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こみゅしょう! 作者:TK

第一章

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24 朱里視点 勉強会1

 今日は待ちに待った勉強会。不安とワクワクで少し寝不足だけど顔に出てはいないはず。クラスメイトの家に集まって一緒に何かするなんて私にとっては初めてのことだ。
 彼と話すようになってから、本当に初めてのことがたくさんで毎日が充実しているように感じられる。彼と話せるようになって以前の私より、少し自信もついてきてるんじゃないかな。
 改めてそう思いながら彼との待ち合わせの時間に間に合うように家を出た。服装は前回の彼の反応から見てもジャージはまずそうなので季節に合わせて選んだ。いつも乗っている電車も時間が違えばそれだけでなんだか気分が高揚する。車窓からの風景は一人でカラオケに行くか学校に行くかしかなかった今までとはなんだか違って見える。電車の中では特にすることもないのでいつもは単語帳を開いているのだが、今日はずっと外の景色を見ていることにした。毎日の通学路でもじっくりみてみると気づいてなかったことはあまりにも多い。あっ近くにあの店あったんだ。今度行ってみよう。
 そうこう考えてるうちに待ち合わせ場所の駅に着いた。気合を入れて電車から降り、駅前で彼が来るまで待機する。SNSでの連絡を見る限りどうやら彼は待ち合わせの時間にピッタリ来そうな感じだ。この間にコンビニでお弁当とか買っておけばよかったかなと思ったが、どうせ道中にもコンビニはあるし、駅前のコンビニよりももしかしたらいいお弁当が残ってる可能性もあるかもしれないと自分を納得させる。
 待ち合わせの時間を過ぎても彼が来なかったので少し心配になったが、少し時間が経ってから彼はやってきた。急いでその方向に歩いていこうとしたがそこで私の足は止まってしまった。彼の隣には藤井さんがいたのである。
「聞いてないわよ……ま、まだ心の準備が」
 彼もこちらに気づいたのか、どんどんどんどん近づいてきている。これはまずいことになったと思いつつ、もう逃げ場はどこにもない。腹をくくるしかないのか。いや、彼とコミュ障を脱却すると誓ったんだからそもそも逃げるわけにはいかないのよね。ええいどうにでもなれ!
「おはよう、上野さん。今日は普通の格好なんだね」
「……お、おはよう」
 今日は普通の格好なんだねって何よ! 普通ここは女の子の服装をほめるところでしょ! そんなに前回のジャージは変だったのかしら……。
「おはよう! 上野さん!」
 すごい元気ねこの人。なんだかうまく話せるか心配になってくる……。
「それにしても上野さんって喋るとこんな風だったっけ? なんかイメージと違う気がするんだけど」
 本当に溝部君の言った通り、勝手に私のイメージは私とはかけ離れてできているみたい。何がいけなかったのかしら? やっぱり無表情よね。なんとかして直さないと。
「えっとその、もともとこんな感じっていうか……」
 少し笑いながら間違いを正してみる。
「そうなの? 聞いてた話とも教室での印象とも違うような気がするんだけどなぁ」
 なんだかニヤニヤしながらおもしろそうにこっちを見てくる藤井さん。私、この人苦手かも。
 その場に留まってるわけにもいかないのでさっさと渡会君の家を目指して歩き出す。ここまで来るのに藤井さんに慣れてきたのだろうか、彼はぎこちないながらもなんとか会話をしているようだ。歩くペースもちょうどいい。必然私は一人余るわけだが、心の準備ができていなかった分今は非常に助かる。
 予定通りにコンビニに入ってお弁当を買うことにする。二人も何か買うみたいなので一緒に入って別々の売り場に歩いていく。本当に最近のコンビニ弁当はすごい。まず種類が異常に豊富だ。惣菜パン、菓子パンなどを合わせるといったい何種類存在しているのだろうか。これは個人的な感想だが味もスーパーの弁当よりおいしいように感じる。
 お弁当は決めたが、さらにおにぎりかサンドイッチのどちらかを追加で買おうと悩んでいると、いつの間に隣にいたのか、横から藤井さんが話しかけてきた。
「結構いっぱい食べるんだね~。そういえば学校で食事してるところ見たことない気がするな」
 いきなり痛いところを突いてくる。馬鹿正直に答えてもなんかおかしいことになりそうなので適当に答えよう。
「えっとその、……一人で食べてることが多いかな」
「へ~そうなんだ。どこで食べてるの?」
「それは……その……」
 またもや痛いところを突かれた。人気のないところに行って食べてますなんて言いたくないし、言ったら言ったでもし来られても困る。
「はは~ん秘密の場所ってやつですかな?それなら聞かないほうがいいかな」
「そ、そうなのよ。ははは……」
 なんか勝手に納得された。こちらとしては都合がいいので良しとしよう。続けて彼女は話しかけてくる。店の中なんだからもう少し静かにしてほしいのだが。
「それにしてもさ、溝部君とあなたってどういう関係なの? 彼、どう考えてもコミュ障なのにあなたに関しては割と気楽な感じじゃない?」
「友達よ」
 何か考える前にその言葉が出ていた。
「へえ~友達、ねえ」
 彼女のほうを見てみるとなんだかニヤニヤしている。
「な、何かおかしかった?」
「いや、別におかしくはないけど、おもしろいな~って。あなたもコミュ障っぽいし、もしかしてコミュ障仲間的な?」
「うっ……」
 図星である。コミュ力が高い人は頭の回転も速いらしい。いや、冷静に考えたら誰でもわかることなのかな?
「まあいっか! 溝部君はもう店出たみたいだし、早く買って出ようよ」
 適当に話を切り上げられた。なんだか彼女は私を弄って楽しんでいる節がある気がする。
 店を出ると溝部君が待っていた。
「おまたせ~溝部君、ちょっと待たせちゃったかな?」
「……おまたせ」
「お弁当選ぶのに時間かかったの?」
 あながち間違いでもないが何とも言えない。
「ま、まあそんなところよ……」
 しまった。少し狼狽してしまった。変に思われてないだろうか。
「よし! それじゃあ渡会君の家に向かいましょうか!」
 藤井さんの発言で特に何もなく三人そろって歩き出した。

