序章 『短編集』
『循環 ―アナザーエンド―』(ホラー)
わたしはいま、夫を殺そうとしている。そう、この薬でだ。
毒薬じゃ、ないのよ? ただちょっと人を衰弱させる薬。血液の機能を低下させるらしいわ。
この薬を少しずつ食事に混ぜる。するとなんの痕跡も残さず、人を衰弱死させられるらしいの。
とあるルートから手に入れた薬を、わたしは毎日欠かさず夫の食事に混ぜていた……そんなある日のことだ。
なんとわたしは交通事故にあって、かなりの重傷を負ってしまった。夫を殺そうとしている自分が先に死にかけるなんてなんたる皮肉だろう。
しかしいまの医療技術ならそう簡単に死んだりすることもないはず。薄れゆく意識の中でそう楽観していた。だが予想外のことがここで起こる。
「血液が足りません。どなたか血液型がB型の方はいませんか!」
「私はB型です! 妻と同じで!」
薬を飲ませている夫が献血に名乗りを上げたのだ。
「私の血ならどれだけ使っていただいてもかまいません。
妻を……っ! 妻を助けてください!」
ちょ、ちょっと待って! あなたの血液は……っ!
夫はまだ若く体力もある。だがわたしは重傷により体力を失っているのだ。そんな状態で弱った血液を輸血されたらどうなるか。
わたしは必死で拒否をしようとした。だが痛みで声にならない。
夫から抜かれた新鮮な血液がチューブをつたって身体に入ってくる。ゆっくり、ゆっくりと。まるで血管の中を虫が這うかのような寒気が全身を走る。
徐々に霞んでゆく視界の先――死の際で見た映像は、口元を吊り上げて自分を見下ろす夫の不気味な微笑だった。
冷たく暗い瞳の奥に醜くゆがむ私の顔が映る。苦しくて、悔しくて涙が出た。
そうして私に顔を寄せる夫。そして冷たい吐息を私の耳に吹きかけた。
「さよなら。悲しい女」
その声を聞いたのが、最後。わたしの意識は永遠に途切れてしまった。
『循環 ―アナザーエンド―』をお読みくださりありがとうございます。以前に掲載した『循環』を書いた際に出来た三つのネタのうち、余ったものを載せてみました。……手抜きじゃ、ありませんよ?
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