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真っ暗な闇の中を走る。
星の光だけを頼りにあてもなくはしる。
私がお城を抜け出したのはこれが初めて。
しかも真夜中にこっそりでてきたから誰も気づいていないだろう。
戻ったらこってり絞られるだろうし、
もう2度と外出させてもらえないだろう。
でも、そんな心配はいらない。
私は戻るつもりなんかないんだから。
お城の周りはしばらく森だっていうのは地図をみて確認してきた。
早く、誰か、一緒に旅をする人を見つけないと。
旅慣れていない私はすぐに死んでしまうだろう。野蛮な生き物もいると聞くし。
夜通し歩けば、宿場町のレンツァがあるはず。
そこで、馬と宿と仲間を見つける算段だ。
そう思って走り続けていたんだけど。
森の奥の方にぽわっと暖かな光が見えた。
……焚き火だ。
てことは、旅人がいる!
思い切って走り出そうとすると、
突然世界が反転した。
あ、転んだんだ
「いったた……。」
膝擦りむいた!傷の様子をみながら座っていると、目の前に影が落ちた。
「おーい、だいじょぶか〜?」
優しい声。
ふっと顔を上げると、優しそうな顔をした若い男の人が立っていた。
ひょろひょろしてるのに、腕のあたり、がっつり筋肉がついている。
よく見るとその体や顔には無数の傷跡があるし、腰の剣帯は使い古されている。
なかなかの手練れのように見えた。
「えっと、その、大丈夫です。」
「もう夜中だよ〜?危ないよ。ほらっ。」
すっと差し出された手に素直に従って立ち上がる。
「どこまでいく予定なの?城までなら、おくってってあげるよ。」
「城には絶対行かない!」
男の人は私の強い口調にちょっと面食らったような顔をしたけれど、すぐに微笑んで続けた。
「じゃあレンツァの街かな。ここからまだだいぶあるよ〜。今晩中にたどり着くのは厳しいと思うけどなぁ。」
「でも、城にいく訳にはいかないの。」
「そっかぁ。」
男の人はうーん、としばらく考えるようなそぶりをして、あっ、と小さな声を上げた。
「僕さ、仲間と一緒にこのあたりで、野宿していくんだ。って言っても大きな馬車があるから、その中で寝るんだけどね。よかったら一緒に来ない?」
だいぶ大胆なことを、言われている気がする。目の前の男の人はいたって真面目。
さっきまでと変わらない、優しそうな微笑みを顔に浮かべてる。
私がジロジロみてるにもかかわらず、彼は続ける。
「僕らも明日、レンツァの街に用があるんだ。だから、ね?」
怪しくはない、ようにみえる。
このままレンツァまでいくならきっと夜明けまで走り続けなきゃいけないだろう。
ここでこの人について行けば、寝床は確保できるし、明日も安全にレンツァまでいける。
迷う余地なんかないじゃない。
「わかりました、お願いします。」
私がぺこっと頭を下げると彼は嬉しそうに微笑んだ。
「君は、お名前、なんていうの?」
「……ライ………ライ・ハルシャです。」
「そう、僕の名前はヒロ。よろしくね、ライちゃん!」