「おーおー三人そろってご到着か。これは樹、両手に花ってやつか」
「ふふふ溝部君、いつの間にか私まで毒牙にかけていたのかな?」
 目的に到着早々このノリは一体。しかも私まで毒牙にって、私はすでに毒牙にかかってるのかしら。まあ溝部君を二人が弄って遊んでるだけってのはなんとなくわかるんだけど、こういう時どんな反応をしたらいいのか、私の経験値が圧倒的に足りていない。
「そんなことより、さっさとお前の部屋で勉強会だろ」
「はいはい、用意はできてるから先に行って待っててくれよ。俺は飲み物とか持ってくからさ」
「あ、それじゃあ私手伝うね~」
 ちょっと黙ってしまっていた間に話は纏まったようで、ひとまず私は溝部君についていく。
 渡会君の家は玄関から広くゆったりとした雰囲気で、きれいに掃除もされているようだ。まあ掃除してないのに人を招き入れる人もいないとは思うけれど。
 どうやら二階に渡会君の部屋はあるようだ。他人の家の二階にいきなり上がるのには少し抵抗があるが、溝部君は勝手知ったる様子で上に上っていくので置いていかれないようについていく。
 そして突き当りの部屋、ここが渡会君の部屋らしい。部屋に入ると二人っきりだったので早速今日の文句を言ってやることにした。
「ちょっと溝部君! 最初から藤井さんが一緒にいるなんて聞いてないわよ!」
 こちらとしては覚悟のタイミングがずらされたので本当にびっくりしたのだ。
「それに関しては途中でばったり会ってしまったからしょうがないだろ……」
「私の方は心の準備ができてなかったのよ! いつもよりは、まあ、ましだったけれども……」
 少なくとも無表情になってしまうことはなかったと思う。
「少しは話せたなら多分大丈夫。今日一日頑張ってみようよ」
「それはいいんだけど、あなたなんだか藤井さんと話すのにもう慣れてない?」
 彼のコミュ障ばかりがどんどん改善されているような気がする。
「駅までの道中でな……ずっと話しかけられたんだよ……」
「そ、そう……なんか、ごめん」
 なんだか悲壮感が漂っている。私も彼女にずっと話しかけられたらあんなふうな顔になってしまうのだろうか。
「でもあなたが私以外の女子にも慣れ始めているのは確かなのよね。だとしたらまあ、よかったんじゃない? 一応成果は上がってきてるってことなんでしょ。あとはそうね、私も頑張らなきゃダメよね」
 そうだ、私もコミュ障を改善していかなければならない。
「ひとまずは女子同士ってことで、藤井さんと話せるようになっておくといいんじゃないかな。ほら、俺だって同性なら大丈夫なわけだし」
 私にとっては異性も同性も大して違いはないのだが、女子の友達を作るということにおいてはやはり藤井さんと仲良くなることが先決だろう。
「私は別に男子が苦手っていうわけじゃないんだけど……後々のことを考えたらそれがベストでしょうね。まあどちらとも普通に話せるようになるのが本当はベストなんでしょうけれど、さすがにそれは難しいわよね。少しずつ慣らしていく感じで行かなくちゃ」
 とりあえず方針も固まったところで残る二人の足音が聞こえてきた。私と彼はささっと台の上に勉強道具を出して並べた。
「おっ、二人ともやる気満々ね」
 そういって藤井さんはお盆とコップを台の上に置いて、なぜか溝部君の隣に座った。体をくっつけて。一体何を考えているのか……。
「近い近い近い近い!」
 彼は顔を赤くしながら急いで彼女と距離を取る。どうやら彼女はこういった彼の反応を楽しんでいるようだ。ニヤニヤがすごいことになっている。
「あらあら~そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに~」
 なんだか見ていると少しイライラしてきたので一つ物申そうと思う。
「ちょ、ちょっと、そっそこまでよ。溝部君、嫌がってるでしょ」
「おっとこれはなんだ? まさか樹を巡っての女の戦いが勃発しているのか?」
 私が言った後にタイミングを見計らったかのように渡会君が言った。溝部君を巡って争うですって? それは流石にないわね。
「ホントいい加減にしてくださいお願いします……。というかさっさと勉強始めようよ」

