し……くないわけじゃないけどでも……っ
 やらなんやらいろいろ呟いている。
 それを受けた俺の心境を最も端的に表すとしたら
 ?
 の一文字だ。いいかげんどう対応していいか困りかけてくる。
 とにかく俺はみゆきさんを二人きりの肝試しに誘ってやればいいのだろうか。……その読みに賭けて、みゆきさんにデートを申し込んでみた。
 すると彼女は「……わかりました。私も覚悟を決めますっ」と俺の手を取った。何故か悲壮な決意が滲み出ている。
「私でいいんですね! 武藤くん!」
 え、だから俺は別に誰でも……。そう言おうとした。だがそこで口をつぐむ。いまやどんな発言が地雷になるかわかったものではない。余計なことを言わないほうが吉と直感で思ったからだ。
「じゃあ場所を決めなきゃね」
 こく、と小さく頷くみゆきさん。急に口を挟んでこなくなった。
 場所に希望はあるかと聞くと、「お任せします。ふつつかものですがよろしくお願いします」という格式ばった口調で返された。
 混乱しかける思考を冷まさせるべく、軽く深呼吸。そして自分も少し落ち着きを取り戻したことを自覚し、改めて友人(木場くん)の挙げていた候補地を思い浮かべてみる。
 確か、廃墟。潰れたラブホ。トンネル。……の3つだったかな。
「家(廃墟)とかラブホだと人に会うかもしれないから困るよね」
「……それはそうですけど、それ以外に候補があるんですか?」
「うん、あるよ。夏も終わりだし野外で(肝試し)は少し寒いかもしれないけど、木場はトンネルでするのがオススメって言ってた」

 そう。まさに瞬間だった。
 “トンネルでする”
 俺がその言葉を吐いた瞬間だ。


「初めから野外で(プレイ)なんて最低ですっ!」


 という叫びと共に閃光のようなビンタを頬に食らわし、みゆきさんは俺の元から走り去っていった。
 頬の痛みが広がっていくのを感じつつ呆然と彼女の背を見送る。そんな俺に、傍でそのシーンを見ていたのであろう友人(木場)は、そっと肩に手を置いて囁いた。
「……すまん、悪気はあったんだ。けどまさかここまで“嵌まる”とは……。
 さすがにやりすぎたかなって反省してる。後で一緒に謝りに行くよ。
 あとこのチェリオは僕の奢りだ。取っておいてくれ」
 ひんやりと冷えたチェリオが友人から手渡される。
 自分で言うのもどうかと思うが、まるで生気の感じられない挙動で俺はペットボトルを口に運んだ。
 人工的な赤色をした炭酸が口を満たす。
 今日のチェリオは、いつもよりちょっとしょっぱい味がした。
お笑い芸人「アンジャッシュ」さんの芸風を参考にお話を作ってみました。大好き……アンジャッシュさん


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。