覚醒9
剣人は取り合えず、瞬移の力を使ってみる事にした。
「試してみるか・・」
そう静かに言うと、剣人の手から携帯が浮かび上がり、ディスプレーに瞬移の
文字が映りエフェクトが終わると、力が体に宿る。
「さてとこれで使えるはずだ」
「お、斉藤格好いいのにしたな」
鬼塚がそのエフェクトを見て言った。
一瞬の間に剣人が行った一連のエフェクトを目の辺りにして
雫は目を丸くして黙っている。
(…剣人の手から・・携帯浮き出てきたわ!?)
(…何今の〜〜!!)
「あ、そうそう、それな、お前が右手で触れる物なら」
「一緒に移動してくれるから」
「竹内に右手で触れるといいぞ」
「へ〜・やってみる」
「えっと〜・・」
鬼塚のアドバイスを受け、剣人はやってみようとするが、雫のどこに触れようか悩んでいる。
(…肩とか・・?腰・・?それってセクハラじゃん・・)
(…無難に頭にしとくかな・・)
「雫、頭触るな」
「え・ええ」
雫の頭に静かに右手の平を置いた。
「さてと、どこに移動しようかな・・」
「俺の家の前でいいか」
自分の家の前の景色を頭でイメージしはじめる。
「いくぞ・・」
「またな〜竹下、斉藤!」
座布団に胡坐をかきながら、煎餅をかじりつつ、笑顔で右手をこっちに向かって振っている
鬼塚の姿が目に映る。
剣人はそれを軽く一瞥するが、何分この能力に慣れていないため
イメージすることに精一杯で、挨拶まで気が回らないでいる。
次の瞬間・・
今いる部屋の景色が、瞬時に自分の家の玄関前の景色へと入れ替わる。
剣人は思わず。驚きの声を漏らす。
そして右手に温もりと頭の感触がある事に気がつくと
雫が隣に確かに立っていた。
「えぇ、すごい、ほんとに一瞬で移動してる・・」
驚きとともに、未知の力で簡単に移動できた事に
少し興奮気味の雫。
「こんなことが・・・」
「まぁ、無事飛べてよかった」
それとは対照的に剣人は比較的落ち着いている。
一度守身で非現実的な力を使い、この瞬移の力も
それと同じ物だと理解しているからだ。
「そんじゃ、雫、またな」
「え・・あぁ、じゃ帰るね」
剣人の言葉にふと我に帰ると、雫は手を振ると
体に身震いみたいなものを感じながらも、自分の家へ帰っていった。
剣人は家に帰ると、母祥子が玄関に出てくる。
「剣人、おかえり〜」
「先生の家愉しかった〜?」
「うん、まぁね」
「お昼ご飯あるわよ」
「お、ありがと〜」
母と会話を少しすると、上着を脱ぎベルトを緩めると、洗面所へ行き水をため始める。
顔にざばっとその水を浴びせかけると、その清涼感に思わず、感嘆の声が口から漏れた。
タオルで顔を拭くと、首に巻き台所に足を運ぶと、祥子が椅子に座りソバをすすっていた。
「剣人のも用意してるわよ〜」
「早く食べなさい」
「うん」
席に着くと、透明のガラスでできた清涼感漂う皿に盛られたソバを箸でつまみ
その横に置かれた付け汁の入った青い綺麗なグラスにソバを浸すと
勢い良くそこから引き上げ、口に流し込んでいく。
食べている間、どこからか、風鈴の微かな音が染み入るように耳に入ってくる。
あっという間にソバが皿から消えうせると、剣人は母に声を掛ける。
「今日暑いね」
「母さん、今日予定あるの?」
「あぁ、午後からちょっと買い物いってくるわ」
「そっか、いってらしゃーい」
そう言うと、食べ終えた食器を洗面台に運び、食器用洗剤を泡だたせ
お湯をかけると、洗いはじめる。
その間、剣人は早く自分の部屋へ行きたい衝動に駆られていた。
(…色々力試したいぜ・・)
全て洗い終えると、部屋へ繋がる階段を音を立て駆け上がっていく。
自室のドアを開けると、荷物をドカッと大きな音を立てて置き
さっそく巻物を中から取り出した。
(…さてと、何を使おうかな…)
(…ある意味これって、愉しいよな‥)
(…未知の現実社会でありえないとされた魔法みたいな力‥)
(…それを俺が自由に使えるなんて夢みたいだ…)
剣人は鼻歌交じりに、巻物に書かれた色々な力の説明を読んでいる。
「これ使ってみようかな!」
「対象となる人、物、場所などを思い浮かべると」
「今のその状態を目であたかも間近にあるように見ることが出来る力」
「視感・・・」
「よし使ってみるぞ」
またいつもの携帯のエフェクトが現れると、ディスプレイに視感の文字が赤く表示され
その力が体に宿る。
「えーっと、何思い浮かべるかな・・」
「取り合えず、雫でも」
剣人は目を閉じ雫を思い浮かべる。
すると、映像が暗闇の中に流れ込んできた。
「おぉ、いるいる」
「なんか愉しそうに、家族と喋ってるな」
「ん・・立ったぞ・・」
「え・・トイレ・・?それはまずいだろ」
思わず剣人は目を開け、雫の映像を頭から排除し視感の力を一旦解除すると
息をふーっと付く。
(…危ない危ない、痴漢と変わらないよ)
意外とジェントルマンな剣人。
「次は鬼塚先生でも見てみるかな」
また目を閉じ鬼塚のイメージを、頭に思い浮かべ始める。
「庭で竹刀振ってるな」
(…鬼塚、体鍛えるのに余念がないな・・)
剣人はこの後も視感の力を使い、様々なものを見て楽しんでいた。
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