 というわけでとうとう勉強会が始まった。ひとまず苦手な教科の勉強をしようと思い数学から取り掛かる。苦手と言っても全く分からないわけでもないし、ひとまず教科書の例題、問題集の該当箇所をなぞってやっていく。う~ん、他の人に聞くことも特にない。だって解説載ってるし。少し不安になってきたので周りの様子を見てみると、三人とも普通に勉強をしている。やってる教科もバラバラで、彼らも特に聞きたいことはないようだ。
 もしかして勉強会ってコミュ障の改善にはならないんじゃあ……。
「どうかした? 上野さん、わからないところでもあった?」
 こちらがきょろきょろしていたことに気づいたのか、藤井さんが話しかけてきた。
「いや、えっと、そういうわけじゃないんだけど……」
「なに?静かなのが気になるの」
 首肯をすると
「まあ最初はこうなんだけどね、大体こういうのってみんな集中力切れてきて途中から雑談になったり、別のことし始めるのよ」
「そうそう、大体俺と樹が一緒に勉強してたらこいつ、すぐにゲーム始めるんだよな」
 それは、勉強会と言えるのだろうか。でも確かに、このまま勉強ばっかりしていても途中で飽きるわね。
「まあ俺より俊之のほうが頭いいからこっちは質問できてラッキーって感じで、飽きたらゲームしてるかな」
「あら、じゃあ私の方が渡会君よりも成績いいからどんどん質問してくれていいのよ」
 藤井さんがドヤ顔で溝部君に近寄っていく。
「いや、それはちょっと……。えーと、藤井さんは何の教科が得意なの?」
「そうねえ、あえて言うなら保健体育かしら」
「あ、そういうの結構ですんで」
 素っ気ない口調だが溝部君の耳はちょっと赤くなっている。
「なによ~つれないわね。まじめに言うと日本史以外は結構いい点とってるわよ」
 日本史が苦手なのか。確かに高校から日本史って一気に情報量が増えて私も戸惑った覚えがある。特に平安時代辺りの漢字の覚えにくさは……。
「頭いい人のこういうのって当てにならないからな。大体他の教科より少し点数が低いだけで高得点だから」
 溝部君がどこか遠いところを見つめながらそんなことを言う。
「そんなことないわよ~多分」
 それにしても溝部君はさっきよりもさらに彼女と打ち解けているようだ。私も負けてはいられない。
「わ、私は理数科目が苦手なんだけど……」
「そうなの? 私は得意だから教えられるわよ」
「え、えっとそれじゃあ後で化学を教えてもらえないかしら」
 私は化学の計算が苦手なのだ。先生は算数の問題みたいなもんとか言ってさらっと計算していくが、あんな説明でわかるわけがない。
「ええ、いいわよ!」
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