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馬車の中はほどよくあたたかくて、その広さと毛布の量の割りに、誰もいなかった。
「今日は、仲間の半分が別行動しててねー。本当はあと四人いるんだけど。」
新しい毛布を担いで、ヒロさんが近づいてくる。
「はい、これ君の分ね〜。」
「ありがとうございます。」
私に毛布を渡すと、ヒロさんはちょっと困ったように笑った。
「ごめんね、さっきは2人が。怖かったでしょう?」
「いや、え、あの、別に」
自分でも返事がしどろもどろになっているのがわかる。恥ずかしい。
ヒロさんは、ははっと笑った。
「最近、迷い人の振りをして馬車に乗り込んでものを盗む、馬車強盗が多くってさ。それを警戒していたんだよー。」
う、そ。私、ものすごく怪しい人じゃない。
「私は……!」
勢いあまって言おうとする私を、ヒロさんが両手で抑えて、微笑んだ。
「僕は君のことはもちろん疑ってないよ。まず服装や持ち物がそれなりにお金がかけられているからね。」
言われてみれば。お城から飛び出すとき、できるだけばれないようにと質素ものを選んだつもりだけど、どれもモノは良い。
「それに全く旅慣れていないのも。泥棒は、どんなに旅慣れてないふりをしても、やっぱり慣れてるんだ。君は、森の歩き方すら知らないよねぇ?」
私はこくりとうなづく。
森は馬車に乗って通った経験は何度もあるけれど、自分の足で歩いたのは今晩が初めてだった。
「それで、強盗ではないって思ったし、森の歩き方も知らない若い女の子が夜通しレンツァまで歩くなんて……。」
ヒロさんが、ね?と同意を求めるように首を傾げる。
「2人にもそういったんだけど、彼らは僕らも7人のリーダーみたいなものだから。ちょっと警戒しすぎてるところもあるんだよねー。
だからあんな感じだったんだ〜。ごめんね?」
ヒロさんが申し訳なさそうに謝るから、私は慌てて言った。
「いえ!2人の警戒は最もだと思いますし、私、強盗のことなんて知らなくて。ごめんなさい。」
ヒロさんはふふふ、とわらって私の頭にぽんっと手を乗せた。
「大丈夫だよ。2人も。……それに助けたあげた僕としては、ごめんなさいよりありがとうが聞きたいなぁ。」
ヒロさんがいたずらっぽく笑った。
なんだか私はなきそうになって、ちょっとうつむいて、
「ありがとう」
と伝えた。